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ウォータープルーフデイ 1話完結/男性一人称視点/クール系/強気ヒロイン/乳首責め/男性自慰

ウォータープルーフデイ 梅雨2023 【完】 feat.天子ヶ沢花澄(参照:収録【アイシングビースト】)

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 雨の日によく会うな、と思った。会うな、は違うか。よく見るな。雨女か?俺が雨男なのか。カビっぽいとは自分でも思う。
 俺というのは存在感が薄いはずなのだけれども、何故だろう?こうしてまたラブレターをもらったところを見ると、俺は存在感があるのだろうか?いやいや、あの"浮気女"は俺に気付いていない。青なのだが紫なのだか何ともいえない紫陽花の向こうに傘が見える。カレシではないはずの男と相合傘をしているのは、紛れもなく"浮気女"。こっちに向かってきている。どういう経緯なのかはっきりしないが、"浮気女"は今一緒にいる君主河原きみすがわらと浮気していて、カレシはまた別にいる。別れたのか?互いに好き合っているように思うが、何故そこで付き合わない?恋愛というのは訳が分からないな。事情があるのなら、それがどういう事情なのかもまた気になるわけだ。所詮は、他人事。いいや、他人事だから楽しいのさ。ノーコスト、ノーリスクで楽しめるエンターテイメントだ。フィクションでは狙い過ぎていて、展開が読めたらつまらない。
 2人は存在感の薄い、居るのか居ないのかも分からない、透明人間の俺の前を通りかかった。赤地に白抜きの水玉模様の折り畳み傘は"浮気女"のものか?いや、"間男"もあれで結構物好きだからな。逆にマイペースが行き過ぎて頓着がないともいえる。だから派手な、女子の好きそうな柄の傘なんて使えるんだ。
 俺は軒下にいて、今から出ようとしていたところだった。ちょうど差した傘で顔を隠す。"間男"は"浮気女"を送りにきたらしい。
「あ、その……ありがとう」
「傘借りてるの、オレのほうなんだし。いいって、これくらい」
「じゃあ、ね。バイバイ……」
 別れ際らしい。甘ったるいことだ。浮気だと大声を出してやりたくなる。皇坂すめらぎざかとは別れたのか?それで君主河原と付き合うことにしたのか?女ってやつはよくやるな。
 軒先から向こうへ行く君主河原を見送って、中に入るのかと思えばそこに佇む。一度イカせたことのある女に対して、俺は驚くほど馴れ馴れしかった。普段、女とは事務的な会話しかしないのに。
「カレシと相合傘か?」
 "浮気女"は俺に気付いた。気拙そうな表情が、俺とのタイセツナオモイデを無かったことにはできなかったのだと、妙な達成感というか、勝利したような心地になる。
「あなたには関係ない」
「ある」
「ない。お邪魔シマシタ」
 外はまだシャワーみたいな雨だ。軒は小さな滝だ。中に逃げればいいものを、わざわざ"浮気女"は外へと逃げていく。女ものの、それも折り畳み傘に2人で入って凌げるはずもない。"浮気女"の肩も少しは濡れている。君主河原の肩も無事ではないんだろうな。
 "浮気女"は強気になって、雨の中を行こうとする。少し洒落ている庭は、赤レンガ敷きに、脇には紫陽花が植わっている。間男或いは新しいカレシを追う気はないのか、君主河原とは違う方向に歩いていく。あの気の強さをどうにかしてみたくなる。帝城寺の苦労が分かるな。
 俺は"浮気女"を追った。気丈な女の自尊心というやつらしい。"浮気女"は逃げもしないが、俺を振り返りもしない。
 シャツが濡れ、肌に張り付いてキャミソールが透けた。ブラジャーのホックも浮いていた。肩に触れる。掌の半分くらいにしか接しない、細い肩に驚いた。女は柔らかく、脂肪が多いというが、それは予想に反した形だった。肩の骨の硬さは、痩せぎすに思えるが、けれども別にこの"浮気女"に栄養失調らしい感じはなかった。確かに華奢ではあるのだが……不健全というほどではない気がする。もう少し肉を付けたとしても肥っているとは思えない。
「触らないで!」
 "浮気女"は嵐を吹く猫みたいに振り返った。俺は後退りかける。視界に飛び込んできたのが、濡れて透けたキャミソールのさらに下、ブラジャーが色まで透けている。青か?
 やっぱり一度イかせた女という認識は大きい。女のブラジャーなんて目のやり場に困るはずだった。それを俺を遠慮もなく見ていた。
 "浮気女"は俺の手を振り払いはしなかったが、肩で振り払うように行こうとした。
「そのかっこうで行くのか?今日のブラジャーは青なんだな」
 言ってやれば、
避難するよな眼差しを向けられる。
「来い」
 女の腕は柔らかくて細かった。多少肥えていれば肉感があったのかも知れないが、"浮気女"はガリガリの痩せっぽちでもないくせに肉感の奥に骨の硬さを感じる。
「は、放して!」
「それで帰るのか?注目を独り占めかもな。青いブラジャー透かして?」
 今更傘に入れたところでもう遅いが、引き寄せておかなければ逃げ出しそうだった。俺も濡れるが大したことはないだろう。
「やめて!」
「水浴びが趣味なのか」
「違う!あなた、わたしに何したか忘れたの?」
「覚えてもらっているとは光栄なことだ。エレベーターで仲良くやって、イかせたな。百合」
 俺から逃げようとする態度がいい。見た目がタイプなのは相変わらずだ。見た目がタイプというのは大きい。どういう性格なのか、それを好きだと思うのは錯覚だ。見た目の好みに、性格の好みも比例する。余程に下劣な場合を除いて。いいや、やはり下劣さはあっても、好みの肉体のみを支配アイしたいと思うこともなくはない。
「やめて。最低。外で……そんな……」
「何をしたか忘れていない。百合、中に入るぞ。何人にそのブラジャーを見せれば満足なんだ?」
 勘違いした男が"浮気女"を俺みたいにイかせて、"浮気女"に馴れ馴れしく接していくのだろう。それはおそらくつまらないことだ。帝城寺の王様気取りから逃げてまどって、皇坂に裏切り行為をして、君主河原を間男に貶めるこの女王様を俺も崇めなければ。
 "浮気女"は無言のまま怒った。俺を睨むのもやめて、ただ腕を引き離そうとする。けれども俺の力のほうが強い。多少は痛いだろうが我慢させた。
 ちょうどよく、俺はロッカールームからの帰りだった。"浮気女"もすぐそこのロッカールームを包括した建物に放り込む。
「いや!」
 日当たりの悪い、暗い室内だ。だからロッカールームに充てられたのだろう。あの日のエレベーターを思い出す。いいことだ。
「放してったら!」
「ブラジャーを透かして歩くのが趣味とは恐れ入る」
「仕方がないでしょう!」
 人気ひとけのないロッカールームで、俺は"浮気女"を壁際に立たせた。"浮気女"は躊躇いごちに辺りを見回す。助けを呼ぶ相手でも探しているのか?
「脱げ」
「嫌に決まってるでしょう!」
 それはそうだ。俺は"浮気女"のシャツのボタンに手を掛ける。
「触らないで!」
 冷たい手が俺の腕を掴む。小さい。
「身体が冷えているな。温めないと」
 "浮気女"の唇を塞いでみた。冷えている。人の体温はあまり得意ではないから、ありがたい話だ。俺を押し除けようとするのも強気でいい。俺はマゾヒストなのか?反抗されるのが好きだなんて。けれどそれは却って"浮気女"には不利だ。逃げないように捕まえることができるのだから。
「うぅ……」
 悔しそうな呻き声で俺は一気に身体中が熱くなった。俺にキスされて悔しいらしい。俺に悔しいことをされている。俺の存在を、好みのタイプの女が悔しがっている。
 俺は夢中になってしまった。唇をり開いて舌を捩じ込む。"浮気女"は体温も俺の好みだった。冷たい。人の体温は気持ちが悪い。
「んく………っ」
 壁に"浮気女"を押し付けて、舌を追う。人工甘味料には中毒性があるというけれど、俺は実感したことがない。だが、本当かも知れないと思ったのは"浮気女"の口の中が甘いから。砂糖みたいな甘さではなくて、錯覚めいているけれど。舌を経由しない甘さというのか。人工甘味料?確かに"浮気女"が生成している甘さなら人工か?いやいや、そんな気の利いた言い回しは要らない。
 くだらないことを考えていられたのは最初だけ。口付けているのは俺のほうなのに、"浮気女"に支配されている気分になる。
「んっん……ぁ、」
 雨の音が聞こえるけれども、それよりも、雨にしては粘着質な水音も聞こえて、"浮気女"の口の中を漁るのをやめると止まる。俺が立てている実感が湧く。
 角度を変えてさらに踏み込む。"浮気女"の身体が落ちていくのを支えてまで、俺はまだ貪っていたかった。
 力が抜けて、"浮気女"はもう抵抗もできないようだった。俺のキスで、そんなふやけたみたいになるのか。演技だろうか?俺は女を知らない。浮気するような色事に長けていそうな女をそんなふうにできるわけがない。つまりこれは演技だ。
「百合」
 呆けた目は、何を見ているのか分からなかったが、視界に俺が入っているのは間違いなかった。涙ぐんだ上目遣いがあざとい。そうやって、帝城寺や皇坂、果ては君主河原をたぶらかしたのか?俺も、"分かって"いて誑かされることを選んだ。こういう場合、理性よりも興味と関心が勝るもの。
 シャツのボタンを外していく。"浮気女"は嫌がりはしたけれども、まだ訳が分かっていない様子で、俺の手首に手を添えるだけだった。濡れたシャツがキャミソールに張り付いている。キャミソールを捲り上げたところで、やっと我に帰ったようだ。
「やめて!このヘンタイ!」
「騒いでいいのか、この状況。俺はお前と付き合っていると言ってやる。君主河原の耳に届いたらどうなるだろうな」
「脅してるつもり?君主河原くんは関係ない」
「なら、騒ぎ続ければいいさ」
 どちらに転ぼうが俺は構わない。キャミソールを脱がそうとすれば、俺の手を払って両腕を交差する。そしてうずくまる。幸い、シャツは俺が持っているから、さすがの"浮気女"も下着姿では出歩けないのだろう。
 俺は自分のロッカーに向かった。タオルと上着を常に置くようにしている。少し神経質かもな。けれど寒がりなところも否めない。特に盗まれるものも、盗まれて困るものも置いていないから鍵は掛けていない。タオルを出して放り投げてやる。
「身体を拭け」
「ブラウス返して」
「濡れているぞ」
「いいから!」
 俺はブラウスとかいうシャツを返さなかった。タオルは床に落ちる。俺のものは使えないって?
 蹲っている女王様を拭くのは、下僕の俺の仕事らしい。
「返して!」
「身体を拭け」
 時期が時期で、ロッカーに長いこと放置していたタオルだ。臭いのかと思ったが、普通に洗剤の匂いがした。
「やめて!触らないで!ヘンタイ!」
 落ちているタオルを適当に払って、女王様を包み込む。俺を押し除けようとするのが、拾って帰って洗ったばかりの子猫みたいで非常に良い。爪を立てられて、高い声で泣き喚かれたいところだ。
「だったら逃げて、その素肌を晒して来い」
「ブラウス返して!」
「キャミソールを脱げ」
「嫌!」
 俺は濡れて張り付いているキャミソールの裾を掴んだ。
「引き千切ってやろうか」
 俺の女王様は下唇を噛んで、首を横に振る。いくら勝ち気の強気でも、直接的な脅迫に怖気付いているのだろう。そんな態度で俺が満足したとでも?もう少し意地を張ったっていいんだ。
「脱ぐか?それともそのまま外に行くのか?全力で逃げてくれ。すぐに捕まえて引き裂いてやる。ブラジャー晒して歩くことだ」
 女王様が選ぶまで、俺は濡れた身体を拭き続けた。同じ洗剤の匂いをなすりつけられたらいいが、生憎そんな強い匂いではない。そんなことになれたら、俺は俺で香害だ。
「決めてくれ。それまでキスさせろ」
 素肌を晒す肩にタオルを掛けて、俯いている女王様の顔を掬い上げた。
「いや!絶対にいや!あんたの言いなりになんかなるもんですか!最低!」
 いい選択だと思う。女王様はそうでなくては。俺を突き飛ばして、そのまま逃げ出そうとする。けるども無駄な足掻きというもので、俺はすぐに女王様を引き留めた。性差というべきか、体格差というべきか、筋肉量が違う。力をつけられる上限というものも、男女では差があるのだろう。そもそも妊娠したら動けなくなるメスの世話をするためにオスが必要になったのだから、まさか生命のデザイナーというものも、オスがメスに対して悪巧みをするだなんて考えちゃいなかったか?いやいや、生命体のデザイナーは、そこに倫理や道徳、感情なんて最初から計算に入っちゃいない。
 さすがにまだ着られるキャミソールをただの布切れにしてしまうのは気が引けた。何かに窮したことは特に無いけれど、根幹が貧乏性なのか、俺は。とりあえずそれは、俺の中のこだわりにもとる。
 キャミソールは破かないことにしたが、俺はもう一度同じところに女王様を叩きつけて、キャミソールごとブラジャーを引き上げた。白い桃みたいな胸が跳ねて、もしかしたら今後、プリンだのゼリーだのが震える光景にもいちいち興奮しなければならないのかも知れないな。欲求不満だ。周りの同性と比べると、落ち着いている気さえしたのだが。いやいや、これからか。俺は心身共に成長が遅かったみたいだから。
「いや………っ!やめて、……っ、見ないで」
 俺は女王様の細腕を両方掴んで壁に留めていた。暴れているが、気の毒だけれど、俺に胸を見せるしかない。
「君主河原にはもう触らせたのか?」
「あんたには関係ない!」
 胸だけを見て清楚かどうか分かるほど、俺は女の裸体に詳しくない。第一、この女王様はとんでもない浮気女だ。だが、たとえこの女がどれだけアバズレでも、その胸は清楚という他なかった。色が白くて、薄いピンク色をしていて、張りがある。何より、肌理きめが細かくなめらかだった。触れてみると、俺の指にも吸い付く。
「アンタのせいで胸フェチのとんだヘンタイだ、俺は」
 俺は胸の膨らみの下側から、脂肪を持ち上げるみたいに掬って揉んだ。弾力が身体中に響き渡るような妙な感動がある。
「触らないで……!触らないで……!放して……」
「放して、どうする?」
 俺は胸の上にあるキャミソールの裾を掴んで、無理矢理に女王様の腕から引き抜いた。上半身はブラジャーのみだ。今は乳を晒している。
「帰りたいなら帰ることだな」
 キャミソールを奪って、シャツ同様にロッカーに入れてしまった。シャックル部分を嵌め切らずに錠を掛けた。
「酷い………どうして………?わたしあなたに、何か、悪いことした?」
「……した」
「謝るから……身に覚えはないけれど………あなたのこと、よく知らないし、恨みとかはなくて……」
 俺の気高い女王様は媚びに転じて、あざとく俺にしがみつく。キャミソールがあればまだ逃げられたって?
「身体で償え」
 あんたは俺を下僕にしたんだからな。
「そ……れは、」
「償わせる」
 今度は女王様をロッカーに叩きつけて、下僕のすることじゃない。けれどもかしずいた。ブラジャーは胸に戻されていて、背中に手を回し、ホックを外した。浅い抱擁で、妙な疼きが俺の心臓に起こる。女性様はあまりに細い。小さい。壊れそうだ。子猫にしがみつかれた時の感覚に似ている。息がしづらくような、訳の分からない苦しさと、まだくっついていたいような心地良さでせめぎ合う。ホックを外すほんの一瞬で逡巡した。女の身体はこうなのか?磁石が引き寄せられるように、或いははじき合うように、男と女の肉体でも、そういうことが起こるのだろうか。
「なんで、外すの……」
 女王様は混乱して、独り言ちる。俺も戸惑っている場合ではなかった。女王様が手を後ろにやって、嵌められてしまったら、また外せるんじゃないか、なんてばかげた考えが浮かんでいるのは油断だ。
 浮いたブラジャーを持ち上げて、勃っている乳首を両手で摘む。
「んっ……」
 すでに勃っていただけあって、指と指の間で擂っていると、存在感が増していく。小さな豆を転がしているみたいだった。
「あっ……ん……」
 胸を突き出してきて、ロッカーが小さく音を立てる。世間は梅雨だ。今日は雨だが気温の割に湿度もそう高くはなく、比較的過ごしやすかった。なのに何故か暑い。掌に当たる女王様の乳が冷たくて気持ちがいい。持ち替えて、おやゆびで押すことにした。余った指で脂肪を揉む。柔らかい。
「ゃ……あんっ………」
 女王様が俺の腕に手を添える。蕩けた顔をして、半開きの唇の奥に唾液があふれ返っているのが見えた。胸がそんなに弱くて、授乳するときはどうなるのだろう?
「君主河原はこうしてくれないのか?」
「ん……っ、や!ぃや!」
 君主河原のワードが、胸の刺激でかなり弱くなって、お姫様みたいになっていたのが、また女王様になった。
「触らないで……」
「雨に濡れたんだ。身体を温めないとな」
 指で弾くと腫れ上がったみたいにそこは膨らんで、硬くなっている。気触かぶれたのか?
 下僕の俺は女王様の腫れて膨れたところを舐めて治さなければならない気がした。
「もうやめ……っ、ゃんっ」
 俺は女王様の乳を吸う。腰を頻りに動かして、ロッカーが鳴った。何かもどかしそうだった。胸への刺激は、下半身に響くらしい。けれどもそうか。俺も女王様に触れられると、結局は股間で感じることになる。女もそうなのか?
 気触れたかも乳首に唾液をまぶす。もう片方は、あまり摩擦しないように強弱をつけて摘むだけにした。
「んぁ、だめ、だめ、だめ…………ぁあんっ」
 声が高くなっていくのが分かると、調子に乗ってしまう。女王様からのお褒めの言葉も同然だ。指と唇を締める。女王様は甘たるく鳴いて、腰を大きく揺らした。ロッカーで、誰か来てしまいそうな緊張感がある。
「あ、ああ………」
 俺もそろそろ下腹部が苦しかった。けれどもこの女王様が、下僕に手コキなんぞするわけがない。俺は乳首イきして惚けている女王様にふたたびキスした。キス手コキがシチュエーションとしては一番好きだ。ロッカーと俺に女王様を挟み、口腔を貪りながら自分で扱く。けれど物足りなくなって、華奢な身体を抱き寄せる。普段の手淫は10分近くかかるが、いつもより深く感じてしまった。手が止まらず、動きも速くなる。射精感はすぐに高まっていった。女王様を抱き寄せすぎて、苦しかったかも知れない。嫌がるような素振りの舌が、わざとなのか俺のポイントを突いてくる。
「んっ、ふ………んんっ、ぁふ………」
「く、―ッ、ぅ」
 俺の視界が白くなる。その一瞬、かなり女王様の舌を鮮明に感じた。今までにないほどの快感だった。手の中で射精する。女王様にも飛ぶかもな。男のイき方は打ち上げ花火のはずだった。それなのにこれは蛇花火だ。余韻が長引いている。精液の量も多い気がする。あの日、俺がこの女王様の下僕になった日の夜の射精よりも気持ちいい。あのときも、俺はこの女王様をおかずに自慰に耽った。
 早い男は情けないらしいが、これは早くもなる。片腕に女を抱きながら、口の中を犯されて、脳が溶けそうだ。そして脳が溶けそうになる感覚は気持ちがいいらしい。
 女王様から口を放すと、俺の舌は女王様の舌も引っ掛けて、吊り上げてしまった。唾液の糸も引いている。女王様はさすが女王様だった。自分で立てないらしく、俺が片腕で支えていた。いかんせん、反対の手は精液まみれだ。ロッカーの中にポケットティッシュとウェットティッシュも入っているはずだ。乾いていなければ。
「んん……放して!」
 寄り掛かっていたのは女王様のほうだ。けれども俺は下僕。女王様が仰せなら俺が悪い。片手が自由になって、ザーメンまみれの手でロッカーを開ける必要はなくなった。汚れていない片手でロッカーを開け、上着を放り投げる。
 まだぼんやりしている女王様の頭にそれが掛かった。乳首でイくのはそんなに凄絶なのか?
「ブラウス返して!」
「それで帰れ」
 女王様がブラジャーを嵌め直しながら可愛い目で睨んでいる間、俺は手を拭いた。
「ブラウスと下着返してよ」
「それで帰れ。返さなくていい。約束しろ」  
 俺はいつのまにかここに入れていたらしいエコバッグを見つけ、それを広げて濡れたシャツとキャミソールを入れた。
「皺まみれだ。濡れたものをもう一度着るか?」
 女王様はとりあえず肌を隠すのに、卑しい下僕の上着が必要みたいだった。抱き締めている。それを見て胸がくっと締め上げられるような心地良い息苦しさを覚えた。
「……いいでしょ、別に」
「着ろ。俺の上着を着るあんたが見たい。着ろ。そうしたら返してやる」
 緑色の厚手の、フード付きの上着は、俺にも少し大きいのだから女王様にも大きいだろう。
 女王様は渋々、下僕のジップアップを羽織った。裾は腿の半分まで垂れ下がって、袖は大きく余っている。なかなかいい。俺は薄気味悪い顔をしていたかも知れない。
「会いに来る気があるなら返してくれ。嫌ならいい。どうせ使わないと思っていたものだ」
 女王様は躊躇いがちに、エコバッグに手を伸ばした。俺が騙して取って食うとでも思っているらしい。もう美味しく食べたけれどもな。それから奪い取るように取っていった。
「傘もないんだろう?俺の服を濡らすなよ」
 折り畳み傘も押し付けると、女王様は悔しそうにして帰っていく。落ちたタオルを拾って、エコバッグに詰めていった。卑しく破廉恥な下僕の服に、下僕の傘、下僕のエコバッグを持って、気位の高い女王様には屈辱的なことだな。
 俺は精液臭いロッカールームに残って、くだらない妄想をしていた。今日はいい日だ。君主河原と鉢合わせればもっといい日だ。
 俺はその後、適当な水道で手を洗う。外はまだ雨だ。俺の傘で、俺の服を着ているんだろう。脱いだのか。それもいい。笑いが止まらない。





天子ヶ沢てんしがさわくん」
 手を洗っていると、後ろから声をかけられた。君主河原だ。まだ帰っていなかったのか。振り返る。
「ラブレターでお呼び出し、行かなかったの?」
「どうしてそれを知っているんだ」
「さっき相談されちゃって。行ってあげればいいじゃない。結構かわいい子だったよ?」
 君主河原は教育テレビの学級委員みたいなことをするものだ。
「迷い猫を見つけたんでな」
「迷い猫?」
 蛇口を締めて、水気を払う。手を拭いてから、君主河原と向き合った。"分かってる"顔だ。
「手厚く保護してやらないと。猫風邪は厄介だ」
「天子ヶ沢くんがそんな愛猫家だったなんて驚いたな」
 相変わらずマイペースげな素振りで、にこにこしてるな。
「小さくて強気なものに目がなくてな」
「……これは返すね。もう必要ないから。ありがとう」
 使われていない折り畳み傘を突き返される。俺は笑い出しそうなのをどうにか抑えた。
「用が足りたのならよかった。身体を冷やしたら事だろう。じゃ、早く戻ってやることだな」
 俺は面白くて仕方がなかった。外は生憎の雨。今日はいい日だ。かなり、いい日だ。

【完】
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