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蜜花イけ贄(18話~) 不定期更新/和風/蛇姦/ケモ耳男/男喘ぎ/その他未定につき地雷注意

蜜花イけ贄 37

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 呻めきが聞こえた。鋒は逆刃である。葵はぼんやりしていたが、桔梗はその刀の持ち主を見遣った。恐ろしいことだった。まさに亡霊がいる。哀れな金雀枝えにしだを肉盾に貫かれ没した狂人がそこに立っているのだ。白髪に、白磁のように真っ白い肌と、線の細い躯体についた筋肉。上半身は裸である。逆刃刀を力無く下ろすと、宙を向いて呻く。死んだはずの卯木うつぎがそこに佇立ちょりつしている。刺された刀傷もない、若々しく瑞々しい肉体であった。そして彼は白痴であった。卯木がそこに立っている。亡霊がそこに形と陰を持って佇んでいる。
 葵はふらついた足取りで桔梗の前に出て、亡霊から隠した。
 逆刃刀は再び葵を目掛けて突き進む。彼は背後の桔梗を突き飛ばし、伸びてきたきっさきを横から叩き弾く。じめじめと黴臭い雰囲気が消え失せる。周囲にいる人間の皮膚にやすりを滑らせるような空気が張り詰めた。
 葵は懐剣を引き抜く。だが亡霊は、反対に刀を納めた。その後方から、いやらしく揉み手、擦り手の奇妙な男が現れた。眦に線を引いた化粧のその者は、医者だと貴人が言っていなかったか。
「卯ノハナ殿、卯ノハナ殿……失礼、失礼。こちらは卯ノハナ殿と申しまして、葵様はよくご存知、卯木殿のご同胞きょうだいでございまして……卯ノハナ殿は妊婦に男が近付くのを嫌がるのでございます。妊婦に男が近付くのを……」
 奇妙な男は媚びへつらう笑みを浮かべている。
「妊婦……」
 葵が虚ろに呟いた。
「卯ノハナ殿はたいへんな名医でございまして……卯ノハナ殿の見立てによれば、桔梗様………ンー、貴女は妊娠しております」
 時が止まった。桔梗は崖から突き落とされた心地がした。格子の中のダリアが蜘蛛みたいに組み木の上を這った。
「俺の子ですか……」
 脱殻のような目から涙が落ちる。
「俺の子ですか?俺の子ですか!」
 彼は桔梗にしがみついた。吠えるように問い詰める。
「そこまではまだ、卯ノハナ殿にも分からないようです」
 桔梗は首を振った。頭を抱えた。すべてが穢らわしく感じられた。刃物のひとつでも見たら、腹を抉り取ってしまいそうであった。
「桔梗様……、」
 葵の頬に逆刃刀の鋒が突きつけられる。気の抜けた呻めきが聞こえる。
「卯ノハナ殿は、胎児時代に母胎を裂かれ、引き摺り出されたのでございます。その頃のことを、類稀な知能ゆえに覚えているのでしょう。よって、妊婦に男が近付くのを嫌がるのでございます。ご理解くださいませ、葵様」
 葵はぼんやりしながら、桔梗を視界から外した。
富貴菊ふきぎく殿を呼んでください……」
 手を打ち鳴らし、隠密衆を呼ぶ。そしてまた桔梗を見遣った。
「富貴菊殿とは、俺から話をつけます。それから、茉莉様とも……」
 鏡面みたいな眼をしていたが、彼は桔梗の腹の子が自身の胤だと疑っていないようだった。
 桔梗は嫌になってしまった。うんざりしてしまった。猛烈な羞悪に襲われた。どこか遠くへ行ってしまいたくなった。彼女はこの場に居られなかった。逃げ出してしまった。だが許されなかった。ぼとぼとと隠密衆が降りてきて、桔梗を捕らえた。随分と加減されていたのは身重のためか。だが彼女への接触を、卯ノハナとかいう白痴の少年は赦さない。すぐさま抜刀し、隠密衆を打ち据えようとした。だが葵が割り入った。金属音が乱れる。
