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ネイキッドと翼 ケモ耳天真爛漫長男夫/モラハラ気味クール美青年次男義弟/
ネイキッドと翼 64
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「オネエサン、カワイイな~。絆が余計ムカツクよ。こんなキレイな義姉がイて。ワタシならオニイサンに黙って、毎日毎日オネエサンでおちんちんコスるのに。もうサれたぁ? でも絆、インポだからオネエサンのおまんこナメナメするしかデキナイよ」
青山藍は蕾穴を擽り飽きると、茉世の身体を抱き締めた。
「オネエサンをぬいぐるみにシたいな~」
「パンツ……返してください。おねが………」
「そしたらワタシ、今日ナニでおちんちんキモチヨクすればイイの? オネエサンがキてくれるの? ワタシの実家、クる? ついでにママとパパとオニイタマとオネエタマに会ってくれる? ワタシの今晩のオカズですって紹介スるね?」
舌足らずな喋り方は、機嫌を窺うかのようである。まるで腕の中に捕まえた女のほうが強者であるとでも言いたげだった。
「パンツを……」
「じゃあ代わりのオカズちょぉだい」
茉世は首を振った。
「パンツ要らないんだぁ?」
「要ります……返してください………」
このとき茉世は気が付かなかった。青山はサンシェードの貼られた窓の外を眺めていた。
「ノーパンで外に放り出したらさ、ソコにいる不審者さんにレイプされちゃうかもね。ワタシとオネエサンがカーセックスするの待ってるんだね。この車がギシギシ揺れるの、待ってるんだ」
シートベルトのごとく身体に巻き付いていた腕が取り除かれていった。そして背中を叩いた。
「イイよ、帰って。あそこの不審者サンにレイプされちゃいなよ。ワタシ、レイプものコワーイからスキじゃないんだよな。見たくないから助けてアゲない。ほら、帰りな、オネエサン。出ていって?」
「えっ……あ……」
先程の拘束が嘘のようだ。あっさりと身を引いた。茉世は窓から外を見た。石階段を公道を挟んだガードレールから見上げている人物が確かにいる。紙マスクにグレーの鳥打ち帽を目深にかぶり、絵に描いたような不審者であるが、サングラスはなかった。しかし目鼻立ちは隠れている。半袖のシャツに、グレーのスウェットパンツを履き、ポケットに入れた腕には手拭いが巻き付いている。不審者といえば不審者であるが、青山から言われなければ意識しなかったかもしれない。青山は脅しているのではあるまいか。石階段の上には三途賽川邸があり、その家には今この男のガールフレンドが訪れているのだ。不審だと思うなら、そう呑気にはしていられまい。
「バイバーイ。アツさで脳ミソ茹だってるあのヘンな人にレイプされて滅多刺しにサれちゃいな? ブスババアでもおまんこツいてればおちんちんイれられちゃうんだし。オネエサンのコト道具としてしかみてなくて、ドイヒーなことサれでも、自業自得だね、オネエサン。しかもノーパンなんだから、オネエサンのおまんこのにほひがムンムン漂って、あのヘンな人もちんぽガチガチにシてオネエサンの強張ってるのに濡れちゃうおまんこずぽずぽスるんだろうな」
青山は、茉世の背を押した。そして彼女の項に細く息を細く吹きかけた。
「カワイソーだから、キモチヨクなれるようにシておいてアゲル。レイプされるなら、キモチイイほうがイイでしょ? スキな人イるのにレイプでカンジちゃいなよ。ダンナさんもイて、スキぴもイるのに、レイプ棒でイきまくっちゃいな?」
茉世は怖ず怖ずと青山藍を振り向いた。首の関節は油の切れた錆びたブリキ製らしい。青褪めた顔で、青みの強いサングラスの奥の目と視線を搗ち合わせる。
「なぁに?」
開いた唇が慄えた。
「性暴力のこと、そうやって茶化す人……嫌いです」
女だけではない。男も性被害によって官能を刺激されているではないか。そうでないなら何故あの白百合の花は、花粉を爆ぜたのか。だというのに他人事でいるつもりなのか。他人事でいるつもりだ。もはや他人事なのだ。実際、他人事である。女と男。体格が違う。決められた膂力が違う。五体揃っているのなら腕力的な強者でいられる。スタートラインは同じではない。社会的な価値観も損失も違う。あの白百合は女の力で手折れはしない。女の言葉が青山に本意が伝わることもない。
茉世は目を逸らした。糠に釘を打っているようなものだ。言葉は通じているが、経験や想像を通しての共感は得られない。
「オネエサン、ワタシのコト、キライなんだ?」
声は今までのとおり、上擦り、おどけている。しかし明らかに顔つきを変わった。
「ムカつく」
青山の手は、今度は車内の奥へと茉世を引き摺った。そして彼女に跨り、シャツを破る。衣料量販店の安価な品がさらに値引きされた粗末な繊維である。
「キモチヨクなっちゃうのがコワいんだよね。オトコもそうだよ? ブスデブババアにボッキすんのがコワいの。オトコはホントの性癖知ったら気が狂っちゃうヨ。最近、小学生もいっちょまえにオシャレしてんでしょ? 芋ガキも芋ガキでロリコン趣味には刺さるんだろうケド……ケバいガキでもガキはガキ。あれにボッキなんかシてみなよ。ヤバいって。本能の話ぢゃないよ、世間体の話。いつでもレイプ痴漢デキちゃうの。ヤッテミナヨって声が、いつ聞こえちゃうか……コワいなぁ、コワいなぁ」
