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ネイキッドと翼 ケモ耳天真爛漫長男夫/モラハラ気味クール美青年次男義弟/
ネイキッドと翼 28
しおりを挟む茉世は三途賽川の家に戻っていた。玄関に立っている。だが彼女には、まったく、そのような記憶がない。
彼女は自身に肉体の選択権がないかのようにそこに立ち尽くしていた。足に自由があることを忘れていた。
見知った間取りを眺めながら呆然と佇んでいると、奥の廊下を女が横切っていった。茉世は猫背気味で俯き気味の、暗い女の姿を知っていた。見覚えがある。だがありのままを知っているのではなかった。その者は、姑であった。
茉世はやっと、己の自由を思い出した。義母を追いかける。知った姿よりも若く見えたが、しかし老けても見えた。だが、立って、自力で歩いている。
台所に向かった姑の背中を捉える。金属の擦れる甲高い音が茉世の耳に届いた。包丁を手に取っている。しゃりん……しゃりん……と聞こえるのは、白刃を研いでいる音である。
三途賽川夫人の顔には痣や傷が目立った。乱れた髪に櫛を通した形跡はない。白い貌が黒い毬藻の中に浮かんでいるようだった。茉世は視界に色がないことに気付く。視覚は黒と白の濃淡で形成されていた。
三途賽川夫人は徐ろに振り返った。包丁を手にしている。茉世がいることに気付いていないようだった。ひた……ひた……と裸足で台所の床を踏み締め、廊下を戻っていく。また、後を追った。この三途賽川宅は茉世のよく知る間取りであったが、知らない内装をしているところもあった。漆喰の壁だったはずの場所が煤けた綿壁になっている。床も、白木の模様のフローリングだったのが、重厚げな質感に暗い色味をしている。
三途賽川夫人は、永世が使っているはずの部屋の襖をのっそりと開けた。布団が敷いてある。乱れて翻った布団に、男児が寝ていた。絆である。まだ身綺麗にする術のない、野暮ったい絆だ。安らかな寝息をたてている。その傍らに腰を下ろし、振りかぶった鋒は勢いよく小さな首へ下ろされた。
男児の目が見開かれた。人形の球体ガラスでできたような眼差しであった。力加減もなく、極限まで目蓋が持ち上がり、やがて落ちていく。
茉世は驚いていたが、同時にこれが現実ではないと知れていた。ゆえに、驚愕と焦燥には至らなかった。
三途賽川夫人は息子を手にかけた。だがとてもそうとは思えない態度だった。その挙措動作は前後で変わらない。平然としている。息子を愛しても、恨んでもいなかったような有様だ。三途賽川夫人にとって、実の三男は何も気に留めることもない存在であるらしかった。
血を吹き出している小さな死骸の乗った布団から離れ、のっそり、のっそりと歩く三途賽川夫人を追う。襖は入室者を拒むかのごとく固く閉じている。
三途賽川夫人は邸内を大きく回り、玄関へ向かっていった。そこには農具や工具が出されている。不気味な絵本に描かれた邪悪な魔女を彷彿とさせる手は、何十年もの間、何度も使用された形跡のある擦り切れた農具の柄を掴んだ。包丁のようにも見えたが、厚みがあり、把手は刀身からみてやや内側へ角度を持っているそれは鉈。
三途賽川夫人は外に出たわけではなかった。室内で薪でも割るのだろうか。茉世はまたついていく。のそのそと老いとも変形とも違う丸まり方をした背中が、襖を開ける。霖の部屋ではなかったか。
かつ、と乾いた音がして、直後に桃でも投げつけたような、べちゃ、という音がした。三途賽川夫人は茉世が中に入る前に出てきた。手には何も持っていない。ほんのわずかな時間であった。茉世は霖の部屋へと入っていった。ここもまた絆の殺害された部屋同様に布団が敷かれている。枕元を覗くと、頭から木の棒を生やした子供が倒れていた。鉈が顔にまで減り込み、そのために血が止まっていた。頭蓋骨が歪み、顔が拉げている。霖はガラス玉の瞳を宙に投げ、口を半開きにして死んでいた。その白さと、ぎこちなく投げ出された腕は蝋人形だったのかもしれない。
