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国外遠征編
第二十二話 〘敵襲〙
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「お久しぶりです。アウスブルグ王。」
王室に入ると、楓達の1歩前で東は深く頭を下げた。
「うむ。よう来たな東よ。後ろの5人はブリンゲルの警務隊だな?」
「はい。」
王の問いに、蓮は東と同じように1歩前に出て返事をした。
「噂は聞いておる。遠征局の者は皆、強者ばかりだと。」
「滅相もない。アウスブルグの兵力も強力なものだと存じています。」
国王の前だからか、蓮は今まで見せたことが無いほど紳士的な対応をする。
「あっはっは!褒めても何も出んぞ?」
王はそう言って大口を開けて笑い始めた。
(なんか…、RPGゲームでよくある展開よね…。国王と笑いながら話をしている最中に良くない知らせが来るとか…。)
楓はふとそう思った。
(考え過ぎよね。そんなベタな展開なんて…。)
ドンドンドンドン!
楓が考えるのをやめようとしたその時、王室に扉の叩く音が響いた。
「何事だ!」
「失礼します!王…侵入者が!」
今まさに頭で考えていたことが現実になって、楓は少しドキッとした。慌てた表情で入ってきた兵士の服は所々破れ、体も傷を負っていた。
「何者だ?何人居る?」
「何者かは分かりません。しかし、たった3人に兵団のほとんどが…。」
王はその知らせに口を開けたまま唖然としている。しかし、楓達はその正体に目星がついていた。
(…吸血鬼。)
そうに違いないと楓は思った。
「国王。恐らく攻めてきたのは吸血鬼です。だとすれば、我々は一刻も早くブリンゲルに帰って街の防衛をしなくてはなりません。しかし、ここも相当戦力を削られているかと…。」
そっと話す蓮に、国王は俯いたまま耳を傾ける。
「打開策はあるのですか?」
「いいや…。この国にはもう、ほとんど戦力は残っていない。」
「そうですか。それでは…。」
顎に手を当てた蓮は楓達の方へふり返ると、それぞれを指さした。
「石峰、一条、秋月はここに残ってアウスブルグの防衛に加勢しろ。石峰は俺と一緒にブリンゲルへ戻る。いいな?」
蓮の指示に楓達は頷いた。
「でも…それでは…。」
「いいんですよ。こいつらに何かあったら俺が責任をとります。それよりも、今はこの国を守ることを考えてください。」
蓮は王へ振り向くと、優しく微笑んだ。
「よし!とりあえず、相手の姿だけ見に行く。本当に3人ならお前達に任せるが、数や力の差によっては俺達もここに残らざるおえんだろう。」
楓達は、蓮の指示を聞きながら王室を出て外へと向かった。街は既にパニック状態で、逃げ惑う人達に吸血鬼が襲いかかっていた。
「おいおい。どこが3人なんだよ。」
肩からマントを羽織った吸血鬼が、街のあちこちに居る。その数は数十ではきかないかもしれない。
「あれ?でも、この吸血鬼…弱くないですか?」
ふと和海が呟く。確かに、楓達がブリンゲルで戦ったレオンという吸血鬼は目の前の吸血鬼とは比べ物にならないほど強かった。
「だとすると、さっきの3人はレオンクラスの吸血鬼が3人って事なのかな?」
「多分ね…。」
楓の言葉に険しい表情で柚枝が答えた。
「作戦変更だ。俺達もここに…。」
「蓮さん!」
喋りだした蓮の声をかき消すように背後から男の声が聞こえてきた。
「お前は…。」
振り返った全員が目を丸くした。そこに居たのは、ブリンゲルの警務隊員だったのだ。
「なんでここに居るんだよ。」
「緊急の知らせがあって後を追いかけてきました。」
「で、どうしたの?わざわざあとを追いかけてくるほどだから、それなりに急な要件なんでしょ?」
蓮の問いに答える隊員に、今度は柚枝が問いかける。
「実は…、ブリンゲルに吸血鬼が!」
「「「「「!?!?。」」」」」
隊員の言葉に、そこにいた全員が言葉を失った。
(ま、まさか、ブリンゲルにも…。)
この辺りを代表する2大大国が同時に攻められるというこの状況に蓮も頭を抱えた。
「ここはもう終わりだ。みんなブリンゲルに帰って自国を守ってくれ。」
話を聞いていたのか、王が楓達に告げる。だが、急に顔を上げた蓮は、王の顔を真っ直ぐ見て力強く言い返した。
「作戦に変更はありません。石峰、一条、秋月をここに残します。」
「だが…。」
「ブリンゲルには、優秀な隊員がまだ残っています。本当ならこちらに5人とも残りたいのですが、向こうの様子が分からない事にはこっちに余裕を持たせていいものかも判断がつかないので、ひとまず我々2人がブリンゲルに帰り状況を確認し、こちらの状況を報告した上で余裕があればこちらに加勢します。」
蓮は力強い口調で王にそう言うと、次は楓達を見た。
「俺はお前達の力を信じている。だが、万が一という事もある。だから、これだけは言わせてくれ。俺からの頼みだ。…死ぬな。それと、危ない作戦になって申し訳ない。」
「何言ってるの!作戦なんてどれも危なくて当然よ。それに!あなた達も死なないでよ?もし、私達が帰った時に死んでたらお墓の前でお腹抱えて笑っちゃうかも。」
気負う連に柚枝はクスッと笑ってみせた。真剣に話をしている相手に冗談を言うのはどうかと思う者も居るかもしれないが、柚枝の言葉は蓮の気持ちを落ち着かせるには十分過ぎる働きをしたようだ。
「よし!各々、自分の命を最優先に指示を全うしろ!」
「「「「了解!」」」」
蓮が発した覇気のある声と同時に、楓達はその場を駆け出したのだった。
王室に入ると、楓達の1歩前で東は深く頭を下げた。
「うむ。よう来たな東よ。後ろの5人はブリンゲルの警務隊だな?」
「はい。」
王の問いに、蓮は東と同じように1歩前に出て返事をした。
「噂は聞いておる。遠征局の者は皆、強者ばかりだと。」
「滅相もない。アウスブルグの兵力も強力なものだと存じています。」
国王の前だからか、蓮は今まで見せたことが無いほど紳士的な対応をする。
「あっはっは!褒めても何も出んぞ?」
王はそう言って大口を開けて笑い始めた。
(なんか…、RPGゲームでよくある展開よね…。国王と笑いながら話をしている最中に良くない知らせが来るとか…。)
楓はふとそう思った。
(考え過ぎよね。そんなベタな展開なんて…。)
ドンドンドンドン!
