上 下
20 / 59

第20話

しおりを挟む


 セシエから受け取った魂色視鏡《ステータスミラー》を、パルルが真剣な表情で覗きこむ。
 床で打って少し赤くなっているあごをさすりながらでなければ、なかなかサマになっていたのに。

「……これは。……なるほどお」
「どうだ?」
「お師匠さまのお話通りですう。このミラーには、お師匠さまの適性は村人と映ってます」
「む……やはり、そうなのか」
「そのまま書き写すと、こんな感じです」

 パルルがさらさらと、紙に俺のステータス(外面)を書いてくれる。

「お師匠さまの内面は、こうじゃないってことですよね?」
「ああ。俺に見えているのは、こうだ」

 俺も同じく、自分のステータスを書き表した。
 ……なんだか、少しだけ楽しいな。

 他人のステータスは、それこそ魂色視鏡《ステータスミラー》を通し、なおかつ当人が心を開く『協力』がなければ見ることができない。
 だから、初めてパーティを組む冒険者たちは、互いのステータスを正直に紙に書き、見せ合うことを最初に行う。
 自己紹介も兼ねて、できることとできないことを共有するのだ。

 パーティを組んだ経験がない俺は、一度もやったことがなかった……
 まさかこんな機会があろうとはな。

「書けたぞ」

 3人で顔を寄せ合い、ふたつのステータスを見比べてみる。


(外面)
名前 :レジード
適性 :村人
レベル :2
体力 :9998
魔力 :4999
スキル :村人の地 ランク1
:村人の水 ランク1
:村人の火 ランク1
:村人の風 ランク1
アビリティ :<複合技能>ランク1
:<次元視>ランク50

(内面)
名前 :レジード
適性 :勇者
レベル :2
体力 :9999
魔力 :9999
スキル :村人の地 ランク100
:村人の水 ランク100
:村人の火 ランク100
:村人の風 ランク100
:勇者の光 ランク1
:勇者の闇 ランク1
アビリティ :<複合技能>ランク100
:<次元視>ランク50


 ええぇー、とセシエが不気味な声をこぼした。

「どちらも……体力と魔力がバグって見えるでありますが。特に内面のほう」
「セシエはギルドで、外面のほうを見ていたのではなかったのか?」
「適性だけは。そも、かなり高純度の魂色視鏡ステータスミラーでなければ、数字までは読み取れないであります」
「なるほど。では、パルルのこれは」
「かなりのデキかと。普通に、地方貴族あたりに高値で売りつけられる気がしま……、まさか、教団の運営資金は?」

 えへへぇ、とパルルが照れたように笑う。
 断じてほめるばかりの意味合いではないと思うが。

「にしても、お師匠さまのぶっとび体力は、昔っからですねえ。ありえないような修行、ずっとしてましたから」
「なるほどであります……」
「でも……お師匠さま、このただごとでない魔力は? カンスト状態ですよ? パルルだってまだですのに」

 妖精たちとずっといっしょにいたら、自然と。
 そう答えると、パルルとセシエは無言で顔を見合わせた。
 2人ともなにごとか言いたげだったが、やがてそろってため息をつく。
 今日知り合ったばかりとは思えない息の合いかただな。

 まあ、重要なのはそこではない。
 ふたつのステータスを見比べて、俺なりにわかったことがある。

「魂色視鏡《ステータスミラー》に映し出されるステータスは、転生したあとの累積だと思う」
「転生した、あと……?」
「ああ。転生前に備えていた村人スキルや、アビリティランクは含まれていない。体力や魔力も、転生したあとに鍛えたぶんだけが、外面ステータスに表れている……」

 特にわかりやすいのは、まさしく体力と魔力だろう。転生したときのステータスは、よく覚えている。
 赤んぼうになった当初、俺の体力は1だった。魔力は5000だ。
 パルルは昔からと言ってくれたが、体力のほうは一度最低値に戻っている。そのあと修行したり、妖精たちと遊んだりしているうちに、急激に成長した。
 その成長したぶんだけが、魂色視鏡《ステータスミラー》に拾われている。

「と……」
「いうことは……」

 理解したらしいパルルとセシエが、再び顔を見合わせた。
 直後、互いにパンッと手のひらを打ち合わせる。

「お師匠さまは今! 実質的に勇者!」
「しかもとってもお強いであります!」

 おいおい。

「魂色視鏡《ステータスミラー》がどう混乱してるのかわからないけど、大事なのは中身ですう!」
「きっと転生前のステータスが、妙に影響しているだけであります!」
「つまりお師匠さまこそ真の勇者、真の勇者は最強なのですう!」
「勇者免許なんてちょっと気が利くだけのペンダント、別になくてもいいであります!」

 わーい、とひとしきり2人で盛り上がっているところに、

「それが、そうもいかないと思うんだ」

 申し訳ないが、俺は水を差した。

「確かに俺も、パルルやセシエに世界の現状を教わった今……勇者免許さえ手に入れれば勇者になれる、などと考えているわけじゃない。だが俺は俺で、今の自分が勇者なのかどうか、はなはだ疑問に思っている」
「どういうことですう……? お師匠さまの内面ステータスが勇者なら、それはもう、勇者では?」
外見そとみがどうあれ、俺もかくあるように振る舞いたいとは思う。だが……」

 俺は、神殿の奥に向けて右手を掲げた。
 昨日の記憶が脳裏をよぎる。
 あの勇者もどきたちと、戦ったとき――

「スキル 『勇者』 光ランク1」
「!」
「〔勇〕技能・攻撃、光弾<ライトバレット>!」

 勇者の持つ、汎用的な遠距離攻撃スキル。
 見守るパルルたちの前で、俺の手のひらからは……何も生まれなかった。
 そよ風のようなものすらも。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

処理中です...