皇太子の溺愛

にゃこにゃこ

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「おはよう、俺の可愛いシェリー」
 私の名前はシェリア。皇太子殿下の奴隷。そう、奴隷なんです。
「えっ、え? あの殿下・・・・・・」
 ソルヴァイス帝国の若い女性を中心に憧れの的である、グラシアン。通称はシアン。青い瞳に栗色の髪、整いすぎくらいのイケメン。いつもの愛称を呼び、微笑んでいる。
 私は確かに昨日、自分の部屋で寝ていたはず。でも隣には、なぜかシアンがいる。いや、この天蓋付きベッドは、シアンのものだ。なんで私がシアンの部屋にいるの?
 ベッドに腰掛けたまま、優雅に私の髪を撫でている。
 混乱しすぎて、約束を忘れてここに来たばかりの呼び方をしてしまった。
「シェリー、約束したろう?」
 約束、そうなんです。私は極力避けたいのだけれど、シアンは許してくれない。
「・・・・・・おはよう、シアン」
 シアンの前では敬語と殿下は禁止。あとシアン様も。
 勘違いされやすいのだけれど、私はメイドでも侍女でもなくて、奴隷なんです。これ本当に重要。奴隷らしくないけれど。
 6歳の頃に母は濡れ衣を着せられて処刑され、私は故郷の国の奴隷として働かされていた。でも、12歳の頃に金になるだろうって理由で奴隷オークションに出される寸前に買い取ってくれたのがシアン。だから、私にとっては恩人・・・・・・になるのかな。
 それからもう時が経つのは早くて、私は19歳になっていた。
 皇帝陛下も、なぜか私を娘のように扱うし。初めて来た時は、この国はどうなってるのかといつも疑問だった。
 でも、そんな汚らしい底辺身分の人間を傍に置くな、とも言われていたから、全員に歓迎されているわけではないみたい。普通はそんなんだけど、ちょっと周りの対応が予想外だったから、感覚が麻痺してるのかも。
「よし、いい子だ」
 満足したらしいシアンが、ようやく私の髪から手を離した。
 私は上半身を起こして、シアンに向き合った。
「あの、なんで私ここにいるの?」
「何故って、俺が運んだからだろう?」
 ポカンとした顔で、しかも平然とした態度だ。
「いや、その理由は?」
「昨日は熱を出してたから、何かあった時のために」
 確かに熱は出したけども。でもそんなに高かった訳じゃないし、ちょっと具合悪いなーってくらいだった。
ねぇそれ、口実だよね? なんで一言も言わなかったの!?
「起こしたら可哀想だと思ったから、黙って連れてきた」
「黙って連れてくる方が可哀想じゃない!?」
 起きた時の反応考えてよ。
 こんなことが許されていいのか。これが権力の乱用だ!
「可愛いシェリーの寝顔が見れてよかった」
 ようやく解放されたと思って、ベッドから降りようとすると後ろから抱きしめられて、また拘束されてしまった。
「まだシェリーには仕事が残ってるだろう?」
「えっ、うーん・・・・・・?」
 なんだろう。お花の水やり? あ、シアンの部屋のお掃除もしないと。それにあの子にご飯もあげないとだし。
 私はシアンの奴隷だけど、シアンが何かと仕事は阻止してくるし、あの子のお気に入りってなってるからお世話を任されている。
「うん、たくさん仕事残ってる」
「よく分かってるじゃないか、まずは私の身の回りの世話がシェリーの仕事だ」
 あれおかしいな。私の予想しているものじゃなかった。
 昔は侍従の人がやってたのに、いつの間にか私に変わっていた。いつもの事だけれど、未だに恥ずかしくてなんとか口実をつけて逃げようとしているけれど、逃げられた経験はたったの1度も無い。
 シアンが言葉巧みに自分の身の回りの世話を任せてきて、侍従の人も諦めて私に回ってきてしまう。
「ほらシェリー、世話をしてくれないと食事の席に遅刻してしまう」
「シアンだってもう24なのに!」
 心の中で思ってたことが口に出てしまった。
 時間も押してるから、全てシアンの思惑通りになってしまう。
 奴隷として買われたはずなのに、なんでこんな扱いになってるの~!?
「その、シアン。たまには1人で準備するのも・・・・・・」
「シェリー?」
 え、笑顔が怖い!
 国民(特に女性)に大人気の皇太子が、こんな怖い顔したらダメだよ。そんな威圧感のある笑顔は、女性の夢が壊れるからね?
「それとも、シェリー」
 手首を掴まれて腰を素早く寄せ、一気に距離を詰められた。
「2人でもう一睡して、寝坊するか?」
「シアン・・・・・・!」
さすがに顔が近くて恥ずかしい。
 と思う暇もなく、さらに顔が近づいてきてそっと口付けを落とした。それだけじゃなくて、ついでと言わんばかりに舌まで入れてくる。
「んっ・・・・・・」
 皆さん、もう一度言います。私は奴隷です。そして未婚で、私たちは付き合っていない。
 シアンはこれから貴族の女性と結婚するはずなのに、こんなことしていいの!?
 確かに色んな縁談を断って皇帝陛下と王妃、その側近や宰相の頭を悩ませ、大臣や宰相からも何とかして欲しいと何度も相談された。
「・・・・・・さて、流石に時間が押してきたな」
 毎朝の恒例行事。でもやっぱり慣れない。シアンは満足そうな顔をして、着替えの準備を始めている。
 大事なことなので何度でも言いますね、いや何度でも言いますよ。
私は、です!
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