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ネイキッドと翼 ケモ耳天真爛漫長男夫/モラハラ気味クール美青年次男義弟/

ネイキッドと翼 56

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 力尽くで喉まで通したことのある牡の象徴は暴れない。暴れないものらしい。暴れずともそこにいられるようなのだ。茉世まつよの唇はたわわに実ったプラムの上を踊る。永世の匂いがした。人工的な花の香りもした。野生的な匂いも混ざっている。
「……っぁ」
 永世が頭上で息を詰める。彼の緊張が茉世にも伝わる。彼女はすももに接吻した。真上を見遣る。悩ましく寄せられた眉が艶冶えんやであった。視線がち合う。表情の変化に好奇心を煽られる。縺れ合うほど絡ませ、巻きつけ合った舌を出す。鈴桃を舐めた。
「は…………ッ、」
 捕まえた男体が強張った。平生へいぜい、まだ暑いなかで重い器具を自在に扱う力はどこへいったのか。目の前で膝をつく女よりもひ弱に見えた。
「永世さんの味がします……」
 彼は片手で顔を隠してしまった。色白なりに日焼けした顔が赤く染まっている。
「茉世さん……」
 一度這わせただけの頂に朝露が滲む。茉世は舌の裏で拭った。遅れて彼の味が口腔に広がる。
「茉世さ………ん」
「もっと、永世さんの味がします」
「汚い、ですから………汗もかきましたし……」
 茉世は構わずに李を舐めた。アイスクリームを舐めるようにしろ、といつかこの者は言っていなかったか。彼女は茎も舐め掬う。濃厚な口付けで口内炎を待っている舌先が血管でつまずいた。
「ぁ………う」
 見上げる。半開きの唇が濡れている。吸いたかった。だがまだ彼に生えているものを放したくなかった。
「きっと上手くはできないと思うんですけれど、口に入れてみてもいいですか……?」
 卑怯であった。上目遣いで、毛先を口元に巻き込み、彼女のそのつらはあざとい。
「茉世さんに、そんなことさせられません……」
「舐めてみたいです。手のほうが良いですか」
 白く細い指がいきり勃つ器官に巻きついた。上下に動かした。淑やかにしていた永世の身体が大きく跳ねる。
「あ、あっ……」
「舐めたいです」
 倒れ込みそうな首や額に汗が照っている。
「いいんですか……」
 彼女は頷いた。そして口腔に迎え入れた。鼻からかぐわしい牡の匂いが抜けていく。身体の芯が熱くなる。喉奥まで入れ、ゆっくり引き抜く。
「あ………っ、茉世さん………」
 幾度か繰り返し、勢いを強くする。酔ってしまう。目を瞑った。口腔に納めたものを唇で締め上げた。痛めつけたくはなかった。歯を立てないように努めた。
「 んぁ………っ」 
 彼から漏れ出る掠れ気味の声が茉世の髪を掴んで活塞かっそくを速めたかのようだった。 
「ふ……ん、ん、ん」
 彼女も吐息を漏らしていた。微かに甘やかな声が混じる。
 このまま爆ぜるところが見たかった。ゴムチューブ縛り、吹出物のごとく欲膿を吐かせるのではなく、己の力で彼の気のまま肉欲を受け止めたい。
「……茉世さん…………もう、出ますから…………」
 放せ、と髪を撫でていく。指の櫛から毛の波が撓んで落ちていく。蓮に買い与えられたシャンプーとトリートメントはその意図や価格帯のために使う気にならなかった。男女兼用のリンスインシャンプーを使っているのだった。身形には気を遣ってはいたが、特別手間暇をかけているわけではなかった。枝毛あれば縮れ毛も混ざっていよう。夏の日差しを浴びて傷んでもいよう。実際、髪色が抜けて照っているのもある。だが永世の手は使い込まれた柘植の櫛のようだ。紫外線に疲れた毛並みが艶めいていく。
「………茉世、さ………んッ、」
 毛先を梳いていった手櫛は、彼女の肩を叩く。困った顔が見たかった。潰し合い弾ませ合った唇を噛み、寄せられた眉とともに歪み瞳はすでに液体と化したキャラメルである。消え入っていく呻きが、彼女の耳を愛撫するかのようだった。
