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熱帯魚の鱗を剥がす(改題前) 陰険美男子モラハラ甥/姉ガチ恋美少年異母弟/穏和ストーカー美青年
熱帯魚の鱗を剥がす 45 【完】
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◇
ピアノがトーン、トーン、と鳴った。アメージンググレースがゆったりと奏でられていく。
朋夜は音を頼りに演奏者を探した。鏡のようなピアノが見つかるけれど、弾き手はいない。鍵盤は下から引っ張られたように無人のまま凹む。
彼女はピアノの周りを彷徨った。どこからからコーラスが聞こえるのだけれども、人の姿はない。
『神様って多分やっぱ……絶対、いなくて、いたとしても、人間を生んだら生みっぱなし。俺の二親みたいだな』
神への称賛の歌の中で、悲痛に訴える声が響いた。まるで風呂場みたいに谺する。
『俺にとっての神様は万能じゃなくて、不老不死じゃなかった。神様ってものすら無い場所で生きるはずだった俺を……ごめんな、朋夜。俺を赦してね』
赦す、という言葉が出てこなかった。口にできるはずもない。赦せば、彼が病没することを良しとしているようではないか。認めているようではないか。だが赦さないとも言えないのである。彼の簡単ではないはずのその選択を尊重したいのだ。
彼は生まれたくなかった人間なのだ。親が親の務めを果たさず、機みで生き延びた人間で、その孤独と寂寞を彼は払拭できず、また己の気質を己で疎んでいるのである。
彼の望むまま、幸せだと口にしている今、倫理に悖る行いだとしても見殺しにすることを彼女は消極的ながら肯定してしまった。そののちに起こるあらゆる出来事を負う覚悟もついていないというくせに。
朋夜は副旋律の歌声を探すのをやめた。そこには辿り着けないと悟ったのだ。
彼女は目を開いた。よく知った部屋の風景が飛び込んでくる。そしてベッドの端に突っ伏す黒髪。甥がベッドを机のようにして寝ている。
ダウンケットを剥がして彼に掛けたところで、黒髪が持ち上がる。
「朋夜……」
睡気眼があどけない。10年は若くなってしまったみたいだった。
「眠いかな。お部屋、戻ったら。身体冷やしちゃダメでしょう」
「うん……」
「寝られなかったの?」
彼は寝間着である。
「早く起きちゃって……」
「怖い夢でもみた?」
叔母も叔母だ。もうすぐで20歳になる者に対し、手を差し伸べる。それだけで甥は頬を擦り寄せた。指先に黒絹が触れる。柔らかく質の良い髪である。こうもコンディションが髪に顕われるとは知らなかった。
「ちょっとだけ……」
「ちゃんと寝ないと。ここで寝るの?」
黒曜石を思わせる双眸が叔母をあざとく見上げ、慎ましく頷いた。
「朋夜もここにいてほしい……」
こうなると、この20歳手前の男は児童同然だった。
「うん。じゃあ、ほら。お布団の中に入って」
「朋夜の匂い嗅いだら……、ちんちん勃っちゃう」
彼本人も、自身を男児だと思っているらしかった。孅いぶって、枕に頭を預けた途端、小首を捻って叔母に上目を遣う。シマエナガだのタイリクモモンガだのオコジョだのを気取っている。
「何を言ってるの……」
「汚さないから……していい?」
「何を?」
朋夜も、意地悪で訊いたわけではなかった。ただ愚鈍であったのである。京美は眉根を寄せ、眶に色香を漂わせる。
「朋夜のベッドの上で、ちんちん、触ってもいい……?」
露骨な物言いに叔母は顔を背ける。
「好きになさい」
「朋夜、観てて」
「朝の支度をしないとだから……」
これがもし、傍にいてほしいだとか、手を握っていてほしいだとかいう欲求であれば、朝の支度などは放り投げていたかもしれないけれど。
