105 / 122
アイシングビースト 1話完結/クール系美男子/一人称視点/near寝取り
アイシングビースト 雷雨の日に聞いてしまったあの子の秘め事。
しおりを挟む大雨だ。少しだけ頭が痛い。朝からの悪天候。屋上庭園へ出るドアの鍵も、今日は開いていなかった。だが俺の好きな場所だ。鍵は開かないというのに、階段に座って雨音と遠雷を聞いていた。あとは帰るだけだ。だが帰るにも、この雨では、傘も意義を果たせないだろう。
下から階段を登ってくる足音が聞こえて、俺は息を殺した。幸い、晴れた日でも日当たりの悪い暗いところだ。電気も
点けていないし、生憎の天候では俺は暗闇に溶け込める。背は高いほうだ。だが存在感は無いらしい。周りと打ち解けない俺に対する嫌がらせでないのなら尚更、俺は存在感がないことになる。
『逃げないで。なんで逃げるの?』
下の階から話し声が聞こえる。足音が消えた。
『ごめんなさい……ごめんなさい………わたし……いつも、君主河原くんに嫌な思いさせて……』
相手は君主河原か。いつもと声が違うように聞こえたから気付かなかった。モテるんだろうな。女は顔の綺麗な変なヤツ、好きだろ。
『不快?なんで不快?』
君主河原らしくない喋り方だった。本当に君主河原か?話題に挙がっただけで、下にいるのは違う人間なんじゃないだろうな。
『だって、あんな姿……き、気持ち悪い……よね。君主河原くんには、もう迷惑、かけないから……』
『あっはっは。でも百合ちゃんも酷いな。オレのキスを受け入れてくれたのに、皇坂くんと付き合っちゃうなんて』
百合?皇坂?確か帝城寺が尻を追い回している女がナントカ百合っていっていたな。まさか。よくは知らんがあの態度は帝城寺に惚れてるだろ。俺以上に人嫌いな皇坂がそこに横槍を入れるとは思えない。俺は人と関わるのが疲れるだけだが、皇坂は人が嫌いなんだ。帝城寺が尻を追い回している女とは違う相手だとしても信じられないな。
『付き合って……な、んて……』
『好き、って言ってたもんね。オレもあの日のことは忘れるよ。キスしてごめんね。百合ちゃんもオレのコト、嫌いにならないで。トモダチとしてやり直そ』
仮に皇坂とユリって女と付き合っていたとして、その女は今、君主河原と逢引き中。複雑だな。
『じゃあね、百合ちゃん。外すごい雨だから、気を付けてね』
君主河原は爽やかなヤツだと思っていたが、浮気か。
遠くにあった雷の音が近くでして、こんな日にする会話ではないなと俺はひとり楽しくなってしまった。
『ゆり~!どこだ?おい!』
帝城寺が吠えている。大将気取りのライオンみたいだが、あの人には気品がない。
階下の足音も近付いてくる。俺は手摺り側に身を寄せて隠れた。電気を点けられたらすぐにバレるが。
俺が真横にいることにも気付かず、君主河原じゃないほうが、階段を登ってきて、座り込んでしまった。どうやって帰るか。
雨音と稲妻、そして爆音。その後に訪れる静寂。俺の隣で皇坂と付き合っていて君主河原と浮気しているらしい女が泣いている。泣くくらいなら皇坂と付き合わなければいいだろ。別れて君主河原と付き合えばいい。浮気をするな。俺には関係のないことだが。女はそういうものなのか。浮気や不倫というものに縁のない人生を送っている俺には、まったく忌避感がないが、とりあえず世間的には禁忌らしい。確かに、好きな相手を見誤っているという点で情け無くは思えるが。
浮気女は自分が悲劇のヒロインだとばかりに泣いている。本人はこの場に一人のつもりなのだから、この女の自由ではある。
ただいくらか、天気頭痛を抱えている身としては鬱陶しさが否めない。
『おい!ゆり~。ここか?』
帝城寺が階段を登ってきている。うるさいのが増える。頭痛に響く。隣で驚いたような小さな音が聞こえた。だが今は帝城寺が追い払うのが先だ。
「ここには誰もいない」