 茉世ははち切れそうになっているものを頬張ったまま首を振った。放したくないのだと、舌先を転がす。同じ人間だというのにまったく異なるその部分の構造を彼女はよく知らずにいた。意地の悪い舌先は硬く張りつつも骨だの歯だの爪だのとは異なる反発を持った組織に囲われた窪みをにじ る。
「あ……! う、ぅ………茉世さん………!」
 彼は背を丸め、前屈みになった。腰が揺れる。茉世の喉を打った。剃ったばかりの疎らな毛にぶつかる。汗のなかに昨夜の入浴剤が薫る。素肌に染みているように匂う。ホワイトブーケの香りだったはずである。永世には感じることのない髭の感触がそこにある。
「もう、っあ、あ………」
 しかし茉世は口を離してしまった。足音が聞えた。
『お風呂入ってるの、茉世ちゃん?』
 蘭だ。茉世は立ち上がった。足首が痛み、蹌踉よろめく。咄嗟に伸びてきた腕に支えられる。芳しい新鮮な汗の匂いが、真っ白なシャツに染みている。胸を引き締まった筋肉に凭れさせる。身体が軽くなった心地がした。
「はい。わたしです」
 答えながら、口を離した器官に指を絡める。鼓動している。緩やかに上下に動かした。
「茉世さん………なんで、」  
 永世の焦った声が楽しくなった。
『そっか! さっきはありがとうね。でもだいじょーぶ? 服汚れてたからさ……』
 乾ききらなかった口水が滑りを良くする。
「はい。少し外で転んでしまって……」
『怪我は?』
「大したことはありません」
『黒猫ちゃんがお風呂のドア開けてっていってるケド、どうする?』
 手淫は激しくなっていく。唾液ではない粘度の津液しんえきが新たに分泌され、水音が鳴る。扉一枚隔てたところには法律上の夫がいるというのに、茉世は手を止めなかった。鼻先をシャツに押し付け、陶酔する。思考が掻き消えるようだった。倫理観はもう飛んでいたに違いない。
「だめ、」
 彼が囁いた。小さく身を跳ねさせ、腰を上げる。茉世は手を止めた。
「ぅ、く……」
 彼は指の輪を通り抜けようとしていたが、その指の輪も消え失せ、ただ虚空を突き上げる。滑稽であった。しかしその切ない表情が淫猥で、茉世の身体をまた一際火照らせる。足首が疼いた。だが天然の鎮痛剤が効いている。穏やかで理知的、楚々としたこの男が、肉欲に囚われている。茉世は感動した。
「黒ちゃんは怪我をしていますから……」
『うん、前足片っぽ上げてるし……茉世ちゃんと一緒にいたいみたい。どうする?』
「怪我をしていますから、今日はダメです」
 真っ白なシャツを捲る。腕や膝下は浅褐色に焼けていたというのに、腹や胸はまだ小麦色程度にしか焼けていなかった。相対的に白く見える。田園風景のような腹回りとわずかに盛り上がった胸板が眼前に晒される。
『んなぉ……』
 昨晩、黒い猫もこの風呂場にいた。脱衣所で風呂から上がる茉世を待っていた。喚けばどうにでもなることを学習している。
「だめ、黒ちゃん。今日は我慢して」
 茉世は永世を見上げた。口元を押さえ、訴えるような眼差しを受ける。しかし彼女は聞かなかった。彼が赦すことを知っていた。
 湿しとる肌に頬を当てる。微かに吸着した。鼻から深くゆっくりと息を吸う。彼の体臭を探す。洗剤の匂いも入っていた。それから入浴剤も混ざっている。叢の跡地とはまた違う割合である。汗も薫る。
『仕方ないね、黒猫ちゃん』
 ハムスターのどんぐりは自室の押し入れに隠した。黒い猫は彼女と蓮の使っている部屋の二間を使えていた。
 足音が去っていく。茉世は眼交いに広がる汗ばんだ肌を吸った。
「茉世さん……、あとは、ひとりで………」
「いやです」
 首を振った。男の肉体を伝ってまた膝をつく。擦り傷に痛みが走ったが、上の空だった。目を閉じて、すでに乾いている肉銛を口に入れた。かえしに舌を這わせた。隙間を埋める。頬張りきれない幹を扱きながら、頭を動かした。
「ま……つよ、さん…………っ!」
 強制されたことがあるとはいえ、慣れない動きであった。だが彼女は夢中だった。一寸先の男体の変化が気になって仕方がない。そしてそれはおそらく、不本意に知らしめられたものとは違って見えるはずだった。
「放し、て…………あァッ!」
 言っていることと実際の行動は反対であった。彼は腰を茉世の口の方へ押しやる。咄嗟に後頭部へと添わった手の力加減にわずかな理性が籠もっていた程度である。
