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<大正:英国大使館の悪魔事件 前編>
前大使の蔵書
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「ところで、前大使の降霊会名簿とありましたけれど、前大使はそういうご趣味の方ですの?」
「ええ、私と公使が赴任してすぐに亡くなられたので、あまり親しくは有りませんでしたが、生粋の神秘主義者だと仰っていました。私の祖父が、そういう事の研究者だと話すと、随分と纏わり付かれて大変でしたからね。降霊会と言うのは存じ上げませんが、悪い人では有りませんでしたよ」
そういえば、此処の書棚の本を見ると、魔導書の写本らしき物や、神秘学の専門書などが数多く並んでいるわ。
魔術が存在する大正の世界だから、まあ許容範囲ですけれど、もし現代の世界なら、かなり逝っちゃってる蔵書ですわね。
「もしかして、この蔵書の数々は前大使のものですの?」
「ええ、そもそもこの書庫自体、前大使が趣味で集めた蔵書を、所蔵する為に作ったと伺っています。もっとも、表向きはもう少しまともな理由を付けたとは、思いますが……。それで、前大使のご家族は帰国する際、処分に困って全て大使館に寄付していった物なんですよ」
「実は私が、この書庫の管理を任されていましてね。研究者の祖父から多少教わった知識は有るのですが、これらの蔵書の価値までは分からず困っているのですよ。もしご迷惑で無ければ、この中から特に価値の有るものだけでも、御指摘頂けると助かるのですが……」
そう言いながら、私を見つめる目は困ってるというより、挑発してる目だわ。
成るほど……つくづく面倒くさい男ね。
私を試そうと言うのね。
いいわ、受けて立ちますわ!
「私は古物商では有りませんから、金銭的な価値は分かりませんわ。ですから、あくまで魔導士にとって価値の有るもの、と言う事で構わないかしら?」
「ええ、是非お願いします」
本棚を見て歩く。
それにしても……レメゲトン、アルス・ノトリア、ソロモンの鍵、等々魔導書の写本はたくさん有るのだけれど、どれも魔力の籠っていない所謂価値の無い物ばかり。
ここまで来ると見事よね。
恐らくは、わざとこう云う書物ばかりを集めたのね。
力の無い者が、無暗に本物の魔導書を手にする事の危険性を知っていたのだわ。
たぶんストーカーさんが仰った様に、善良な方だったのでしょう。
趣味人だったのは確かでしょうけれど……。
あら?
この中で唯一冊、魔力の宿った本が有るわ。
それも、ただの魔力じゃないわ。
普通の魔力は紫色に見えるものだけど、この本の魔力はオレンジ色に見える。
この様な物は、お爺様の遺品にも数点しか無いわ。
「とても、珍しい物が有りますわ。この本ですけれど、中を拝見しても宜しいかしら?」
手に取った本の表紙をストーカーさんに見せると、一瞬だけ驚いた表情にを見せ、ポーカーフェイスに戻った。
もしかすると、ストーカーさんもこの本が特別なものだと知っているのかしら?
「どうぞ、構いませんよ」
中を見ると、書かれている内容自体は、大した事が書かれているわけでは無いわね。
でも……この本がとても特殊な物と言う事は分かったわ。
「何かお分かりに成りましたかな?」
「ええ、とても興味深い物ですわ。でも、これだけの蔵書が有って魔力の宿った本はこれ一冊、恐らく前大使は敢えて魔力の宿っていない、安全な本だけを集めていた様に思えるのですけれど……。どうしてこの一冊だけ、それもこれ程の魔力を宿したものが有るのでしょう?不思議ですわ」
何か納得したような笑みを浮かべながら、ストーカーさんが謝罪してきた。
「試す様な真似をして申し訳なかった、ミス蘆屋」
「小町で宜しくてよ」
「では、謝罪します、小町」
「そう、貴女の仰る通り、前大使の蔵書に価値の有るものは一つも有りません」
「実のところ、前大使が亡くなって直ぐに、貴女のお爺様に鑑定して頂いていましたからね」
お爺様が既に鑑定したものを私に鑑定させるなんて、ホント食えない男だわ。
「では、此方の本はどういう事ですの?」
「お爺様が見落としたとは思えませんけれど」
「その本は祖父の遺品でしてね、私の私物なんですよ」
「そういえば、先ほど研究者だとか仰ってましたけど」
「ええ、神秘学の研究の傍ら、文筆活動もしていたみたいなのですが。その本は、祖父が北米のとあるネイティブアメリカンの集落で手に入れたと聞いています」
ネイティブアメリカンの集落?おかしいわね。
「それは、おかしいですわね」
本に書かれている文字は、その殆どが一本の横線と数本の縦線で構成されている。
「この本は、その昔アイルランドで使われていたオガム文字で書かれていますわ」
「そうなのですか?実は、私も祖父もその文字が読めなくて、内容は知らないのですよ、タイトルすらね。ですが、その本を祖父に譲った人物は、スイス人の錬金術師だと聞いています。何か訳け合って大陸に渡り、そこでネイティブアメリカンの女性と結婚して、集落の長に成ったとか」
「もし、小町がその文字を読めるのなら、どの様な事が書かれているのかお話し願えませんか?」
今度は試すというより、好奇心の様ね。
「ええ、宜しくてよ。表紙に書かれているタイトルは、古いアイルランドの言葉で『トゥーアサ・ジェー・ザナン』と描かれていますの。現代の言葉では『ダーナ神族』と呼ばれていますわ、聞いたことお有りかしら?」
「ええ、私と公使が赴任してすぐに亡くなられたので、あまり親しくは有りませんでしたが、生粋の神秘主義者だと仰っていました。私の祖父が、そういう事の研究者だと話すと、随分と纏わり付かれて大変でしたからね。降霊会と言うのは存じ上げませんが、悪い人では有りませんでしたよ」
そういえば、此処の書棚の本を見ると、魔導書の写本らしき物や、神秘学の専門書などが数多く並んでいるわ。
魔術が存在する大正の世界だから、まあ許容範囲ですけれど、もし現代の世界なら、かなり逝っちゃってる蔵書ですわね。
「もしかして、この蔵書の数々は前大使のものですの?」
「ええ、そもそもこの書庫自体、前大使が趣味で集めた蔵書を、所蔵する為に作ったと伺っています。もっとも、表向きはもう少しまともな理由を付けたとは、思いますが……。それで、前大使のご家族は帰国する際、処分に困って全て大使館に寄付していった物なんですよ」
「実は私が、この書庫の管理を任されていましてね。研究者の祖父から多少教わった知識は有るのですが、これらの蔵書の価値までは分からず困っているのですよ。もしご迷惑で無ければ、この中から特に価値の有るものだけでも、御指摘頂けると助かるのですが……」
そう言いながら、私を見つめる目は困ってるというより、挑発してる目だわ。
成るほど……つくづく面倒くさい男ね。
私を試そうと言うのね。
いいわ、受けて立ちますわ!
