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第30話 決着と信頼
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「ここは…、どこだろう…」
翌朝、私は知らない天井を見上げて焦っていた。
自宅である事は間違いはない。それが夏樹の自宅であるのか、それとも昔の自宅であるのかははっきりしない。
周囲を見回してここがどこかわかった。
昨日泊まりに来た友人達がそれぞれの布団で眠っていて、風ちゃんに至っては私にくっついて眠っていた。
なぜ知らない部屋と勘違いをしたかというと、ここは主に冬樹が泊まりに来た時に使う部屋で自分の部屋とは違うので戸惑いが生じたのだ。
この身体になってからやはり自分の認識と身体の感覚にズレが生じてしまい、違う場所にいると時々元の生活に戻ったのかと勘違いをしてしまうのだ。
この生活に慣れたとはいえ、こうして感覚の違和感に苛まれた時はやるせなさを感じる。
私はくっついて眠っている風ちゃんをゆっくりと剥がしてキッチンへと向かう。スマホを見ると6時30分。いつも起きている時間帯だった。
キッチンに降りると、灯りが既にお母さんが起きており、朝食を作っていた。
「あら夏樹ちゃん、おはよう」
「お母さん、おはよう。昨日は急にごめんなさい…」
「いいのよ。あなたがお友達を連れてくるのが嬉しくて、私…張り切っちゃった!!」
お母さんは8人分の準備を続けながら、嬉しそうに話す。その嬉しそうに話す姿を見て、私も嬉しくなる。
「手伝います…」
「じゃあ、目玉焼きを焼いてくれる?」
「はい!!」
私はお母さんから卵を受け取り、目玉焼きを人数分焼きながらお母さんの顔を見る。
お母さんが私のわがままを聞いてくれるのは分かっていたが、やはり申し訳なさが生じる。
だが、これが彼女なりの夏姫への贖罪なのだろう。
「けど、急に6人も泊まるっていうから驚いたわ。何かあったの?」
「…うん」
私はお母さんに何があったかを詳しく話す。
すると、彼女はうつむきながら「そっか…」
と言い、無言になる。
「あなたはどうしたいの?」
しばらく無言で朝食を作っていたお母さんが私を見る。
「私は…あの親子に話し合ってほしいと思ってます。互いに後悔だけはして欲しくないから…」
「そうね。私にできることがあれば言ってね…」
笑顔で私を見つめてくるお母さんのその顔の奥に後悔が見て取れる。
私は「はい…」という他なかった。きっと、私ではないもう1人の夏姫を思い出しているのだろう。
私では拭いきれない傷がこの夫婦にある事は最初からわかっていたが、少しだけ心が痛んだ。
その後、風ちゃん達が起きてくるとそんな空気もどこ吹く風、賑やかな朝食となった。
そして、風ちゃん達は学校へ行くためそれぞれに帰宅する。そして残った美月と私は美月ママの件についてどうするかを議論する。
最初は当初の目的通り保健室で嶺さんに私の話をオブラートに包んで話してもらう予定だった。
しかし、その話を横で聞いていたお母さんが横槍を入れる。
「夏樹、あなたは今日は休みなさい。私が連絡をしておくから。秋保さんのお母さんには私から話をするから…」
「で、でも…」
「休みなさい!!」
お母さんが、ずいっと近づいてくる。
「親には親しかわからない事もあるの!!お子ちゃまは引っ込んでなさい!!」
「…はい」
…お子ちゃまって…。
私も親だったからわかるけど、彼女には彼女なりの思いがあるのは知っている。
だが、それを表に出すことは母の為になるのだろうか…
そうこうしているうちに、お母さんは学校に休みの連絡を入れる。そして、秋保さんから自宅への連絡を入れてもらい、その会話の中で会う時間と場所を取り付けていた。一連の動きはすごい行動だった。
昼食後、私たちは指定された場所に向かう。
少し緊張した面持ちの美月が横を歩く。
そして、指定されたカフェへとたどり着くと美月のお母さんが先に座って待っていた。
美月のお母さんが美月を見つけると、ズカズカと美月のそばへやって来る。
「美月、あなた何してるの。さぁ、帰るわよ!!」
と、怒鳴って美月の手を引っ張る。
「お母さん、待って!!話を聞いて!!私は転校したくないの!!」
必死に手を離そうともがく美月の言葉を無視して秋保ママはカフェを出ようとする。
「ちょっ…」
私が秋保ママを止めようとし、2人の間に割って入ると、私は秋保ママに振り解かれそうになる。
私は振り解かれまいと力を込めるが、私の…女子中学生の力ではまだ大人の力には太刀打ち出来ずない。それどころか、簡単に払い退けられてしまい体制を崩す。
…こける!!
