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第三章:歪みの森に梟は哭く
21.梟の梢
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背中の痛みをフィリアに悟られないよう注意しつつ、ひたすら馬に乗って南下し続けると、完全に日が暮れたあたりでやっと森の切れ目にたどり着いた。
まだまだ先の方だけど、たぶんシストの外郭と思われる灯りを見たとき、どれだけホッとしたか。
本当なら途中で野営し、二日かけて歩く予定だったところを無理やり走破したのだから、馬はもう本当に疲れ果ててしまっている。
「ありがと……ごめんね」
急いで馬から降り、馬の首を撫でてその労を労う。
アウスが言っていた通り、森の中はものすごい勢いで暗くなっていったから、いつまた獣に襲われないか生きた心地もしなかった。
落ちていた木の枝に火の魔法で灯した即席の松明だけを頼りに、それでも嫌がらず前に進んでくれたこの馬には感謝しかない。
荷物を全て失った今は餌の一つもあげられないから、せめて早く休ませないと。
そう心が急いても、やっぱり後ろを振り返りたくなる。
当たり前だけど、そうしたところで後ろから陽気な声が聞こえてくることなんて……。
「イナ様。心中お察し致しますが……」
「ええ、分かってる」
控えめに進言してくれたフィリアに頷き、頭を切り替えるために軽く頬を叩いて、辺りを見回す。
あの狩人の大ざっぱすぎる言葉を信じるなら、このあたりのどこかには彼の住処があるはずだった。
……そう、あるはず、なんだけど……?
「…………見当たりませんわね」
困ったように眼鏡の奥で目を細めるフィリアの言う通り、ぱっと見た限りはそれらしいものが見当たらない。
いくら暗くて見辛いにしたって、家ぐらいの大きさがあるなら、月と星の明かりでも見つかるはず。
なのに、道沿いに『南、シスト』と書かれた標識が立っているのを除けば、人の手によるものは……無いわよね、どう見ても……?
「まさか、騙されたのでしょうか」
「そんな――……いえ、そうかも知れないけど、うーん」
そんなこと、あの人がするかしら?
私たちを追い払うための方便にしても、家で待っていろなんて言い方は変だし……大体、彼ならもっとストレートに「いいから失せろ」ぐらいは平気で言いそうな気がする。
どうにも釈然としないまま、二人でひたすらキョロキョロしていると。
「娘さんがた、何かお困りかね」
「え?」
どこから出てきたのか、ランプを持ったお爺さんが声をかけてきた。
牧夫なのかしら、おとなしい犬を連れていて、腰の曲がった柔和そうな姿――ねえ、この見た目で裏がある人だったらもうこの先誰一人信じられなくなるから、そういうのは本当に勘弁してよ?
「この道を来なすったのか。狼が出るで、皆恐れて通らんのじゃが……無事でなによりじゃの」
「え、ええ、あはは……」
……良かった、さすがに杞憂だったわね。
いくらこの気さくそうな方が相手でも、「これ以上無いぐらいバッチリ襲われました」とは言えなくて、できる限りの愛想笑いでごまかす。
ま、まあ、とにかく。
このご老人、口ぶりからしてきっとこの辺の土地に詳しいんだわ。
「あの、このあたりに狩人さんのお家はありませんか?」
同じことを考えたらしく、フィリアが核心をつく質問を投げかける。
でも、返ってきたのは思った以上に怪訝そうな表情だった。
「んん? 巡礼者が梟になんの用がおありかね」
「梟……?」
「あだ名じゃよ。あれは夜の梟と呼ばれている変わり者でな」
……この“変わり者”という評価がプラスかマイナスかは、かなり判断の難しいところね……。
あの愛想の無さはとにかく、まるっきりの悪人には見えなかったし、あくまで『地域に馴染めない人』という意味なのかしら?
