ココロノアリカ〜35歳男が中学生女子になったその日から〜

黒瀬カナン

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第47話 旅行と実母

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お盆も終わり、あと10日ほどで夏休みが終わる。

まさか、こんな形で長期休暇を取れるなんて思っても見なかった2回目の中学3年生は明日、旅行に行く。

お父さんと以前から約束をしていたお出かけは、この日の為にと張り切ったお父さんが宿を手配し、3泊4日の鹿児島行きとなった。

そんなに張り切らなくていいのにと最初は苦笑いをしていたが、初めて行く鹿児島にワクワクしていた。

……だって、温泉があるんだもん♪

生前から私は大の温泉好きで、チェックインしてから1回、夕食前に1回、寝る前に1回、そして朝一番に1回と多い時は4回入るほどだった。

だから、修学旅行での生理は物凄く残念だった。
まぁ、中学生の柔肌を見なくて済んだと言う事で納得はしていたけど、惜しかった。

……いや、JCの裸が見れないのが惜しかった訳じゃないからね!!いや、待てよ?このまま旅行に行くと女風呂に入らなければならなくなる!!!

そう考えてしまうと楽しみにしていた旅行が辛いものになってしまった。

今回は違いなく生理はこない。来たとしてもお母さんが否が応でも大浴場に連れていくだろう。
男が一度は憧れる女風呂が途端に地獄門のようになってしまった。

私はため息をつきながら、明日のための準備をする。極力荷物を減らして、使い古したものはそこに捨てれば良い。

準備を終えた私は古びた下着を手に、私はお風呂へと向かい、服を脱いで素っ裸になる。
そして浴室に向かって歩く道中、洗面所の鏡に写る私の姿が目につく。

……もう、見慣れちゃったな。

相変わらず細い身体に絹のような白い髪の自分の霰のない姿が写りだされていたが、恥ずかしくなる事も自責の念に駆られる事もない。
既に自分の身体と化したのだ。

だが、今日は違った。
いや、母に……香川 つゆではない本物の母に会ってから、自分が何者なのかを思い出してしまった。

本来ならつゆさんをお母さんと呼ぶ事もなく、年老いていく実母をお母さんと呼ぶのが当たり前だった。

しかし既に春樹は死んで、ここにいるのは夏樹という女の子だけだった。
香川家にいるのはこの身体が夏姫ちゃんの物だからというだけで、望んでここにいる訳ではない。

だけど、それを踏まえて夏姫の両親は私を娘として大切にしてくれる。

私は身体と髪を洗い終えると、長く伸びた白髪を頭の上で括り、お湯に浸かる。そして膝を抱えて口をお湯に浸け、あの日の事を思い出す。


田島 春樹のお墓で2年ぶりに目にした母の姿を見て私は固まった。その姿が、以前に見た姿と大きく変わっていたからだ。

以前に比べ白髪も増え、シワも増した母の姿が俺には恐ろしく見えたのだ。

俺が死んで以降の心労はいかばかりだったのか、今の私には計り知れない。
何回か四季に両親の様子は伺っていたが、自分で会いに行く勇気がなかった。

自分に余裕がなかったと言えば聞こえはいいが、実際には既に春樹は死んだものとして認知され、この姿になった私を本当の両親は受け入れ難かったようだ。

だから会うことが恐ろしく、今日まで会う事はなかった。

「こんにちは…」
俺の墓前で拝んでいた実の母が立ち上がり、桶と尺を持ってこちらに挨拶に来た。
その様子を見た私はお父さんの背中に隠れて、目を合わせないようにする。