と、思った瞬間お母さんが私の身体を支える。
「夏樹、大丈夫?」
「…うん」
「あなた、誰?」
秋保ママは私を支えるお母さんを睨み見る。
「申し遅れました。私、香川 夏樹の母の香川 つゆと言います」
秋保ママの態度にも関わらず、冷静に挨拶を返す。
「この度は娘さんから相談を受けましてこの場に来させていただきました。あなたにあなたにお話がありますのでまず、座ってもらえますか?」
「ちっ…」
こちらの騒ぎに周囲の視線を気にしてか、秋保ママは素直に席に着く。
「で、何よ?話って。私達、転校の手続きをしないといけないから忙しいので」
明らかに敵意を剥き出しにした彼女に対して、美月はがくりと項垂れる。
やはり聞いてくれない…そんな思いがあるのだろう。そんな親に対して私が立ち上がり声を上げようとすると、お母さんは私を止める。
「ちょっと‥よろしいでしょうか?それは娘さんの意思ですか?」
「はい、娘の意思です」
「ちがう!!私の…」
と、お母さんは否定しようとする美月を手で制する。そしてチラッと私を見る。
…まるで私に任せてと言っているかのように…。
そして再び話をし始める。
「娘さんは違うとおっしゃっていますが…」
「いえ、私の意思が娘の意思です。娘には間違った道を歩かせたくないので」
こちらを睨みつけ、秋保ママが言い放つ。
私は奥歯を噛みしめ、イラつきを抑える。
お母さんが任せてと言っているのだ、信じてみよう。
「…その考え方を否定はしません。私も娘には苦労をして欲しくはありません」
「それなら邪魔しないでくださる?」
至って真剣な表情で子育て論を語るお母さんに秋保ママは突っかかる。
「…私もひとり娘の事で気を揉んだ事はあります。私の理想を押し付けた事も、叱りつけた事も数えきれないほどにありました」
そう話した途端に、お母さんの瞳から一粒の涙が溢れる。それを見た秋保ママはギョッとし、戸惑う。
私も自分の事ではないのに罪悪感が生まれる。
「けど、その子が初めて私と喧嘩をしました。思春期や反抗期と呼ばれるものだったんでしょうね。それがあるのって普通のことでしょう?」
2滴、3滴と涙ながらに語るお母さんの言葉に秋保ママは黙ったまま聞き続ける。
「その喧嘩を最期に、あの子は帰ってきませんでした。逃げ込んだ先で火事に遭って、そのまま…」
「えっ、一人娘?けどその子は…」
お母さんの言葉と私の存在の矛盾に気がついた秋保ママが私を指差す。
「ええ、私の大切な一人娘です。記憶が違っても、どんな形であっても私の娘です…」
泣きながら私の頭を肩に引き寄せる。
その光景を見てますます戸惑いを覚える秋保さんママを見て、お母さんは私の髪を軽く持ち上げる。
そこには手術跡があり、それを秋保ママが見たのを確認するとすぐに髪を下ろして私の頭を撫で始める。
私はどこかくすぐったく、そして…懐かしい感覚に自然と涙が溢れる。
「…あなたの大切な美月ちゃんもいずれ大人になります。けど、それには間違いや過ちがついて回ります。そこから目を逸らせてはいずれあなたから離れてしまうかもしれません。もしかしたら、明日居なくなるかもしれません」
「美月に限ってそんな事…」
というと、秋保ママはハッと何かに気がつく。
今回の家でのことだ。
「親の価値観ばかりを植え付けすぎて全てを失うよりは多少の喧嘩をしてでも、互いの意思を尊重できる方がいいと、私は思います…」
言葉に詰まりながらもお母さんは話をし切った。
何かを言わないといけないが、言葉にならない秋保ママと何を言えばいいのかわからない私達に一瞬沈黙が走る。
だが、その空気を破ったのもやはりお母さんだった。
「あなたは…あなた達はまだ間違っていないでしょう?」
というと、秋保ママは我に帰る。
「美月…あなたはどうしたいの…」
「…私は、ちゃんと久宮さんに謝って…、香川さん…ううん、夏樹ちゃん達と一緒に学校に行きたい!!転校はしたくない!!」
「そう…。わかったわ、美月。ごめんね…今まで」
「お母さん…ありがとう。ごめんね」
泣きながら、抱き合う秋保親子を見て私はホッと胸を撫で下ろす。いじめの全てのケリがついた、それは喜ばしい事だった。
しばらく泣き続けた2人が落ち着くと、お母さんと秋保ママは仲良くなり連絡先を交換し、私達は別れて家路につく。
その道中、私は心に引っかかっていたものを吐く。
「お母さん、ごめんね。辛い思いをさせてまで付き合わせて…」
心に引っかかっていたもの、それは今回の一件で私は最後、何もしていない。
最後のケリをつけてくれたのはお母さんだった。
しかも、嶺さんが言っていた様にお母さんの本音に近い部分も出た気がした。それは普段話せない心の闇で、下手をしたら私たちの関係も危ぶまれた可能性があった。
それを全て丸く収め、解決させたのだ。
「何言ってるの?あなたはまだどこからどう見ても子供でしょ?」
鼻で笑いながらお母さんが言う。
「…違っ「わないわよ?あなたがもし一人なら突き飛ばされた時にこの話は終わってるよ。頭はどんなに大人でも、身体はまだ子供なんだから。子供は親に頼ればいいのよ!!」
…!!
