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商人の町
しおりを挟むあれから相当歩いて来た。
目の前には中間地点の“商人の町”がうっすらと見えてきた程度の位置にまでは来た。
後少しだ。
「魔物が出てくるの少ないねぇ」
「確かにな。ゴブリンが数体出てきただけだしな」
悪いが多分それは俺の【威圧】のせいだろうな。
遭遇したそうにしているからこの効果は消しておこうか。
「それにしても男に戻っちまったらつまんねぇな。結構可愛いかったのによ、中身男だけど」
「さっきから何回言うんだよ」
「ははっ、すまんすまん」
翔はちょっと俺の女バージョンが気にいっていたようだ。
「まぁまたいつか戻ってやらんでもーーー」
「うわぁっ!なんだ!」
「くっ…敵か?」
見覚えのある謎の物体が俺を覆い纏う。
まさか…な。
「えっ?蒼?元に戻ってない?」
「おぉーやっぱそれでもいいよな」
「なんでだ…」
何故か女に戻ってしまった。推測だが数時間しか持たないとか、そういう条件付きか?
しかも何だか魔力が減っている気がする。
いや、これは多分変身している間もじわじわと削られていたのだろう。
「くそっ…最悪な条件付きのオンパレードか」
悪効率な変身だった。
直ぐに戻ってやろうと試みるも失敗に終わる。
まさか…次に変身するまでのクールタイムの的なものが存在すると言うのか?
後日に確認できたのだが、その考えは合っていたようで、次に変身できたのは丁度丸一日経った頃だった。
ぐだぐだと喋っている間にも“商人の町”に到着し、そこで一日滞在した時に確認したのだ。
変身時間は不安定。
しかし最低でも2、3時間はできる事も確認する事が出来た。
「まぁ私、その状態の蒼好きだけどなぁ。綺麗だし」
「美紅がそう言ってくれるなら嬉しいけど」
彼氏なるもの彼女からどう思われてるかは気になるものだ。
美紅から綺麗…と言われるのは痒い気分だが悪く思ってないのならいいか。
早く長く変身できる方法が見つけられたらいいんだが。
「仕方ないよな…もうすぐだし歩こうか」
「そうだな」
「うん、やっぱそっちも悪くないな」
翔にデコピンをした後に俺達は残り少しの道のりを歩いて行く最中、ゴブリンがまた道の邪魔をしていた。
翔に煽られていた事もあり俺は少しだけムシャクシャしていたんだと思う。
俺は1体のゴブリンの身体をガシッと掴み、ゴブリンの身体がボロボロに崩壊しない程度の速さで全力投球してやった。
大空に向けて、だ。
「吹っ飛べぇぇー!」
「グ!ギェェェェーーー……」
みるみる内に見えなくなっていったゴブリンを他所に、残り2体のゴブリンの始末も片手間だった。
1体を鷲掴みにするともう1体に向けて投げつけた。
2体は一緒になって飛んでいき、最後には大岩に当たってぐったりとしていた。
「グロいね」
「うん、これはグロい」
「ゴブリンが空飛んでたぞ」
「ゴブリンって空飛べたっけ…」
「無理だな」
「「「…………」」」
6人は手を合わせて合掌していた。
おい、同情せずに情け無しなんじゃないのかよ。
「圧倒的な力にどうすることもできずに蹂躙されるゴブリンには少し位は同情しちまうかもな…」
「だよね…」
「わかった!酷くしすぎたな、町も目前だし行こうってば」
「「ハイハイ…」」
◇
それからというもの、町に着くまで何もなく只歩いていただけだった。
すれ違う人もいたが男性の場合は間違いなく声を掛けてくることから途中からは魔法で見えなくしていた。
勿論、足音も消して。
「こんにちは~」
町の入り口には検問とまではいかないが女性と男性が立って怪しい人が居ないか監視いた。
町の中に入ると大きな建物は高台のみ、屋台がズラッと並んでいた。
所々に宿らしき家くらいならあるが教会や冒険者ギルド等は無かった。
「よし、宿は取っておいたぞ」
俺が宿をとっている間、皆には金貨1枚を渡して折角の機会だと言うことで大量買いを許可し、好きな物を買えば、とだけ伝えていた。
勿論俺の金だが買い物くらい好きに買ってあげようという御厚意、というやつだ。
「あっ、美紅!おーい!」
「蒼、どうしたの?」