 桔梗は隠密衆を振り解く気も起きなかった。放心していた。
 胡散臭そうな奇妙な男が通りかかった女の奉公人に命じ、その場は治まった。


 茉莉はすぐに時間を設けた。桔梗は引き摺られていった。
 貴人は御座所おわしましどころで肘枕の高枕、腹を掻いて寝そべっていた。しまいには鼻をほじる。
「は~、孕んだんだ?」
 桔梗の登場に、茉莉はひょいと起き上がる。
「葵の初子ういごはおれがもらうことになってるんだけど、母親が君じゃあねぇ……っていうか本当に葵の子?」
 桔梗は貴人に会う衣装に着せ替えられ、緩やかないましめを腕に嵌めていた。
「卯ノハナも、そこまではさすがに……」
 先に来ていた胡散臭い奇妙な男が、御座所の傍らで口添えた。その隣に仕切りに左見右見とみこうみして呻く真っ白な美少年が座っている。一目で白痴だと知れた。彼は胴体を腕ごと縄で括られていた。
「ふぅん。女は托卵が趣味だからね。生き甲斐だから。ねぇ?桔梗。葵の子でしょう?苧環おだまきはないね、早すぎる。山茶さんざともったんだっけ?」
「山茶様ではございません。それから、枸橘からたち殿とも致しました」
 桔梗は冷然と答えた。貴人を睨み上げる。
「あっはっはっ!枸橘とも交尾つるんだの?見境がないね。でも枸橘の子ってことはないな。もし枸橘の子だったら、歴史がひっくり返るよ。断種にかけてはこの国の随一の大先生が切ったんだから。片輪が生まれないと困るけどね!隠密衆が減っちゃったから。だから枸橘の子はない。君が夫みたいに扱ってた土百姓は?」
「あの者とは何もございませんでした」
 貴人は満足そうである。
「おかしいね?どういう仲だったの。君のような淫乱を相手に、珍棒も勃たせなかったの?男色か、白痴だな。君も、迫らなかったの?男色か白痴で、君の饅腔に挿れるための珍棒が勃たなかったのかな。君の饅腔の奥で子種汁を吐き出すための珍棒が、かっちかちに硬くそそり勃たなかったわけだ?君の饅腔に珍棒を挿れる期待と欲望がなかったというわけ?男の身で?言い寄られている男の身で、珍棒を挿れる期待を抱かなかったわけか。君の饅腔と珍棒を繋げたまま暮らしたい葵が聞いたら可哀想な話だよ。白痴にだって珍棒を千摺りたい欲望はあるものさ。冤枉えんおうに見せかけて、実のところは人狼ひとおおかみじゃなかろうね?」
 いやらしい眼差しは、桔梗をどう辱めようかと愉悦に歪む。
「……わたくしがその気のないあの人を襲って拵えた人狼の子かも知れません」
「結構、結構。是非とも産んでほしいな。おれは是非とも産んでほしいんだよ。どんな恐ろしいが生まれるのだか、気になるからね。人狼ならば首輪をかけて、男や女に成る前に殺せばいいのさ。人狼の被害に遭った人々に石を投げさせて殺せばね。その頃には葵の面影か、君の間夫まぶの面影か、分かるだろうね。絵物語みたいに、女親か男親の完全な模倣が生まれることはないよ。どちらかに似たとしても、完全じゃない。生き写しじゃあ、男と女の業というものを無視している。誰もが望むところだよ!男も女も要らないだなんて。珍矛がかっちかちに聳り勃ち、珍宝袋がぎゅんぎゅんすることも、お饅腔が疼く必要もないんだからね。安寧が訪れるよ、そして退屈もね。珍棒を扱きたい欲求、饅腔に出し入れしたい欲望があるだけのところを、いつのまにか饅腔に珍矛を挿れたくて、さらには子供が欲しく、それは自然な願いだと言い始めてきているのだから恐ろしいな。子供が欲しいんじゃないだろう。珍棒を扱き倒して、白い粘液を噴き出したいだけでしょうが。饅腔に棒を出し入れして、気をやりたいだけでしょうが。だからね、桔梗。是非とも、産んで欲しい。男が欲しくて濡れた饅腔に、人狼のかちかちの珍棒を出し入れして、噴き出た白い粘液を受け止めたならね」