階段を降りると、帝城寺が相変わらずの高圧的で横柄な態度で構えている。
「あ?」
「あ?じゃない。頭に響く」
「ここにはいねェんだな」
「ここにいたら電気くらい点いてるだろうさ」
俺は点けないが。
「ほぉ?確かに。ンじゃあな。サンキュ」
帝城寺はその自己顕示欲と比例したみたいな足音で階段を降りていく。俺は反対に屋上庭園に繋がるはずだった踊り場へ戻った。
「あ―」
女が声を出そうとする。俺は女の口を塞いだ。掌に柔らかいものが当たる。
雨音、稲光と、直後に爆音。静寂が来て、心臓の鼓動。
「聞こえるぞ。あいつに」
女の甘い匂いがする。
稲光がもう一回。それから浮気女の顔が見えた。
「天子ヶ沢くん……?」
俺はこの浮気女を知らないが、相手はそうじゃないらしい。一方的に知られていりのはあまり気持ちの良いものじゃないんだな。
俺は女の口から手を離す。掌に当たっていた柔らかなものの感触がまだ残っている。
「あの……ありがとう……」
「アンタのためじゃないよ」
「頭、痛いの?」
浮気するだけあって馴れ馴れしい。一人にしてくれ。帝城寺ならもう行ったぞ。こっちは頭が痛いんだ。
「別に」
「ごめんなさい、お邪魔しちゃって。もう行くから」
浮気女が立ち上がった。落ち着くと、俺の中で図式が組み上がっていく。この浮気女は帝城寺が尻を追い回している女で、皇坂と付き合い、君主河原と浮気をしているということか。
女人気の高い奴等に手当たり次第唾つけているのか。嫌な女だな。帝城寺の次にモテる王旗院がエントリーされていないのが少々意外だが。
「いいのか。帝城寺に見つかるぞ」
「他の部屋に行くよ。ありがとう、庇ってくれて……」
「庇ってないしアンタのためじゃない」
「でも、助かったから」
優しそうな女だが、浮気をしているのだから恐ろしい。
浮気女は階段を降りていった。俺も頭痛が治まって、雷はまだ鳴っているが大雨が弱まりつつあるから、そろそろ帰れるかもしれない。
エレベーター前にはまだあの浮気女がいた。明るいところで見ると結構タイプ。気が強そうで、でも弱そうな。清楚っぽいが、芯の通っていそうな。いじめたくなるが守りたくもなる雰囲気だ。帝城寺と同類か。いいや、皇坂と一応君主河原もそうなるな。
エレベーター前の自販機で買ったらしいいちご牛乳を飲んでいてあざとい。浮気女そのものはあざとくないが。いいや、あざといから、あいつ等は首ったけなのか。見た目は確かに、俺も好みだ。
浮気女も俺に気付く。会釈されたが俺は返さなかった。浮気女に言い寄られて、第二の君主河原になるのは避けたい。何しろ見た目はタイプで、しかも手練なんだろう。意識の外に追いやっておくのが安牌だ。
エレベーターが着いて、俺が乗ると浮気女のも入ってきた。外はいくらか弱まったとはいえ雨は振り続け、雷はガラスが割れるような音をたたている。瞬きとはずれたタイミングで視界が明滅すると、小さな箱の中は真っ暗になって、下降するはずが止まった。
最悪だ。階段を使えばよかった。落雷とエレベーターというところにまったく不信感を持たなかった。階段で降りられない距離じゃなかったはずなのに。
携帯電話で明かりを点ける。浮気女はエレベーターのパネルを触っていたが、どれも無反応だった。そのうち復旧するだろう。
浮気女は諦めて、その場に蹲る。携帯電話持って来てないのか?このご時世に持ってないわけないだろう。ライフラインだぞ。
カレシに連絡しないあたり、置いてきたに決まってる。
「スマホ持ってないのか」
浮気女が意外そうに俺を見る。もしかして俺が乗っていることに気付いてなかった?有り得るな。
「持ってるけれど……」
「誰かに連絡でもしておけ」
そわそわされても俺が落ち着かない。一体誰に連絡するんだか見ものだ。交際相手か?自分のことを追ってくれる彼氏か?それとも、浮気相手?
