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ネイキッドと翼 ケモ耳天真爛漫長男夫/モラハラ気味クール美青年次男義弟/
ネイキッドと翼 13
しおりを挟むその日の夜に蓮は出ていった。許嫁がいるという火寺鬼藤家には世話にならず、庭のプレハブに蟄居するつもりもないという。
霖も禅も特に次兄を見送ろうとはしなかった。おそらく告げられていないのだろう。蘭もまた部屋から出てくる様子もない。長男と兄という立場に板挟みなのだろう。
茉世も詰めの甘い女だった。靴を履く次男の背に立った。壁から窺うように。
「邪魔者が消え失せてよかったな」
巾着袋のようなショルダーバッグひとつで荷物は少なかった。殺風景な部屋からして荷物は少ない。
「これから、どうするんですか」
「安い同情か?」
「違いますけど……」
「誤解があるな。三途賽川のお役目から逃れられるなら願ったり叶ったりだ」
それは果たして負け惜しみだったのか、本音であったのか。
「婚約者がいたんですね」
彼は訊いてもいないことは喋ったくせ、訊いたことには答えないらしい。
「なのに、あんなことを……」
「婚約者、か。響きはいいな。本家、分家含めて、恋愛感情を持って結婚できるやつは皆無だろう。長男以外はほとんど身内で結婚する。そんなのはごめんだね。やっと解放された。やっとな。このまま義絶の方向に行けるよう、あんたからも口添えしてくれ」
一度も振り返ることはなく、彼は上がり框から腰を上げた。
からからと引戸が音をたてる。
「行くあてはあるんですね?」
「なかったら、どうにかしてくれるのか?」
返事も待たずに引戸が閉まった。
「行ったの?」
音もなく現れた蘭に、彼女はびっくりと肩を跳ねさせた。
「はい……」
「恨むだろうね、蓮くんは。結構色々面倒なことを背負わせちゃってたんだ、実は。それをいきなり、突き放したんだから」
気の利いた意見を持ち合わせていなかった。となれば黙るほかなかった。嫁などは三途賽川の部外者なのだ。
「婚約者がいらっしゃったんですよね」
「うん。清楚で優しくてかわいい子だよ。でも、ほら……前にも話したんだけど、蓮くんは高校時代の先輩のことをずっと引き摺ってるんだよ。叶わないから綺麗に見えるってのもあるんだろうね」
「その先輩のところへ行くのでしょうか」
解放された、という文言が彼女のなかの印象に強く残っている。
「う~ん」
蘭は顎に手を当て、考えているふうな所作をしながら悪戯っぽく笑っていた。
「でもあの蓮くんが、先輩に居場所訊いたり、連絡取ろうとしたりはできないと思うな。きっと遠目から見てただけだと思う。そんな気がする」
「あの蓮さんが好きになるって……とても恐ろしい感じの方なのでしょうか?それとも、それこそ、清楚で優しくて、かわいいらしい方なのでしょうか………?」
「フツーの子。良くも悪くも……多分」
彼は背を向けて、家の奥へと戻っていった。
翌日、夫の言っていたとおり、みな出払った。霖は学校を休み、弁当は要らなかった。学業より家のことらしい。夫が高校に進学していないというのも、長男に学は必要ないのだろう。末男の禅が不登校であることについても、まったく苦言を聞いたことがなかった。穏やかな蘭や霖はとにかく、嫌味ばかりの蓮からもなかった。
茉世は夏野菜に水をくれていた。分けてもらう手前、水やりは手伝うことにしていた。朝から日差しが眩しい。不意に飛び交うバッタに怯えたが、この時間が嫌いではなかった。三途賽川の嫁であるということを忘れられる。作られた自然ではあるけれど、植物とは不思議なものだった。今日は、ナスとトマトが2つ、きゅうりが3本、ピーマンが1つ穫れそうであった。
母屋を訪ねてくる者に彼女は気付いた。訪問者は小さな菜園に人がいることに気付いた様子もなかった。紺色のジャンパースカートの制服の女子だった。
「どうかしましたか」
インターホンを鳴らす前に、茉世は女学生に声をかけた。
強張っていた肩が跳ねた。霖の知り合いかと思われたが、彼の制服に縫われた校章とは違って見えた。
「あ、あの……」
緊張しているのが伝わる。
