ココロノアリカ〜35歳男が中学生女子になったその日から〜

黒瀬カナン

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第24話 出会いと中間テスト

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検査の結果、来週の月曜日に私は退院する事になった。

その間お母さんやお父さん、奈緒ちゃんは来てくれたが、他の人は来てくれなかった。
四季にはお母さんに会わないことを告げているので気を使って言わないでくれているのだろう。

奈緒ちゃんからは風ちゃんが今回の件でショックを受けていることは聞いているのできっと来ないだろう。
先生方に関しても、嶺さんを通じて話はしているので来る事はなかった。

検査入院という事で、特に出歩きは禁止されていない。退屈になった私は病院内を歩く事にした。

様々な人が行き交う見慣れた病院内をみて回るが、特に珍しいものがあるわけでもない。
結局は売店で雑誌とノートを一冊買って帰る事にした。

ノートを買った理由は今回の件で日記をつける事にしたのだ。記録をつける事でこの身体になって自身が今何を考えているかを客観的に見れるようにする事と、嶺さんの診察の資料として渡す事になった。

プライベートまで知られる恐れはあるからあまり人に見せたいものではないが、今の自分が受け入れられない以上はまた同じようなことが起こりうることは避けたい。

ノートをカゴに入れ、私は雑誌を見る。
流石に女性誌には興味が湧かず、ティーン雑誌を見たいわけでもないので週間跳躍や週間日曜日、フットボールダイジェストを手に取る。

すると、横に私と同世代くらいの男子が目につく。
おっさん中学生の同世代って何歳なんだ?と思う。
彼はマンスリーサッカーを読んでいた。

「あっ…、白雪姫…」

「えっ?」

彼は雑誌を取ろうとする私に気がつく。
顔は…どこかで見覚えがあるが、知り合いではない。私の渾名を知っているって事は同じ中学校なのだろう。

「どちら様でしたっけ?」

私がそういうと、彼は残念そうな顔をし肩を落とす。


「…サッカー部の主将の加藤 修斗です。先月君に振られた…」

「………あぁ~、あのイケメン君かぁ。なにしてるの?」

私がそういうと、加藤君は嬉しそうな顔に変わる。

「ちょっと怪我をして…整形外科に受診してます」

…見た目の割に丁寧な子だな

そう感じつつ、私はひとつの考えに至る。

「そうだ、加藤君は今は時間ある?」

「え?あるけど…」

「ちょっと私に付き合ってくれない?」

「え?」
彼は戸惑い、顔を赤くする。

「丁度検査入院で退屈してたの!!そこの喫茶店で話さない?サッカーのことも聞きたいし!!」

「…いいですけど、お金が…」
加藤君は色々残念そうに言う。

「私が出すから大丈夫!!行こっ!!」

「あっ、えっ?えっ?」

私は彼の手を引いて病院併設の喫茶店に入る。
私に手を引かれた彼は戸惑いを隠せない。

喫茶店の席案内された私はコーヒーを注文する。
彼はまだコーヒーはダメなようで紅茶を頼んでいた。
私と対峙した彼は少し恥ずかしがり、緊張している。まるで冬樹を見ているようで可愛いと思いつつ、私は彼に話し始める。

「そんな緊張しなくていいよ!!」

「あっ、はい」

「そういえば、サッカー部のキャプテンって言ってたけど、ポジはどこなの?」

「一応トップ下です。ボールを散らすのが好きで!!」

「へぇ!!フォワードではないんだ」

「はい。トップしたならゴールも狙えるから楽しいんです!!今年は地区優勝を目指してるんです」

彼の目が生き生きとしてくる。
彼が口数多く楽しそうにサッカーの話をするのを見ていると自分もあの頃に戻った気がしてくる。

「じゃあ、今年は全中サッカー狙えるんじゃない?うちの中学って何気にサッカー強いし!!」

「…そうだといいんだけど、簡単にはいかないんですよ…」

彼の表情が突然暗くなる。

「先週の練習試合で肉離れを起こして完治までは練習ができないんです…」

「…そうなんだ。けど、肉離れくらいならすぐ治るから大丈夫じゃない?」

「僕はキャプテンなんだ!!やっぱり、練習しないとすぐに周りに追い越されるし、チームのバランスも崩れるから早く戻りたい」

彼は息荒く言い放つその気持ちは痛いくらいわかる。
自分の居場所であった場所を取られる恐怖は何者も耐えられずに焦る。そして怪我が完治しないまま練習を繰り返し、怪我が悪化する。その結果、選手生命を脅かすのだ。

「…焦ったらダメだよ?怪我をしている今だからこそ、できることもあるんだから…」

「今だからできること…?」

「そう。筋トレとか、勉強とか、チームを外から見ることもできるんだから!!」

「けど、今監督に見放されると夢が消えてしまうんだ」

「夢って?サッカー選手?」

「…いや、日本代表です。代表になりたいんだ…」

私の胸が、ドキッと脈打つ。

「へぇ、そうなんだ…」

「だから、休んでいる暇はないんだ!!」

「加藤君、それは…違うよ?」

脈打つ胸を抑え、昔の自分を思い出すように私は語る。

「昔、ユースの代表になった人がいたの。だけど、友人との交錯で怪我をして代表生命を脅かされたんだって」

「それって…」

私はうんと頷いて話を続ける。

「その人はそれに焦って無茶をしたの。だけど、それが祟って選手生命まで失ったの。だから、いまは焦らないで…」

私の身体じゃないのに古傷が痛む。
私の身体と春樹の身体が地続きに続いていると思ってしまう。

「…だからいまは力を貯めて」

「分かった…そうするよ。だから、君に試合を見に来て欲しい!!必ず活躍するから!!」

加藤君のまっすぐとした目が私を見る。
この子は青春をしているなぁ~と羨ましく思いつつ、早くなる鼓動にを感じる。

だが、私はそれに蓋をする。
身体は幼くても、私はもう大人だ。
どこかのTS小説のようにちょろくはない。

「…全中まで行きなよ」

私は笑顔で彼に伝えると、彼は嬉しそうに「おう!!」という。

「中間テストも終わった事だし、今日から焦らずに筋トレをしていくよ!!」

「…なんですと?」

彼の一言に私は驚愕し、私の声に彼は焦る。

「今日から筋トレを…」

「そっちじゃない!!その前!!」

「中間テストも終わったし?」

「それ!!テストいつまでだったっけ?」

「今日まで…」

「うそっ…」

私は意気消沈する。
いじめと入院したせいで中間テストの存在を忘れていた。いや、まじ卍!!

ということはこのままエスカレートできないまま卒業の危機を迎える可能性が出てくる。
将来のプランを考えるとこの学校を出るのが一番いいと思っていた。だからこの体になって初めてのテストを受けることができない事は痛手だ。

「…どうしよう」

彼と別れた私は病室に戻り、茫然としてしまった。
嶺さんが見舞いがてら往診に来たが、真っ白になっている私を見て焦る。

ことの顛末を告げると彼女から私の補習は来週の木曜日と金曜日の放課後にすることになったと聞いた。

その一言に私は安心したが、それでなくても勉強できていない私は速攻でお母さんに連絡を入れて教科書類を持ってきてもらった。

病室で暇なんで言っていないで勉強をしておくべきだったと私は激しく後悔したのは言うまでも無い。

ただ、この会話がきっかけで加藤 修斗という男と会話を交わす事が増えていくのだった。
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