楓が考えるのをやめようとしたその時、王室に扉の叩く音が響いた。
「何事だ!」
「失礼します!王…侵入者が!」
今まさに頭で考えていたことが現実になって、楓は少しドキッとした。慌てた表情で入ってきた兵士の服は所々破れ、体も傷を負っていた。
「何者だ?何人居る?」
「何者かは分かりません。しかし、たった3人に兵団のほとんどが…。」
王はその知らせに口を開けたまま唖然としている。しかし、楓達はその正体に目星がついていた。
(…吸血鬼。)
そうに違いないと楓は思った。
「国王。恐らく攻めてきたのは吸血鬼です。だとすれば、我々は一刻も早くブリンゲルに帰って街の防衛をしなくてはなりません。しかし、ここも相当戦力を削られているかと…。」
そっと話す蓮に、国王は俯いたまま耳を傾ける。
「打開策はあるのですか?」
「いいや…。この国にはもう、ほとんど戦力は残っていない。」
「そうですか。それでは…。」
顎に手を当てた蓮は楓達の方へふり返ると、それぞれを指さした。
「石峰、一条、秋月はここに残ってアウスブルグの防衛に加勢しろ。石峰は俺と一緒にブリンゲルへ戻る。いいな?」
蓮の指示に楓達は頷いた。
「でも…それでは…。」
「いいんですよ。こいつらに何かあったら俺が責任をとります。それよりも、今はこの国を守ることを考えてください。」
蓮は王へ振り向くと、優しく微笑んだ。
「よし!とりあえず、相手の姿だけ見に行く。本当に3人ならお前達に任せるが、数や力の差によっては俺達もここに残らざるおえんだろう。」
楓達は、蓮の指示を聞きながら王室を出て外へと向かった。街は既にパニック状態で、逃げ惑う人達に吸血鬼が襲いかかっていた。
「おいおい。どこが3人なんだよ。」
肩からマントを羽織った吸血鬼が、街のあちこちに居る。その数は数十ではきかないかもしれない。
「あれ?でも、この吸血鬼…弱くないですか?」
ふと和海が呟く。確かに、楓達がブリンゲルで戦ったレオンという吸血鬼は目の前の吸血鬼とは比べ物にならないほど強かった。
「だとすると、さっきの3人はレオンクラスの吸血鬼が3人って事なのかな?」
「多分ね…。」
楓の言葉に険しい表情で柚枝が答えた。
「作戦変更だ。俺達もここに…。」
「蓮さん!」
喋りだした蓮の声をかき消すように背後から男の声が聞こえてきた。
「お前は…。」
振り返った全員が目を丸くした。そこに居たのは、ブリンゲルの警務隊員だったのだ。
「なんでここに居るんだよ。」
「緊急の知らせがあって後を追いかけてきました。」
「で、どうしたの?わざわざあとを追いかけてくるほどだから、それなりに急な要件なんでしょ?」
蓮の問いに答える隊員に、今度は柚枝が問いかける。
「実は…、ブリンゲルに吸血鬼が!」
「「「「「!?!?。」」」」」
隊員の言葉に、そこにいた全員が言葉を失った。
(ま、まさか、ブリンゲルにも…。)
この辺りを代表する2大大国が同時に攻められるというこの状況に蓮も頭を抱えた。
「ここはもう終わりだ。みんなブリンゲルに帰って自国を守ってくれ。」
話を聞いていたのか、王が楓達に告げる。だが、急に顔を上げた蓮は、王の顔を真っ直ぐ見て力強く言い返した。
「作戦に変更はありません。石峰、一条、秋月をここに残します。」
「だが…。」
「ブリンゲルには、優秀な隊員がまだ残っています。本当ならこちらに5人とも残りたいのですが、向こうの様子が分からない事にはこっちに余裕を持たせていいものかも判断がつかないので、ひとまず我々2人がブリンゲルに帰り状況を確認し、こちらの状況を報告した上で余裕があればこちらに加勢します。」
蓮は力強い口調で王にそう言うと、次は楓達を見た。
「俺はお前達の力を信じている。だが、万が一という事もある。だから、これだけは言わせてくれ。俺からの頼みだ。…死ぬな。それと、危ない作戦になって申し訳ない。」
「何言ってるの!作戦なんてどれも危なくて当然よ。それに!あなた達も死なないでよ?もし、私達が帰った時に死んでたらお墓の前でお腹抱えて笑っちゃうかも。」
気負う連に柚枝はクスッと笑ってみせた。真剣に話をしている相手に冗談を言うのはどうかと思う者も居るかもしれないが、柚枝の言葉は蓮の気持ちを落ち着かせるには十分過ぎる働きをしたようだ。
「よし!各々、自分の命を最優先に指示を全うしろ!」
「「「「了解!」」」」
蓮が発した覇気のある声と同時に、楓達はその場を駆け出したのだった。
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