あまりにもヤバい人なんだとしたら、家に入るのも危険そうだけど……。
私の葛藤をよそに、お爺さんはかるく左足を引きずりながら私たちの横に立つと、手にした鈎のような棒を持ち上げた。
「やつの家なら、ほれ、あそこじゃよ」
「あそこ? って――ええ?!」
その棒の不自然な角度、つまり、目より上に掲げられた先が示すところを追って、そのまま思わず絶句する。
なるほど、私たちがいくらそのへんを見回したって、絶対に見つからないはずよ。
だって――……
「……な、なんで、木の上に家が建ってるわけ!?」
ちょっとした小屋というか、遊び場みたいなものなら木の上に据え付けてあるのを見たことがあるけど……まさか、ちゃんと住めるぐらいの大きさがある家が樹上にあるなんて。
ああ、でもそうか。
あそこに住んでるっていうなら、“梟”ってあだ名がつくのも当然だわ……。
「な、変わり者じゃろ」
「ええ、そうみたい――ですね」
「夜に出かけることが多いで、街のもんは警戒しとるが……決して嫌な男ではないぞ。こんな老いぼれに手を貸してくれることも多いしの」
お年寄りのお墨付きがあると、なんかそれだけでかなりの安心感が生まれるわね。
とにかく、グズグズしてたら真夜中になってしまう。
お爺さんに丁寧にお礼を述べたあと、まだ半信半疑な私たちは馬を引き、探していた狩人の家?へと向かった。
「……いや、本当に家だわ、これ」
あたりに数多ある木々の中でも一際立派な樫の梢。
その特に太い枝を選び、幾重にも渡した足場板を基礎として建てられているらしい家は、見上げると黒黒としてちょっと不気味な感じがする。
夜だし、こんな場所にあるし、私たちだけだったら確実に見落としていたでしょうね……。
こういう事はちゃんと言っておいてよ、狩人さん!
「イナ様、縄梯子がありますわ」
「水桶もあったわ、朽ちかけだけど。馬は近くの木に繋いでおきましょ」
幸いにして沢も近くにあって、そこから汲んできた水を差し出すと、馬はがぶがぶ飲んだあとすぐに下草を食み始める。
大丈夫かなって一瞬不安に思ったものの、この状況じゃ毒草が混じってないことを祈るしか無いわね……。
とかく、あの男が戻ってくるまで、私たちに出来ることはほぼ何も無い。
「じゃあ、とりあえず……上がってみましょうか」
蔓草で編まれた梯子に体重を預けるのはちょっと怖かったけど、彼が日々上り下りしてるなら、私の体重ぐらい別になんともないはずよね?
実際、この梯子はぎしぎし言うけど、切れたりする様子はまったく見せず、私は無事かなりの高さにある家の土台部までたどり着いた。
「よし、大丈夫ね……フィリア、いらっしゃい!」
高いところが苦手なフィリアが安心できるよう、登り切ったところで下へと声を掛ける。
……そういえば子供の頃、彼女を無理やり木登りに付き合わせた挙げ句、二人して降りられなくなったことがあったっけ。
ああ、あの日のことは忘れもしないわ――救出されたあと、お母様から死ぬかと思うほど怒られたからが理由の九割だけど。
「の、登れました、イナ様」
「はい、お疲れ様。……にしてもすごいわね。思った以上に広いわ」
腰が引けているフィリアの手を引き、入口のドアをくぐったところで、ぐるりと室内を見回す。
外から見たときは、樫の木の枝々に引っ掛けてあるのかと思った。
でも、実際は家の中心を太い幹が貫いているのね。
これなら急に崩壊したり、風で飛ばされたりってこともなさそうだわ。
「冬は寒そうだけど、その分、夏は風が通って気持ちよさそうじゃない?」
「ええ――でも、本当にここに住んでおられるのでしょうか? あまりに物が無いような……」
フィリアが不思議そうに言った通り、この家の中にあるものといえば猟の道具と刃物がいくつか、それに簡素な寝具と、中央にある火が灯りっぱなしのランプぐらい。
「良いのかしら、つけっぱなしで――あら?」
周囲が全部木材だし、火事が心配になってランプへ近づいたところで気付く。
「どうなさいましたか、イナ様」
「見て、フィリア。これ、魔法で灯してあるわ」
<冷たい火>。
熱を持たない光を発生させるこの魔法を扱えるようになるには、それなりの練習が必要だったはず。
別に魔法は王侯貴族だけが使えるものじゃないけど、庶民だと魔法の修練にそこまで時間とお金を使えない――使わないのが普通だ。
と、なると……狩人の出自は?