浮気女は携帯電話を取り出して誰かに連絡しはじめた。誰だ?エレベーターの外では耳を劈くような雷鳴が、今では曇って聞こえる。薄い板から聞こえる電子音のほうが鮮明だった。
「あ……菖ちゃん。今、学校?」
ここにきて、アヤメという新キャラクターが登場する。女か?男か。女だからといって、健全な付き合いとは限らない。女同士の恋愛も、無くはない。突き詰めても結婚などは法が認めないし、何かあっても孕んだりしないという点で浮気や不倫とは言いづらいのかも知れないが。女体が2つ絡み合う様は、俺だって嫌いじゃない。多少の物寂しさがあるのは刷り込みだな、きっと。
「そう。じゃあお風呂入っちゃいなさい。ちゃんと拭いてね。お姉ちゃん、ちょっと帰り遅くなるかもしれないから。帰れそうになったらまた連絡する。お腹空いたらカップ麺、あるよね?」
俺は浮気女を見ていた。弟か妹に電話しているらしいが、本当に弟妹か?年下の浮気相手じゃないだろうな……俺は芸能記者か。
浮気女が通話を切った。
「ごめんなさい、うるさくしちゃって……天子ヶ沢くんは……?誰かに、連絡とか……」
警戒されている。それは警戒するだろうな。男と女が2人きり。別に俺は何もしないさ。手垢のついた女に何の用がある。女とは関わり合いたくない。それも浮気しているような女なんかと。
「俺、アンタのこと知らないんだけど」
「え……?」
「なんで俺のこと知ってんの」
「騎士小路くんているでしょう。幼馴染なの。たまに話に出てくるから……」
騎士小路は俺の友人だ。騎士小路としか喋らない。あいつは話しやすい。騎士小路は俺に浮気女の話なんてしなかったぞ。
「それによく、女の子たちが噂してるから……変な噂じゃ、なくて」
浮気女は気拙そうに笑う。
「ふーん」
女って噂が好きなんだな。仕方ないか。それが古来からの生存戦略ともいえるわけで。
「どんな噂」
変な噂じゃないとは言っても、噂されているなんて本人に言うか?浮気するだけある。人格に問題があるな。性格の悪い。けれども、俺の存在感が薄いだけなのか、避けられて嫌われて疎外されているのか分かる機会でもある。
「え……?かっこいいとか、ミステリアスとかクールとか、そんな感じの」
「口説いてる?」
「えっ、そんなつもりじゃ……」
浮気女の顔が驚いたのが、俺の携帯電話の薄明かりでぼんやり浮き上がる。
「ひとつだけ、アンタのこと知ってるわ。浮気してるってこと」
俺は携帯電話の明かり切った。そのほうが面白そうだから。
「浮気……?」
「さっきの話、全部聞いてたから。アンタと君主河原の関係って何?帝城寺は、勝手に片想いしてるだけか。皇坂は誰と付き合ってるんだ?浮気は言い過ぎだな。二股か」
俺の勘違いなら笑い飛ばしてやる。細部は知らん。過去のことならそれでいい。騎士小路の幼馴染だなんて言っているが、これが幼馴染ならあいつも可哀想だ。
「二股……」
「違うのか」
言い訳を早く聞かせてくれ。電力が復旧するまでどうせ暇なんだ。否定してくれてもいい。俺の誤解で勘違いだと。恋多きろくでもない女だという印象は変わらない。
「ううん……そうかも。きっと、そうだね。浮気だ……」
人間は、というとスケールが大きすぎる。俺もまたろくでもない。今、圧倒的優位にいる。それは性差や体格然り、だがこの場で強く実感するのは物理的な話ではない。立ち位置の話だ。正義感に燃えているわけではない。俺には交際相手も片想い相手も妙な関係の相手もいない。柵がない。だから後ろめたさがない。つまり他人事で、強者になれてしまえる。要するに優越感だ。一見正しいことを言って相手を刺し、正義を気取れる。それは多分、気持ちの良いことなんだろう。相手が女、それも好みの見た目、好みの声、俺を知っているのなら尚更。
「後学のために教えてくれ。どうして浮気するんだ?」
携帯電話で明かりを点けていたのも相俟って、まだ目は慣れずに視界は真っ暗だった。それでも空気が、乾燥していくのに似た異様なものに変わる。
「……分からない」
「分からないのに浮気するのか、アンタは」
無責任でなきゃ浮気なんてできない。皇坂を選んだんじゃないのか。モテる男に囲われていたかった、お姫様になっていたかった……って、認めろよ。もう清楚な女としては見られないんだ。いつまで清い人を気取るつもりだ?
