上 下
35 / 182
<ガンスリンガー>

自重の必要は無かろう

しおりを挟む
部屋に入ると、小なベッドが二つ、それと二人掛けのソファ、ただそれだけの粗末な部屋だ。
夕日も沈みかけ、部屋の中は暗い。

ソファの横にあるサイドテーブルにランプが一つある。
当然、灯油などで灯す物では無い。
燃料は魔力結晶。
バーテンからは、使うならば手持ちの魔力結晶を使う様に言われている。

この世界においては、有り触れた物らしいが、ワシに取って初めて見る魔道具だ。
興味が湧かない訳がない。
一応使い方は、さっきジムに聞いておいた。
小さな米粒大の魔力結晶を、ランプの根元に有る小さな引き出しに入れ、ランプに描かれた魔法陣に一度触れる。

仄かな明かりが灯る。
「思いの外暗いな」
これが、普通なのか、単にこのランプの質が悪いのかわからん……。

バラして原理を調べたい処では有るが、まあ、今日の処は自重しておこう。

取り合えず、窓際のベッドに横に成り、少し仮眠をとる事にする。
もし、何か事が起こるとすれば、夜も更けてからだろうからな。


小一時間程して目を覚ます。
まあ熟睡したわけでは無いが、この世界に生まれて、初めてのベッドだ。
疲れは取れた気がする。

一応、他の乗客には出来るだけ外に出ない様には言って有る。
何しろ乗客は女性が多いからな、何かとトラブルに成らないとは限らん。

だが、一応見回りしておく方が良いだろう。
隣のベッドに放り投げた軍帽を冠り、部屋を出る。

二階は、まあ、静かな物だな。
そして、そのまま階段を降りる。

バーの中は先ほどより、少し客が増えてはいるが、流行っているとは到底言えんな。

うん?
あれは……。

バーの入り口の横にあるテーブルを囲んで、四人の男がカードゲームをしておるようだが、その内の一人、見知った顔がある。
「ジム、何をしておるのだ」
「うん?ああ、旦那か。何って見ての通りポーカーさ。ちょっと様子を見に下に降りたら誘われてね」

成るほど、探りを入れるには、そう言う手も有りだな……うん?
それとも、この男、ただギャンブルしたいだけでは無かろうな……。

「で、戦果は?」
ワシの問いに、ジムはテンガロンハットのつばを人差し指でチョンと下げ、目線を隠す。
成るほど、芳しく無さそうだな。

ん!?
何となく、カードを配っている男に目をやると、ジムには手に持った山札の一番下のカードを配っておる。
中々器用に、気付かれん様にしている様だが、ワシの目は誤魔化せん。
で、ジムが手にしたカードは……てんでバラバラだな。
成るほど、イカサマでジムをハメておると言うことか。

その事にジムは気付いて……ハァ~、おらん様だな。
脂汗あぶらあせをかいておる。

当然、このゲームもジムの負けで終わる。

「ジム、ワシが代わろう。このままだと、お前さん、身ぐるみを剥がされるぞ」
「はぁ~、確かに……今日はついてねえ」

ジムに代わって席に着く。
イカサマでカモろうとする輩だ、自重の必要は無かろう。
ワシも、イカサマさせて貰う。

テーブルの下でザミエルの魔法陣を描き、結んだ刀印の指先を胸に押し当てる。
さあ、ゲームを始めようか♪
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...