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【1話完結】ハチミツの日2023 男性一人称視点
【1話完結】欲針 ハチミツの日2023 蜂蜜に対するそういう体質があるのかは不明。
しおりを挟む「きゃ」
小さな悲鳴に俺は顔を上げた。何かの拍子に、スティック状の袋から蜂蜜が溢れ出したようだった。白い肌に琥珀色の液体がねっとり垂れていく様が、妙に鮮烈な印象を与えた。
彼女は自分の腕を滴り落ちていく蜂蜜よりも、袋周りのことを気にしていた。身体から前腕を離し、片手で周りを片付けている。
もったいないという衝動だったのか、はたまた違う情動だったのか。俺は香織さんの腕を引いていた。舐め上げる。蜂蜜を?彼女の素肌を舐めていたのかもしれない。ほんのりと唇に電流が駆けていくようだった。口腔がぴりつく。俺はあまり蜂蜜が得意な体質ではないらしかった。そう好んでいるわけではないし、メープルシロップとの違いもあまり判別できていない。
「八王子くん……?」
今日は花火大会に行った後、近場の俺の家で飲んでいた。他の奴等は寝てしまって、酒を飲まない俺と香織さんだけが起きている状況だ。
驚いた顔を向けられて、俺は我に帰った。少しだけ緊張してしまう。いいなと思っていた人と、ある意味で2人きりで、その相手の腕を舐めてしまった。
「申し訳ない。もったいなくて……その……」
これでは香織さんを責めているみたいだ。俺は咳払いをした。少しわざとらしかったか。
「今おしぼりを持ってくる」
それからたまたま持ち合わせのあったスティックシュガー。彼女はヨーグルトを食べようとしていた。付いてきた蜂蜜で甘みを足そうとしていたのだろう。
戻っても、香織さんは不思議そうに俺を見ていた。やらかしたと思う。飲むか、俺も。酒。
「本当にすまなかった。気持ち悪いだろう。そこに洗面所があるから、洗ってきたら……?」
俺はまだ開けていない酒缶に手を伸ばした。
「飲めるんですか、お酒」
スティックシュガーにも、ヨーグルトにも手を出さないで、彼女は訊ねた。俺の弱い、大きな目。胸がどくりと張る感じが少し苦しく感じられる。
「い、いや……その」
「すみません。テーブル、汚しちゃって……」
彼女はおしぼりで腕のべたつきを拭った。テーブルにこぼした蜂蜜は拭けばいい。けれど舐めてしまったのは、遉に拭けばいいという話ではない。
「気にしないでくれ。砂糖もあるから、甘いのが足らなければ、それで……」
こんなはずではなかった。そこに転がっている友人が俺を誘って、承諾したら、後日に香織さんも誘ったらしい。偶然だろう?偶然だな。偶然のはずだ。誰にも言っていないのだ。いつのまにか寝言で言っていたか?
「ありがとうございます。嬉しいです」
香織さんは残った蜂蜜をヨーグルトに絞って入れた。艶やかな、綺麗な爪は、葛切りみたいに潤んだ光り方をしていた。しなやかな指先が切口を押し潰していく様のその暴力性が、雰囲気と不釣り合いで妙な心地になる。孅そうに見えて、そういう力はあるのかと。理屈では、そこを不思議に思うことが変なのだろうけれど。
「食べますか」
「え……?」
「見つめていたので。いいですよ、一口」
スプーンがヨーグルトを混ぜていく。俺が見ていたのは、やはり葛切りみたいに照りつける爪と白い指先だった。小さな逆剥けがあったが、肌理細かく、よく保湿されていて、不潔な感じは一切なかった。むしろ生活感に惹かれさえした。想像してしまう。どんな生活をしているのだろうかとか、痛くはないのだろうかとか、いつできたものなのかとか。
「あの……?」
俺は彼女の手元を凝らしたまま固まっていま。首を傾げて、顔を覗き込まれ、また胸が大きく脈打つ。
「い、いいえ。そういうつもりじゃなくて……結構です」
俺は冷たいだの、人を突き放しているようだのと言われたことがある。ここは一口もらっておくのが正解だったのだろうか。蜂蜜は俺の体質に合わないが、強い反応を示すわけではなかったのだし。
「そうですか」
付き合いの悪い人間だと思われてしまっただろうか。つまらない男だと……香織さんを横目で見る。まだヨーグルトを混ぜている。俺の舐めた腕が平然と動いている。少しだけ、ショックだった。特に意識することではなかった。けれど分かっていたことだ。俺は香織さんに一目惚れで、何も知らずにいる。距離を縮められずにいる。知った気になっていたが、共通の話題なんてなかったし、2人きりになると、そう易々と話しかけられない。
「花火、綺麗でしたね」
スプーンがヨーグルトを掬って、口元へ運ばれていく。ピンク色の唇が煌めいている。俺の鼓動が速まっている。振動が伝わってしまいそうだった。
「綺麗、だった……」
つまらない俺に、無難な話題を振ってくれている。喋り下手な俺といるのが気拙いからか?