こんなところに住んでいることといい、本当に何者なのかしら。
「…………。それにしても、やっぱり殺風景よね」
何かを仕舞っておく棚や箱なんかは全く無くて、本当に必要最低限のものだけを置いている、という感じ。
これでどうやって日々を暮らしてるのかと訝しんでしまうくらい、この小屋には生活感が希薄なんだけど……逆に言えば、あの無愛想な狩人のイメージにはぴったり合致してる。
「単純にこういうのが好みなのかしら。同じ木の建屋でも色々あるじゃない、ほら、アウスの里の家は綺麗な装飾で――あっ」
「…………」
……やっちゃった。
森を抜けた安心感と、この奇抜な家の出現でせっかく気が紛れてたのに、どうして私はこうも迂闊なの?
「と……とりあえず夕食にしましょうよ。いくらかだけでも食料を手持ちにしておいて良かったわ」
「そう、ですわね」
慌てて話題を反らし、腰に括っていた袋の中から干した果物と麦を固めたお菓子を取り出す。
それを二人で分け合い、揃って口をつけたものの、ああ、やっぱり気不味い!
フィリアと差し向かいでする食事は、この旅の数少ない楽しみだったのに……今は干菓子のパサパサ具合とは関係なく、むやみに口の中が渇いて仕方なかった。
砂を無理やり飲み下しているような気分のまま、質素な食事を終えたあと。
フィリアは壁にもたれ、シストの街の方角をぼんやり眺めながら、か細い声でこう呟いた。
「どうしましょうか、これから……」
まだまだ先の方だけど、たぶんシストの外郭と思われる灯りを見たとき、どれだけホッとしたか。
本当なら途中で野営し、二日かけて歩く予定だったところを無理やり走破したのだから、馬はもう本当に疲れ果ててしまっている。
「ありがと……ごめんね」
急いで馬から降り、馬の首を撫でてその労を労う。
アウスが言っていた通り、森の中はものすごい勢いで暗くなっていったから、いつまた獣に襲われないか生きた心地もしなかった。
落ちていた木の枝に火の魔法で灯した即席の松明だけを頼りに、それでも嫌がらず前に進んでくれたこの馬には感謝しかない。
荷物を全て失った今は餌の一つもあげられないから、せめて早く休ませないと。
そう心が急いても、やっぱり後ろを振り返りたくなる。
当たり前だけど、そうしたところで後ろから陽気な声が聞こえてくることなんて……。
「イナ様。心中お察し致しますが……」
「ええ、分かってる」
控えめに進言してくれたフィリアに頷き、頭を切り替えるために軽く頬を叩いて、辺りを見回す。
あの狩人の大ざっぱすぎる言葉を信じるなら、このあたりのどこかには彼の住処があるはずだった。
……そう、あるはず、なんだけど……?
「…………見当たりませんわね」
困ったように眼鏡の奥で目を細めるフィリアの言う通り、ぱっと見た限りはそれらしいものが見当たらない。
いくら暗くて見辛いにしたって、家ぐらいの大きさがあるなら、月と星の明かりでも見つかるはず。
なのに、道沿いに『南、シスト』と書かれた標識が立っているのを除けば、人の手によるものは……無いわよね、どう見ても……?
「まさか、騙されたのでしょうか」
「そんな――……いえ、そうかも知れないけど、うーん」
そんなこと、あの人がするかしら?