「いや、どうせなら一緒に行動しようかなって」
「そうね、久しぶりのデート!かな?」
「格好はともあれまた今度男の状態で買い物行こうか」
「本当!?やったぁ!」
他の皆が何処にいるのかは大体わかるので後で探すことにしよう。
「何処行こっかな~」
「あそこなんてどうだ?」
「おぉー、服屋ね」
「今の服少ないだろ?」
しかし、屋台形式の服屋なんてあるんだな。
見る限り清潔で、それにして高級感が漂う。
他の店もあるが一番高そうな店がここだ。
「見てみて!このドレス綺麗…いいなぁ」
「確かにスラッとしてスタイルがくっきり出そうだけど」
「げっ…金貨3枚!?」
美紅にはあと金貨が2枚足りなかった。
「ちぇー…、まぁいっか。この服でも買っとこ」
美紅が結局買ったのはシンプルで尚且つ機能性の良いコートを購入した。
これなら戦闘時にも使えそうだ。
「次は雑貨屋さんにでも行こうよ!」
「了解~」
美紅にはバレていないだろうがこのあと俺は戻って欲しがっていたドレスを買っておいた。
一応俺の分も…。
美紅は赤色、俺は水色と色違いのお揃い仕様だ。
「このブローチ可愛くない!?」
「美紅っぽいな、付けれるようならアイテムポーチとかにいいんじゃないか?」
「ナイスアイディア!流石、蒼ね」
「それはどうも」
「そのヘアピンなんかもーーー」
「あ、いたぞー」
良い感じに買い物している最中に他の5人と合流した。
頭では近くにいるとわかっていた筈なのに久しぶりのデートでちょっと気持ちが上がっていたんだと思う。
「蒼は今女だけど久しぶりのデートだな、羨ましい奴め」
「まぁなー」
「私も薄々気付いてたけど…」
「あっ、先生は知らないか。2人が付き合ってたって事」
「いえ…案外、噂とか先生達の間で雑談してたりするんですよー。まぁ仲の良い相手くらいですけどね」
そうだったのか。恐るべし、情報網。
「買い物は終わった…から来たんだよな」
「そう…だな、一…通り欲しい…ものは…買ったぞ」
咀嚼しながら言ってくるのは翔、せめて口にあるものを食ってから喋れば良いのに。
祐希からも注意された翔だが直ることは多分無い。
「オッケー、ヘアピン買えたし」
も用事が済んだ事もあり、揃って宿に戻った。
前の宿程良いところではないが悪くも無い感じだと思う。
「お風呂あるなら良いよね~」
「ベットも良い感じだし」
今回は良いことを思い付き大部屋を取っていた。
部屋に入った後に就寝するまでは普通に過ごす。
お風呂は部屋になく温泉式だったこともあり特に問題はなかった。
そして就寝この時、部屋を3等分するように結界を張る。
互いに行き来できずに見ることは出来るが相互許可をした場合のみ結界を行き来可能という仕組みだ。
「まぁ、こうなるよな」
「何期待してたんだよお前は」
翔がガッカリしているがこうなることはわかっていただろう。
◇
翌朝、宿を出た俺達はギルメット王国へ向けてまた歩き始めた。
「ふぁぁ…また長い道のりだね」
「足がまたくたくたに…」
弱音を他所に只、ひたすら歩くだけで時が過ぎる。
前までしりとりをして気を紛らせていたが、それももう疲れたらしい。
「歩いて行くのもロマンとかあるし良いけどやっぱり疲れるな」
「だよねぇ…私も疲れちゃった」
「お?じゃあ飛ぶか?」
「「「「「結構です(だ)」」」」」
皆ハモって言う程に嫌なのかよ。
それから歩くペースは上がって行く。
それは俺が魔法をかけたからである。
【移動速度上昇】【持久力上昇】の効果を幾つか掛けておいたお陰もあり、ギルメット王国に着くまで一日もかからなかった。
何故“商人の町”まで魔法をかけなかったか?
それはただ歩きたいと言われていたからついつい忘れてた。
「魔法掛けるか?」
なんて言った途端に罵声を浴びせられたのは言い出すのが遅かったからだと思う。
前は2日程かかった道のりも僅か5時間と考えればなんて楽なんだろう。
「あ!あれがギルメット王国ね!」
「あれかぁ~」
“商人の町”等と比べ物になら無い、もしかするとブルト王国よりも大きいかもしれないギルメット王国が見えてきた。
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