 貴人は桔梗を舐めるように見ていた。そこに、葵と富貴菊が揃って到着した。
「富貴菊は、桔梗の饅腔の味は知らないんだよね」
 大広間には、他にも人がいるのである。貴人は"可愛い家臣"たちを、このようにして"可愛い"がるのである。
「はい」
 桔梗を挟んで、葵と富貴菊が傍に平伏した。
「じゃあやっぱり、葵?」
 可能性として、もう1人いる。謂れのない罪を被せられて没した男とは何もなかったが、もう1人、腹の子の父親かもしれない候補がいる。だが桔梗は言わなかった。
「富貴菊はどうしたい。君の意見を尊重するよ。桔梗は君にやるはずだったのだし、葵には妻がいるし。君が堕ろせと言うのなら、堕ろさせるよ。それが筋だよね。浮気者の子供の生殺与奪権は正規の相手にあるべきだ。浮気者に子を持つ権利なんてそもそもないんだし」
 富貴菊は深々と頭を伏せた。
わたくしはまだ、桔梗とは正式な婚姻関係にはございません。葵の妻の意見に従います」
「ふん、ふん。で、一応訊いておくけど、葵はどうしたい」
 葵もまた畳へ額を擦り付けた。
わたくしは、桔梗をめかけにしたく存じます」
「ふぅん。まぁ、予想どおりか。でも妾って、妻の承諾がいるんだよな。なずなちゃん、許してくれると思う?」
 返答はなかった。
「桔梗は、仮に薺ちゃんの許しが出たとして、葵の妾になりたい?」
「いいえ」
 貴人はにんまりと笑った。
「ふぅん。何故どうして?」
「もし許しが出たとしたら、それはわたくしや葵殿のためではなく、わたくしの腹の子のためでしょう。ともに成熟した女でございます。他人の子であっても、それが不義の子であっても、不合理な情は湧くものです。葵殿の奥方の本心ではないかもしれません。腹の子をしちにしているようなものでございます」
 貴人は富貴菊を見遣った。富貴菊は頭を伏せた。
「いっそ早いところ富貴菊と契って、富貴菊の子にするかい。富貴菊の本当の子は、ちゃんと目を掛けるから。―緋熊ひぐまに殺されたんだっけね、嫁と子供は」
「はい」
「食われたんだっけね?頭だけしか残らず?」
「はい」
 畳についた大きな手が震えているのを桔梗は見た。爪が白くなるほど、編み目に食い込んでいる。
「で?」
「……男としての矜持を失いました」
 その声は低すぎるあまり、掠れて消え入る。
「うん。じゃあ、桔梗で徐々になおしていくことだよ。他人の種の子を育ててみて、自分の子を拵えたら、殺せばいい。おれにくれたら、殺しておいてあげるよ。間夫との子供なんてまともに育たないのだから、産ませて、春将しゅんじょうの役に立ったなら、立派な有効活用だよ。あのね、国は子供を宝にしてるというけれど、片輪は子供じゃないよ。五体が揃っていたからなんだというんだ?五感が利いているからといって?その身体に流れる血潮が片輪なんじゃあ意味がないよ。裏切りと淫蕩という片輪じゃ。つまり、ちゃんとおれの"可愛い"民草が宝なのであって、腹のぼてついた女が饅腔からり出した垢まみれの生臭いガキ畜生が宝だなんてそんなわけがあるか。価値がつくのはその後だよ!」
 御手みてから鉄扇が投げられる。畳についた葵の手にぶつかった。白い皮膚が削れ、徐々に赤みが滲み出る。