服を破られたことに、茉世は頭を真っ白くした。後先を考えたのではなかった。ただ目の前の暴力を処理できない。
「コワいなぁ、コワいなぁ」
青山は唱えながら、運転席に置かれた鰐皮のポーチを漁る。
「コワいなぁ、コワいなぁ」
手にしたのは炎らしき抽象的なイラストの入った筒状のものだった。透明な容器からリップスティックであることが分かる。
「コワいなぁ、コワいなぁ」
ブラジャーを押し上げ、剥かれた軟膏が乳頭に触れる。
「あぁ……」
寒気がした。身体が強張る。意識したくなくとも、薄い肌への接触は意識せずにはいられない。
「カンジちゃうのコワいよねぇ。キライなワタシに何にもデキナイのクヤしいでしょ? ワタシのほうがツヨいからね。やろうと思えば首でも腕でもオネエサンの骨折れるんだよ。でもシないでアゲてるの。性癖ぢゃないから。足折って逃げ出せないようにもデキるのに、ワタシ、エラいよね。骨折はカワイソーだから。骨折がツラいのはワカルかるし……でも、ワタシがキライなのはワカラナイな……」
張り詰めた左右の突起にしんねりねっとりとリップクリームに似たものを塗りたくる。汗も乾き、毳立った皮膚が照りつける。
「う、ぅ……」
「ねぇ、オネエサンってオトコのヒトのコト、ナメてるでしょ。殴ったり蹴ったりデキるんだよ。でもシないでしょ? 拳銃もナイフもナイけど、オネエサンのコト、腕でコロせるのに、シないでアゲてるのエラいでしょぉ?」
キャップを閉じる音が車内に響く。
「だからオトコのヒトのコト、尊敬シなきゃイケないのになぁ」
得体の知れないリップスティックを放り投げ、青山の両手は細い首に巻き付 いた。
「あ、あ……」
「コロしちゃおうかな、オネエサンのコト。ワタシのコト、スキじゃないのユルせな~い」
指に力がこもっていく。
「どこに埋められたい? ワタシの実家に埋めちゃおうかな。お庭から、ワタシが結婚シて子供デキるの見守っててね。好きピはオネエサンのゾンザイに気付いてないでしょ、どうせ。レスり旦那サンも、オネエサンの姿が見えなくなったらオネエサンのコト、忘れちゃうと思う。だとしたらワタシのお庭に埋まってるほうがヨクナイ? ワタシ毎日、水アゲル。お花も植えて」
徐々に首が締まっていく。
「く………っ、」
「オネエサンがシんだら何人が悲しんでクれるかな。ワタシ、泣いてアゲル。オネエサンの極上のおまんこで、もうおちんちんコシコシシゴけなくてカナしいよ。オネエサンのおまんこのにほひもう嗅げないなんて。オネエサンのデカぱい揉み揉みデキナイなんて人権侵害だよ。でも好きピもレスり旦那サンも泣いてクれないんじゃない? 生きてても野放しなんでしょ? カワイソー」
呼吸が制限されていく。茉世は青山の腕を掴んだ。剥がれない。羽虫がついたのと変わらないのだろう。
「カワイソーオネエサン。人知れずワタシにコロされて、ミンナに忘れられちゃう。ワタシも忘れてアゲル。だってオネエサン、ワタシのコト、キライなんだもんね? カワイソー」
茉世の顔は赤らんだ。喉の中心が重なった親指で沈んでいく。
「殴りコロしたり踏みコロしてアゲられるのに、首絞めてコロしてアゲルのヤサシくない? オネエサン」
口水が溢れ出る。爪を刺しても力が弱まることはない。
「カワイソーなオネエサン。シんじゃえ♡ シんじゃえ♡」
意識が飛びかける。爪を立てる力も入らない。鼻の下が生暖かくなる。擽ったい。
もう息はできなかった。ここで死ぬ。殺されるのである。|無為《むい>な人生であった。恐怖を感じている体力はもうない。あとは痛苦とともに死ぬのだ。
……
…………
………………
首を絞めていた手が離れる。酸素が一気に入り込む。茉世の身体は波打ち、車が揺れるほどの咳嗽に襲われた。やがて吐気を催す。
「AHAHAHAHA! オネエサン、本当にシんじゃうと思った?」
青山藍は腹を抱えた。
「おちんちん挿れておけばヨカッタな。おまんこ締まってたかもしれないのに」
喉が痛んだ。鼻の下を擦ると血がついている。
「首絞められてるのにエッチな妄想シてたんだ? ヘンタイさんじゃん」
目を合わせなかった。露骨に逃げ惑った。青山は楽しくなったようだ。彼女の瞳を追う。
「オネエサン」
「帰ります」
「スキってイッて」
青山藍の顔面が迫る。
「帰ります」
「スキってイってよ」
頬に頬が当てられる。日焼け止めでも塗っているのか、よくケアされた肌はべとついている。
「帰ります……」
「スキってイえ」
頬をぶつける仕草は未知の哺乳類の求愛行動のようだった。現代のヒトのオスはそのように言い寄ったりはしない。悍ましい。
「ワタシ、アンタみたいなブスババアがワタシのコトキライなのユルせない。スキってイえ」
「怖い……!」
硬い胸板を押しやる。手が慄えた。力は入らない。酸素はまだ十分ではなかった。呼吸のたびに圧迫された喉が痛む。
「スキってイえ。おクチがあるでしょ、ほら。イえ」
大きな手が茉世の顎を捉えた。
「あれだけイくイくシておいて今更キライとかねンだわ、オネエサン。ソウデショ? オネエサンはワタシのコトがスキ♡」
リップクリームめいたものが塗られた乳頭を派手な爪の乗った指が抓った。
「ぁ、ひ……っ」
