上 下
118 / 173
<大正:氷の迷宮事件>

いつもの儀式

しおりを挟む
「ウーーン」
と、伸びを一つして目が覚める。
現代むこうで二日間も食っちゃ寝ゴロゴロしたせいか、なんか体がだるい……。

「いいえ、そうじゃ無いわね。この体は大正こちらの世界の物。お正月以降の過労の疲れが未だ抜けて無いのだわ……」
でも……外は未だ薄暗い。
こんな時間に目が覚めたのは、やっぱり小野小町わたしが向こうで、食っちゃ寝ゴロゴロしたせいね。
「今、何時かしら?」
壁に掛けられた振り子時計に目をやると、はぁ~……まだ五時前ですわ。

「本当は二度寝したいところですけれど、現代むこうで寝過ぎましたわね。二度寝出来そうに無いわ……」
已む無く体を起こして、ベットから這い出る。

「あっ、そうだわ!」
急いで、お布団の中を確認。

「有りましたわ♪」
コンビニの袋に詰まったどんぐりの山。
それと……。
私のトゥーアサ・ジェー・ザナン♪

「良かったわ。二つとも持って来れたみたいね♪」
さてと、重要な儀式を済ませてしまいませんと。

先ずは、どんぐりを持って鏡の前へ。
「どんぐり!」
鏡の中のどんぐりが実体化する……でも、まさかこの事態は考えて無かったわ……。

コンビニの袋よ。
コンビニの袋が実体化しませんわ。

まあ、考えてみれば、当たり前ですわね。
どんぐりとコンビニの袋は別物ですもの。

でも、どうしましょ。
と言うより……これ、どうなるのかしら?

大正こちらの世界には、コンビニの袋なんて存在し無い。
そもそも、コンビニなんて大正時代の日本には存在しないし、こんなレジ袋なんて、当然見た事無いわ。

大正こちらの世界に存在しない物を実体化って、出来るのかしら?

宜しいわ、試してみましょ。
「コンビニの袋!」
鏡の中の白い靄が形を成していく。
そして、白い光沢の有る塩化ビニール製のレジ袋に。
勿論、その中央には、大正こちらの世界にはまだ存在しない筈のコンビニのロゴマーク。

「実体化できましたわ……」
とすると、その世界にそれが、既に存在する、し無いに関わらず、実体化できると言う事に成るわね。
もしかすると、液晶テレビとか電子レンジとか、家電製品なんかも持って来れるかも、ですわ。

ん?
はぁ~、液晶テレビなんか持ってきてどうしますのよ。
まだ白黒のアナログ放送すら始まっていませんのに。
持ってきたとしても、役に立たない只の重い板。

それに、大正こちらに持ってくると言う事は、小野小町わたしがそれを抱きしめてベットに入る必要が有るわ。
想像しただけで寝苦しそう……。
まあ、当面そんな必要な無いわね。

さてと、お次は私のトゥーアサ・ジェー・ザナンよ♪

トゥーアサ・ジェー・ザナンを持って、鏡の前に立つと……あれ?
既に実体化しているわ。
何で?

「あっ!と言う事はやはり。このトゥーアサ・ジェー・ザナンは元々大正こちらの世界の物。だから実体化させる必要は無いと言う事ですわ」
あれ?
だったら、現代むこうの世界では、実体化の儀式はしなかったけれど……良く無事で……。
フフフ♪
よくよく記憶を辿さかのぼれば、浮かれてトゥーアサ・ジェー・ザナンの名前を何度も呼んで居たわね♪

あれ?
でも、平和の世界ではどうだったのかしら?
あの世界では、トゥーアサ・ジェー・ザナンに値札まで貼られていたわ。
つまり、小野小町わたしが触れる以前に実体化していたと言う事。

どう云う事かしら?
千切り取られた表紙の中に隠されていた魔法陣に、そう言う機能が有った?
若しくは……何者かが実体化させた……とか?
だとすれば、それは誰?
お多福ちゃん?
それとも……まさか、あのキツネが……?

それはさすがに、まさか、ですわね。

ともかく、このトゥーアサ・ジェー・ザナンが大正こちらの世界に元々あった物だとすれば……。

机の引き出しに仕舞っていた、焼け残ったトゥーアサ・ジェー・ザナンの表紙を取り出す。
あの日、ストーカーさんから受け取った、表紙の上部。
これを、トゥーアサ・ジェー・ザナン本体の背表紙との切断面と、キツネに誘われて手に入れた、表紙の下部の焼け焦げた切断面に合わせてみる。

「間違いありませんわ。ピタリと合いましたわ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...