背を向けた。冗談ならば傍にいるつもりだった。しかし。
「朋夜………」
甘えた声が耳に水飴を注がれたように張り付く。庇護欲を煽られてしまう。
「ダメ。そういうことは、ひとりでしなさい」
微かな衣擦れが聞こえた。京美はすでに陰部を外気に晒し、自慰をはじめていたのだ。
「朋夜……好き………あっ……気持ちぃ、朋夜、あっあっ……」
手淫のよって寝間着や布団が小さな音をたてているのだ。
「朋夜………きもちぃ………出したい………あ………あぁ、」
朋夜は部屋を出ればよいのであるが、動けなくなってしまった。
「ん………っきもちぃ。好き……」
彼女は淫らな譫言を聞きながら目を伏せる。叔母としてできることではないが、他者としてならば、それは適切な感情ではないのかもしれないけれど、若くして病没を望む哀れな少年に施せることがある。
恋慕ではなく、憐憫によって、彼を慰撫することは、もしかすると後になって自身の汚点になることを彼女は受け止めることにした。叔母として失格なのであれば、何もせずにいるのが正解であったのだろうか。
「手伝う、だけだよ」
踵を返し、ベッドへ戻る。叔母の臥榻に寝そべる京美の美貌は、念願の人に触れられるというのに悲しげであった。
「朋夜」
彼女は答えなかった。先程とは逆転し、ベッドの傍らに膝をついて天を衝く義甥のものを握る。
「あっあっ、好き………朋夜、好き………あぅう、大好き」
熱視線を浴びながら彼女は硬く膨らんで脈を浮かせた太物を扱いた。掌が爛れそうだ。手筒の内部は疼いている。指は回り切らず、骨が疲れてしまう。
「チュウしたい……」
「だめ」
食い気味に返し、先端部が敏感であることに気付くと、彼女はそこばかり刺激した。いつのまにか両手作業である。
「うぅ……っ朋夜……出ちゃう……!」
枕元のティッシュを取るが、1枚では足りなかった。射精の軋みと轟きを掌で味わう。
「朋夜にしてもらえて、気持ちよかった。ありがとう……」
叔母に反応はない。アルコールティッシュで手を拭き、義甥の手も拭いた。彼はされるがままである。長く濃い睫毛をぶら下げた目蓋が重そうである。コーヒーゼリーみたいな瞳は融解しそうだ。ただ、少しだけ寂しげに思える。
「寝なさい」
彼の病巣に口を出すことはやめた。ただ、わずかでも長く生きてほしい。それが滲み出て漏れ出る叔母失格者のエゴであった。後悔は不可避であることを悟ってしまった。あとはいかに小さし、どのように容れるかである。
朋夜は枕元の引き出しから小さなぬいぐるみを取った。モルモットなのかハムスターなのか結局分からずじまいの、毛並みの柔らかな塊を彼の頭に添える。
「朋夜、こういうの、好きなんだ」
「仁実さんに買ってもらったの。何に見える?」
「ハムスター」
眠げな京美の漆黒の目に、叔母の微笑が映る。
+
『綾鳥朋夜様
あなたがこれを読んでいるとき、俺はまだ生きているでしょうか。手紙だと少し畏まってしまって恥ずかしいです。
俺はもうすぐ死ぬでしょう。もしかしたらもう死んでいるかもしれません。思ったよりも具合が悪いのです。何も告げられず、突然この世を去ることになるかもしれないことをお詫びさせてください。でもできるだけ、ここに書いて残しておこうと思います。
俺はあなたにたくさん酷いことを言って、バカにしました。でもそれは本心ではありません。素直になれずごめんなさい。
押し入れの中で飢えて腐るだけだった俺を愛してくれた朋夜を、俺がひとつだって恨むことはないのです。何ひとつだって恨みになんて思っていません。ただ叔父貴の好きな人を好きになってしまった自分を受け入れられなかったのです。すべて八つ当たりです。
叔父と、出会い、結婚してくれてありがとう。こんな俺を見放さず、精一杯愛してくれてありがとうございました。