恐ろしい感覚であった。快楽ではなかった。痛みでも痒みでもなかった。しかし無理矢理に意識を割かれる厭な感じがあった。皮膚と外気の間に熱を帯びた膜が張り付いているようで気持ちが悪い。
「いつも牛さんイきだもんね。お母さんイきしましょ」
「触らな………、」
抵抗に意味はない。ここは捕食者の巣穴であった。餌食として引き摺り込まれたのだ。無事では済まない。
『ねぇ、オネエサン、ワタシのコト、キライなよ。顔面キッタハッタシたコト、他の行儀のイイ奴等みたいにdisるんだろ? オネエサン……イイよ、キライなよ。遺伝子のサギだもんね、オネエサン。オンナはキレて当然だよ。ミゴモる側ぢゃシカタナイよ。AHAHAHA。キラえよ、キラえ、キラえ、キラえ。ナチュラルボーンブスどもの勘違いに付き合ってアゲル。オネエサン。キラえ! AHAHAHA! 目蓋キッて歯茎に針金巻き付けるだけで済むなんて絆はウラヤマシイなぁ……』
深いブルーの爪が首についた痣を辿る。
『AHAHAHA……サヨナラしよっか、紺チャン、オツカレ……』
熱心に痣を往復していた手が止まる。反対の手が持ち上がり、自身の頬を撫でていく。青山藍は喉の奥で笑った。頬から落ちていく手が目の前で倒れている女の肌に当たる。
「もう………ムリ、です………」
魘されているらしい彼女の喉からはギロを弾いたような音が出た。
「じゃあココで寝て、イッショに帰るの? オネエサンのコト、誘拐シていいってコト? ああ、でも明日、またココ来なきゃなんだ。哥チャンにはナイショだよ」
青山は車内を漁った。白い開襟シャツを引っ張り出す。
「おっぱい丸出しハズカシイね」
舐め回され、吸われ尽くされて赤く色付く突起物を長い指が突く。
「ん………ふ、………」
この女体が今日何度、性感の絶頂を昇ったのか青山藍が知る由はない。知ったとて慮る男ではないのだろう。むしろ面白がっておもちゃにするに違いない。
呻き嘆いて噎ぶ茉世に気を好くしている。気触れているらしき赤みを持った胸の蒂を飽きるまで捏ねて遊ぶと、ブラジャーを下げた。しかし思い直したのかまた持ち上げる。運転席に置かれた鰐皮のポーチからハンドクリームを出して、唾液をしとどに塗りたくられ微かに腫れている勃起に塗り込む。
「んっ……」
痛みと痒みのなかに疲れと糾われた甘い痺れが生まれる。
「なぁに、オネエサン。保湿シてるだけなのにカンジてるの? エッチオネエサン」
白い塊が溶けていく。ブラジャーが乳房に被さる。青山は女の身体に纏わりつく布切れを剥がすと引っ張り出した開襟シャツを着せる。白地だが襟元や袖に蔓や蔦を思わせる刺繍が濃紺の糸で入っている。胸元にはセイントローレンスのブランドロゴ。1着で高級な冷蔵庫を1基買えそうな値段である。
「ブラ透けるのイイね」
ボタンをひとつひとつ綴じていく。小指が立っていた。石ころのようなリングがないとネイルカラーと相俟ってその肌理細やかさが目立つ。
「もう……いや………」
茉世の目は閉じていた。呂律の回らない拒否は寝言であろう。
「お母さんイきキモチヨカった?」
割れた舌先が口寂しそうにグリルズの上を這う。
「明日また会うから、そのときファックしてアゲル」
青山は車から降りた。アスファルトに投げ捨てられたサンダルをぐったりとして動かない茉世に履かせ、抱き上げる。まだ明るい空の下で施錠のライトが閃いた。不審者呼ばわりされた通行人の視線が向く。しかし誰も気付くことはない。
青山が石階段を上るたび、茉世の首が転がり、自身を支える腕に頭をぶつけた。それでも粘着質な眠気を振り切ることはできなかった。舐め舐られ、吸いしゃぶられ、捏ね繰り回された乳頭は快楽に倦んでもまだブラジャーの下でまだ疼いている。
「寝んねエラいでちゅね」
青山の声の直後、シャッターが切られた。不穏な音だ。茉世は薄らと目を開ける。
「人にはカレシのダメ出ししておいて、自分は浮気してんの?」
青山の足が止まった。反動で彼女の頭も弾む。
「撮影は事務所通してクダサーイ。クソガキさん。肖像権の侵害で5万。メーワク料で10万」
この男は誰と喋っているのであろうか。重い目蓋を開いた。ろくに視認はできなかった。だが勘が告げている。禅だ。
「分かった。でも払うのはその女。慰謝料から出してもらう」
「イシャリョー? ナニ、オネエサン、こんなイタイケなコドモにまでテ出してんの? ヤッバ。犯罪でしょ」
返事をする体力ももう残っていない。先程までのクーラーが恋しい。外に出て数秒。涼しさを忘れて汗ばむ。
「蘭兄ちゃんに会って。その女の旦那。浮気してるんだ。あんたのことは庇ってあげるから。どうせその女から擦り寄ったんでしょ。浮気したのこれが初めてじゃないし」
「ほぇ~。そうなんだ。え、ってことは、坊っちゃんは絆の弟?」
雑木林のなかに小鳥の囀りが響き渡った。カラスの大袈裟な羽搏きが真上で聞こえる。
「……違う」
「ああ、なんだ。チガウのか。じゃあ、"ユルシて"アゲル」
ふたたび階段を上る。
「おい」
「下に不審者イるから気を付けなよ、クソガキ。あと15万払ってね。オネエサンにカラダ売らせて払ってモラウ?」
「どこ行く気」
すれ違い、また立ち止まる。