「中に入りましょう」
霖か禅の知り合いであろう。茉世は茶の間へ通した。家事代行員に茶を出すよう頼む。
兄弟たちが囲む食卓は広く、一対一で話をするには向かなかった。何か相談がある様子だったが、それにしては遠い。
「今日はわたし以外、家の人は誰もいないんです。けれど、せっかく来てくれたから、お茶でも飲んでいって」
茉世はこういう場合、どうしていいのか分からなかった。だが日差しの強い夏というこの季節に助けられた。暑い中来たのだろう。追い返すのも躊躇われる。
彼女の予想に反して、相手からは安堵が窺えた。
「三途賽川くんと同じクラスの、本地翠花といいます……」
「中学生?」
女学生は弱気ながら、力強く頷いた。
「禅の兄の妻の、茉世と申します」
茶が配られ、女学生は控えめに頭を下げた。
「あの……え……っと………」
「何か、伝言ですか?」
「違います!違くて……三途賽川くんのことで、相談が、あって………」
「うん。本人が今日はいなくてね。都合が良い日に、連絡させようか」
女学生は焦ったように首を振る。
「三途賽川くんの保護者の方に、話そうと思っていたので……」
声が震えている。余程、相談しづらい内容らしかった。茉世のほうも緊張しなければならなくなった。腹がずんと重くなる。
「じゃあ、ちょうど良かったかな……?」
本地翠花とかいった女学生は遠慮がちに頷いた。
「ゆっくりで平気だよ。みんなまだ帰ってこないと思うし……帰ってきたら、わたしの部屋で話そう」
「は、はい………えっと………あの…………」
同性間でなければ話せない事柄なのではないかと、茉世は思い至った。そして恐ろしくなった。この女学生の異様な緊張感はそれではあるまいか、そうであったらどうする。だが、次男の話によれば末男はまだ成長しきっていないというではないか。いいや、何故気難しげな弟のそのような情報を、懐かれていない側筆頭の兄が共有しているのか。知らされた長男が洩らしたか。しかし義末弟にそのような一面があるとは思えなかった。同時に義末弟については何も知らなかった。話したことも数えるほどしかなく、すべて一個人を掘り下げるような会話ではなかった。
沈黙が、茉世の思考を加速させる。
「―あの………三途賽川くん、いじめられているんです」
茉世の予想は袈裟斬りにされた。妄想であった。
「いじめ………?」
「はい。学校に言おうと思ったんですけど、まずは保護者の人に言うのが先かなって……知ってたら、すみません」
女学生は俯いてしまった。顔を赤くしている。本来、そう行動的で積極的な性格ではないのかもしれない。だが、義務感に駆られたのだろう。
「夫とよく話し合ってみます。少なくともわたしは知らなかったし……ありがとう」
「あの、わたしが来たことは……秘密に………」
「うん。秘密にするよ。相手の子のこと、もう少し、教えてくれる?」
女学生は制服のスカートを揉みくちゃにしていた。
「隣のクラスの、尼寺橋渡霑くんです。幼馴染……なのでしょうか。昔からの知り合いみたいで。でも、すごく、嫌ってるんです」
茉世は側頭部を小突かれた気分だった。一瞬の眩暈を覚える。聞いたことがあった。どこで聞いたのか……
「三途賽川くんを呼び出して、殴ったり、蹴ったりするんです………」
「殴ったり、蹴ったり……?」
「尼寺橋渡くんは優等生だから………先生も見て見ぬふりで……」
女学生は俯いたままだった。思い出せそうなのである。聞くとすれば永世からだろう。いつ、どういう流れで聞いたのか……
「じゃあ先生は、知っているのね……?」
彼女は頷いた。
「言うだけは言いました。でも……知らないふりをされてしまうかもしれません。そんな気がします。尼寺橋渡くんは勉強も運動もできて、みんなに優しいんです……先生の前では………っていうか、みんなの前では………でも三途賽川くんは、あんまりクラスには、馴染めて、なくて……」
本地翠花とかいう女学生は茉世の顔色を窺っていた。年若いながら、クラスメイトの義姉を前に、耳の痛いことを言わねばならない彼女が気の毒だった。
「そうね。確かに、人見知りなところがあるかも」