他にもまだ、謝らなければならないのに、口にして謝れずにいたことがあります。それは実父のことです。俺はあの人に会いに行ったことがあります。あの人は俺に一緒に来てほしいといいました。俺は断りました。俺はまだあの人が自分の父親だとは信じられませんでした。でもあの人がわずらっている病気のことを聞いたとき、信じるほかありませんでした。
あの人も余命宣告を受けていました。俺と最期を迎えたいと言っていましたが、要は俺に色々な後始末をさせたかったのだと思います。
俺が断ると、あの人は、朋夜のことを「腹を痛めた子でもないからいずれは俺のことを捨てるに決まっている」というようなことを言いました。俺は腹が立ち、腹を痛めもせずに俺を捨てたあの人を一発でも二発でも殴ってやりたくなりました。
あの人ももう長くないことを朋夜も一目見れば分かると思います。あの人は朋夜にも会ったと言っていました。失礼なことを言っていたら、気にしないでください。子供を捨てるような人間の腐ったやつです。そして俺もその血を濃く受け継いだろくでなしです。それは一緒に受け継いだ厄介な病気が証明しています。
俺はゴミクズみたいな人間から生まれたゴミクズです。叔父貴とあなたに会えてやっと人間にしてもらえた身なのです。ゴミクズのまま終わるはずだった人生が幸せで満たされたのです。見当違いな八つ当たりの末、あなたを追い出そうとしたとき、あなたの私物のあまりの少なさに恐ろしくなりました。また独りになるのが怖かったのです。幸せをこれからもずっと望んでいくのが怖かったのです。治療を拒否したのは俺です。あなたは絶対に自分を責めたり、後悔したりはしないでください。
どうか、俺があなたに働いた乱暴、罵詈雑言を忘れろとは言いません。無かったことにもできません。俺は死んでいるかもしれないけれど、どうか恨んでください。できることならば、俺の言ったことはすべて筋違いのデタラメだったのだと忘れてください。もっとできることなら、俺のことは忘れてください。無かったことにしてください。貴方の夢にも行かないよう努めます。
お世話になりました。ありがとうございました。貴方の様々な犠牲の上に成り立っていた生活でしたが、あんな幸せはありませんでした。恩返しはできないけれど、朋夜のこれからの人生が、穏やかで、幸せでいっぱいになるよう、俺も死ぬ間際まで祈っています。さようなら。大好きです』
淡いブルーの便箋の遺書が破かれて、風に攫われていく。これは、この書翰の筆者の叔母のハンドバッグに捩じ込まれていたものである。
+
甥の咳は日に日に増え、もともとあまり肉の少なかった身体も痩せ衰えていった。食べる量も減り、戻してしまうことも多くなった。
朋夜は何も言わなかった。ただ傍に居ることにした。
艶を失った黒髪が風に靡く。2人は家具屋に出掛けようとしていた。生い先短いというのに、京美は自室の暗幕を剥がした。そこへ朋夜がカーテンを買い行こうと誘ったのである。
少し風のある日だったがそれが心地良い。
甥の干涸びた手を取り歩く。視界に白い物体が紛れ込み、朋夜は足を止めた。甥が彼女の腕にぶつかる。
「朋ちゃん」
彼女は、そこに立つ白い服の元交際相手を見つめた。柔らかな風が言葉を奪う。いいや、風のせいではなかった。煌めく刃物のせいであろう。自宅マンションを出てすぐの広大な遊歩道に、刃物を持った男が立っている。
朋夜は真後ろで身動ぐ甥の気配を感じ取った。
「朋夜……」
京美は、叔母の震える手を取った。彼はこの頃、右目の霞みを訴えていた。しかし視力が急激に低下しているわけではないようだった。
「朋ちゃん。やり直してよ。オレと。なんで……?オレとやり直してよ。オレとやり直せよ!」
逃げろ、と脳が言っている。体格差からまず勝てない。さらには刃物を手にしているのである。