「蘭オニイサンに会うんでしょ。ゼヒ会わせて。会いにイくよ。オネエサンがおっぱいでイくイくシてたみたいに。クソガキ。こんなキレイでおっぱいデッカいオネエサンとひとつ屋根の下で暮らすなんて無欲ぢゃイられないでしょ。オネエサンのデカぱい想像シてセンズリしてんだろ? ワタシそういうのダイスキだよ。そうでなきゃホモだよ、クソガキ。その歳でロリコンなの? 学校イってればエッチなハナシだってするでしょ? トモダチにオネエサン紹介シてみなよ。その日からシコ猿だよ。シコ猿ってワカル? ジブンのおちんちんをゴシゴシ擦るのヤメれないことだよ。オネエサンのデカぱい揉み揉みシたいんだろ? スナオになれよ。ワタシがゾンブンにオネエサンのデッカいおっぱい揉み揉みデキるからって嫉妬スんなよ。絆に似てるね、嫉妬深いところ。スナオに言い寄れって、オネエサンのデカぱいにおちんちん挟ませてクダサイ、射精サせてクダサイって……アワヨクバSEXサせてクダサイってさ。SEXってワカルか? SEXシたコトある? もう精通はシてるの? おチビさん。毎日センズリしないと、デカくて太いオトナちんぽにはナレないぞ。絆オニイサンみたいにインポぢゃないんだろ? インポってワカル? おちんちんがカチカチに固くなれないこと」
茉世は青山のタンクトップを握った。握ることしかできなかった。
「なんで絆兄のこと知ってるの」
「セフレがイッショだから。セフレってワカル? オンナノコのアソコにおちんちんイれる仲のコトね。絆はインポ。オンナノコに触るたびにリスカするメンヘラ。リスカってワカル? 手首切るコト! オトコなのにリスカするなんてオカマだよ。おチビさん、アナタのオニイサンはホモのカマ野郎のインポ。レスるのは家系? "レスる"ってワカル? セックスしてないってこと。セックスってワカル? オンナのアソコに勃起シたちんぽイれること。だから奥さんのアソコに勃起シたちんぽイれてないってこと」
青山は嬉々としていた。露悪趣味の男なのだ。低俗卑劣であることが愉快なのだ。
「レス……」
「そ、レス。セックスレス。クソチビ。精通シてるなら抱いてアゲれば? 兄弟ならガキデキてもワカんないよ。オニイチャンと血液型イッショ? オネエサンはアカチャン産まなきゃなんでしょ。ハラマセてアゲたら。ハマラセてアゲなよ、ガキちんぽに」
禅の表情に嫌悪が滲むが、青山の背後のことだ。
「穢れた女と蘭兄ちゃんが、そんなことするわけないし、俺だって嫌だ」
「他のオトコとパコッたことを"ヨゴレた"って表現スるの、ドーテーみたいでクサいね。ドーテーなの? ドーテーってワカる? オンナノコのアソコにおちんちんイれたことないオトコノコのこと」
「黙れよ」
「イイよ、黙っててアゲル」
青山は大袈裟に唇を噛んで口腔にしまった。そして階建を上っていく。3段も上がらずにまたもや足を止めた。ブルーのサングラスが白く光った。
「性教育は各家庭のペースというものがありますから、勝手なことを吹き込まれては困ります」
まだ暑い季節だというのに、その人物は黒い毛玉を抱いていた。白いシャツを着た彼は永世だ。不機嫌な面構えで青山を睨んでいる。
「んな~ぉ 」
「ガキなんてジブンでエッチなもの探しにイくじゃん。オニイサンもワタシと同年代くらいでしょ? 昔は空き地のエロ雑誌拾って回しヨみシたじゃない。パパのエロ本、隠れて読んでたでしょ? 忘れたの?」
「んなーぉ」
黒い猫は呑気に鳴いた。石階段に置かれ、前足を浮かせる姿は狛犬を思わせる。
「何しに来たの」
禅が訊ねた。
「茉世さんを探しに」
「あの女と浮気してるから?」
「はい、と言うわけにはいきませんね」
主家の末男に対して、彼の音吐は以前の柔らかさ、遠慮、忠順ぶりが消え失せていた。
「別に、事実なんだし隠すことじゃないだろ」
茉世の耳にも彼等の会話は聞こえていた。寝ている場合ではない。三途賽川から出てきた直前のことが瞬時に甦ったのだ。己の状況も分からないまま青山を拒む。
「おぉっ……と! アブないよ、オネエサン」
大荷物が突然暴れたのだ。青山藍は咄嗟に屈んだ。茉世は階段へ座らされる。よろめいたが持ち直した。
「戻りましょう、茉世さん」
「なぁァん」
彼女は振り向いた。降り注ぐ永世の険しい眼差しが痛い。顔を逸らしてしまう。
「……もう少し、頭を冷やしてきます……」
いつの間にか傍に来た猫が身体を擦り付けた。白い繊維に黒い毛が纏わりつく。
「んなぁん」
喉を轟かせ、猫は彼女を邪魔者扱いし、押しやろうとするほど力強く頭頂部を擦りつける。
「んにゃぁ」
「門町さんは怒っていませんでした」
「怒っていたとかいなかったとかいう話ではありません。蘭さんたちにも失礼なことをしました」
「哥チャンに何かイッたの? 盲とかイッちゃったカンジ?」
禅が鼻を鳴らす。日焼けしていない真っ白な顔に陰湿な笑みが浮かんでいる。
「青山さんと付き合うのやめたほうがいいってさ。青山ってあんた?」
茉世は自身の吐いた言葉に怯えた。
「はぇ~、オネエサン、ソンナことイッちゃったの? 理由もちゃんとイッた? 熱出てるのにのイラマチオさせられて、乳首イきはマスト、アナルバージンも狙われてて、純愛不倫ガチ恋ファックもした仲で、レイプごっこも産卵プレイもシてくるようなヤツですって、ちゃんとイッたの? 今後は剃毛プレイと本格的にアナル開発もする予定ですって、イえた? おい、クソガキ、イラマチオってワカる? オトナの勃起ちんちんで喉奥ガン突きスるヤツね。剃毛プレイってワカるか? おまんこの毛を剃ってアソブこと」