 熱い飛沫を喉奥に浴びた。やがて脈動するものが緩やかに出入りする。
 茉世はぼんやりした眼で、恍惚として射精の余韻に浸っている永世を見遣った。溶けたキャラメルを封じ込めた円板がかぎろう。
 淑やかな面構えの清楚な男から噴き上げたおぞましく生臭い粘り汁を溜めて、一気に飲む。喉越しはあまりいいとはいえなかった。痰が絡むようであった。永世の出したものが胃に落ちていく。遅れて生々しい味がこだまするようであった。えぐみがある。これが彼の味なのだ。彼のしなやかな躯体が内側で作っている味なのだ。彼の子孫のなり損ないの味なのだ。美味しくはない。だが昂揚感がある。気が狂いそうだ。許容値を越えた熱が局所的に脳を焼いているようだった。だが暑気中しょきあたりとも違う。意識も思考もしっかりしていた。ただ感情だけが自身で上手く理解できない。
「美味しかったです」
 味覚としては不味かった。それが食べ物として存在するならば避ける味と喉越しだった。しかし体内を駆け巡る澎湃ほうはい、興奮、情動を総合してしまった。
「飲んだの、ですか………」
「はい」
 茉世は口から出したばかりでまだ濡れそぼつ肉竿を彼のハーフパンツにしまった。そして慎重に立ち上がる。足首よりも下腹部が疼いている。彼女は腹に卵を抱えていた。疼くたびに異物を認識させられる。俯いてしまった。足元の陰が色を増す。視界が暗くなった。何度も鼻腔を通った香りに包まれる。
「上手く、できていましたか」
 抱擁が強くなる。化学繊維の奥の筋肉で、鼻先が折れ曲がってしまいそうだ。
「答えません!」
 声からしても、肉体の反応からしても、下手ではなかったようだ。
「お風呂に入ります。黒ちゃんの泥足で汚いですし……」
 転んだときの汚れもあの黒い猫に辜を着せた。
「分かりました。じゃあ……またお夕飯の際に」
 茉世は離れかける白いシャツを握った。見上げる。蕩けた眼を覗いた。
「遊んでくれてありがとうございます」
 唇が降りてくる。同じことをしていても、ひとつひとつ具合が違う。浅く触れるだけであった。弾かれ合うようにして離れた。
「気を付けて入浴してください」
 今度は頬にキスをして彼は脱衣所から出ていった。しかしドアの隙間から黒い猫が入り込む。
「あ! っれ……―猫さん!」
 永世はすぐに踵を返した。猫は片前足を招き猫のごとく持ち上げて、三つ足で跳ねるように茉世の元へやって来た。返すのも面倒になっていた。
「大丈夫ですよ。黒ちゃんと一緒に入ります」
「んなぅ………ううーん。にゃう」
 入ってきたときから黒い毛玉は重低音を響かせて振動していた。声はしわがれて、聞いているのも喉が痒くなってくる。
「黒ちゃん、疲れたでしょう」
 空の籠を見つけ、タオルを敷き詰めて黒い猫を乗せた。撫でていると、丸くなって寝はじめる。無心で撫でていた。紫色を帯びた毛並みが美しい。柔らかく艷やか。飼い猫に違いなかった。それかもしくは、餌付けされている。待っている人がいるはずだ。
 彼女は猫に背を向け、服を脱いだ。床に落ちるものがある。房飾りのついたイヤリングに似た機構のものだった。拾って、捨ててしまった。入浴剤や洗濯機のフィルター汚れだのが入ったゴミ箱に消えていく。軽快な音がする。呆然としていた。永世の態度は変わらなかった。それがすべてだ。考えても仕方がないのだ。彼は"赦し"てくれたようなのだ。時が戻るわけでもない。記憶をどうにかできるわけでもない。
 脱衣所から浴室へ移った。まだ何の手当てもしていない膝の傷が気後れさせる。
 まだ風呂釜は洗われていなかった。ついでに洗って湯を沸かしてしまえば、霖もいつもより早く入浴できる。茉世はしかしその前にやることがあった。あまりにも屈辱的であった。羞悪に襲われる。しかしやらねばならないことが。
 シャワーを出した。流水音が嫌悪を緩和するかもしれなかった。
 背にある窓が軋んだ。風だろうか。軋む。網戸が横に滑る。クマか。だがこの地域に出る野生動物など、猫を除けば精々タヌキかハクビシン。それは人の手がなければできない動きであった。振り返る。換気のために窓ガラスはわずかに開いていた。戸先框にネイルカラーのされた指が掛かる。