その後も、茉世は三途賽川夫人を尾けていた。玄関から斧を取り、禅と思しき子供は、頭を搗ち割られ、どす黒い雲が溢れ出したような醜い有様を曝していた。うつ伏せで、顔は見えなかった。一瞬の犯行で、茉世は子供の柔らかな頭蓋が刃物と鈍器に打ち砕かれる瞬間を見たわけではなかった。だがそこは禅の部屋であったし、死骸は禅の特徴を持っていた。
三途賽川夫人は何度も玄関を訪れ、鋤だの鍬だのを持ち出しては、寝ている息子たちを殺して回った。茉世は三途賽川夫人を追うつもりはなかった。しかし足が勝手に動いてしまう。姑の後を追っていってしまうのだった。
けれども、部屋に入ることは免れた。廊下で待つ。
蘭や蓮は一撃では仕留められないらしかった。悲鳴や怒号は聞こえなかったが、逃げ惑い、抵抗を示す物音はあった。そして凶器を振り下ろす音も一度や二度では済まなかった。肉を破り、骨を割られているらしかったのが、聴覚から伝わった。不気味なほど、静かであった。母親が、己の胎からひり出した子を、滅多 撲《う》ちにしている。異常である。並々ならぬ怨嗟が募り募っているのだろうか。それとも、三途賽川夫人は異常者なのであろうか。
三途賽川夫人は蓮の後、蘭を始末したらしかった。開けっ放しであった襖から、夫人は後ろ手に何かを引き摺っている。最初、布団かと思った。ところがそれは、キツネを思わせる尻尾であった。茉世が忌避していた、夫のいやらしい尨毛の尾だ。引っ張られ、足が見えた。脹脛の半ばまで敷居を越えたとき、三途賽川夫人は息子の毛尨の尾を放した。
皆、殺したはずだ。娘と、生まれてまもなく三途賽川から追い出された霑以外、息子は5人すべて殺したはずだ。静寂のもとに惨殺したはずである。だが三途賽川夫人は、また玄関へ向かい、釿と鋸を手にし、廊下を彷徨うのだった。
三途賽川夫人は、次に誰を殺そうといのだろう。この家のどこかに霑がいるのだろうか。それかもしくは尽を……
釿鋸を左右に手にした夫人は、のっそりのっそり、焦るでも躊躇うでもなくカタツムリみたいに廊下を歩いた。辿り着いたのは、茉世の入ったことのない部屋であった。襖は自動ドアのごとく、三途賽川夫人を迎えて開く。蘭や蓮のときのように、外で待っていることは許されなかった。その足は、動いてしまう。
中には布団が2つ並べられていた。片方には大きな掻巻布団が掛けられている。三途賽川夫人はそのほうへ向かっていくと、釿で枕元を小突いた。ごす、と音がする。枕を叩いた音ではなかったし、また何者かの頭部を撲ち砕けるほどの力ではなかった。
布団が蠢いた。寝ている人物が、今の一撃によって目覚めたらしい。毒剤を噴霧された害虫のごとき所作であった。
三途賽川夫人は鋸に持ち替えた。茉世はまだ生きているにもかかわらず、鋸挽きに遭う者の顔を見てしまった。
知らないつらであった。だが蘭に生えているものよりも大きな尨毛の耳があった。オオカミを思わせる。肌の質感や皺からして、中年の男であった。目鼻立ちや額の形には義弟たちの面影の由来がぽつぽつと垣間見える。
蘭たちの父親を茉世は見たことがない。だが、舅に違いなかった。
頭に釿を生やした義父の首に、鋸の歯が当てられる。三途賽川夫人は、夫の肉を挽いていった。喉の隆起に引っ掻き傷が創られる。
にちゅ………にちち…………どちゅ……
気色悪い水音だった。転んで擦り剥くのは容易なくせ、いざ生肉を断ち切るとなると硬いらしかった。手動の鋸では骨まで辿りつくのさえ難しいようだ。
血飛沫が上がる。三途賽川夫人はその墨汁みたいなのを浴びても、手を休めはしなかった。一心不乱に夫の首を挽く。夫人の前で、それは人ではなかった。血を流し、肉を纏った材木に過ぎなかった。
舅の首が転がるのを茉世は見ていた。三途賽川夫人が黒闇に翳った顔を上げる。その目は、茉世に気付いているようだった。
殺されると思った時に、彼女は喉の痛みによって目を覚ました。布団がしゃりしゃりと鳴る。妙な体温が気持ち悪かった。重苦しい上体を起こして、外気に曝す。火照った肌と寝汗が一気に冷えて乾いていく感じがした。
