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第1章 支援術師
第1話
しおりを挟む今日も魔王城には、戦いの華が咲き乱れている。
主役はもちろんこの俺、ゼルスだ。
この城の主を――つまりは魔王をやっているのだから、当然ではあるがな。
すべての争いは、我が手の中で行われると言っても過言ではないのだ。クククク。
「これでどうだ! ふはははははは!」
我ながら魔王らしい高笑いとともに、ボードの上のコマを進める。
俺とボードを挟んで向かい合っている銀髪の少女が、いささか難しい顔をした。
いや。
正確には、「難しい顔」といえるほど、彼女の表情に変化はない。
しかし、俺にはわかるのだ。
もうこの子との付き合いも、それなりになるからな。
「魔王様。その手でよろしいのですか」
「おうとも」
「本当ですか」
「ククク。なにを遠慮することがある? 思うさまかかってきたまえ。俺は魔王だぞ?」
「……では」
少女が1手、自分のコマを動かした。
ふむ。
この手は。これは。
……こ……こ、これは。
ぐぬぬぬぬぬぬ!
「魔王様?」
「…………。アリーシャよ……」
小首をかしげる銀髪の彼女の名を呼び、俺は無駄に金でできた玉座に背中をあずけた。
「強く、なったな……大したものだ。この魔王、実にうれしいぞ。ふふ、ふ……」
「いえ。魔王様」
「言うな。言葉にする必要はない。おまえの勝ちだ。俺の弟子であるおまえの、勝ちだ」
「はい。いえ」
「俺の弟子であるおまえの勝ち。俺の教え子が俺に勝った。すなわちこれはもう、俺が勝ったも同然という解釈が可能というわけで」
「あの。魔王様。魔王様」
「ええいなんだっ! アリーシャ、まさかおまえ、この俺が負け惜しみをこねているとでも言いたいのではあるまいな!? な!?」
「いえ。ですから――」
「言うなったら言うな! もしもそんなこと言われたら、いかなこの魔王とて! 傷ついちゃうかも!」
「ですから。違います」
アリーシャは、どこかむくれたように――と言いつつやはり、表情にはほぼほぼ変化もないが――ボードゲームを見つめた。
「このゲームのルール……昨日まで遊んでいたものに、魔王様、手を加えてくださいましたが」
「そうだな」
「わたしに有利すぎます。勝てたのは当たり前というか、魔王様が勝たせてくださったようなもので……」
「それは違うぞ」
サイドテーブルから酒の入ったグラスをとり――玉座のそばにそんなものを置くな、と侍従のマロネに何度も小言をもらっているが、この通り便利ではないか――俺はアリーシャにも同じ物をすすめた。
「確かにこのゲーム、もともとよくできた物ではあるが、俺がルールをちょちょいとアレした」
「アレ……」
「結果、おまえに有利になったと言えるな。だがな、俺はおまえに勝たせようと思ってそうしたわけではない。『それでも俺が勝てる』と、そう考えたがゆえだ」
「それは……どう違うのですか?」
「おまえが俺の想定を超えてきたということだ、アリーシャ。俺のイメージ通りのおまえであれば、3手差で届かずに敗北し、悔し涙でまくらをおぼれさせることになるはずであった」
「……負けて泣いたことなんて、ありません」
今度こそ、アリーシャはむくれた様子だ。
冷静なようでいて、なかなかの意地っ張り。
ふふふ、人間のこういうところもすばらしい!
まことに愛いやつよアリーシャ、ふふふふふ。
しかし、むくれる必要などないというのに。
「おまえは成長しているぞ。たかだかゲームひとつ取ってもわかる。立派な勇者候補となって、魔王城を巣立っていく日も近いな」
「ありがとうございます。……でもわたしは、別に」
「うん?」
「このままずっと、魔王様と遊びほうけているのも、悪くないと考えていますが」
「はははカワイイことを言う――いやまてコラ、お、俺は遊びほうけてなどおらんだろがよ!? すべてはアリーシャの修行のためだ! 決して、ゲームがしたいからゲームをしているわけではないのだぞ!」
「わたしも、そう心得ておりますが」
「うむ!」
「マロネ様は、『魔王様のそういう言い訳は鼻で笑って聞き流せ』と……」
「今度あいつのツインテール、ぎっちり固結びにしてくれるわ」
フン、とグラスを空にして――
俺は『謁見の間』を見回した。
だいたい、俺はここにいる。
だだっ広くて何もない、総石造りの大広間だ。
いやまあ、正確に言うと、広間の正面から玉座までは長い赤絨毯が敷いてあるし、壁際には人間をかたどった大きな石像が何体も並んでいるから、何もないわけじゃないが……
あえて言おう、繰り返して。
何もないと。
**********
お読みくださり、ありがとうございます。
しばらくは1日3回の更新といたしまして、
毎回こちらで次回予定を告知させていただきます。
次は11/16、19時ごろの更新です。
当作品へのご期待がゆるすようでしたら、
心やさしきブックマーク、またご感想など、
なにとぞよろしくお願い申し上げます。
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