「その男、誰だよ!」
白刃が甥に向く。元交際相手の所作には落ち着きがなかった。すでに朋夜の知る人物ではないのかもしれない。霊に憑かれたのか、宇宙人の円盤に誘拐されたのか、生き写しの別人であるのか……
現実逃避の時間は与えられていなかった。
「オレとやり直してくれよ!先に浮気をしたのは、そっちじゃないか!」
まったく覚えのないことであった。過去まで捏造されている。
「何、それ……」
甥の手が後ろへ引く。だが、背を向けてはならない気がした。
「とぼけるなよ!知らない男と並んで歩いてたの、オレは見たんだ!喧嘩中に!君は当てつけに浮気した!」
それが何となく、兄のことだとぼんやり浮かんだ。この元交際相手と共にいた当時のことを振り返ると、兄と会っていた覚えがある。そのときは他に異性と関わりがなかった。一緒に歩いていたとなれば尚更だ。艶福家とは程遠く、交遊関係も派手さに欠けた。恋人か弟に感けた日々はもう遠い。
だが反論は赦されない。薄い金属が鈍く光り、事情などまったく関係なく、弁明も通用しないと語っている。真実がどうであれ、浮気相手の正体が誰であれ、赦される回答はひとつ。この男と破局しているのだけは互いに理解しているのである。
「朋夜、逃げなきゃ……」
甥が言った。不安が、そう聞こえさせたのかもしれない。
「だめだよ……」
彼女の声は優しかった。諦観に似た寛容さである。
「どうしてオレばっかり悪者になるんだ!」
「朋夜、だめだ。俺に隠れて」
しかしこの場に於いても、朋夜という女は意地っ張りでプライドが高いのである。
「あれは兄さん。いつか話したこと、あったでしょ。あなたに話だって、したのに……」
震えてしまった。ただ兄に対する名誉というものを彼女は気にした。迫り来る運命について、抗うつもりはもうなかったとしても。
「ううううう!赦すよ、そんな嘘つかなくても赦すからさ……朋夜もオレを赦して、オレと来てよ……」
元交際相手の足が地を蹴るのを見た。そしてその鋒の向くところが自分でないことにも、コマ送りに見ていた朋夜は気付いてしまった。後ろから出てこようとする甥を引き留めて、彼の前に躍り出る。
肌を突き破られる衝撃があった。目の前には元交際相手の相変わらずな白い服と、驚愕する顔。
周辺から悲鳴が上がった。
「朋夜!」
甥の声にわずかな安堵がある。朋夜は目玉を動かすのが怖かった。そうすれば、もう後には引けないと思った。
「朋ちゃん!なんで!朋ちゃん!」
彼女は普段から、臆病で、怯懦で、事勿れ主義であった。外貌からしても気の弱さを窺わせ、実際控えめであった。だがどのような弱い女もトラを秘めている。龍を飼っている。何がそれを引き出すのかは定かでない。何のためのものかも分かっていない。
彼女はこのまま目を瞑ってしまおうとしたが、そうはいかないのである。怒りのない、激しい殺意が湧き起こった。腹に突き刺さった刃物を、狼狽する男の手から捥ぎ取る。だが叶わなかった。男の手が包丁を抜く。朋夜の腹から血が噴き出て、白い衣装を染めた。白刃が振りかぶられる。猛獣のようになってしまった女は後ろにあるものを譲らない。また、前に出させもしなかった。
「どうしてだよ!どうして!朋ちゃん!」
今度は、朋夜を狙って鋒が振り下ろされるのである。胸を抉り、骨の狭間を縫うのは、数打てば当たる。やがて肺を突き破られ、彼女は重いものを胸に乗せられたかのように息ができなくなった。身体は逃げろというが、哀しみに似た殺意が足を動かさない。視界が明滅する。血塗れの手が元交際相手の包丁へと喰らいつく。力を入れれば入れるだけ、十数箇所に及ぶ傷口から血が滲み出るのである。