「よっこらセックスと……」
 片腕で長身を支え窓台に乗り上がる。夢を見ているのではあるまいか。悪夢を。
 茉世は腰骨を失くしたのかと思った。ダルマ落としのごとく、下肢をどこかへ落としてしまったのかと。けれども案ずることはない。腰はあった。下肢もあった。ただ力が入らなかっただけのことである。尻から冷たいタイルへ落ちただけのことだ。
 一度玄関を通って帰ったはずの人間が、風呂場から入ってくるとは容易に想像できまい。
 青山藍だった。裸足でタイルへ着地する。
「ど………して…………」
 呼吸が絞られていた。目眩がする。視界が眩しく感じられ、鼓動が早鐘を打っている。
「オネエサン、タマゴちゃんと産んだかなって思ってシンパイになって戻ってきちゃった」
 青山藍は浴室を見回した。一般家庭の風呂場よりも広いのだろう。
「混浴用じゃん、こんなん。オネエサン、家族多いからミンナと混浴シてるの? や~ん、エッチ。いつも家族のミンナとエッチ風呂入ってるんだ?」
 茉世は裸体を守り、壁に張り付いた。下肢に力は入らず、逃げられそうになかった。
うたさんは、どうしたんですか……」
「タクシーに乗せて帰らせたよ? トーゼンじゃん。オネエサンと違って若くてカワイイから、こんな田舎歩かせたらヘンタイに何サれるかワカンナイよ。オネエサンはブスババアだからカンケーないけどね」
 ペディキュアを見せつけて青山は茉世へにじり寄る。
「来ないでください。大声を出しますよ」
「出せばぁ? ホントは困るのオネエサンでしょ。ケーサツ呼びな? ウシナウモノあるのオネエサンのほうぢゃない? さっさと大声出しなよ、オネエサン。ワタシが出してアゲヨッカ?」
 軽い咳払いのあと、青山は口元に拳を作った。マイクのつもりなのだろう。
「あ゛あ゛~」
 地を這うような低い濁声が漏れる。
「"ブロークンハート"にbroken heart
 ファンの皆さん『はぁ?』と落胆の色 歌って踊れる現代アート お次はBANG SANG KANGが『最期の晩餐だ』文秋もんしゅうサンダー アイドル様が? ここは戦場! 心の競争 損得勘定渦巻く真っ黒根性 根本もとから洗浄 今さら何を? ロンダリングてどんな文句 身の程知らずのマジで天狗 どうする気? トカゲの尻尾切り『ああ名案』オマエの番だばん
 地獄から這い出てきた悪魔というのはこういう声質をしているのだろう。水持ちの悪い毛筆のように掠れている。平生の音吐おんととはまるで違う。
「カラオケにチョウドイイね、オネエサン。でも踊るには滑るな」
「か、帰ってください……」 
「帰ってアゲてもいいよ? でもタマゴ出したか見せて。タベモノなんだよ、アレ。腐ったりしてオネエサンのおまんこがビョーキになったらドウスルの? キツキツとろとろのおまんこしか取り柄ナイんだよ? オネエサンのおまんこはワタシのおちんぽキモチヨクする義務があるのに」
 茉世は自身の両肩を強く握った。爪を立てた。恐怖を痛みで誤魔化した。息が荒くなる。けれども息苦しい。身体に力は入らず、目眩がする。壁に額を擦り付ける。
「こ、来ないでください……」
「ほら、産卵しなきゃ、オネエサン」
「よしてください……もう赦して……」
 顎が戦慄く。歯が鳴った。
「カワイソウ! オネエサン、カワイソウ! サムいの? 震えて、カワイイね!」
 青山藍は口の端を吊り上げた。そして甚振るような歩みを速め、茉世の手の上から手を重ねる。彼女は手も震えていた。
「あっためてアゲル! オネエサン、カワイイね。子猫ちゃんぢゃん」
「帰って………帰ってください……………帰って…………」
「嫌だよ。おまんこビョーキになったら元気なアカチャン埋めないよ? レスって子作りセックスしないダンナさんに限って自然受精がイイとか言い出すんだから。アイツ等はクリエイティビティがないから、なんでか量産型コピペみたいにオナジコト言うんだよなぁ。おまんこビョーキになったらタイヘンぢゃん、オネエサン。オネエサンのアカチャン、ワタシも抱っこシたいな。アカチャンと一緒にオネエサンのデカぱいワタシも飲む!」