そうだった。私があの時に転けていたらもしかしたらまた入院、下手をしたら永眠する可能性まであったのだ。
そしたらこの大団円も逆の形になってしまったかもしれない。今はラップ調に笑い話で済む話でも、笑えなくなってしまうのだ。
「あなたは私の大事な娘なんだもの…、私たちをもっと頼ってね」
「…お、お母さん…」
体が違っても、記憶が違っても、仮の家族だとしても、今はこの人が母親なのだ。
私は初めて自分からお母さんに抱きついて泣いた。
大声で私は泣き、母はそれを優しく包み込んだ。
まるで本物の親子の様に…。
※
翌日…
私達はいつもの様に自分の席で荷物の整理をしたり、話をしていると秋保 美月が登校して来る。
クラス中が沈黙に包まれると、美月は歩みを止める。異物は排除…と言った重い、空気だ。
「…美月ちゃん、おはよ」
その背中を押したのは後から来た風ちゃんだった。
その光景を見た私たちは笑顔で二人を迎える。
こうして私たちは友達になった。
翌朝、私は知らない天井を見上げて焦っていた。
自宅である事は間違いはない。それが夏樹の自宅であるのか、それとも昔の自宅であるのかははっきりしない。
周囲を見回してここがどこかわかった。
昨日泊まりに来た友人達がそれぞれの布団で眠っていて、風ちゃんに至っては私にくっついて眠っていた。
なぜ知らない部屋と勘違いをしたかというと、ここは主に冬樹が泊まりに来た時に使う部屋で自分の部屋とは違うので戸惑いが生じたのだ。
この身体になってからやはり自分の認識と身体の感覚にズレが生じてしまい、違う場所にいると時々元の生活に戻ったのかと勘違いをしてしまうのだ。
この生活に慣れたとはいえ、こうして感覚の違和感に苛まれた時はやるせなさを感じる。
私はくっついて眠っている風ちゃんをゆっくりと剥がしてキッチンへと向かう。スマホを見ると6時30分。いつも起きている時間帯だった。
キッチンに降りると、灯りが既にお母さんが起きており、朝食を作っていた。
「あら夏樹ちゃん、おはよう」
「お母さん、おはよう。昨日は急にごめんなさい…」
「いいのよ。あなたがお友達を連れてくるのが嬉しくて、私…張り切っちゃった!!」
お母さんは8人分の準備を続けながら、嬉しそうに話す。その嬉しそうに話す姿を見て、私も嬉しくなる。
「手伝います…」
「じゃあ、目玉焼きを焼いてくれる?」
「はい!!」
私はお母さんから卵を受け取り、目玉焼きを人数分焼きながらお母さんの顔を見る。
お母さんが私のわがままを聞いてくれるのは分かっていたが、やはり申し訳なさが生じる。
だが、これが彼女なりの夏姫への贖罪なのだろう。
「けど、急に6人も泊まるっていうから驚いたわ。何かあったの?」
「…うん」
私はお母さんに何があったかを詳しく話す。
すると、彼女はうつむきながら「そっか…」
と言い、無言になる。
「あなたはどうしたいの?」
しばらく無言で朝食を作っていたお母さんが私を見る。
「私は…あの親子に話し合ってほしいと思ってます。互いに後悔だけはして欲しくないから…」
「そうね。私にできることがあれば言ってね…」
笑顔で私を見つめてくるお母さんのその顔の奥に後悔が見て取れる。
私は「はい…」という他なかった。きっと、私ではないもう1人の夏姫を思い出しているのだろう。
私では拭いきれない傷がこの夫婦にある事は最初からわかっていたが、少しだけ心が痛んだ。
その後、風ちゃん達が起きてくるとそんな空気もどこ吹く風、賑やかな朝食となった。
そして、風ちゃん達は学校へ行くためそれぞれに帰宅する。そして残った美月と私は美月ママの件についてどうするかを議論する。
最初は当初の目的通り保健室で嶺さんに私の話をオブラートに包んで話してもらう予定だった。
しかし、その話を横で聞いていたお母さんが横槍を入れる。