「男としての矜持か、いい言葉だよ。珍棒が勃たない、珍甲ちんこうから生臭い樹液を噴き出せない。男の生きる意味なんて、珍矛をかっちかちにして饅腔を激しく突き、気をやらせ、薯蕷とろろ汁を出してやることくらいだからね。これを矜持として見るのは正しいし、そのとおりだよ。でも富貴菊。君の役目はそんな些末なものじゃないよ。いい男だね。おれだって変な気を起こせば、君ほどの強い男になら抱かれても構わないと思っているよ。男社会は即物的だからね。男の肉体としての矜持を失ったら、男色家でなくとも強者の男に尻の穴を貸し、珍棒を舐め、尻に接吻してやるくらいのことは当然だよね。この、"男の肉体としての矜持"っていうのは、珍甲を硬くすることじゃない。珍甲を饅腔の締め付けに勝てるほど硬く大きくすることじゃない。君はそれほど、強い男なんだよ。自信を持っていい。いい美丈夫だよ。おれが姫君だったら、喜んで饅腔をぬるつかせ、脚を開いたね。秀でた胤なら、どんな饅腔も喜んで肥沃な畑になるのさ。君が馬なら、種馬にしたよ。あらゆる牝馬に君の種を植え付けたよ。惜しいな!君が人なのが惜しい!君から"男としての矜持"を奪った緋熊が憎いよ!絶滅させよう。約束するよ」
 富貴菊はさらに頭を下げる。貴人はそれを見遣ることもなく立ち上がった。そして鉄扇を拾いに皮膚の破れた手の甲へ近付いた。
「種馬がいるな!」
 金糸の刺繍が入った真っ白な足袋が、血を踏んだ。
「ここに種馬がいるぞ!」
 大広間で貴人は叫んだ。誰に伝えるでもない。気がれたようだった。
 白い手から、さらに血が滲んでいく。
「雪女みたいなつらをして、君に女を孕ませる能力があったなんて、興奮してきたな。おれはい女同士が貝合わせをするのが大好きなんだよ。種馬雪女め。貝合わせをするように桔梗を孕ませ、次は薺ちゃんを孕ませるわけだ。雪女みたいなつらをして!種馬め」
 拾った鉄扇で、貴人は雪姫面の種馬の頬をぺちりぺちり叩き、愉快に嗤った。
「君等に御殿の女の孕ませ合戦をして欲しいよ!弔い合戦があるんだから、孕ませ合戦があってもいいでしょうが。女どもにも悪い話じゃないだろう。けれど問題があるな。富貴菊春将で女は饅腔を疼かせ、ぬるつかせて、孕む支度が万端なのに、肝心の富貴菊には"男としての矜持"が奪われてしまった。そこに雪女面をした種馬が紛れ込む。富貴菊に不利だな。珍棒さえおっ勃てば、君のような男は強靭な研ぎ汁を放ち、すぐにガキ畜生を》えることができるのにねえ!葵、確かに君の雪女めいた美貌でも女は引っ掛かるよ。でも饅腔には響かない気がするな。何故だか分かるかい?君は美貌なだけであって、富貴菊のように女を貪り食える能があるようには見えないからだ。太ましく逞しい腕、何でも受け止める胸板、硬い腹と、一撃で饅腔の快いところを仕留められる槍を持っているのか、ぶら下げているのか、すぐには分からないからさ」
 上等な足袋が、雪女のつらをした種馬の手を踏みにじった。
「主上……御々手おみてを、どうか………」
 頭を伏せたままの富貴菊が呻くように口にした。
「ああ、気付かなかったよ。すまないね、葵。桔梗の擦り切れた饅腔をくぐり抜けて、生まれたことを嘆きながら泣き喚いて産まれてくるガキ畜生を抱き上げるためだけの手だもんね。すまないな!」
 貴人は皮膚の破れた手を拾い上げ、鉄扇をぺちりとそこに叩きつける。
「卯ノハナくん。桔梗の饅腔を嗅いで、葵の子かどうか、分からないものかね」
「無理があるかと」
 卯ノハナに付き添う奇妙な男が言った。