 茉世は首を振った。意表を突かれた登場が、さらに彼女の感情を揺さぶった。彼女は嗚咽していた。
「泣けばイイと思ってるんだ、オネエサン。泣いてもおまんこはビョーキになるし、子作りセックスしなきゃアカチャンデキないんだよ? ただでさえあんまりセーヨク強そうじゃないダンナさんなんだからさ、数こなさなきゃダメだよ。今晩セックスするの? それまでタマゴ入れとく? 泣いてちゃワカンナイよ、オネエサン。おクチがあるなら喋らなきゃ。下のおクチで喋る? 下のおチツで? オネエサン。でも今タマゴ入ってるんでしょ?」
 青山藍は自身を彼女の味方だと疑っていないようであった。誰に怯えて泣いているのか分かっているのかいないのか、彼女の頭を撫で回す。髪は乱れて毛先で絡む。
「うわぁ、オネエサン。ちゃんとヘアケアしな? オトコなんてバカだから、オンナノコは自然体デフォで髪ちゅるんちゅるんのツヤッツヤだと思い込んでるんだから。でも髪フェチのオトコはタイヘンヘンタイだからヤメたほうがイイと思う」
 長い指が百舌鳥もずの巣めいた毛先を揉み梳かす。
「リコンすれば? オネエサン。ワタシがケッコンしてあげるよ。カノジョはいるけどヨメはいないし。オネエサン、ブスでババアでこの歳になっても泣き虫で、おまんことデカぱいしか取り柄ナイなんてモウ他に嫁の貰い手イナイでしょ? 売れ残りカワイソウだからケッコンしてアゲル! 毎日お味噌汁作ってアゲル! ワタシ和食スキスキだから。毎日セックスしていっぱいイかせてアゲルから、お昼頃まで寝てればイイぢゃない。どうせブスババアだし鈍臭そうだから、ナンモ期待シないし!」
 茉世は噎びながら首を振る。
「でもオネエサンもホントはイヤなんぢゃないの。ナンデ指輪シてないの? オンナさん、喜んで指輪スるじゃん。仕事で指輪ダメなの? でもオネエサン、ニートだよね? あ、"専業主婦は仕事デス"派閥? おまんこシて稼いでるから仕事だね。エライねー、よちよち」
 彼女はただ首を振った。
「帰ってください……」
「オモティエの指輪ぢゃないから、ハズカシイの? 別にフォンドスーでもイイぢゃない。若作りしようとシてて必死なのカワイイぢゃん。ワタシならオネエサンには、ヘンリー・ヴィンセントの指輪にするけどなぁ」
 もし仮に、蘭から指輪を贈られたのだとしても、この男の前で嵌めているのは賢明ではないのだろう。
「帰ってください……」
「そんな帰ってホシイならさ、早くタマゴ産んでよ。ワタシまだ晩ゴハンタベテナイの。産んで? 早く」
 茉世は力強く首を振る。
「ワタシが目の前で餓死シてもイイんっていうんだ? ヒトゴロシぢゃん、オネエサン。 ヒットゴロシっ! ヒットゴロシ!」
 青山はリズムをつけ、手を打ち鳴らした。
「んにゃん……」
 脱衣所の猫がガラス戸の奥で寝呆けた声を漏らす。あの黒い猫が騒げば、人が来る。
「やめて……」
 青山の腕を掴んだ。添えただけの力だというのに筋肉質なその手は簡単に止まる。
「じゃあヤるコト、ワカッテルよね?」
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「そんな体勢かっこで産めるワケないよ、オネエサン」
 紺青の爪の鮮やかな指が彼女の脹脛を掴んで引き寄せる。
「ああッ!」
 タイルへ引き倒され、脚は上下に開いていた。生々しい粘膜を晒している。だがブルーのカラーコンタクトレンズは茉世の目を見ていた。
「ハズカシイんでしょ、オネエサン。おまんこなんて見慣れてるからさ。オネエサンのタマゴ産むカオ見ててあげりゅ!」
 顔を覆った。寒さと熱さの両方が共存した。激しい羞恥に顔は真っ赤に染まり、爛れたのかと思うほど血の巡りによって鼓動している。だが首から下は寒かった。それでいて汗ばんでいる。
「い、いや………!」
「ナンデ? ワタシ、ヤサシイでしょ? ほら、ガンバッテ、オネエサン。ひっ、ひっ、ふー!」
 青山も同じ姿勢で添い寝する。脹脛を掴んでいた手は彼女の膝裏を捉え、さらに脚を上げさせた。
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