「誘ってくれてありがとうございます」
「誘ったのは、俺じゃなくて……」
それだと、彼女を迷惑がっているみたいじゃないか?香織さんも、首を傾げている。
「いや……あの、香織さんと……ああ゛ッ―埴生さんと行けたのは嬉しいけれど、誘ったのは、そいつですから……」
俺は酒臭い鼾をかいて寝転がってる友人を指で差した。
「そうなんですか?八王子さんから誘われているのだと思っていました」
彼女は淑やかに微笑んだ。結局スプーンはあの海外の砂浜みたいに照りつける唇にはいかないで、ヨーグルトの中に戻ってしまった。何故だか焦る。
「カノジョの手前、そうするしかなかったんじゃないか」
これだと、俺が香織さんを歓迎していないみたいじゃないか?それに、そこにいる友人に誤解が生まれかねない。
「でも俺も、誘うなら香織さんが……あ゛ッ、埴生さんがいいなって、思っていて……その、浴衣姿とか、似合いそうだなって……」
彼女の眉が下がる。そして自分のロングスカートを眺めていた。失敗した。
「ごめんなさい。浴衣じゃ動けないと思って……」
失敗した。失敗した。失敗した。そういうつもりではなかった。浴衣姿を見たかったのは本当だ。けれどももう少し考えて物を言うべきだった。香織さんを傷付けてしまった。香織さんに嫌われてしまった!酷いやつだと思ったに違いない。気の利かないやつだと!最悪だ!最低だ!
「その、ちが……くて!」
「花火大会ですもんね」
結局、彼女が卑下するかたちでこの話題は終わってしまった。湿た花火のほうがまだ潔い終わり方だ。醜い小火を晒すよりずっとよかった。
「カップルが沢山いたから……そいつ等だって、そんなようなものだし……」
寝転がってる友人と同じく酔い潰れて寝ているその女友達を指で差す。けれどこの発言はどこに繋がる?墓穴を掘ったか?誰が俺を埋めてくれる?
香織さんは、ただ不思議そうに俺を見ている。あざといのか、とぼけているのか分からないけれど、あざといなら狙っているだけいい。だが後者なら誰にでもやっていて、勘違いさせてる可能性がある。
「3人だと、ちょっと寂しいですもんね」
「ええ……まぁ……でも、よかった。香織さん゛―埴生さんが来てくれて……」
「ちょうど予定が空いていたんです。でも大変でしたね。急にキャンセルされちゃうなんて」
なんて?"急にキャンセル"って何の話だ?
「キャンセル?」
「他に誘っていた子に急用ができちゃったって聞きました。だから八王子さんが、わたしを推薦してくれたんでしょう?