「私は古物商では有りませんから、金銭的な価値は分かりませんわ。ですから、あくまで魔導士にとって価値の有るもの、と言う事で構わないかしら?」
「ええ、是非お願いします」
本棚を見て歩く。
それにしても……レメゲトン、アルス・ノトリア、ソロモンの鍵、等々魔導書の写本はたくさん有るのだけれど、どれも魔力の籠っていない所謂価値の無い物ばかり。
ここまで来ると見事よね。
恐らくは、わざとこう云う書物ばかりを集めたのね。
力の無い者が、無暗に本物の魔導書を手にする事の危険性を知っていたのだわ。
たぶんストーカーさんが仰った様に、善良な方だったのでしょう。
趣味人だったのは確かでしょうけれど……。
あら?
この中で唯一冊、魔力の宿った本が有るわ。
それも、ただの魔力じゃないわ。
普通の魔力は紫色に見えるものだけど、この本の魔力はオレンジ色に見える。
この様な物は、お爺様の遺品にも数点しか無いわ。
「とても、珍しい物が有りますわ。この本ですけれど、中を拝見しても宜しいかしら?」
手に取った本の表紙をストーカーさんに見せると、一瞬だけ驚いた表情にを見せ、ポーカーフェイスに戻った。
もしかすると、ストーカーさんもこの本が特別なものだと知っているのかしら?
「どうぞ、構いませんよ」
中を見ると、書かれている内容自体は、大した事が書かれているわけでは無いわね。
でも……この本がとても特殊な物と言う事は分かったわ。
「何かお分かりに成りましたかな?」
「ええ、とても興味深い物ですわ。でも、これだけの蔵書が有って魔力の宿った本はこれ一冊、恐らく前大使は敢えて魔力の宿っていない、安全な本だけを集めていた様に思えるのですけれど……。どうしてこの一冊だけ、それもこれ程の魔力を宿したものが有るのでしょう?不思議ですわ」
何か納得したような笑みを浮かべながら、ストーカーさんが謝罪してきた。
「試す様な真似をして申し訳なかった、ミス蘆屋」
「小町で宜しくてよ」
「では、謝罪します、小町」
「そう、貴女の仰る通り、前大使の蔵書に価値の有るものは一つも有りません」
「実のところ、前大使が亡くなって直ぐに、貴女のお爺様に鑑定して頂いていましたからね」
お爺様が既に鑑定したものを私に鑑定させるなんて、ホント食えない男だわ。
「では、此方の本はどういう事ですの?」
「お爺様が見落としたとは思えませんけれど」
「その本は祖父の遺品でしてね、私の私物なんですよ」
「そういえば、先ほど研究者だとか仰ってましたけど」
「ええ、神秘学の研究の傍ら、文筆活動もしていたみたいなのですが。その本は、祖父が北米のとあるネイティブアメリカンの集落で手に入れたと聞いています」
ネイティブアメリカンの集落?おかしいわね。
「それは、おかしいですわね」
本に書かれている文字は、その殆どが一本の横線と数本の縦線で構成されている。
「この本は、その昔アイルランドで使われていたオガム文字で書かれていますわ」
「そうなのですか?実は、私も祖父もその文字が読めなくて、内容は知らないのですよ、タイトルすらね。ですが、その本を祖父に譲った人物は、スイス人の錬金術師だと聞いています。何か訳け合って大陸に渡り、そこでネイティブアメリカンの女性と結婚して、集落の長に成ったとか」
「もし、小町がその文字を読めるのなら、どの様な事が書かれているのかお話し願えませんか?」
今度は試すというより、好奇心の様ね。
「ええ、宜しくてよ。表紙に書かれているタイトルは、古いアイルランドの言葉で『トゥーアサ・ジェー・ザナン』と描かれていますの。現代の言葉では『ダーナ神族』と呼ばれていますわ、聞いたことお有りかしら?」
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