「よして!」
茉世は叫んだ。顔を覆う。子供が聞いている。永世も聞いている。
「んなぁーぉ」
黒い猫は長く伸びた尻尾を垂らして、茉世の機嫌を窺う。
青山藍は蕾穴を擽り飽きると、茉世の身体を抱き締めた。
「オネエサンをぬいぐるみにシたいな~」
「パンツ……返してください。おねが………」
「そしたらワタシ、今日ナニでおちんちんキモチヨクすればイイの? オネエサンがキてくれるの? ワタシの実家、クる? ついでにママとパパとオニイタマとオネエタマに会ってくれる? ワタシの今晩のオカズですって紹介スるね?」
舌足らずな喋り方は、機嫌を窺うかのようである。まるで腕の中に捕まえた女のほうが強者であるとでも言いたげだった。
「パンツを……」
「じゃあ代わりのオカズちょぉだい」
茉世は首を振った。
「パンツ要らないんだぁ?」
「要ります……返してください………」
このとき茉世は気が付かなかった。青山はサンシェードの貼られた窓の外を眺めていた。
「ノーパンで外に放り出したらさ、ソコにいる不審者さんにレイプされちゃうかもね。ワタシとオネエサンがカーセックスするの待ってるんだね。この車がギシギシ揺れるの、待ってるんだ」
シートベルトのごとく身体に巻き付いていた腕が取り除かれていった。そして背中を叩いた。
「イイよ、帰って。あそこの不審者サンにレイプされちゃいなよ。ワタシ、レイプものコワーイからスキじゃないんだよな。見たくないから助けてアゲない。ほら、帰りな、オネエサン。出ていって?」
「えっ……あ……」
先程の拘束が嘘のようだ。あっさりと身を引いた。茉世は窓から外を見た。石階段を公道を挟んだガードレールから見上げている人物が確かにいる。紙マスクにグレーの鳥打ち帽を目深にかぶり、絵に描いたような不審者であるが、サングラスはなかった。しかし目鼻立ちは隠れている。半袖のシャツに、グレーのスウェットパンツを履き、ポケットに入れた腕には手拭いが巻き付いている。不審者といえば不審者であるが、青山から言われなければ意識しなかったかもしれない。青山は脅しているのではあるまいか。石階段の上には三途賽川邸があり、その家には今この男のガールフレンドが訪れているのだ。不審だと思うなら、そう呑気にはしていられまい。
「バイバーイ。アツさで脳ミソ茹だってるあのヘンな人にレイプされて滅多刺しにサれちゃいな? ブスババアでもおまんこツいてればおちんちんイれられちゃうんだし。オネエサンのコト道具としてしかみてなくて、ドイヒーなことサれでも、自業自得だね、オネエサン。しかもノーパンなんだから、オネエサンのおまんこのにほひがムンムン漂って、あのヘンな人もちんぽガチガチにシてオネエサンの強張ってるのに濡れちゃうおまんこずぽずぽスるんだろうな」
青山は、茉世の背を押した。そして彼女の項に細く息を細く吹きかけた。
「カワイソーだから、キモチヨクなれるようにシておいてアゲル。レイプされるなら、キモチイイほうがイイでしょ? スキな人イるのにレイプでカンジちゃいなよ。ダンナさんもイて、スキぴもイるのに、レイプ棒でイきまくっちゃいな?」
茉世は怖ず怖ずと青山藍を振り向いた。首の関節は油の切れた錆びたブリキ製らしい。青褪めた顔で、青みの強いサングラスの奥の目と視線を搗ち合わせる。
「なぁに?」
開いた唇が慄えた。
「性暴力のこと、そうやって茶化す人……嫌いです」
女だけではない。男も性被害によって官能を刺激されているではないか。そうでないなら何故あの白百合の花は、花粉を爆ぜたのか。だというのに他人事でいるつもりなのか。他人事でいるつもりだ。もはや他人事なのだ。実際、他人事である。女と男。体格が違う。決められた膂力が違う。五体揃っているのなら腕力的な強者でいられる。スタートラインは同じではない。社会的な価値観も損失も違う。あの白百合は女の力で手折れはしない。女の言葉が青山に本意が伝わることもない。
茉世は目を逸らした。糠に釘を打っているようなものだ。言葉は通じているが、経験や想像を通しての共感は得られない。
「オネエサン、ワタシのコト、キライなんだ?」
声は今までのとおり、上擦り、おどけている。しかし明らかに顔つきを変わった。
「ムカつく」
青山の手は、今度は車内の奥へと茉世を引き摺った。そして彼女に跨り、シャツを破る。衣料量販店の安価な品がさらに値引きされた粗末な繊維である。
「キモチヨクなっちゃうのがコワいんだよね。オトコもそうだよ? ブスデブババアにボッキすんのがコワいの。オトコはホントの性癖知ったら気が狂っちゃうヨ。最近、小学生もいっちょまえにオシャレしてんでしょ? 芋ガキも芋ガキでロリコン趣味には刺さるんだろうケド……ケバいガキでもガキはガキ。あれにボッキなんかシてみなよ。ヤバいって。本能の話ぢゃないよ、世間体の話。いつでもレイプ痴漢デキちゃうの。ヤッテミナヨって声が、いつ聞こえちゃうか……コワいなぁ、コワいなぁ」
服を破られたことに、茉世は頭を真っ白くした。後先を考えたのではなかった。ただ目の前の暴力を処理できない。
「コワいなぁ、コワいなぁ」
青山は唱えながら、運転席に置かれた鰐皮のポーチを漁る。
「コワいなぁ、コワいなぁ」
