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第2章 テイマー

第64話

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「ラギアルド!!」

 そう叫んだのは、イールギットで。
 岩場で臨戦態勢をとっていたラギアルドが、ぐりんと首をこちらに回転させた。

「フシャギャアアアアアア!!」

 その小さな体躯が、弾けるように巨大化する。
 人をもしのぐ大きさの怪物。
 ナイフのように研ぎ澄まされた5本の爪が、俺の顔面を横薙ぎに襲った。

「ほう……!」

 まともに1撃を食いながらも、俺はラギアルドの眼を見た。
 ――間違いない。
 テイムだ!

 いつだ!?
 いつラギアルドをテイムした!? イールギット!
 まさか……

「最初からか!」

「魔王様ッ!!」

 聖剣を抜いたアリーシャが割って入る。
 おいおい。
 さっき手で合図しただろう……、ああ、『人間全員俺が相手する』って言っちゃったからか!
 ラギアルドはカウントされてないんだな。細かい子だ。

 いやいや、しかし。
 驚いたな。

「まったく気づかなかったぞ……! 見事だイールギット!」

「うるさい! ほめるな!」

「テイムされていることを本人にも気づかせない、意識の奥に埋め込んでおいていつでも発動させられる! 遠隔時限型か!」

「解説する余裕もっ……なくさせてあげるわ!!」

 ドンッ、と衝撃波のような音とともに、イールギットの力が勢いを増した。
 足下の岩場が鳴動している。
 森の鳥たちが残らず飛び立ち、空を賑わして逃げていった。

 すばらしい。
 これほどパワーを練り上げられる者は、大国の魔法使いにもそうそういないだろう。

「みんな! イールギットに魔力を送るんだ!」

「ああ! でもよ!? この戦いが終わったら、あいつは逮捕されちまうんだろ!?」

「逮捕するのよ! わたしたちが! ためらっちゃダメ!」

「その通りだ! イールギットは今、最後の罪滅ぼしをしようとしているっ……彼女の意思を無駄にしちゃいけない!」

「わかった! なんて切ねえんだイールギット! 最後の気持ち、確かに受け取ったぜ!」

英雄譚サーガには絶対1人はいるわよね! 彼女にしちゃカッコいい最期じゃないかしら!」

 やっぱアリーシャに相手させればよかったかな、こいつら……
 またたくまに口を閉じさせてやりたいところだが、しかし。

「アリーシャ、退け!」

 今はアリーシャのほうがまずい。

「ラギアルドは、おまえの敵う相手じゃない!」

 目にも止まらぬ爪の連撃。
 加えて口から放つ咆哮の衝撃波と、単純なパワーの脅威もある。
 西からの侵入者を1手に引き受け続けているラギアルドは、俺の配下でも指折りの実力者なのだ。

「承知、して、おります」

 剣1本でなんとか攻撃を捌きながら、アリーシャが応える。
 退く気はないのか。

「アリーシャ! ラギアルドのターゲットは俺だ! 間に立たなければ向かってこない!」

「ここで、やられるなら……それまでのこと」

「おい!?」

「イールギット様に、集中を!」

「アリーシャ――」

 ガィンッ!!

 という音は、俺の頭の中で響いた。
 耳の奥で大鐘を打ち鳴らされたような衝撃。

 イールギットが、こちらを指さしている……
 声は聞こえなかったが、当然<テイム>を叩きこんできたのだろう。

 すば、
 ら、
 しいぞ!!!

 両足が言うことをきかない。
 塵芥ちりあくたのような仲間の支援を受けているとはいえ、すべてを――命を削って力に変えなければ、これほどのことはできまい。
 俺を倒すため。

 殺すため。

 すまんアリーシャ。
 俺は、あっというまに。
 夢中にさせられてしまった。

「我が名は、ゼルス」

 右手に力をためる。
 数秒をかけて。
 テイムの影響ではない、自分の意思だ。

「魔王だ」

 解き放った力が、

 ゴドンッ!!

 とまっすぐに、森を駆け抜けていった。
 岩場の表面が細かく砕け散り、砂塵さじんとなって舞い上がる。

 もうもうとしたそれが晴れたとき――
 イールギットたちの背後の森が、放射状にえぐれてなくなっていた。

「……っひ……!?」

 剣士たちが息をのむ。
 よかったな。
 イールギットの真後ろにいなければ、いっしょに消し飛んでいたところだ。


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は2/7、19時ごろの更新です。

どうしても手を加えたい箇所を見つけてしまい、
加筆修正に今まで(5日0時)かかってしまいました……
申しわけありません。
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