彼女は嫌な夢をみた覚えはあるけれども、ただ厭悪を覚えたことのみを覚えているだけで、内容は忘れてしまった。
ふと重みに気付き、脇を見遣ると絆が突っ伏している。
「絆さん。風邪をひいてしまいます」
茉世は肩を揺すった。
「ん……?茉世義姉ちゃん………」
眠げに目元を擦る様が、長兄によく似ていた。そして小さな液晶画面のついた腕時計を確認する。
「風邪ひいたって、永ちゃんが……」
「はい。すみません、先に休んでしまって」
「それは全然。よく休んで。お弁当とか買ってあるみたいだけど、何か温かいもの作ろうか?」
ずいいと前のめりになるために、茉世は後ろへ退かねばならなかった。
「大丈夫ですよ。寝ていれば治りますから。ご心配をおかけしました」
「ほんとぉ?しんどかったら言ってネ。風邪薬と、ちょっと不味いけど滋養ドリンク。よかったら飲んでネ。オレまた行かないとだカラ」
派手なビニール袋から、彼は風邪関連のものを取り出して見せた。パウチの粥や、ゼリー飲料も入っている。
「いってらっしゃいませ」
「うん!行ってきますッ!」
彼女は飛ぶように出ていく義弟の姿を見送ると、こほ……と咳をした。一度何となくの違和感を拭うだけのつもりの咳によって、喉の蘞みを覚える。数度また咳をする。マスカット味のゼリー飲料と風邪薬を飲んで布団に戻る。体温計はなかった。
また、夢をみた。今度は三途賽川宅に色がある。茉世は玄関に立っていた。夜らしかった。西側の私室に繋がる廊下から色の白い女の子が足音を殺しながらやって来る。ランドセルを背負い、手提げを持っている姿は、これから登校するとばかりだ。女の子は茉世に気付くこともなく、玄関を出ていく。そのうち、台所に通じるほうの廊下から背の高い、幸の薄そうな痩せぎすの女が現れる。青白い顔で、なかなかの美人である。今し方出ていった女の子と目鼻立ちに重なるところがあった。今は見る影もない。蘭たちの母親だ。こちらはリュックを背負い、手にはボストンバッグ。
茉世の頭の中に、ある単語が沁み広がっていた。夜逃げ。夜逃げだ。夜逃げに違いない。三途賽川夫人が目の前を通り過ぎていく。開かれた玄関の向こうに、ランドセルの女の子が、中を覗き込んでいた。茉世の姿が視界に入っているはずだったが、見知らぬ人物に魂消た様子はない。女の子は、どこからかキャリーケースを転がしてきていた。三途賽川夫人が玄関の外へ足を踏み出すそのとき、茉世は茶の間の横から駆けてくる者があった。
『母さん』
この夢には色も音声もついていた。第二次性徴期をまだ迎えていない、男の子とも女の子とも受け取れる高い声であった。
『お母さん、どこかお出掛けするの?』
茉世はそれが、絆に見えた。蓮や霖や禅ではなかった。毛尨の耳も尾もない。乱れた歯並びから、すぐに誰と判じることができなかった。
『オれもお出掛け、したい』
三途賽川夫人はそこに固まっていた。玄関戸を開けることも閉めることもしなかった。
『父ちゃんに訊いてくる!』
絆少年は無邪気に走っていった。三途賽川夫人は手招きをして、ランドセルの女の子を呼び寄せる。そして玄関戸を閉め、靴を脱ぐこともなく三和土に屈み込むと、小さな身体を抱き締めていた。夜逃げすることは叶わなかったのだ。茉世は親子の抱擁を呆然と眺めていた。何気なく目瞬きをすると、視界が切り替わった。
『お母さんは使っちゃダメ!』
コップが飛んできて、床に落ちた途端、それは砕け散った。青のチェック模様が見えた気がしたが、今はカエルの死骸よろしく白い内側を晒している。
茉世は玄関からすぐ傍の茶の間の隅にいた。茉世は座っていた。三途賽川の人々は食卓に並んでいた。その脇に三途賽川夫人が座っている。女の子は、テーブルの傍に佇み、破片と化したコップと、飛散した色付きの液体を見下ろしていた。
投げたのは絆らしかった。女の子のすぐ目の前に座り、そのあどけない表情には戸惑いが浮かんでいた。投げ割るつまりはなかったのだろう。しかし結果的に、それは砕け、飛び散っている。
コップには陶器の猫の飾りが付いているらしかった。それが砕けたことで外れ、転がり、天井を丸く反射させている。