「尼寺橋渡くんは、先生にも、生徒にも好かれていて……だから、三途賽川くんの味方が……いなく、て………」
彼女はとうとう、茉世の目も見なくなった。
「そんななかで、禅くんの味方でいてくれたんだね」
しかし彼女は惑っている。それは緊張が解けていないだけのようにも思えた。
「先生は信じてくれないかも……」
「先生たちは信じないことにしてるだけでしょう?話しにきてくれありがとう。このことは、夫とよく話し合ってみる。ここまでは、自転車?」
彼女は頷いた。茉世は冷蔵庫にあったペットボトルのジュースを持たせて帰した。駐輪場で見送り、家へ戻ろうとしたときに思い出した。尼寺橋渡霑。
―双子ではないんですけど、分家の尼寺橋渡家に、霖さんそっくりの子がいます。
庭に敷き詰められた玉砂利が音をたてた。
「さっきの子、同じ中学のコなんです」
茉世は目を見開いた。眩しかった空が淀んでいく。庭に人がいる。少し高い声は、大人の男のものではないが、変声期前というほど甲高いものでもない。
「きゃはは。三途賽川のお嫁さん、こんにちは」
後ろにいる。五歩ほど離れたところに、立っている。茉世は振り返るのが恐ろしかった。頬に水滴が落ちる。空が高いところで唸っている。辺りはよく知る三途賽川の家であった。
「あれぇ、雨が降ってきましたよ。竜神サマに拝みが足りませんでしたね。三途賽川のお嫁さん」
中学生男子の割りにはよく喋るように思った。あの頃の男子といえば、身内や同級生には多弁だが、ひとたび外へ出れば人見知りで寡黙を気取りはしなかったか。
恐ろしかったけれども、いつまでも背を向けているにはいかなかった。茉世は徐ろに振り返った。霖が立っていると思った。だがそれは霖ではなかった。霖に瓜二つの美少年であるが、火傷痕が顔半分を覆うのだった。制服の半袖から伸びる左腕も瘢痕に覆われている。日焼けをしていない陶器のような青白い腕が痛々しさを増長させた。彼は本当に色白で、瑞々しいライチの果肉を思わせた。
「あなたが、霑くん……?」
「はい。尼寺橋渡霑です。三途賽川霖の弐号機です。スペアです。紛い物の、コピー品です」
霖と同じ、桜色の唇が意地悪そうに吊り上がる。
雨は勢いを増す。次から次へと頬に雨粒が当たる。
「とりあえず、中に入ったら……」
直感はやめろと言っていた。中に入れるなと。だが雨と雷の下、野晒しにするわけにもいかなかった。
「上げてくれるんですか」
「雨が降ってしまったから……ちょっと待っていて」
茉世は洗濯物を取り込むのを手伝うため、少しの間、尼寺橋渡霑を茶の間にひとりにした。戻ると、姿勢を崩すこともなく正座して待っていた。確かに、教師というものの受けはいいのかもしれない。顔面を覆う火傷について、彼には卑屈なところがなかった。堂々としていた。視界に入るにもかかわらず、そこにケロイドがあることを忘れてしまう。
「何か手伝いましょうか」
見れば見るほど、霖に似ている。2、3年前の霖を茉世は知らないが、知らないけれども、今、茶の間に座っているような感じだった。
「ゆっくりしていて。今、おうちの人いないの」
冷えた麦茶を出すと、彼は茉世を見上げていやらしく笑った。
「ええ、そうでしょうね。鱗獣院家で一族会議でしょう?ボクは行きませんでしたけど」
「行かなくていいの?」
「はい。一族会議だなんて大それて聞こえるでしょう?実際は、権力にしがみつきたいジジイどものお気持ち表明と自分語りの演説大会ですからね。三途賽川さん宅の不始末でしょう。末端の尼寺橋渡は関係ありません」
彼は麦茶を飲んだ。気品があった。グラスを持ち上げる手は白百合のようだった。
「くだらないですね。いい大人が、いい大人を殴って、殴られた側のその親が怒り狂って、会議でしょう?会社休んで学校休んで、くだらないです。そう思いませんか」
「あなたくらいの歳からみたら、大人に見えるかもしれないけれど、30手前なんてまだまだ子供みたいなものなの」
「はあ。それくらいになってもまだ学級会をしなければならないんですね」
桜色の唇が口裂け女みたいに吊り上がる。