知らない。俺はその話を知らなかった。俺の知らない俺が、秘密裏に動いているらしい。香織さんは柔和に笑っている。
「八王子さん、背が高いから、わたしだとそんな身長差がありませんもんね」
そんな理由で香織さんを選んだわけではないと言いたかった。確かに香織さんは少し背が高めだけれど、まったく考えも及ばない点を挙げられて俺は戸惑っている。
「身長差は、別に……」
「あまり気にしませんか?」
「俺は気にしない」
「自分より背が高くても?」
香織さんは意地が悪いのか?強かな女は嫌いじゃない。ぐっと、顔を引き締めていなければならなかった。
「多分……香織さッ゛―埴生さんは、どうですか、自分より背の低い男は」
「好きなら気にしません。小学校の頃なんて、男の子のほうが背が低かったですし」
俺の気が緩んだときに、スプーンは彼女の唇に受け入れられた。濡れたようなピンク色の唇の艶に、俺は熱くなってしまう。クーラーを点けているのに、汗が滲む。息が上がる。鼻呼吸で追いつかない。
「具合が悪いですか」
スプーンはヨーグルトに埋められて、そのヨーグルトとそう変わらないような彼女の白い手の甲が俺の額に伸びてきた。それから頬に。その腕をまた掴んでしまった。俺の舌を這わせた腕を。冷たくて、なめらかだった。
「八王子さん……?」
無防備だった彼女の大きく澄んだ目に疑念が浮かんでいる。
「どこか、体調が良くない?」
首を傾げる。毛先が揺れる。甘い匂いがした。綺麗に響く声が耳の中で谺している。ピンク色のきらついた唇こそ蜂蜜だのメープルシロップだのみたいに蕩けていて、俺の目はそこに釘付けになった。余所見できない。眼球が固まったみたいだ。
香織さんの甘い匂いがする。ヨーグルトの匂いもする。身体が熱くなる。喉の掠れた感じも唇がひりつくのも摂り入れた蜂蜜のせいだった。
「八王子さん」
香織さんの甘い匂いがする。香織さんの甘い匂いが……
俺は香織さんを押し倒していた。波間に浮かぶように髪が広がって、柔らかな匂いが鼻腔から脳髄までを焼き尽くすみたいだった。
「香織さん……」
少し驚いた目に俺もたじろいだ。ここで退けない気もした。けれど進んでもいけなかった。嫌な無言だった。クーラーがスズムシみたいにジージー鳴いている。
「ごめんなさい、八王子さん。カノジョさんに悪いですね」
彼女は何事もないように装うつもりだったのだろう。強張った愛想笑いが、俺を苦しめる。
「なんだ、カノジョって」
俺を押し退けて起き上がり、口をきいてはくれるが、もうこちらを向いてはくれなかった。
「八王子さんにはカノジョがいるって、聞いたことがあるんです。今日誘えなかったのもその人なんじゃないですか。相手にはもちろん、わたしを誘ってくれたこと、お伝えしていますよね。だとしたら……そうでなくても、悪いです」
問い詰めたいことが2、3ある。カノジョって何の話だ。俺にカノジョのいる認識はないけれども……いいや、待てよ。何度か告白を受けたことはあるが、すべて断ったものの、しっかり断りきれていないものがあったか?そんな感じはなかったけれども。じゃあなんだ、カノジョって。
「いない。カノジョ、いない」
俺は片言になっていった。
「……え?」
「誰とも付き合ってないし、キャンセルになったやつなんていない」
「なんだか……」
香織さんは最後まで言わなかった。呆れたような、見限ったような顔が見えた。俺を視界から外して、ヨーグルトに集中している。スプーンで掬って、立てかけてあった蜂蜜のチューブを絞る。琥珀色の粘ついた液体が、もったいぶったように垂れていく。
信じてくれていない。
「好きな人が他にいるんだ」
「そうなんですね」
それすらも、ただの誤魔化しと受け取ったらしい。俺がこれから言うことはすべて二股や浮気を糊塗するためだと思われているようだ。
俺のほうを見ることもなく、ヨーグルトを口に運んでいる。食べることでしか間が持たないみたいに。
「好きな人がいるから、告白は全部、断っていて……」
「おモテになるんですね」
香織さんは怒っている。今のは嫌味臭かったか?いいや、異性に対してそういうのはマウントになるのだろうか?