三途賽川夫人は男たちばかりの卓へ頭を下げて、淑やかに腰を上げた。雹や霙みたいな破片を拾い集めた。
夢の中の出来事に過ぎない。だが茉世は見るに耐えなかった。その場の光景も、幼い絆の凍りついた顔も。苦しくなってしまった。
女の子が破片を拾おうとするのを、夫人が止めた。そのやり取りを、絆少年が気拙げに見ている。他の兄弟たちはもう飯を食っていた。女の子は三途賽川夫人の傍で小さな欠片を探していた。絆少年だけが一人だった。
茉世は悲しくなってしまった。寂しくなってしまった。息が苦しく、喉が痛い。目頭が滲みる。
誰かの呻めきが遠くで聞こえた。徐々に近付いてきている。喉が痛い。首が痛い。息ができない。苦しい。
目蓋が一気に開いた。熱によって、平生よりも多分に水気を含んだ眼球を乾かさんばかりの開きぶりであった。現実を認知するよりも先に、首が締まっていることに気付く。
「ぐ………ぅ、う………」
「オハヨウ、オネエサン」
ちゃりちゃりと風鈴よろしく揺れる耳飾りに目が留まる。ぐいいと首がいっそう強く締まる。
「ぅ、う………」
「怖~い夢みて、泣いちゃった?」
茉世ははくはくと口を戦慄かせる。さながら惨めな鯉だ。
青山藍が布団の中にいる。むッわァァ……と蒸れたバニラの香水に、吐き気を催した。
「ぅう゛ッ」
「おっと」
ごつごつごてごてと冷たい石ころをつけた指が首に巻き付くのをやめた。酸素が一気に入り込む。また別の苦しさに襲われ、茉世は身を転がして、枕を向いた。胃が引き絞られるようだった。汗ばんだ身体が冷えていく。
「オネエサン、暇~」
嘔吐く姿を慮る気は微塵もないらしい。縮こまっている小さな肩に頭を乗せ、誕生日ケーキの蝋燭でも吹き消すかのように耳殻を吹く。
茉世は青山藍に構っている余裕などなかった。
「オネエサ~ン」
やっと落ち着くと、テレビが点いていることに気付く。生放送らしい。「LIVE」の文字が表示されている。音楽番組だった。
「義弟がキラキラアイドルしてるときに、イイコトしよ?」
青山藍は上半身が裸であった。茉世に張り付く様は、その病熱で暖をとるようである。長い腕は彼女の胸に回り、その膨らみを鷲掴む。
「ふ………ぅう………」
目眩がする。抵抗する力もなく、まだ夢の中にいるような心地であった。恐怖心も不快感もまた鈍っていた。茉世はされるがまま、胸を揉まれてしまう。柔らかな脂肪を好き放題に触る手を剥がそうとはするけれど、むしろせがんでいるようである。
「気持ちイイ?乳首勃ってる」
タンクトップと寝間着を押し上げる突起の上を、ブラックネイビーの爪が行き来する。
「ふあ、あ……」
浮遊感のある頭が、さらに浮いていくようだった。平衡感覚が削げ落ちていく。錯覚とはいえ身体が床に叩きつけられるかもしれないというのなか、そこに不安がない。反射も働こうとしない。
「体調悪くてもおっぱい大きいね。萎まないんだ」
掌で乳房を掬って支え、指の側面や爪の先を使って、小さな布の押し上げを掻いた。
「ぁ……ぁん」
「オネエサン、その気になってる?嫌なら乳首、引っ込むよね」
外側で転がしてばかりいた指が、その腹を使って乳房の中へ突起を押し潰す。
「んやぁ………」
「イきたい?乳首でイく?」
鈍く広がっていく快感に茉世は話を聞いていられなかった。
「ピアス外しちゃったの、どうして?気に入らなかった?」
安全ピンを突き刺さしたほうの耳に、青山藍は口を寄せた。ねっとりとよく濡れた舌が、耳の裏を舐め上げた。邪魔だとばかりに絆創膏を突つく。
茉世は淫らな寒気を覚えた。耳を遠ざけようと、後ろへ頭を転がして仰け反る。しかし大して効果はなかった。青山藍は茉世の耳を舐めしゃぶった。舌を伸ばすのをやめて、咥えることにしたらしい。口腔で甚振られる。甘く立てられている歯はおそらく脅迫だろう。
「や………ぁ、」
「答えて、オネエサン。ワタシのピアスが気に入らなかったの?」
愛撫に似ていた指遣いが、突然、豹変する。押し潰して轢いても勃ち上がる突起を器用に摘んで、ちりりと抓った。痛みとまでは認識できない絶妙な力加減だった。