「好きな人に……ちゃんと、告白しなかったから……」
「好きな人がまた別にいるのか」
呆れた。同時にこの女のうわつき具合に興奮した。メスだ、この女は。
頷いたのかもしれないが、暗くて見えない。
「わたしも、よく分からなくて。好きな人は、いるけれど……気が付いたら、……浮気、し……てた」
「言い訳にしてはチャチだな。気が付いていたら浮気していたなら、俺とも浮気してくれよ」
見た目がタイプ。声もタイプ。性格はクズだが、別に付き合うわけじゃない。義憤に駆られたわけじゃないが、あまりのろくでなしぶりを突つくのに興奮した。性欲旺盛のメスと密室で2人きりなんだ。この非日常に余計に興奮する。
強姦魔か、俺は。見た目がタイプくらいじゃこんな気は起こらなかった。別に怒っているわけじゃない。怒る理由がそもそもない。浮気や二股なんてどうでもいい。俺にとってはエンターテイメントでしかなかった。ただ、この女を軽んじて蔑む理由にはなる。言い分に一本、軸がないのも。
「な、何言ってるの?」
愛想笑いしているのが、暗いなりに分かる。雷が遠くで鳴って、復旧もそろそろか。
「かっこよくてミステリアスでクール……ね。アンタはどう思った?周りの評価の高い男が好きなんだろ?」
帝城寺に追い回されるのも、満更じゃないんじゃないか。あの情けなさが意外と可愛がられる騎士小路と幼馴染って、知り合って数年のことを言っていたりしてな。皇坂も眼鏡でサドみたいな身形だし、君主河原なんて風来坊っぽくて女が放っておかないのも分からなくはない。王旗院が関わっていないのが少々意外だが、あれはサイコパスだから、女の勘で避けているのかもしれない。
「え……?」
「違うのか」
浮気女の言葉に棘が混ざったのが、視覚情報が頼りにならない分、鮮明に感じられた。
浮気女は立ち上がって、いい匂いがした。見た目も声も、匂いまで俺の好みか。俺は携帯電話の明かりを点けた。胸ポケットに入れておく。躙り寄ると、浮気女の恐怖に慄く顔が見えた。
「どうしてカレシに電話しなかった?」
「こっちに来ないで……こんな状況で、卑怯よ!」
「アンタが二股のアバズレじゃなきゃ、こんなことしなかったさ。それにタイプなんだよ。見た目はな」
質問は躱された。鬼ごっこするには狭いエレベーターだ。浮気女は簡単に壁際に追い詰められる。
「こっちに、来ないで……」
「性格はクズみたいだが」
壁に手をついて、耳元で囁けば、浮気女は震えていた。
「どうした。凍えているが、寒いのか?」
「あ……ああ………こ、怖い……」
「初なフリするなよ。俺も今日からアンタの浮気相手なんだ。よろしくな」
「い、嫌……」
硬直しているのを差し引いても、抱き締めてみると華奢だった。帝城寺と付き合ったら壊れるだろうな。確かに皇坂がちょうどいい。
「抱き心地いいな、アンタ」
腕に馴染む。緊張して張った肩が少しゴツくはあるが。
「放して……」
「カレシに助け求めろよ」
思っていたより女は柔らかい。痩せることにこだわって、脂肪を削ぎ落としてばかりいると思った。それに小さい。
「カレシに連絡、しろ。しないならこのままだ」
「カ、レシって……」
好みの顔が、俺を認識して、俺を恐れている。浮気女。本気になることはないんだろう。いくらタイプでも、性格が最悪な女じゃな。
「皇坂が可哀想だ」
「れ、連絡……しない………」
俺の腕の中で、浮気女の力が抜ける。ビッチの浮気性の尻の軽い女でも顔が好みという事実には抗い難い。そんな女を捕まえてしまった。もう戻れない。花みたいな匂いが俺の理性を揺らす。
「アンタ、名前は?」
「言わない……」
「ふーん。じゃあ呼ばない。百合」
帝城寺が個人情報をバラ撒いていた。この浮気女の名前はナントカ百合。
「ひっ………な、んで………」
「百合。キスさせろ。浮気女の手練手管で、童貞の俺を指導してくれ」
嫌がる女の唇を奪うのなんて簡単だった。皇坂の綺麗好きも嘘だったってわけだ。それともキスしないのか?付き合っているのに?浮気されるの当然かもな。
「ん、ゃ……っ」
ああ、皇坂が綺麗認定したのかも分からんなって思ったのは、浮気女の唇の柔らかさに気付いてからだった。浮気女の口は甘過ぎて背筋に寒気がした。頭がふわふわする。
「ん………、ぅ、ふぅう………」
俺を押し退けようとするのがいい。放してやらない。窒息しろ。
舌を押し込んで、ざらついた表面を撫でてやった。巻き付いて、浮気女の邪魔をする。俺を嫌がって、震えている。柔らかい。甘い。細い。軽い。好みの女とキスをしている。そしてその女は尻軽。興奮した。期待している。
「ぁ……んっ………ふ、」
叩かれる。口を離した途端に息切れしていた。浮気女の割にはキスが下手だ。こういうものなのか?俺が強引すぎただけか……口の中は甘くて蕩けそうだったが、テクニックとしては無いように思える。キスが気持ちいいなんてのはエロ漫画マジックというわけなのだな?