手にしたのは炎らしき抽象的なイラストの入った筒状のものだった。透明な容器からリップスティックであることが分かる。
「コワいなぁ、コワいなぁ」
ブラジャーを押し上げ、剥かれた軟膏が乳頭に触れる。
「あぁ……」
寒気がした。身体が強張る。意識したくなくとも、薄い肌への接触は意識せずにはいられない。
「カンジちゃうのコワいよねぇ。キライなワタシに何にもデキナイのクヤしいでしょ? ワタシのほうがツヨいからね。やろうと思えば首でも腕でもオネエサンの骨折れるんだよ。でもシないでアゲてるの。性癖ぢゃないから。足折って逃げ出せないようにもデキるのに、ワタシ、エラいよね。骨折はカワイソーだから。骨折がツラいのはワカルかるし……でも、ワタシがキライなのはワカラナイな……」
張り詰めた左右の突起にしんねりねっとりとリップクリームに似たものを塗りたくる。汗も乾き、毳立った皮膚が照りつける。
「う、ぅ……」
「ねぇ、オネエサンってオトコのヒトのコト、ナメてるでしょ。殴ったり蹴ったりデキるんだよ。でもシないでしょ? 拳銃もナイフもナイけど、オネエサンのコト、腕でコロせるのに、シないでアゲてるのエラいでしょぉ?」
キャップを閉じる音が車内に響く。
「だからオトコのヒトのコト、尊敬シなきゃイケないのになぁ」
得体の知れないリップスティックを放り投げ、青山の両手は細い首に巻き付 いた。
「あ、あ……」
「コロしちゃおうかな、オネエサンのコト。ワタシのコト、スキじゃないのユルせな~い」
指に力がこもっていく。
「どこに埋められたい? ワタシの実家に埋めちゃおうかな。お庭から、ワタシが結婚シて子供デキるの見守っててね。好きピはオネエサンのゾンザイに気付いてないでしょ、どうせ。レスり旦那サンも、オネエサンの姿が見えなくなったらオネエサンのコト、忘れちゃうと思う。だとしたらワタシのお庭に埋まってるほうがヨクナイ? ワタシ毎日、水アゲル。お花も植えて」
徐々に首が締まっていく。
「く………っ、」
「オネエサンがシんだら何人が悲しんでクれるかな。ワタシ、泣いてアゲル。オネエサンの極上のおまんこで、もうおちんちんコシコシシゴけなくてカナしいよ。オネエサンのおまんこのにほひもう嗅げないなんて。オネエサンのデカぱい揉み揉みデキナイなんて人権侵害だよ。でも好きピもレスり旦那サンも泣いてクれないんじゃない? 生きてても野放しなんでしょ? カワイソー」
呼吸が制限されていく。茉世は青山の腕を掴んだ。剥がれない。羽虫がついたのと変わらないのだろう。
「カワイソーオネエサン。人知れずワタシにコロされて、ミンナに忘れられちゃう。ワタシも忘れてアゲル。だってオネエサン、ワタシのコト、キライなんだもんね? カワイソー」
茉世の顔は赤らんだ。喉の中心が重なった親指で沈んでいく。
「殴りコロしたり踏みコロしてアゲられるのに、首絞めてコロしてアゲルのヤサシくない? オネエサン」
口水が溢れ出る。爪を刺しても力が弱まることはない。
「カワイソーなオネエサン。シんじゃえ♡ シんじゃえ♡」
意識が飛びかける。爪を立てる力も入らない。鼻の下が生暖かくなる。擽ったい。
もう息はできなかった。ここで死ぬ。殺されるのである。|無為《むい>な人生であった。恐怖を感じている体力はもうない。あとは痛苦とともに死ぬのだ。
……
…………
………………
首を絞めていた手が離れる。酸素が一気に入り込む。茉世の身体は波打ち、車が揺れるほどの咳嗽に襲われた。やがて吐気を催す。
「AHAHAHAHA! オネエサン、本当にシんじゃうと思った?」
青山藍は腹を抱えた。
「おちんちん挿れておけばヨカッタな。おまんこ締まってたかもしれないのに」
喉が痛んだ。鼻の下を擦ると血がついている。
「首絞められてるのにエッチな妄想シてたんだ? ヘンタイさんじゃん」
目を合わせなかった。露骨に逃げ惑った。青山は楽しくなったようだ。彼女の瞳を追う。
「オネエサン」
「帰ります」
「スキってイッて」
青山藍の顔面が迫る。
「帰ります」
「スキってイってよ」
頬に頬が当てられる。日焼け止めでも塗っているのか、よくケアされた肌はべとついている。
「帰ります……」
「スキってイえ」
頬をぶつける仕草は未知の哺乳類の求愛行動のようだった。現代のヒトのオスはそのように言い寄ったりはしない。悍ましい。
「ワタシ、アンタみたいなブスババアがワタシのコトキライなのユルせない。スキってイえ」
「怖い……!」
硬い胸板を押しやる。手が慄えた。力は入らない。酸素はまだ十分ではなかった。呼吸のたびに圧迫された喉が痛む。
「スキってイえ。おクチがあるでしょ、ほら。イえ」
大きな手が茉世の顎を捉えた。
「あれだけイくイくシておいて今更キライとかねンだわ、オネエサン。ソウデショ? オネエサンはワタシのコトがスキ♡」
リップクリームめいたものが塗られた乳頭を派手な爪の乗った指が抓った。
「ぁ、ひ……っ」
恐ろしい感覚であった。快楽ではなかった。痛みでも痒みでもなかった。しかし無理矢理に意識を割かれる厭な感じがあった。皮膚と外気の間に熱を帯びた膜が張り付いているようで気持ちが悪い。
「いつも牛さんイきだもんね。お母さんイきしましょ」
「触らな………、」
抵抗に意味はない。ここは捕食者の巣穴であった。餌食として引き摺り込まれたのだ。無事では済まない。
