上 下
6 / 129
第1章 支援術師

第6話

しおりを挟む


「マロネよ」

 と、静かに呼びかける俺の声に、いろいろと察しをつけたのか。
 人間の国の中でも東方にあるという不思議な文化『土下座』を敢行するマロネに、俺は微笑みかけた。

「許しを得たいか?」

「得とうございます……マロネは得とうございます……」

「もう俺のおやつを盗み食いしないか?」

「しません決して……他の仲間のにします。でもゼルス様のがいちばんおいしいんだもん……」

「そんなにツインテール型の墓標が欲しいか」

「たった今ココロを入れかえました!!」

「よろしい。今から言う仕事をこなせば不問とする」

「ありがたき幸せ!! ……仕事?」

「人の町へ行く用意をしてくれ」

 ほえ、とマロネが顔を上げた。
 人里に忍びこむこと自体は、そんなに珍しいことじゃない。
 部下は頻繁に出向いているし、俺もときどき空気を感じに行く。

 もっとも……
 今回の目的地のような、いわゆる大都市は珍しいがな。

「勇者パーティにまぎれこむ」

「……は? ……へっ!?」

「変装、というより本職の装備だな、ひとそろい用意してくれ。ジョブは魔法使い系、スキルとしては味方支援だ。国家の公認を受けているクラスのパーティに紛れたとき、いい意味でも悪い意味でも目立たない程度のレベルで頼むぞ」

「は、はあ……それはまたなんというか、大胆不敵といいますか。魔王側からやったら反則といいますか」

「知ったことか」

「ふひひひひでもイイですねえ、マロネはそーゆーの好きですよお! 寝ているスキに勇者全滅! いや、内部から人間関係を崩壊させてもいいかも!? 実行犯の力量と趣味が物を言いますねえ! 誰が行くんですか?」

「俺だ」

「ゼルス様かあー! ゼルス様はちょっと人間好きすぎて肝心なところでマジメくさりそーでおもんない……………………。……はい?」

 俺だ、と繰り返し、玉座よりずっと座り心地のいいイスの上で足を組みかえる。

「外見をいじるつもりは……化けるつもりはない。背格好は今のままで頼む」

「……ちょっ……と。はい? え、なにを……おっしゃって? るんですか?」

「なにがだ」

「誰が入りこむですって?」

「俺だ」

「ゼルス様が?」

「ああ」

「勇者パーティに? それも、公認クラス……魔王城へのカチコミをリアルに狙ってくるようなレベルのやつらに?」

「そうなるな」

 マロネは奇妙な行動を取った。
 土下座の姿勢から立ち上がり、そのままあさっての方向を向く。
 壁に向かってなにやら1礼、神妙な顔つきでぶつぶつ呟いてから、俺に向き直って――

「アホかオメーーーッ!!?」

「……ああ、なるほど。今のはおまえの実家に向かって挨拶したのか」

「そうです!」

「これから命をかけて俺に意見するから。最悪、無礼をとがめられて殺されるかもしれない、と」

「はいです!」

「生んでくれた闇の森のお父さんお母さんありがとう、と」

「もう思い残すことはありません!」

「早まるな」

 安すぎるだろ精霊の生涯。

「まあ作法はどうあれ、俺とて自分に忠告してくれる者をむげに扱おうとは思わん。安心しろ」

「ぜ、ゼルス様あ……!」

「特に俺のような立場になると、そういった存在も貴重になる。マロネはまさに忠臣と言えるだろう」

「ありがたきお言葉あいてててあててあてててて」

「おまえのような者をどれだけそばに置けるか、それこそが王たる資質。これからもよろしく頼むぞマロネ」

「ならばなぜ自慢のツインテールを引っ張られてあてててて痛いですゼルス様あ」

「『アホ』と『オメー』は聞き流せんだろ」

 仕上げにちょうちょ結びにして、俺はイスに戻った。
 座りはせず、窓の外に目を向ける。

 ……相変わらず、よく晴れている。
 こんな天気の日に、これほど落ち着かない思いを抱くはめになるとはな。

「……マロネ。ダクテムの手当、ご苦労だった」

 精霊であるマロネには、人間に対しても効果の高い回復スキルが使える。
 安静にしていれば治る、というところまで処置したのは彼女だ。
 そのあとも今まで、ダクテムの滞在に関する細々した雑務をこなしてくれていた。
 ゆえにマロネはまだ、事情を聞いていない。

「いえいえ。まさか、魔王城到達第1号がダクっちだなんて、マロネもびっくりでした。1人で来るなんて、さすがですねえ」

「追い出されたそうだ。パーティを」

「……え?」

 アリーシャが注いでくれた酒をぐいっと飲み干し、俺は遠い空をにらみつけた。

「ダクテムは、所属していたパーティを追い出された。最後にひと花咲かせねば、申しわけが……俺に・・申しわけがないと、1人でやって来たんだそうだ」


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は11/18、7時ごろの更新です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...