「それで、やることは殴った側を排除するかどうかでしょう?素人の裁判が行われるわけですね。三途賽川のストックが無くなりますね。女に生まれただけで勘当、アイドルやってるだけで勘当、水子に似てるから勘当。将来有望な次男も勘当して、多分引きこもりの末っ子も勘当するんでしょう?だとしたら霖さんだけですね、頼りになるの」
「三途賽川って、何人兄弟なの」
霑はいやらしく嗤っている。
「四人ですよ。明日には三人兄弟かもしれませんけれど」
「夫と、同じ血を引く人は……」
「8人です」
「8人……」
蘭と蓮と、霖と禅。尽と絆とあと2人いる。茉世は指を折って数えた。
「1人死にました」
霑は嬉々としていた。
「えっ」
知らされていないことが多すぎる。
「生まれたときに。死んで産まれたのかもしれませんけど。ボクの兄なんで分かりません」
茉世は眉を顰めた。
「ボクの兄ってどういうこと……」
「きゃはは。ボク、禅さんの双子の弟なんです」
彼女は無遠慮に霑を眺めてしまった。
「二卵性です。霖さんの双子だと思ったでしょう?でも違います。ボクは弐号機のスペアで、コピー品の偽物ですから」
彼は否定を待っていたのだろうか。彼は卑下するときに、恍惚に目元を眇めるのだった。
「ですが、霖さんがそもそも弐号機のスペアなので、ボクは三号機ですね。きゃはは」
「弐号機、三号機って……どういうこと?それでいうと、じゃあ一号機は、誰だっていうの……?」
「三途賽川のお嫁さんの旦那さんが長男でしょう。それから、今、一族会議にかけられている次男でしょう。その下に、第三子にして長女がいたんです。それから三男も。霖さんじゃないですよ。この人も三途賽川からは弾かれているんですから。で、四男に霖さんといきたいんですけど、ここに生まれたのがボクと霖さんのオリジナルです。初号機です。霰というらしいです。赤痣だったそうですよ。ボクみたいに、左半身が。死んで産まれたか、生まれてから死んだか分かりませんが、赤痣を疎まれて殺されてたりして。きゃはは」
茉世の表情は険しくなっていた。
「でもまだ赤ちゃんじゃ、代わりかどうかなんて分からないでしょう。だから、そんな、一号機とか、弐号機とか言ってられるような……」
「結果論です。霰と同じように火傷痕を負ったボクは霰の生まれ変わりで、霖さんに似ているから、霰は霖さんにも似たはずだろうって。きゃはは」
彼の物言いはどこか他人事だった。
「三途賽川のお嫁さんの旦那さん、今日ド素人裁判にかけられる人、女卑に巻き込まれた尽さんと職業差別に遭った絆さん、人生リタイアした霰と、正規品の霖さん、ひっきーの禅とコピー品のボク。8人です」
三途賽川は四人兄弟だが、同胞は死者を含めず7人いたのだった。
「霑くんは…………三途賽川が、嫌い?」
先程の女学生から聞いた話をそのままぶつけるわけにはまだいかないだろう。それとなく訊ねてみる。
「三途賽川のお嫁さんは、六道月路の養女だそうですね。自分を捨てた親についてどう思いますか」
彼女は気持ち悪くなってしまった。このような中学生の子供にまで、本家の嫁は素性を明らかにされるのか。
「ボクも同じなんですよ、親に捨てられたんです。ボクも三途賽川のお嫁さんと同じなんです」
対峙しているのが中学生とは思えなかった。先程の女学生の言っていたことが事実ならば、教師たちが触れたがらないのもよく分かった。内懐を見透かされているような心地になる。そこへ居座って、乗っ取られてしまうような恐怖―不安を植え付けられる。
「三途賽川のお嫁さん。諦めているでしょう。お父さんお母さんには会えないって思ってるんでしょう?だから恨んだりしないでいようとしているのでしょう?恨むにも憎むにも体力が要りますからね。しなくて済むならそれがいいはずです」
彼は中学生だ。
外は大雨と化していた。こん、こんと軽快な音がして、それが雹だと気付く。やがて、ぽんぽんぽんぽんぽんぽんと絶え間なく音が続いた。茉世は立ち上がり、掃き出し窓へと近付いた。レースカーテンを開ける。庭は白かった。小さな氷が視界のあちこちで弾み、跳び交っている。嵐のようだった。固形物が降り注いでいる分、嵐よりもたちがわるい。
「これでは帰れませんね」