「モ、モテるというか……」
「疑ってはないです。納得しているんですモテるって話は、他の人からも聞いたことありますし」
そうは言うけれども、香織さんはまだ俺のほうを見てはくれない。社交辞令だな。
「俺にカノジョがいるなんて話は嘘だ」
スプーンはカップについたヨーグルトを集める段階に入っていた。真珠みたいに光るピンク色の唇は心なしか尖っているように見えた。
「分かりました」
ゴミ袋と化したコンビニの袋に容器とスプーンが入れられる。それから、やっと俺に目をくれた。視線が搗ち合う。俺はみっともなく弁解をしようと乾いた唇を開きかける。それとほぼ同時に、彼女は照れ臭そうに微笑した。その表情の意味が分からなかった。けれど艶やかに照る唇が花の咲くように開いて、蜂蜜のスティックを咥えた。鈴蘭水仙みたいに麗らかな指が長細い袋を潰していく。俺を窺うような上目遣いで見てから、残った蜂蜜を吸っていく。ほんの刹那の恥じらい。長距離を走ったときのような息苦しさがまた喉元にやってくる。クーラーの設定温度はいつもより低くしてあるはずだった。だが熱い。臍の下辺りが鈍く重い。血が集まっている。
「香織さん……!」
俺はもう一度、その冷たく細い腕に触れてしまった。蜂蜜によって彼女の唇はまた一段と魅惑的に濡れて煌めく。心臓は下の方に降りていってしまったようだ。脈を打つたび、圧迫されるように息が苦しい。香織の嫋やかな身体を引き寄せることは簡単だった。視界が明滅している。自由奔放な彼女の唇がどうしても欲しかった。腕に抱き寄せて、質感の失せた唇を吸った。蜂蜜か?口紅か?合わさった瞬間に痺れていくのは蜂蜜だ。いいや、悦びのはずだ。捩じ込んだ舌は、天敵といえる甘さを拾っていった。
「んっ……」
俺の胸元で香織さんが身動ぐ。逃せなかった。身体も、この人を放せといっている。口に砂利を入れたような違和感が駆けていくのだった。大声で吠えたときのような微かな痛みが喉奥を覆っていくのだ。毒のような甘さだった。毒だから甘いのだ。
冷たい舌から甘い粘液を舐め取った。泥濘みのように柔らかな内膜まで、すべてを舐め取りたかった。ファーストキスはレモンの味だとどこかで聞いたことがあるけれど、嘘だ。偽りだ。戯言だ。蜂蜜の味だ。少なくとも俺には。
「ん……っ、んっ」
香織さんが俺の腕の中で暴れている。唇が痺れる。身体と理性が放せと訴えている。けれども離せなかった。確かな恋心が、そうは言うが否定しきれない欲情が、惨めな俺の意地が、彼女の華奢な肉体に巻きついて、口の中を啜った。俺を押し返そうとするのを吸って、絡みついた。蜂蜜の味なんて疾うにしなくなっていた。唇の痺れも喉の痛みもすっかり治っていた。ただそれでも、妖しい痺れは消え失せない。
初めての感情に困惑している。遅過ぎるほどの初恋について、俺の分かることといえば、図体ばかり大きくなって、やっていることはガキ大将だ。いやいや、そんな生易しいものじゃない。立派な犯罪だ。衝動のままに口付けてしまうなんて。
「だ……め………」
香織さんの身体が、俺の腕の中で弛緩した。崩れて落ちていきそうなところを抱き留める。結んでいたつもりの舌は呆気なく解けて、伸びていく唾液の糸もこれまた呆気なく途切れてしまった。
床に寝かせると、長い睫毛の下で熱っぽい目が俺を見詰めていた。口の中は甘くて、けれどそれは蜂蜜の甘さではなくて。肩で息をしている彼女の胸も浅く浮き沈みして、俺は額を抱えたほど、粘ついた欲望の渦に巻き込まれたような眩暈を覚える。
「俺の好きな人は、香織さんだ」
身体が熱い。自分で聞こえている自分の声にも影響が出ているのが分かった。いつもよりも上擦っている。それだけではなく、俺の意図していたものよりも幾分か投げやりに響いていた。俺は熱病患者になっていたのか?下腹部が怠かった。鉛を詰められたみたいだった。張り詰めている。
「困ります……」
色の好い返事なんか期待していなかった。香織さんと俺の関係は、知り合いだ。共通の友人がいる程度だ。俺は遠くから香織さんを見ていたけれど。
「ここでやめられない……」
香織さんの服に手を掛けた。裾を捲る。下着が汗で、少し湿っていた。
「やめ………て」
下がった眉と、濡れた瞳。嫌がっている。やめるべきだ。最低だ、強姦なんて。何が正しいかは理解している。けれどやめなかった。俺は香織さんのブラジャーを持ち上げた。白い肌に大きな胸。華奢な手足や腰回りからは想像もつかない。着痩せするらしい。酒を飲んだときみたいにくらくらした。白い大きな胸に、色付いた乳頭。
