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<大正:英国大使館の悪魔事件 後編>

更に殺人事件

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「諏訪さん、是非詳しくお聞きしたいですわ」
「そう言ってもらえると助かるわ、小町ちゃん」
「もう!小町ちゃんはお人よしなんだから~」
諏訪さんはほっと胸をなでおろし、お母様はちょっとプンスカ。

「新たに見つかった遺体は、全部で八人。二日の朝から今朝に掛けて見つかったものよ。ただ、昨日までは変死体として、警視庁に報告が上がっただけだったみたいで、気付くのが遅くなったの。それも、昨日見つかった変死体の話を、たまたま山田警部補が耳にして、年明けから今までの間に見つかった変死体の報告書を、徹夜で調べなおしてくれたお陰よ。今も、大晦日以前の変死体の報告書とにらめっこしてるらしいわ」
最初お会いした時のイメージは、あまり良くありませんでしたけれど、警部補さん見直しましたわ。

「その新たに見つかった御遺体の方々は、何時いつ頃お亡くなりに成りましたの?」
「それが……、八人中七人の方は二日以前、大晦日から二日の早朝に掛けて亡くなった様よ。要するに公使が、明治神宮で小町ちゃんに倒される以前の被害者だから、彼が犯人の可能性が有るわ。ただ、今朝見つかった御遺体の一人は、亡くなって半日は経っていないという話よ。ご家族に確認したところ、昨晩まで、健在だったのは確認を取れているわ」
「とすると、その昨夜お亡くなりに成った方を殺害したのは、あの持ち去られた木像を使って変異した者の可能性が有ると?」
「ええ、その可能性が高いわね」

「では、また公使閣下の様な化け物と、相見あいまえる事に成るかもと、云う事ですわね……」
「済まんが、そういう事だ。あれだけの被害を出した化け物を相手に、無傷で圧倒した力を、もう一度貸して貰いたい」
泰治やすはる叔父様が、頭を下げてらっしゃるわ。

「まー!さっきから聞いてると、何やら小町ちゃんに、危ない事をさせようとしている様に、聞こえますけれど!泰治やすはるちゃんどうなの!」
「静さん、どうか落ち着いて。小町ちゃんにもしもの事が無い様に、万全の対策を整えますので。いざと成れば私の身に変えて」
「まー!小町ちゃんを守る為に、泰治やすはるちゃんの身に何か有ったら、今度は私が千鶴叔母様に合わせる顔が亡くなりますわ!」

ダメだ……また話が変な方向に……。
「お母様、心配いりませんわ♪先日、私が魔法で退治した物の怪と、同じ物の怪が出たかも、と云う話ですの。一度倒した相手ですもの、遅れを取る様な事は有りませんわ♪」
猫召喚の御札が万全で無い状態で、はたして、何処まで戦えるか……でも、何もしないで後悔するのはイヤだわ。
心配してくれる、お母様には悪いけれど……。
「そうなの?本当に大丈夫なのね?危ない事はしてはダメよ」
「ええ、大丈夫ですわ♪」


その後、朝食を皆で頂く事にしたわ。
お腹が空いてはいくさは出来ないと云うものね♪
そして、身支度を整え、二台の車に分乗して、白金三光町に在る金属加工工場へ向かう。
さっき諏訪さんが仰っていた、昨夜殺害された被害者が見つかったと云う現場よ。

私が乗る車には、曹長さん、諏訪さん、泰治やすはる叔父様が、爺は伍長さんが運転する車で移動することに。
移動中の時間を利用して、諏訪さんには確認しておくことが有るわ。
「諏訪さん、例の降霊会名簿に関しては何か進展は有りましたの?どなたかお会いしてお話しを伺ったりとか、されました?」
「それが……、あの名簿に書かれていた人名は、架空の人物みたいなのよ。上村さんから名簿を写させてもらった時は、ローマ字で書かれていたし、あまりその様な事に詳しくなかったから気付か無かったんだけど。怪談や幻想小説とかの登場人物らしいの」
「怪談?幻想小説?」
幻想小説て、所謂いわゆるファンタジー小説のこと?

「ええ、例えば名簿には、田宮伊右衛門て名前が有ったんだけど、これは四谷怪談の登場人物なのよ。お岩さんに呪われちゃった旦那さん。あと他にも牡丹灯籠の登場人物とか、海外のだと、神曲て知ってるかしら。地獄めぐりするお話しなんだけど、その主人公のダンテも名簿にはあったわ。まあ、このダンテさんは架空じゃなく実在の人物なんだけど、六百年ぐらい前に亡くなった方よ。でも……なんで架空の人物の名前の名簿なのか、さっぱりだわ」
うーーん、でも、降霊会名簿と有った以上、架空じゃなく実在の人物の名簿のハズ……そもそも、降霊会などと云う物に興味を持つ人物て云うのは……ある種の厨二病と云う事だわ。
「例えばですけれど、好きな怪談や小説の登場人物の名前を、降霊会で名乗っていたとかかしら」
「確かに、それは有りそうね」

一応、昨日お母様から聞いた玉藻たまも堂の玉山さんと、土手瓦どてがわらさんの話をしておこうかしら。
お母様に頼んで、今日の三時に玉山さんとはアポを取っている事も。
もし、玉山さんがこの名簿の一人だとすれば、他の人物に付いても分かるはずだわ。

一通り話すと、助手席に座っていた諏訪さんが驚いて振り返る。
「小町ちゃん、いま言った名前、もう一度いいかしら?」
「え?玉藻堂の玉山万作たまやまばんさくさんですわ」
「いえ、そっちじゃ無く」
「では、土手瓦どてがわら商会の土手瓦八十吉どてがわらやそきちさんの方ですの?」
「ええ、その方よ!今日、発見された御遺体の中に、土手瓦どてがわら商会の番頭さんが居たの。それも商会の店舗の倉庫の奥で御遺体が見つかったわ」

行方不明だった二人のうち、番頭さんの方が御遺体で見つかった……じゃあ、社長さんの方は……?
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