「こんにちは。その節はお世話になりました……」
お父さんも、実母に対して挨拶を交わす。
だが、私を前に出そうとはしなかった。

「こちらこそ、お世話になりました。香川さんもお元気そうで……」

……そんな話し方初めて聞いた。

俺が聞くことのなかった実母の他人行儀な会話を私は初めて耳にする。
懐かしい声が聞けたことへの安堵と、心の底では聞き慣れない声を聞いた思いから、頭が混乱する。

「ご主人はお元気ですか?」
お父さんが私の代わりに実父の現状を尋ねてくれる。

すると、実母はお父さんの背中に隠れる私を見つけて暫く黙り込む。そして、「ええ……、元気よ」と答える。

そして、「では、この辺で失礼します」と言って実母はお墓を後にする。
その帰り際、実母は私の横をすれ違い、私に囁く。

「元気そうでなによりね……」
ただ一言、私に優しい声で囁く実母の言葉に私は溢れ出る涙が止まらなくなった。

母が立ち去ってしばらく泣き続けた私とその様子を黙って見守る両親。複雑に絡んだ感情が3人の胸中に交差する。

そして、落ち着いた私の背中をお母さんがそっと押す。泣いてばかりでは……前に進めない。

私達は無言で墓参りを済ませ、車に乗って帰路へとつく。その車内は無言だった。


翌日、私達は飛行機で鹿児島へと向かう。
楽しみにしていた旅行だ!!

飛行機が到着すると、一行はレンタカーで指宿へと向かう。その道中、私達は指宿の特攻隊の資料館へと足を運ぶ。

そこには数々の若者たちの遺影と、彼らが親に宛てた人生が詰まった遺書が掲示されている。

その数々の遺書は、父母兄弟達への気遣いと先逝く不幸を綴ったものばかり。だが、二十歳にも満たない子たちの切実なる願い……心が記されていた。

一方、俺はどうだろう。
不幸があったとはいえ、この身体で生きる事が出来ている。夏姫ちゃんやこの遺影に映る少年達の様に無念のうちに死んだ訳ではないのだ。

だが、私はこの身体になった事を母親に見せる勇気がなかった。いや、あろう事か、逆に実母から隠れてしまったのだ。

あの時の実母の声は今でも忘れられない……。

資料館をでた私達は車で海が見えるホテルへと向かう。その道中で私はお父さんに一つの疑問を投げかける。

「どうして、あの資料館へ行ったの?」

「指宿と言えばあそこに行かないと、ダメだろう」
他意はないと言わんばかりに明るい声で語るお父さんに、私はそれ以上何も言えなかった。

「……年端もいかないあの子達がどういう思いで飛び立ったのか、私にはわからない」
無言の私に見かねたお父さんが重い口を開く。

「ただ、もう少し生きたかっただろうと思うと涙が出てくるな……」
静かに語る父の言葉の中に、恐らく夏姫ちゃんのことも含まれていると、私は思った。

「今から死ぬかもしれないというのに、親の事をまず心配して……。先立つ不孝なんて私には書けないだろう……」
鼻声になりつつ、お父さんは車を走らせる。

……親の事を心配する彼らに対し、俺はなんて弱いんだ。

「お父さん、帰ったら……田島の家に連れて行ってください」

「分かった……」
私はお父さんの言葉に感化されて、実家への訪問を決意する。お父さんに意図があったにせよ、なかったにせよ私は実の両親とこの身体で向き合わなければならない。

車はたんぼや民家を抜けて、走っていく。
時間が昭和で止まった様な光景だけが、目の前には広がっていた。


宿に着くと、私はお母さんに引きずられて女湯へと連行される。嫌がっていても大浴場は女湯しか入れないので仕方がないのだ。

決死の覚悟を決めて女湯の暖簾を潜る。
だが、そこには誰もいなかったので安心してお母さんの隣で服を脱ぐ。

……いや、35歳男だったからお母さんの裸であっても見るに忍びない。

私は極力お母さんの方向を見ないようにしている。
しかし……お母さんがブラをとった瞬間に目に入ったものに私は驚いた。

驚異的胸囲だった。
それを見て私は自分のものと見比べる。

少しは大きくなったとはいえまだ……小さい。
親子なのにこの違いは何!?

お母さんの驚異的胸囲を脅威に感じつつ、私はいつもの様に心の中で叫ぶ。
皆さんももうお分かりだと思いますのでご一緒に。
せーの!!!

……いつかスイカップに……以下略(おい作者!!)
と叫びながら、一夜の温泉を楽しんだ。



だが、この時はまだ夕食後に訪れる不幸を私達はまだ……知らなかった。

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