「夏樹、あなたは今日は休みなさい。私が連絡をしておくから。秋保さんのお母さんには私から話をするから…」
「で、でも…」
「休みなさい!!」
お母さんが、ずいっと近づいてくる。
「親には親しかわからない事もあるの!!お子ちゃまは引っ込んでなさい!!」
「…はい」
…お子ちゃまって…。
私も親だったからわかるけど、彼女には彼女なりの思いがあるのは知っている。
だが、それを表に出すことは母の為になるのだろうか…
そうこうしているうちに、お母さんは学校に休みの連絡を入れる。そして、秋保さんから自宅への連絡を入れてもらい、その会話の中で会う時間と場所を取り付けていた。一連の動きはすごい行動だった。
昼食後、私たちは指定された場所に向かう。
少し緊張した面持ちの美月が横を歩く。
そして、指定されたカフェへとたどり着くと美月のお母さんが先に座って待っていた。
美月のお母さんが美月を見つけると、ズカズカと美月のそばへやって来る。
「美月、あなた何してるの。さぁ、帰るわよ!!」
と、怒鳴って美月の手を引っ張る。
「お母さん、待って!!話を聞いて!!私は転校したくないの!!」
必死に手を離そうともがく美月の言葉を無視して秋保ママはカフェを出ようとする。
「ちょっ…」
私が秋保ママを止めようとし、2人の間に割って入ると、私は秋保ママに振り解かれそうになる。
私は振り解かれまいと力を込めるが、私の…女子中学生の力ではまだ大人の力には太刀打ち出来ずない。それどころか、簡単に払い退けられてしまい体制を崩す。
…こける!!
と、思った瞬間お母さんが私の身体を支える。
「夏樹、大丈夫?」
「…うん」
「あなた、誰?」
秋保ママは私を支えるお母さんを睨み見る。
「申し遅れました。私、香川 夏樹の母の香川 つゆと言います」
秋保ママの態度にも関わらず、冷静に挨拶を返す。
「この度は娘さんから相談を受けましてこの場に来させていただきました。あなたにあなたにお話がありますのでまず、座ってもらえますか?」
「ちっ…」
こちらの騒ぎに周囲の視線を気にしてか、秋保ママは素直に席に着く。
「で、何よ?話って。私達、転校の手続きをしないといけないから忙しいので」
明らかに敵意を剥き出しにした彼女に対して、美月はがくりと項垂れる。
やはり聞いてくれない…そんな思いがあるのだろう。そんな親に対して私が立ち上がり声を上げようとすると、お母さんは私を止める。
「ちょっと‥よろしいでしょうか?それは娘さんの意思ですか?」
「はい、娘の意思です」
「ちがう!!私の…」
と、お母さんは否定しようとする美月を手で制する。そしてチラッと私を見る。
…まるで私に任せてと言っているかのように…。
そして再び話をし始める。
「娘さんは違うとおっしゃっていますが…」
「いえ、私の意思が娘の意思です。娘には間違った道を歩かせたくないので」
こちらを睨みつけ、秋保ママが言い放つ。
私は奥歯を噛みしめ、イラつきを抑える。
お母さんが任せてと言っているのだ、信じてみよう。
「…その考え方を否定はしません。私も娘には苦労をして欲しくはありません」
「それなら邪魔しないでくださる?」
至って真剣な表情で子育て論を語るお母さんに秋保ママは突っかかる。
「…私もひとり娘の事で気を揉んだ事はあります。私の理想を押し付けた事も、叱りつけた事も数えきれないほどにありました」
そう話した途端に、お母さんの瞳から一粒の涙が溢れる。それを見た秋保ママはギョッとし、戸惑う。
私も自分の事ではないのに罪悪感が生まれる。
「けど、その子が初めて私と喧嘩をしました。思春期や反抗期と呼ばれるものだったんでしょうね。それがあるのって普通のことでしょう?」
2滴、3滴と涙ながらに語るお母さんの言葉に秋保ママは黙ったまま聞き続ける。