『ねぇ、オネエサン、ワタシのコト、キライなよ。顔面キッタハッタシたコト、他の行儀のイイ奴等みたいにdisるんだろ? オネエサン……イイよ、キライなよ。遺伝子のサギだもんね、オネエサン。オンナはキレて当然だよ。ミゴモる側ぢゃシカタナイよ。AHAHAHA。キラえよ、キラえ、キラえ、キラえ。ナチュラルボーンブスどもの勘違いに付き合ってアゲル。オネエサン。キラえ! AHAHAHA! 目蓋キッて歯茎に針金巻き付けるだけで済むなんて絆はウラヤマシイなぁ……』
深いブルーの爪が首についた痣を辿る。
『AHAHAHA……サヨナラしよっか、紺チャン、オツカレ……』
熱心に痣を往復していた手が止まる。反対の手が持ち上がり、自身の頬を撫でていく。青山藍は喉の奥で笑った。頬から落ちていく手が目の前で倒れている女の肌に当たる。
「もう………ムリ、です………」
魘されているらしい彼女の喉からはギロを弾いたような音が出た。
「じゃあココで寝て、イッショに帰るの? オネエサンのコト、誘拐シていいってコト? ああ、でも明日、またココ来なきゃなんだ。哥チャンにはナイショだよ」
青山は車内を漁った。白い開襟シャツを引っ張り出す。
「おっぱい丸出しハズカシイね」
舐め回され、吸われ尽くされて赤く色付く突起物を長い指が突く。
「ん………ふ、………」
この女体が今日何度、性感の絶頂を昇ったのか青山藍が知る由はない。知ったとて慮る男ではないのだろう。むしろ面白がっておもちゃにするに違いない。
呻き嘆いて噎ぶ茉世に気を好くしている。気触れているらしき赤みを持った胸の蒂を飽きるまで捏ねて遊ぶと、ブラジャーを下げた。しかし思い直したのかまた持ち上げる。運転席に置かれた鰐皮のポーチからハンドクリームを出して、唾液をしとどに塗りたくられ微かに腫れている勃起に塗り込む。
「んっ……」
痛みと痒みのなかに疲れと糾われた甘い痺れが生まれる。
「なぁに、オネエサン。保湿シてるだけなのにカンジてるの? エッチオネエサン」
白い塊が溶けていく。ブラジャーが乳房に被さる。青山は女の身体に纏わりつく布切れを剥がすと引っ張り出した開襟シャツを着せる。白地だが襟元や袖に蔓や蔦を思わせる刺繍が濃紺の糸で入っている。胸元にはセイントローレンスのブランドロゴ。1着で高級な冷蔵庫を1基買えそうな値段である。
「ブラ透けるのイイね」
ボタンをひとつひとつ綴じていく。小指が立っていた。石ころのようなリングがないとネイルカラーと相俟ってその肌理細やかさが目立つ。
「もう……いや………」
茉世の目は閉じていた。呂律の回らない拒否は寝言であろう。
「お母さんイきキモチヨカった?」
割れた舌先が口寂しそうにグリルズの上を這う。
「明日また会うから、そのときファックしてアゲル」
青山は車から降りた。アスファルトに投げ捨てられたサンダルをぐったりとして動かない茉世に履かせ、抱き上げる。まだ明るい空の下で施錠のライトが閃いた。不審者呼ばわりされた通行人の視線が向く。しかし誰も気付くことはない。
青山が石階段を上るたび、茉世の首が転がり、自身を支える腕に頭をぶつけた。それでも粘着質な眠気を振り切ることはできなかった。舐め舐られ、吸いしゃぶられ、捏ね繰り回された乳頭は快楽に倦んでもまだブラジャーの下でまだ疼いている。
「寝んねエラいでちゅね」
青山の声の直後、シャッターが切られた。不穏な音だ。茉世は薄らと目を開ける。
「人にはカレシのダメ出ししておいて、自分は浮気してんの?」
青山の足が止まった。反動で彼女の頭も弾む。
「撮影は事務所通してクダサーイ。クソガキさん。肖像権の侵害で5万。メーワク料で10万」
この男は誰と喋っているのであろうか。重い目蓋を開いた。ろくに視認はできなかった。だが勘が告げている。禅だ。
「分かった。でも払うのはその女。慰謝料から出してもらう」
「イシャリョー? ナニ、オネエサン、こんなイタイケなコドモにまでテ出してんの? ヤッバ。犯罪でしょ」
返事をする体力ももう残っていない。先程までのクーラーが恋しい。外に出て数秒。涼しさを忘れて汗ばむ。
「蘭兄ちゃんに会って。その女の旦那。浮気してるんだ。あんたのことは庇ってあげるから。どうせその女から擦り寄ったんでしょ。浮気したのこれが初めてじゃないし」
「ほぇ~。そうなんだ。え、ってことは、坊っちゃんは絆の弟?」
雑木林のなかに小鳥の囀りが響き渡った。カラスの大袈裟な羽搏きが真上で聞こえる。
「……違う」
「ああ、なんだ。チガウのか。じゃあ、"ユルシて"アゲル」
ふたたび階段を上る。
「おい」
「下に不審者イるから気を付けなよ、クソガキ。あと15万払ってね。オネエサンにカラダ売らせて払ってモラウ?」
「どこ行く気」
すれ違い、また立ち止まる。