「本当かな、紅黄こうおう。饅腔の匂いを嗅いで、分からない?」
「卯ノハナは犬ではございません」
「犬ならできるわけだ?でもこのいぬはダメだな。この狗馬は!種付けだけの駄犬だよ。今ここで桔梗の股を嗅がせたら、自分が父親だと言い張るさ。桔梗の饅腔の匂いを嗅いで、ここで発情するのさ!そしてここでまた交尾むのさ。犬は多産だからね!桔梗の胎のなかにも何匹ガキがいるんだか。可哀想な命を増やすな!巨悪を!山に捨てたらどうなる?緋熊の糧になっちゃうでしょうが。そうして人の味を覚え、人を食い、富貴菊のように"男としての矜持"を失うんだよ!珍棒が勃たなくなっちゃうわけだ。珍甲をかっちかちに硬くし、女の桃みたいな尻に腰を打ち付け、胎のなかに臭汁を出せなくなっちゃうでしょうが!葵が桔梗にしたみたいに、珍矛を饅腔に擦り付けられないでしょうが!え?」
 また貴人は叫んだ。葵も富貴菊も晒し者であった。
「薺ちゃんの前で、桔梗のお饅腔を嗅いでもらおうか。父親は誰なのだろう?人狼ひとおおかみは臭いというからね、人狼のガキ畜生ならすぐに分かるよ。桔梗が必死に腰を振っても振り向いてくれなかった男色家か、ガキ漁色士か、異常性癖者か、獣姦士か……葵、生まれちゃってから葵の子じゃなかったらどうするの?その売女ばいたはたくさんの男の珍棒を咥え込んで肉色の雛鳥を跳ねさせているんだよ。捨てておきなさい。富貴菊に任せておきなさい。君には梔子くちなしを上げたでしょ。本物と違って、まだ饅腔はきつかろうに。子供を産めないと嫌なの?子壺をとってしまったから?でも見た目は桔梗だけれども、それは顔を切って縫って貼って詰めたからだよ。生まれる子の顔は違うのだから、惜しむことはないね」
「桔梗の血を引いているのなら、わたくしの子も同然です……」
 鉄扇を突きつけられ、頬を歪めたまま葵は喋った。
「桔梗の血脈なら?」
「桔梗の胎の子の父親が、私でなくても構いません…………ですから、どうか…………」
 貴人は残忍な愉悦を持って、葵を見下ろす。
「桔梗の血脈なら……か。よく言うよ。じゃあどうして苧環おだまきくんに刃を向けて脅迫しただけでなく、殴りかかって縛り上げたりしたの」
 鉄扇は、雪女めいた面貌から離れ、小さく軋んで翅を広げた。房飾りが揺蕩う。貴人は自身を煽いでいた。
「どうして?羨望?」
 桔梗は貴人の顔を見ていた。葵もそのときばかりは、正気のうつけみたいな面構えであった。
「え、何、薺ちゃんから聞いてのことじゃないの。苧環くんは桔梗の弟なんだけど」
 次々と、桔梗は己も知らぬ我が身のことを語られて、鈍い頭痛と肩凝りに似た眩暈を覚えた。倒れかけたところを、富貴菊が支え、卯ノハナが立ちかけるところを、紅黄とかいう胡散臭そうな男が制した。
「探したんだよ、色々辿って。桔梗、知らなかった?苧環くんも君が姉だとは知らないだろうね。言えないよ!なんでも珍棒を舐めしゃぶる女が姉だなんて!言えるわけないよ!善良な魂を持っていたら、普通、言えるわけないよ!」
 空気が冷えていく。貴人の尊顔は、悪趣味に拉げる。
「え、何、葵、知ってて苧環くんをとっ捕まえたんじゃないの。姉弟の倒錯的な交尾が見たかったんじゃないんだ?そこに優越感と支配欲を燃やして、質の良い自涜に耽りたかったんじゃ?」
 葵の色の悪い罅割れた唇が、はくはくと戦慄いた。
「ま、いいや。紅黄、卯ノハナを連れ出してくれないかな。桔梗の腕を持っていて。ガキ畜生に乳をくれなきゃいけないでしょう。今のうちに、いい乳が出るよう揉んでおいてあげないと」
 奇妙な風采の男は、卯ノハナを大広間から連れていった。貴人は葵と富貴菊の間で視線を彷徨わせる。
「富貴菊。桔梗の腕を持っていてあげて。おれが桔梗の乳を按摩するから」
 富貴菊は頭を低く下げた。
「御意」
 そして桔梗の真横へ来ると、彼女の腕を力強く持ち上げた。
「茉莉様……」
 桔梗は、近付いてくる貴人の御姿に当惑する。まだ、自身に弟がいたこと、そしてそれが苧環であること、その者の肉体を知っていることが、上手く処理できていないかった。漏斗に煮凝りを流し込んでいるようなものだった。
「懐妊おめでとう。誰の子か知らないけど、桔梗の子であることはまず間違いないものね。躑躅には自分から報告する?誰の子にしておくのが一番、負担にならないかな。富貴菊だと思うな」
 貴人は桔梗の後ろへ回り、腰を下ろす。彼女は薄ら寒くなった。身体中に長い蛇が巻き付いているみたいだった。
「いい乳汁を出してあげないと。この大きな乳が、ぽんと出てきたガキ屑のものになるなんて赦せないな。けしからんよ」
 御手がまだ胎の出ていない妊婦の胸の膨らみに触れた。
「おれのものになると思ったんだけどな。この大きないやらしい乳が憎いよ」
 帯が解かれていく。衿元が弛み、御手が忍び込んでいく。
「見ておきなよ、葵。ちゃんと自分の莫迦ガキが飲む乳を、扱いて吸いやすいようにしてあげておかなきゃあいけないよ」
 桔梗は逃げようとしたが、腕は富貴菊に捕まれ、後ろには茉莉が絡みついている。葵へ、素肌を曝していた。
「ぃ、や……!」
「こんな美味しそうな乳頭をして!乳を出せるのかな。ガキ屑が吸う前に、他の男どもが吸い尽くしてしまいそうだよ」
 白い肌に色付く小さな実を、貴い指先が摘んでいく。
「ぁ……っ!ん」
「ガキ屑に吸われながら、君は快楽を極めるのかい?本当に、淫乱な女だな。こんなに乳首を硬くして!悪い母親だよ」
 指の腹で鼓動に合わせて圧迫されている。甘美な痺れが、羞恥を溶かしていきそうなのである。
「ふ、ぁ………茉莉、さま………」
 掌で乳房全体を持ち上げ、指先は天を衝く突起を捏ねていく。子が宿っているとかいう胎が淫らに痺れ、みなぎるような熱と潤みを感じた。
「桔梗?お前は母親失格だよ。ただの牝だよ。こんなことで感じでいるんだね?胎の子の父親ではなく、おれのことをそんないやらしく呼ぶなんて」
 甘くまろかな刺激から、痛みになる間際の鋭い刺激へ切り替わる。感覚に慣れることを赦さなかった。芯を持った実粒が拉げるほど撚り潰される。
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 腰が揺れた。立ち上がろとしてしまう。茉莉は彼女の背中に纏わりついた。絢爛な召物に包まれた腕が、しっかりと女体を捕捉する。
「ああ………、ぃや…………っ、あぁん」
 小さな勃起を指が轢いていく。快感に次ぐ快感で、頭の中は沸騰しそうであった。
「お父さんを見てあげて」
 耳元に貴人の息吹がかかる。それもまた腰に痺れが駆けていく原因になった。
「ほら」
 頭を掴まれ、胎の子の父親のほうへ首を曲げられる。
 煮え滾った瞳が彼女を向いていた。目瞬きを忘れたような執拗さであった。それは胎の子の父親が分からない桔梗本人にも、胎の子の父親だと、否、胎に子が宿っていると実感もなく確信させてしまうような偏執的な眼差しであった。そしてそれを、牝の悦びだと錯覚してしまうような。
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