「八王子さん……」
「香織さんが好きなんだ」
俺は吸いついた。小さな痼りを舌先で突つき、指で転がした。
「あ………っ!」
遠めで見ていた清らかな女の胸を吸っている。俺の心の中に居座って、立ち去ってはくれなかった女。何人も俺の元を訪れた女はいたけれど、それでもまだ、立ち退いてはくれなかった。見かけたら、俺ばかりが立ち止まって、俺を知らずに行ってしまうのに。
「考え直して……あんっ」
強弱をつけて摘まれるのが好きらしかった。小さく凝っている。雪原に咲く桜みたいだった。
「八王子さんは……かっこいいから、……わたしじゃなくっても、ほかに………」
俺のものみたいに勃ち上がった乳首を埋め込むようにして擂った。腰を捩っている。清らかで爽やかで、どこか飄々としていた香織さんの顔に焦りが浮かんでいた。しかし嫌悪だけではないように見えた。俺の勘違いだというのだろうか。
「俺は香織さんがいい」
口を離した。両手で揉んだ。香織さんは横を向いていた。首筋の凹凸が浮き彫りになる。噛みつきたい欲求が脳内に叩き込まれるようだった。
「でもわたしたち………知り合った、ばっかりで………」
俺はロングスカートの裾をすばやく手繰り寄せた。下着をなぞってみる。汗か?湿っている。
「そこ、は……」
「俺は前から香織さんを知っていた。ずっと見ていた。憧れていたんだ」
「だめ………そんなの、だめ………」
下着に手を入れた。陰毛を梳いてみる。白い顔が真っ赤に染まって、顔を伏せた。
「香織さん、生やしてるんだ」
頭を横に振る仕草に胸を引き絞られるような気持ちになる。
「嬉しい」
慰めではなかった。本当に嬉しかった。俺も、そういう香織さんを想像していた。それが好みだったから。
「あ……ああ…………」
そしてその下にある粘膜へと指を挿し入れる。温かく濡れた空間だった。真っ先に当たる弾力のあるものを擂った。
「あ、んっ」
香織さんの身体が大きく跳ねる。作り物をあまり信じていなかったが、クリトリスで感じるのは本当らしかった。俺はそこをもう一度擂る。俺のまだ知らない香織さんがそこにいるのだろう。
「ここがいい?」
もっと的確に捉えて擦ればいいのだろうか。もう少し大胆に触れてみた。接する面積を増やして。
「ああんっ」
聞いたこともない甲高い声が上がる。俺は顔を覆ってしまった。処理しきれない。血が沸騰しそうだった。クーラーの中で熱中症になっているような気がする。
「香織さん……」
「だめ………今なら、忘れてあげるから………」
ピンク色の艶やかな光沢の失せた朱色の唇も美味そうに見えた。頭を押さえる。舐めたい。俺も。
目立たない色で、足の爪が塗られていた。割り開く。ほっそりしているが程良く肉に覆われ、貧相さはない脹脛を揉む。指先から脳天までまやかしめいた幸福が昇っていく。
「やめて、八王子くん………やめ………て!」
スカートを押さえる手を剥がして、ピアノの白鍵みたいな指にキスした。蜂蜜にいじめられた唇から、また実感のない幸福が湧いてくる。
「申し訳なく、思う……」
晒し出された下着を抜き取った。
「いや、ぁ!」
俺は香織さんの陰毛に鼻を埋めた。汗の匂いと、下着からの移香らしき花の匂いで、アルコールを吸ったときのような酩酊感が鼻腔を劈き、脳髄を震わせる。
「汚い………から、」
「綺麗だ。いい匂いがする」
俺はそのまま、指で触ったところに舌を伸ばした。乳首と同じ質感というわけにはいかなかったが、しかしそこは同じように芯を持ち、張りがあった。熟れた果実のようだった。
「あ………汚い、汚い………から………汗も、」
清潔だったなら、尚のこと舐める価値はないように思われる。香織さんから滲み出てくる蜜を舐めた。唇も喉も荒れない。
「いや………ああ…………ああ!」
骨張った指が俺の頭を掴んだ。撫でられている心地になる。飼われているみたいだ。
「三津谷くん……!あぁっ!あっ!」
香織さんの身体が震えた。俺の口の中に彼女の蜜が流れ込んでくる。すぐそこで寝転がっている友人の名が叫ばれて、俺は毒針は、綺麗な花を刺すことしか考えられなくなってしまった。
【完】
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