「息しろ」
カレシ持ちで浮気して本命もいるような女が、どうして童貞の、ファーストキスを今済ませたばかりの俺にこんなこと言われているんだ?
「もう……放して。触らないで………」
浮気女は口元を拭って、俺から離れようとはするが、すぐ後ろは壁。
「触らせろよ」
ヘンタイみたいなことを言った自覚はある。実際、ヘンタイかもしれない。その自覚もある。
「百合」
「馴れ馴れしく呼ぶの、や……!」
帝城寺にするみたいな、気の強い態度で結構。
俺は掌に収まる胸を揉んだ。小さく思えたが肉感がある。明らかに巨乳と分かるインパクトはないが、この浮気女の雰囲気によく合った控えめな大きさで、かといって無いわけでもない。俺は大き過ぎるのも好きじゃない。胸の感度が低そうで。
「胸、嫌……手、放して……」
俺の手を剥がそうとするが、浮気女の力は弱い。返り討ちに遭うのを恐れているのなら、別に俺は殴ったりなんかはしないが。そんなことをしなくても、力量の差は分かっているのだし。華奢な女のバカ力なんてのはフィクションだ。でもこれが本当に力が弱いだけなら、俺の中で沸々と育っていくものがあるな。浮気女め……
「カレシに連絡しろよ。助け、求めろ」
シャツを開けて、ブラジャーとの間に下着がある。いい。浮気女のくせに。ブラジャー透かして、もっと男を誘えばいい。この浮気女のちぐはぐな感じに俺はハマってしまった。
「ブラウス……やだ……」
「暴れると引き千切るぞ」
脅せば浮気女は大人しくなった。シャツの裾をスカートから引き摺り出して、全部開けた。ボタン外すのが楽しいだなんて思う日が来るとはな。
下着も捲ると、少し暗い水色のブラジャーが見えた。白いレースや黄色のリボンがついていて水着に似ている。香水でもなく、砂糖の類いとも違う甘い匂いが鼻から眩暈を起こす感じだった。くらくらする。
ブラジャーの寄せる胸の丸みとか、腰回りで締まる曲線とか、なのに臍周りの肉感とか、俺の頭の中の血が沸騰しそうになる。好みの顔、好みの声、理想的なカラダ。性格がドのつくクズの牝狗でよかった。
「いいのか、カレシに電話しなくて?」
浮気がバレたら困るもんな。
俺は浮気女のブラジャーで底上げされて盛り上がる胸を吸った。キスマークがつく。
「ああ……!」
「カレシとの裸の付き合いは暫くお預けだな」
俺から顔を逸らして震えている。可哀想とは思わない。浮気している人間だから、という侮りかもな。
ブラジャーを外すために背中へ腕を回したとき、浮気女が俺の胸元に埋まった。この女とは身体が馴染む。肥っているわけではないのに、ぬいぐるみみたいだ。長年使って草臥れたことで、やっとフィットしはじめた抱き枕みたいだ。ブラジャーを外すのが惜しくなる。でも外した。ただ、浮気女のことは放せない。
「ブラジャー、取らないで……」
パッドが浮いた。胸が広がる。パッドの下へと手を入れると、まだ触ってはいないのに、掌に何が当たった。
「ぅう……んっ………」
乳首だ。硬くなっている。浮気女は後ろに退がろうとして、結局壁に阻まれている。
「乳首硬くしてるんだ。なんで?寒い?脱がせたから?」
掴めるくらいには胸がある。急に擦り寄ってきて胸見せてきた女よりはあるように思う。あれは嵩増ししてるとは別の女から聞いた。そうなると、この浮気女も意外と胸はあるのかもしれない。
「あ………っ………」
「温めてやろうか?」