私たちを追い払うための方便にしても、家で待っていろなんて言い方は変だし……大体、彼ならもっとストレートに「いいから失せろ」ぐらいは平気で言いそうな気がする。
どうにも釈然としないまま、二人でひたすらキョロキョロしていると。
「娘さんがた、何かお困りかね」
「え?」
どこから出てきたのか、ランプを持ったお爺さんが声をかけてきた。
牧夫なのかしら、おとなしい犬を連れていて、腰の曲がった柔和そうな姿――ねえ、この見た目で裏がある人だったらもうこの先誰一人信じられなくなるから、そういうのは本当に勘弁してよ?
「この道を来なすったのか。狼が出るで、皆恐れて通らんのじゃが……無事でなによりじゃの」
「え、ええ、あはは……」
……良かった、さすがに杞憂だったわね。
いくらこの気さくそうな方が相手でも、「これ以上無いぐらいバッチリ襲われました」とは言えなくて、できる限りの愛想笑いでごまかす。
ま、まあ、とにかく。
このご老人、口ぶりからしてきっとこの辺の土地に詳しいんだわ。
「あの、このあたりに狩人さんのお家はありませんか?」
同じことを考えたらしく、フィリアが核心をつく質問を投げかける。
でも、返ってきたのは思った以上に怪訝そうな表情だった。
「んん? 巡礼者が梟になんの用がおありかね」
「梟……?」
「あだ名じゃよ。あれは夜の梟と呼ばれている変わり者でな」
……この“変わり者”という評価がプラスかマイナスかは、かなり判断の難しいところね……。
あの愛想の無さはとにかく、まるっきりの悪人には見えなかったし、あくまで『地域に馴染めない人』という意味なのかしら?
あまりにもヤバい人なんだとしたら、家に入るのも危険そうだけど……。
私の葛藤をよそに、お爺さんはかるく左足を引きずりながら私たちの横に立つと、手にした鈎のような棒を持ち上げた。
「やつの家なら、ほれ、あそこじゃよ」
「あそこ? って――ええ?!」
その棒の不自然な角度、つまり、目より上に掲げられた先が示すところを追って、そのまま思わず絶句する。
なるほど、私たちがいくらそのへんを見回したって、絶対に見つからないはずよ。
だって――……
「……な、なんで、木の上に家が建ってるわけ!?」
ちょっとした小屋というか、遊び場みたいなものなら木の上に据え付けてあるのを見たことがあるけど……まさか、ちゃんと住めるぐらいの大きさがある家が樹上にあるなんて。
ああ、でもそうか。
あそこに住んでるっていうなら、“梟”ってあだ名がつくのも当然だわ……。
「な、変わり者じゃろ」
「ええ、そうみたい――ですね」
「夜に出かけることが多いで、街のもんは警戒しとるが……決して嫌な男ではないぞ。こんな老いぼれに手を貸してくれることも多いしの」
お年寄りのお墨付きがあると、なんかそれだけでかなりの安心感が生まれるわね。
とにかく、グズグズしてたら真夜中になってしまう。
お爺さんに丁寧にお礼を述べたあと、まだ半信半疑な私たちは馬を引き、探していた狩人の家?へと向かった。
「……いや、本当に家だわ、これ」
あたりに数多ある木々の中でも一際立派な樫の梢。
その特に太い枝を選び、幾重にも渡した足場板を基礎として建てられているらしい家は、見上げると黒黒としてちょっと不気味な感じがする。
夜だし、こんな場所にあるし、私たちだけだったら確実に見落としていたでしょうね……。
こういう事はちゃんと言っておいてよ、狩人さん!
「イナ様、縄梯子がありますわ」
「水桶もあったわ、朽ちかけだけど。馬は近くの木に繋いでおきましょ」
幸いにして沢も近くにあって、そこから汲んできた水を差し出すと、馬はがぶがぶ飲んだあとすぐに下草を食み始める。
大丈夫かなって一瞬不安に思ったものの、この状況じゃ毒草が混じってないことを祈るしか無いわね……。
とかく、あの男が戻ってくるまで、私たちに出来ることはほぼ何も無い。
「じゃあ、とりあえず……上がってみましょうか」
蔓草で編まれた梯子に体重を預けるのはちょっと怖かったけど、彼が日々上り下りしてるなら、私の体重ぐらい別になんともないはずよね?
実際、この梯子はぎしぎし言うけど、切れたりする様子はまったく見せず、私は無事かなりの高さにある家の土台部までたどり着いた。
「よし、大丈夫ね……フィリア、いらっしゃい!」
高いところが苦手なフィリアが安心できるよう、登り切ったところで下へと声を掛ける。
……そういえば子供の頃、彼女を無理やり木登りに付き合わせた挙げ句、二人して降りられなくなったことがあったっけ。
ああ、あの日のことは忘れもしないわ――救出されたあと、お母様から死ぬかと思うほど怒られたからが理由の九割だけど。
「の、登れました、イナ様」
「はい、お疲れ様。……にしてもすごいわね。思った以上に広いわ」
腰が引けているフィリアの手を引き、入口のドアをくぐったところで、ぐるりと室内を見回す。
外から見たときは、樫の木の枝々に引っ掛けてあるのかと思った。
でも、実際は家の中心を太い幹が貫いているのね。
これなら急に崩壊したり、風で飛ばされたりってこともなさそうだわ。
「冬は寒そうだけど、その分、夏は風が通って気持ちよさそうじゃない?」
「ええ――でも、本当にここに住んでおられるのでしょうか? あまりに物が無いような……」
フィリアが不思議そうに言った通り、この家の中にあるものといえば猟の道具と刃物がいくつか、それに簡素な寝具と、中央にある火が灯りっぱなしのランプぐらい。
「良いのかしら、つけっぱなしで――あら?」
周囲が全部木材だし、火事が心配になってランプへ近づいたところで気付く。
「どうなさいましたか、イナ様」
「見て、フィリア。これ、魔法で灯してあるわ」
<冷たい火>。
熱を持たない光を発生させるこの魔法を扱えるようになるには、それなりの練習が必要だったはず。
別に魔法は王侯貴族だけが使えるものじゃないけど、庶民だと魔法の修練にそこまで時間とお金を使えない――使わないのが普通だ。
と、なると……狩人の出自は?
こんなところに住んでいることといい、本当に何者なのかしら。
「…………。それにしても、やっぱり殺風景よね」
何かを仕舞っておく棚や箱なんかは全く無くて、本当に必要最低限のものだけを置いている、という感じ。
これでどうやって日々を暮らしてるのかと訝しんでしまうくらい、この小屋には生活感が希薄なんだけど……逆に言えば、あの無愛想な狩人のイメージにはぴったり合致してる。
「単純にこういうのが好みなのかしら。同じ木の建屋でも色々あるじゃない、ほら、アウスの里の家は綺麗な装飾で――あっ」
「…………」
……やっちゃった。
森を抜けた安心感と、この奇抜な家の出現でせっかく気が紛れてたのに、どうして私はこうも迂闊なの?
「と……とりあえず夕食にしましょうよ。いくらかだけでも食料を手持ちにしておいて良かったわ」
「そう、ですわね」
慌てて話題を反らし、腰に括っていた袋の中から干した果物と麦を固めたお菓子を取り出す。
それを二人で分け合い、揃って口をつけたものの、ああ、やっぱり気不味い!
フィリアと差し向かいでする食事は、この旅の数少ない楽しみだったのに……今は干菓子のパサパサ具合とは関係なく、むやみに口の中が渇いて仕方なかった。
砂を無理やり飲み下しているような気分のまま、質素な食事を終えたあと。
フィリアは壁にもたれ、シストの街の方角をぼんやり眺めながら、か細い声でこう呟いた。
「どうしましょうか、これから……」
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