身体のすぐ脇に腕が伸びた。茉世は腕を出していない。だがそれくらい近かった。真後ろに人の体温があった。
「あの人たちも帰ってこられませんね」
頸に柔らかなものが当たり、彼女は力が抜けた。
「て、霑くん……?」
柔らかな匂いがした。ガラス越しの外は惨事である。ピークは過ぎたのであろう。ぽんぽんとまだ小さな氷は降り注ぐだけでなく叩きつけられて跳んでいるが、目で捉えることはできるようになった。
「霑く………」
後ろから腕が巻き付いた。ヘビのようだった。茉世の腹を白い手が這う。
「人の奥さんって、魅力的ですね」
窓ガラスについた手も、胸へ巻き付く。
「な、ん………で、」
「血を分けた兄のお嫁さんってなると、特に……」
白い両手が胸を押さえた。
「何してるの、……」
まだ現状を理解しきれていなかった。相手は中学生で、背丈もあまり変わらず、まだ嫋やかな空気感を残した子供であるはずだった。
「想像より綺麗な人で驚いてるんです。でも、こんな細い腰で赤ちゃん何人も産めるんですか?」
片腕が彼女の左右の胸を抱え込んだ。そして胸を離れた手は腹周りを警邏する。
「胸大きいのに、腰細いですよ。ボクみたいな失敗作含めて7、8人は産むんですよ。こんな薄い腹で大丈夫なんですか」
臍の周りを手が巡る。
「放して………今なら、冗談にしてあげるから………」
クーラーの設定温度を低くしすぎたのかもしれない。茉世は寒くなった。相手は中学生なのだ。この時期の男子というものは性に対する関心が非常に強くなるらしかった。相手は中学生で、茉世は大体その倍近く生きている。大目に見てやるべきだ。将来があるのだから……
「冗談にならないでしょう?冗談にしてくれるんですか。三途賽川のお嫁さん。ボクが興味本位でこんなことをしていると思っているんですか?」
腹をぽん、と軽く叩いて、中学生の手はまたもや胸へ戻ってきた。
「こんなに大きければ、母乳のほうは安心ですね。世の中の女が貧乳すぎるんですけど」
カップ付きのキャミソールの上から白い手が乳房を揉みしだく。
「あ……」
「これあんまり色気ないやつですね。中学生のほうがドぎついの着けてますよ」
「はな、して」
白い腕を掴む。瘢痕の質感が分かった途端に、容赦してしまった。皮膚の凹凸に力を加える意思を削がれてしまうのだった。
「同情ですか?」
首筋に吐息が当たった。少し背が高いだけの、まだ成長を終えきれていない中学生に好き放題されている。
「引っ掻いても構いませんよ。人妻ならそれくらいして、貞淑を守らないと」
彼は茉世のシャツを容易く捲り上げた。キャミソールも巻き込まれ、カップも胸の上で翻る。
攻防というには一方的な攻防をしているうち、雹は止んでいた。だが雨に切り替わり、視界は悪かった。とはいえ、茉世はレースカーテンを除けた窓に胸を晒していたのだ!
「こんなところ見られたら、ご近所中の噂になりますね。知らぬは亭主ばかりなりってね」
胸の先端を、イカの切り身みたいな指が摘んだ。寒さによって、前へと突き出している。
「ぃや……」
「寒くて硬くなっているのでしょう?人妻が中学生の子供相手に、乳首を硬くするわけがない」
冷水でも飲んだ直後のような体温が茉世の耳殻を包んだ。濡れて、柔らかい。耳の裏を下が這う。淫らな悪寒が走る。そして指の狭間に閉じ込められた箇所へ抜けていく。
「ぁ……」
「また少し、硬くなりました?」
合わさった指が動いた。紙縒りでも作るかのような所作だった。甘い痺れが広がる。
「ん………っ」
腰と膝に力が入りきらなかった。中学生のほうへ尻を突き出すような体勢になる。
すると嫋やかな腕は、彼女を掃き出し窓から剥がした。床へと倒す。リクライニングシートみたいな緩やかであるのに、逃げ道を塞がれているように彼女はそのまま倒され、仰向けになった。だが彼女も従順にこの有様を受け入れたわけではなかった。起き上がろうと試みるも、上から華奢な中学生が覆い被さるのだった。
「霑くん………どいて」
霖によく似た顔が、陰を帯びてほくそ笑んでいる。
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