「あ、ぁぁ……っ!」
「オネエサンは、乳搾りみたいに乳首きゅっきゅっされるのが好きだからね」
左右でタイミングをずらされると、茉世は半開きの口元を大いに濡らした。枕にしみができる。
「でっかいおっぱいから濃いミルク出しなさい」
「や………ら、ゃら………ぁっ」
腰が動いた。腹が前後に伸縮する。下腹部に熱が集まっていく。頭の中には綿を詰め込まれてしまった。牝蕊に秘められた尖りと、指に囚われた二点が激しく疼く。
「だらしなく牛イきしなよ」
「だ………め、や、ぁああ!」
汗がどっと吹き出た。全身が痙攣する。快感は爆発し、眼前が白む。
「えっち」
耳元の囁きに、彼女はまた身震いした。
「ゃあ、……あァっ」
歌番組から流れるヒットソングも耳に入らない。
「オネエサン……おまんこ濡れちゃった?身体冷やすよ。舐めてアゲル」
青山藍はいつのまにかサングラスを外していた。そして茉世の腰をがっちりと掴むと、布団の中へ引き摺り込んだ。青山藍もチンアナゴよろしく、布団の中に入っていく。
「や………だ、や………っ」
布団の中に潜った異物を蹴る。人を蹴る抵抗感もあれば、異物に触れる厭悪感もあり、それはあまりにも弱いものであった。
「蹴るなんてヒド~い」
汗の匂いの混じったほとんど洗剤の柔らかな香りに、バニラの悪臭が蒸れて薫る。銀色の石ころがついた手は、茉世の嫋やかな足を掴んだ。股に頭を埋める。
「オネエサンの汗で蒸れ蒸れのおまんこの匂いがするよ。イった後の、いやらしい匂いが」
寝間着の上からであったが、青山藍はすうう……と鼻を鳴らした。
「やめ……っ」
熱と羞恥で沸騰しそうであった。内側からの熱さのあまり、頭は首を失ったように右も左も分からなくなる。力の入らなくなった手で、腿の間にいる青山藍の頭を押し戻そうとする。長く伸びした髪と三分狩りの感触が掌にある。
「ああ……オネエサンのまんこの匂いでキマりそう」
青山藍はわざとらしく鼻を鳴らす。
「オネエサンのまんこの香水がほしいよ」
今度は温かな息を送り込まれる。
「あ、ゃんッ」
粘膜が熱い。膝が閉じてしまう。柔らかな腿が人の頭を挟む。
「いやらしい匂いが濃くなってきた。オネエサンのまんこの汁飲ませろよ」
下着ごと寝間着を奪われ、床へ無様に落ちていく。
「い………いや………!」
掛け布団の住人みたいになった青山藍は、彼女の素肌に顔面を押し付ける。
「まんこ生搾り飲ませろ」
「ぃや………!恥ずか………し、いや!」
しかし掛け布団に住む怪物は、獲物を逃してやりはしなかった。陰阜に茂る絹屑に鼻先を突き入れる。
「あ~、こんなえっろい匂いさせて、やめろとか言ってるの、オネエサンって当たり屋?美人局?」
嗅ぎたいだけ嗅ぐと、布団が盛り上がる。
「キマりそうだよ、オネエサン。病みつきになっちゃうかもね」
息を吹きかけ、青山藍の関心が陰毛から離れる。
「も……出ていって………」
「せっかく来たんだし、お茶も出してくれないなら、勝手にオネエサンのドえろジュース飲むしかなくね」
淫壺に、割れた舌が入っていった。
「ああ……」
絶頂によってよく潤んでいた。糖蜜めいた水膜を張り、青山藍に啜り奪られていく。
「や………め、や………ァ、!」
じゅるる、ずぞぞ、じゅぷ、と浅ましい音がする。茉世はそれが己の股ぐらから、しかも人の口によって起こされているものだと思いたくなかった。
「オネエサンのお汁、美味しいよ。もっと飲ませろ」
割れた舌先が泉の上の小さな実粒を挟んでしまった。
「あぁ!」
上下に動かされる。膨らんで張り詰めた小振りな勃起が弾む。鋭くも、くすぐったさのある快楽が彼女を鞭打つ。酩酊に似た目眩によって、視界が明滅する。
そこに、湧き水をさらに掘り起こすかのような恐ろしい指梃が加わった。
風邪の身体には拷問としかいいようのない淫楽が叩き込まれていく。茉世は頭を搗ち割られたように布団に倒れてしまった。
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