凝り固まっている乳首を捏ねながら乳を揉んだ。指が余る。AVでは指足らなそうだったのにな。俺はグレープフルーツくらいの乳がいいが。俺の好みの溌剌とした清楚系の顔に巨乳は似合わない。かといって貧乳も成熟した感じがなくてそういう対象に見られない。ロリコンではない……妹もいるしな。
「ぁん………ぁ……」
浮気女は項垂れて、俺の手が濡れたと思うと、口閉じるのも忘れて涎を垂らしていた。
「ここ捏ね回されるの、気持ちいいんだ」
「ぁ……っう……」
触り方を変えてみる。もっといい捏ね方があるような気がする。柔らかな乳は手慰みになった。硬くしている乳首を中に戻してみる。押し返そうとしてくるのが小憎らしい。
「痛い……から………、もう………あっんっ」
「痛い?じゃあ舐めてやる」
確かに俺の手は乾いている。俺は身を屈めて浮気女の乳吸った。甘い匂いが鼻奥で膨らむ。
「あ……!はぁ……んっ」
浮気女の声がなかなか色っぽくなった。さすが、男を誑かすのに長けている。背伸びをしたり、捻ったり震えている。
口で乳輪を押さえて舌先で乳首を焦らすのが意外と難しい。中学時代の部活動対抗リレー障害物競走で粉の中から飴玉を探すのに似ている。乳を吸って、口元に留めておけばいいのか。
吸った。ぶぶぶ、と下品な音がする。
「あんっ……」
乳首が逃げる。舌裏で追った。俺は口内炎を気にするタイプ。その要領だった。
「んぁ………ぁあ、あ……」
浮気女が身動きをとるから、乳首が逃げていく。
「だめ………もぉ………放し、て………」
片方の乳首も指で触っていたから交代した。唾液で濡れて滑る。指で弾くスピードが速くなった。
「や、あ………っ、おっぱい、おかしくなっちゃ………あああんっあっ……!」
浮気女が貧乏揺りみたいに振動した。壁伝いに落ちそうなのを支える。俺の腕に寄りかかって、無防備な姿を晒した。暗闇の中で乳首の周りが俺の携帯電話の光で照っている。甘い匂いが濃くなる。
視界が点滅したかと思うと、エレベーターに明かりが点いた。出入口脇のモニターも元に戻る。
イかせないと出られないエレベーターか?俺は片手で浮気女を抱いて、パネルを操作しようとしたが、最寄り階で止まった。人の気配があるけれども、浮気女はブラジャーは外れているし、シャツは全開で、下着も捲れている。俺は浮気女を前向きに抱き締めてそのまま降りるという間抜けなことになった。俺の所為だが。上着を羽織らせた。
「百合ちゃん」
面倒臭いことになった。ビニ傘と折り畳み傘持って突っ立ってるのは君主河原。俺を見て、浮気女を見る。
「何か……あったん?」
「何も」
浮気女は俺の上着を引っ掛けてトイレのほうに行った。ちょっと冷たくされて、君主河原が俺を睨む。
「百合ちゃんに何したの」
「あの女も言ってただろ。"何も"」
「百合ちゃんに手、出したら赦さない」
俺は首を傾げてやった。君主河原は一丁前に怒っている。ああ、こいつ、あの浮気女に惚れているな。この風来坊の、なんでも構わんて男が、いちいち俺に噛みつくなんて。
「赦さない?どういう関係なんだ」
いつもは飄々としている顔が、ばつが悪そうに歪んでいてよかった。
「浮気相手に立候補したんでよろしくな。あの女王様に、今日から俺も傅くよ」
「浮気って……」
「本人も認めた。見た目はタイプだが、俺はまだ惚れちゃいないんでね。いつまでも剽軽者を気取っているからこんなことになる。間男になるのが関の山だったな」
俺は窓から外を見た。遠くの空が光っている。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる