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<大正:英国大使館の悪魔事件 解決編>
そして、アメリカで
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「な、なんと!」
上村さんが、驚いてらっしゃる。
大使閣下は目を伏せて黙り、ストーカーさんと参事官さんはポーカーフェイスを決め込んでいるわ。
どうやら、大使館の中では公然の秘密、と言う事ですわね。
「そして……もしかすると、ローレンスさんは、何か掴んでいたのかも知れませんわね。何しろ、最初期の物でしたけれど、降霊会名簿までたどり着いてらしたもの」
「では、小町はやはり、ローレンスはその事実なり証拠なりを掴んだから、公使に殺害されたと?」
私は首を横に振る。
「お話しを続けますわ。丁度、前大使閣下がお亡くなりになったのと同じ頃に成るのかしら、一年と半年ほど前の事と伺っておりますわ。アメリカでも事件が有りましたの。……いいえ、事件と言うより惨劇と言った方が宜しいですわね。とある小さなネイティブアメリカンの集落で、起こった惨劇のお話しですわ。ある日、一人の白人の男性が、集落を訪れましたわ。そして、十日後に行われる、その集落に伝わる秘密のお祭りを見せて欲しいと。当然、集落の方達はお断りして、追い返しましたわ。ですけれど八日後、集落の娘が一人、行方が分から無く……。ご両親は心配したらしいのだけれど、集落の人達はお祭りの準備が忙しく、その娘は先日の白人の男性と、駆け落ちしたのではと、取り合わなかったの。そして、集落の一人の若者が、祭りの供物と成る獲物を狩りに。次の日の夕刻、その若者が集落に戻ると、彼を残して、集落の全ての人達は無残に殺されていたと言う話よ。元々集落には55人の住民が居たとお聞きしましたわ。ですから、唯一生き残ったその若者を残して、54人もの人が殺されましたの」
「54人もの人が亡くなったと言うのは、確かに痛ましい話では有りますな。ですが、お嬢さん。その太平洋を隔てて起こった惨劇と、ローレンス君の事件と何か関係が?」
参事官さんの疑問にストーカーさんが続く。
「小町、貴女の口ぶりから察するに、その集落を訪れた白人が、集落の者を皆殺しにして、さらに、海を渡ってこの日本で、ローレンスを殺害したと仰いたい様に聞こえる。しかも、その白人の男は、この我々の誰かだと……。しかし、例えその白人が銃か何か、強力な武器を持っていたとしても、54人もの人を殺害出来るとは思えない。ネイティブアメリカンの集落と言うからには、中には屈強な戦士も居ただろうに」
「ええ勿論、只の人間では、そうですわね」
「それはどう云う……人では無かったと?ま、まさか公使のあの姿……あの様なモノが殺戮したと!」
鋭いですわ、ストーカーさん♪
「では、もう少し、詳しくお話ししますわね。その集落は、八つの家族で形成されていましたのですけれど。各家には代々受け継がれる、精霊を象った木像が御座いましたの。大体一尺……一フィートほどの円柱形の木像ですわ。各家の者が家に伝わるその木像を使う事で、自身の姿を象られた精霊の姿に変える事が出来る魔道具だと云う話し。彼らはトーテムと呼んでいらした様ですわ。先ほど、秘密のお祭りと申しましたけれど、そのお祭りは、七つの家族の代表が、そのトーテムを使って精霊に姿を変え、精霊に感謝すると云うお祭りですの」
「ん?ミス蘆屋、集落は八つの家族で形成しているのでは無いのかね?」
「ええ、残りの一家族に伝わるトーテムが象る精霊は、とても危険な精霊でしたの。ウェンディゴと呼ばれる邪悪な精霊。ですから、普段は、お祭りの時でさえ、使う事は有りませんでしたわ」
「では、彼らは何故そんな危険なものを?」
「他の部族や白人との戦で使われていた様ですわ。とても、狂暴で危険な精霊ですけれど、集落を護る為に」
「事件の後、集落に戻って来たその若者は、トーテムが保管されていた洞窟へ向かったそうよ。そこには、行方をくらませていたウェンディゴのトーテムを受け継ぐ家の娘の死体と、破壊されたトーテムの残骸が残されていたと云うわ。勿論、その残骸にはウェンディゴのトーテムの物は無かったわ」
「ウェンディゴと言うのは聞いたことは無いが、小町が言う木像と、戦で使われる程の狂暴で危険な精霊……そのキーワードから想像するものは……やはり、公使のあの姿。公使もあの時、木像を握っていた……」
「ええ、公使閣下があの時握ってらっしゃったのは、そのウェンディゴのトーテムですわ」
「では、その白人の男性が、娘を脅すなり誑かすなりして、そのトーテムとやらを奪い、あの時の公使の様に我を失って狂暴化して、集落を襲って皆殺しに、そして、海を渡って日本まで来たと?」
「そうですわね……大体のところはストーカーさんの仰る通りですわ」
「しかし、あの様なおぞましい姿で、自我を失ったままどうやって海を渡って来れるのです?まさか……空を飛べると……?」
「いいえ、さすがに、空までは飛ばないと思いますわ。ですけれど、自我を保つ事も出来ますし、人の姿に戻る事も出来ますわ。ウェンディゴのトーテムの一族の方達は、そう云う能力の血筋でらしたの。まあ、当然ですわね。そうでないと、戦で使う様な事が有っても後で困りますわ」
「しかし、その白人は一族の者ではないハズでは?」
「ええ、ですけれど、その方は一族の力を取り入れる事が出来ましたの」
「それは、どうやって?」
「一族の方を食べましたの」
ストーカーさんは絶句されてる様。
「で……では、その者は集落を皆殺しにした過程で……一族の者を喰らい、自我を取り戻し、人の姿に戻って日本に渡って来たと」
「いいえ、最初にお食べになったのは、ウェンディゴのトーテムの一族の娘さんですわ。ですから自我を保ったまま集落の皆さんを皆殺しに。そして……日本に」
イシャイニシュスさんを見ると、一点を睨みつけていらっしゃる。
コヨーテはイヌ科ですもの、お鼻が利くのね。
敵の匂いに気付いているのだわ。
上村さんが、驚いてらっしゃる。
大使閣下は目を伏せて黙り、ストーカーさんと参事官さんはポーカーフェイスを決め込んでいるわ。
どうやら、大使館の中では公然の秘密、と言う事ですわね。
「そして……もしかすると、ローレンスさんは、何か掴んでいたのかも知れませんわね。何しろ、最初期の物でしたけれど、降霊会名簿までたどり着いてらしたもの」
「では、小町はやはり、ローレンスはその事実なり証拠なりを掴んだから、公使に殺害されたと?」
私は首を横に振る。
「お話しを続けますわ。丁度、前大使閣下がお亡くなりになったのと同じ頃に成るのかしら、一年と半年ほど前の事と伺っておりますわ。アメリカでも事件が有りましたの。……いいえ、事件と言うより惨劇と言った方が宜しいですわね。とある小さなネイティブアメリカンの集落で、起こった惨劇のお話しですわ。ある日、一人の白人の男性が、集落を訪れましたわ。そして、十日後に行われる、その集落に伝わる秘密のお祭りを見せて欲しいと。当然、集落の方達はお断りして、追い返しましたわ。ですけれど八日後、集落の娘が一人、行方が分から無く……。ご両親は心配したらしいのだけれど、集落の人達はお祭りの準備が忙しく、その娘は先日の白人の男性と、駆け落ちしたのではと、取り合わなかったの。そして、集落の一人の若者が、祭りの供物と成る獲物を狩りに。次の日の夕刻、その若者が集落に戻ると、彼を残して、集落の全ての人達は無残に殺されていたと言う話よ。元々集落には55人の住民が居たとお聞きしましたわ。ですから、唯一生き残ったその若者を残して、54人もの人が殺されましたの」
「54人もの人が亡くなったと言うのは、確かに痛ましい話では有りますな。ですが、お嬢さん。その太平洋を隔てて起こった惨劇と、ローレンス君の事件と何か関係が?」
参事官さんの疑問にストーカーさんが続く。
「小町、貴女の口ぶりから察するに、その集落を訪れた白人が、集落の者を皆殺しにして、さらに、海を渡ってこの日本で、ローレンスを殺害したと仰いたい様に聞こえる。しかも、その白人の男は、この我々の誰かだと……。しかし、例えその白人が銃か何か、強力な武器を持っていたとしても、54人もの人を殺害出来るとは思えない。ネイティブアメリカンの集落と言うからには、中には屈強な戦士も居ただろうに」
「ええ勿論、只の人間では、そうですわね」
「それはどう云う……人では無かったと?ま、まさか公使のあの姿……あの様なモノが殺戮したと!」
鋭いですわ、ストーカーさん♪
「では、もう少し、詳しくお話ししますわね。その集落は、八つの家族で形成されていましたのですけれど。各家には代々受け継がれる、精霊を象った木像が御座いましたの。大体一尺……一フィートほどの円柱形の木像ですわ。各家の者が家に伝わるその木像を使う事で、自身の姿を象られた精霊の姿に変える事が出来る魔道具だと云う話し。彼らはトーテムと呼んでいらした様ですわ。先ほど、秘密のお祭りと申しましたけれど、そのお祭りは、七つの家族の代表が、そのトーテムを使って精霊に姿を変え、精霊に感謝すると云うお祭りですの」
「ん?ミス蘆屋、集落は八つの家族で形成しているのでは無いのかね?」
「ええ、残りの一家族に伝わるトーテムが象る精霊は、とても危険な精霊でしたの。ウェンディゴと呼ばれる邪悪な精霊。ですから、普段は、お祭りの時でさえ、使う事は有りませんでしたわ」
「では、彼らは何故そんな危険なものを?」
「他の部族や白人との戦で使われていた様ですわ。とても、狂暴で危険な精霊ですけれど、集落を護る為に」
「事件の後、集落に戻って来たその若者は、トーテムが保管されていた洞窟へ向かったそうよ。そこには、行方をくらませていたウェンディゴのトーテムを受け継ぐ家の娘の死体と、破壊されたトーテムの残骸が残されていたと云うわ。勿論、その残骸にはウェンディゴのトーテムの物は無かったわ」
「ウェンディゴと言うのは聞いたことは無いが、小町が言う木像と、戦で使われる程の狂暴で危険な精霊……そのキーワードから想像するものは……やはり、公使のあの姿。公使もあの時、木像を握っていた……」
「ええ、公使閣下があの時握ってらっしゃったのは、そのウェンディゴのトーテムですわ」
「では、その白人の男性が、娘を脅すなり誑かすなりして、そのトーテムとやらを奪い、あの時の公使の様に我を失って狂暴化して、集落を襲って皆殺しに、そして、海を渡って日本まで来たと?」
「そうですわね……大体のところはストーカーさんの仰る通りですわ」
「しかし、あの様なおぞましい姿で、自我を失ったままどうやって海を渡って来れるのです?まさか……空を飛べると……?」
「いいえ、さすがに、空までは飛ばないと思いますわ。ですけれど、自我を保つ事も出来ますし、人の姿に戻る事も出来ますわ。ウェンディゴのトーテムの一族の方達は、そう云う能力の血筋でらしたの。まあ、当然ですわね。そうでないと、戦で使う様な事が有っても後で困りますわ」
「しかし、その白人は一族の者ではないハズでは?」
「ええ、ですけれど、その方は一族の力を取り入れる事が出来ましたの」
「それは、どうやって?」
「一族の方を食べましたの」
ストーカーさんは絶句されてる様。
「で……では、その者は集落を皆殺しにした過程で……一族の者を喰らい、自我を取り戻し、人の姿に戻って日本に渡って来たと」
「いいえ、最初にお食べになったのは、ウェンディゴのトーテムの一族の娘さんですわ。ですから自我を保ったまま集落の皆さんを皆殺しに。そして……日本に」
イシャイニシュスさんを見ると、一点を睨みつけていらっしゃる。
コヨーテはイヌ科ですもの、お鼻が利くのね。
敵の匂いに気付いているのだわ。
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