「蘭オニイサンに会うんでしょ。ゼヒ会わせて。会いにイくよ。オネエサンがおっぱいでイくイくシてたみたいに。クソガキ。こんなキレイでおっぱいデッカいオネエサンとひとつ屋根の下で暮らすなんて無欲ぢゃイられないでしょ。オネエサンのデカぱい想像シてセンズリしてんだろ? ワタシそういうのダイスキだよ。そうでなきゃホモだよ、クソガキ。その歳でロリコンなの? 学校イってればエッチなハナシだってするでしょ? トモダチにオネエサン紹介シてみなよ。その日からシコ猿だよ。シコ猿ってワカル? ジブンのおちんちんをゴシゴシ擦るのヤメれないことだよ。オネエサンのデカぱい揉み揉みシたいんだろ? スナオになれよ。ワタシがゾンブンにオネエサンのデッカいおっぱい揉み揉みデキるからって嫉妬スんなよ。絆に似てるね、嫉妬深いところ。スナオに言い寄れって、オネエサンのデカぱいにおちんちん挟ませてクダサイ、射精サせてクダサイって……アワヨクバSEXサせてクダサイってさ。SEXってワカルか? SEXシたコトある? もう精通はシてるの? おチビさん。毎日センズリしないと、デカくて太いオトナちんぽにはナレないぞ。絆オニイサンみたいにインポぢゃないんだろ? インポってワカル? おちんちんがカチカチに固くなれないこと」
茉世は青山のタンクトップを握った。握ることしかできなかった。
「なんで絆兄のこと知ってるの」
「セフレがイッショだから。セフレってワカル? オンナノコのアソコにおちんちんイれる仲のコトね。絆はインポ。オンナノコに触るたびにリスカするメンヘラ。リスカってワカル? 手首切るコト! オトコなのにリスカするなんてオカマだよ。おチビさん、アナタのオニイサンはホモのカマ野郎のインポ。レスるのは家系? "レスる"ってワカル? セックスしてないってこと。セックスってワカル? オンナのアソコに勃起シたちんぽイれること。だから奥さんのアソコに勃起シたちんぽイれてないってこと」
青山は嬉々としていた。露悪趣味の男なのだ。低俗卑劣であることが愉快なのだ。
「レス……」
「そ、レス。セックスレス。クソチビ。精通シてるなら抱いてアゲれば? 兄弟ならガキデキてもワカんないよ。オニイチャンと血液型イッショ? オネエサンはアカチャン産まなきゃなんでしょ。ハラマセてアゲたら。ハマラセてアゲなよ、ガキちんぽに」
禅の表情に嫌悪が滲むが、青山の背後のことだ。
「穢れた女と蘭兄ちゃんが、そんなことするわけないし、俺だって嫌だ」
「他のオトコとパコッたことを"ヨゴレた"って表現スるの、ドーテーみたいでクサいね。ドーテーなの? ドーテーってワカる? オンナノコのアソコにおちんちんイれたことないオトコノコのこと」
「黙れよ」
「イイよ、黙っててアゲル」
青山は大袈裟に唇を噛んで口腔にしまった。そして階建を上っていく。3段も上がらずにまたもや足を止めた。ブルーのサングラスが白く光った。
「性教育は各家庭のペースというものがありますから、勝手なことを吹き込まれては困ります」
まだ暑い季節だというのに、その人物は黒い毛玉を抱いていた。白いシャツを着た彼は永世だ。不機嫌な面構えで青山を睨んでいる。
「んな~ぉ 」
「ガキなんてジブンでエッチなもの探しにイくじゃん。オニイサンもワタシと同年代くらいでしょ? 昔は空き地のエロ雑誌拾って回しヨみシたじゃない。パパのエロ本、隠れて読んでたでしょ? 忘れたの?」
「んなーぉ」
黒い猫は呑気に鳴いた。石階段に置かれ、前足を浮かせる姿は狛犬を思わせる。
「何しに来たの」
禅が訊ねた。
「茉世さんを探しに」
「あの女と浮気してるから?」
「はい、と言うわけにはいきませんね」
主家の末男に対して、彼の音吐は以前の柔らかさ、遠慮、忠順ぶりが消え失せていた。
「別に、事実なんだし隠すことじゃないだろ」
茉世の耳にも彼等の会話は聞こえていた。寝ている場合ではない。三途賽川から出てきた直前のことが瞬時に甦ったのだ。己の状況も分からないまま青山を拒む。
「おぉっ……と! アブないよ、オネエサン」
大荷物が突然暴れたのだ。青山藍は咄嗟に屈んだ。茉世は階段へ座らされる。よろめいたが持ち直した。
「戻りましょう、茉世さん」
「なぁァん」
彼女は振り向いた。降り注ぐ永世の険しい眼差しが痛い。顔を逸らしてしまう。
「……もう少し、頭を冷やしてきます……」
いつの間にか傍に来た猫が身体を擦り付けた。白い繊維に黒い毛が纏わりつく。
「んなぁん」
喉を轟かせ、猫は彼女を邪魔者扱いし、押しやろうとするほど力強く頭頂部を擦りつける。
「んにゃぁ」
「門町さんは怒っていませんでした」
「怒っていたとかいなかったとかいう話ではありません。蘭さんたちにも失礼なことをしました」
「哥チャンに何かイッたの? 盲とかイッちゃったカンジ?」
禅が鼻を鳴らす。日焼けしていない真っ白な顔に陰湿な笑みが浮かんでいる。
「青山さんと付き合うのやめたほうがいいってさ。青山ってあんた?」
茉世は自身の吐いた言葉に怯えた。
「はぇ~、オネエサン、ソンナことイッちゃったの? 理由もちゃんとイッた? 熱出てるのにのイラマチオさせられて、乳首イきはマスト、アナルバージンも狙われてて、純愛不倫ガチ恋ファックもした仲で、レイプごっこも産卵プレイもシてくるようなヤツですって、ちゃんとイッたの? 今後は剃毛プレイと本格的にアナル開発もする予定ですって、イえた? おい、クソガキ、イラマチオってワカる? オトナの勃起ちんちんで喉奥ガン突きスるヤツね。剃毛プレイってワカるか? おまんこの毛を剃ってアソブこと」
「よして!」
茉世は叫んだ。顔を覆う。子供が聞いている。永世も聞いている。
「んなぁーぉ」
黒い猫は長く伸びた尻尾を垂らして、茉世の機嫌を窺う。
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