「その喧嘩を最期に、あの子は帰ってきませんでした。逃げ込んだ先で火事に遭って、そのまま…」
「えっ、一人娘?けどその子は…」
お母さんの言葉と私の存在の矛盾に気がついた秋保ママが私を指差す。
「ええ、私の大切な一人娘です。記憶が違っても、どんな形であっても私の娘です…」
泣きながら私の頭を肩に引き寄せる。
その光景を見てますます戸惑いを覚える秋保さんママを見て、お母さんは私の髪を軽く持ち上げる。
そこには手術跡があり、それを秋保ママが見たのを確認するとすぐに髪を下ろして私の頭を撫で始める。
私はどこかくすぐったく、そして…懐かしい感覚に自然と涙が溢れる。
「…あなたの大切な美月ちゃんもいずれ大人になります。けど、それには間違いや過ちがついて回ります。そこから目を逸らせてはいずれあなたから離れてしまうかもしれません。もしかしたら、明日居なくなるかもしれません」
「美月に限ってそんな事…」
というと、秋保ママはハッと何かに気がつく。
今回の家でのことだ。
「親の価値観ばかりを植え付けすぎて全てを失うよりは多少の喧嘩をしてでも、互いの意思を尊重できる方がいいと、私は思います…」
言葉に詰まりながらもお母さんは話をし切った。
何かを言わないといけないが、言葉にならない秋保ママと何を言えばいいのかわからない私達に一瞬沈黙が走る。
だが、その空気を破ったのもやはりお母さんだった。
「あなたは…あなた達はまだ間違っていないでしょう?」
というと、秋保ママは我に帰る。
「美月…あなたはどうしたいの…」
「…私は、ちゃんと久宮さんに謝って…、香川さん…ううん、夏樹ちゃん達と一緒に学校に行きたい!!転校はしたくない!!」
「そう…。わかったわ、美月。ごめんね…今まで」
「お母さん…ありがとう。ごめんね」
泣きながら、抱き合う秋保親子を見て私はホッと胸を撫で下ろす。いじめの全てのケリがついた、それは喜ばしい事だった。
しばらく泣き続けた2人が落ち着くと、お母さんと秋保ママは仲良くなり連絡先を交換し、私達は別れて家路につく。
その道中、私は心に引っかかっていたものを吐く。
「お母さん、ごめんね。辛い思いをさせてまで付き合わせて…」
心に引っかかっていたもの、それは今回の一件で私は最後、何もしていない。
最後のケリをつけてくれたのはお母さんだった。
しかも、嶺さんが言っていた様にお母さんの本音に近い部分も出た気がした。それは普段話せない心の闇で、下手をしたら私たちの関係も危ぶまれた可能性があった。
それを全て丸く収め、解決させたのだ。
「何言ってるの?あなたはまだどこからどう見ても子供でしょ?」
鼻で笑いながらお母さんが言う。
「…違っ「わないわよ?あなたがもし一人なら突き飛ばされた時にこの話は終わってるよ。頭はどんなに大人でも、身体はまだ子供なんだから。子供は親に頼ればいいのよ!!」
…!!
そうだった。私があの時に転けていたらもしかしたらまた入院、下手をしたら永眠する可能性まであったのだ。
そしたらこの大団円も逆の形になってしまったかもしれない。今はラップ調に笑い話で済む話でも、笑えなくなってしまうのだ。
「あなたは私の大事な娘なんだもの…、私たちをもっと頼ってね」
「…お、お母さん…」
体が違っても、記憶が違っても、仮の家族だとしても、今はこの人が母親なのだ。
私は初めて自分からお母さんに抱きついて泣いた。
大声で私は泣き、母はそれを優しく包み込んだ。
まるで本物の親子の様に…。
※
翌日…
私達はいつもの様に自分の席で荷物の整理をしたり、話をしていると秋保 美月が登校して来る。
クラス中が沈黙に包まれると、美月は歩みを止める。異物は排除…と言った重い、空気だ。
「…美月ちゃん、おはよ」
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