彼女は、己の負った傷の深さを理解してしまった。肺に入った一撃があまりにも大きかった。息をしても半分も呼吸できず、苦しみが募る。だがくたばっていられない。彼女には大きな後悔がある。不安を吐露し、情緒不安定な庇護対象に、守るとたった一言、きっちり聞かせてやれなかったことを、彼女は強く後悔していた。優柔不断であった。薄志弱行で、不覚悟であった。
己の尻は己で拭わなければならないのだ。逃げて、顔を伏せ、目を閉じてきた事柄のツケを清算しなければ。
猛虎、怒龍と化した女は、白刃を奪うと、何の躊躇いもなく、力任せに元交際相手を刺した。掌が柄を通過して切り裂けても、構わず、真っ赤に染まりながら元交際相手を滅多刺しにする。この命が尽きるまでに、この外敵を屠らねば、守ってやれない。息のできない苦しみを込め、全身から気力が解き放たれていくのを感じながら、彼女は元交際相手の下に血の池地獄をみた。昔は好きだと思っていた男の首は襤褸布のようになっていた。彼女はそれをみると、大量に赤いものを吐き出した。視界が緑色を帯び、ところどころモザイク処理されているみたいだった。倒れてしまえば、悍ましい枕があった。
「朋夜……」
どこかでヒヨコが鳴いているかと思えば、自身の胸から空気が漏れている。彼女は朦朧とした意識の中、汚らしい枕を退けてアスファルトに転がった。
「朋夜!」
だが固い寝床からすぐに抱き起こされるのである。義甥だ。義甥は無事である。
自身の身体のことは自身でよく分かると彼が言っていた。その意味が、ようやく朋夜にも理解できた。息ができず、脳に酸素は行き渡らない。思考は奪われたが、常々頭の中にあった言葉がある。それだけは克明だった。
朋夜には兄がいる。優しいが、優し過ぎるがゆえに支配的なのだ。呪縛になってしまうこともある。それは避けたい。強迫観念にも、脅しにもしたくないと考えながら、常々、内心で彼に訴えていた言葉。
「生………き、て…………ほし……―」
激しい耳鳴りの中で彼女は目を閉じかけた。しかし最期まで哀れな甥を独りにできなかった。目蓋を開き、だがやがてその瞳が鏡のようになるまで啜り泣く少年を見詰めていた。
ピアノの音が聞こえる。細長い指が鍵盤を弾き、荒削りな歌が遠くまで響く。好いた相手には、もう、完全に会えなくなる。もう会わないのではなく、会えなくなる。しかし満たされた心地がした。
目の前で野暮ったい人物が無垢に笑う。そのまま惹き込まれていく。何の後ろめたさもない。これが現実でないと知れたのは―
綾鳥朋夜はこうして義甥の腕の中で静かに息を引き取った。その汚れた貌には憂いも悲哀も、苦痛さえもなかった。
ピアノがトーン、トーン、と鳴った。アメージンググレースがゆったりと奏でられていく。
朋夜は音を頼りに演奏者を探した。鏡のようなピアノが見つかるけれど、弾き手はいない。鍵盤は下から引っ張られたように無人のまま凹む。
彼女はピアノの周りを彷徨った。どこからからコーラスが聞こえるのだけれども、人の姿はない。
『神様って多分やっぱ……絶対、いなくて、いたとしても、人間を生んだら生みっぱなし。俺の二親みたいだな』
神への称賛の歌の中で、悲痛に訴える声が響いた。まるで風呂場みたいに谺する。
『俺にとっての神様は万能じゃなくて、不老不死じゃなかった。神様ってものすら無い場所で生きるはずだった俺を……ごめんな、朋夜。俺を赦してね』
赦す、という言葉が出てこなかった。口にできるはずもない。赦せば、彼が病没することを良しとしているようではないか。認めているようではないか。だが赦さないとも言えないのである。彼の簡単ではないはずのその選択を尊重したいのだ。
彼は生まれたくなかった人間なのだ。親が親の務めを果たさず、機みで生き延びた人間で、その孤独と寂寞を彼は払拭できず、また己の気質を己で疎んでいるのである。
彼の望むまま、幸せだと口にしている今、倫理に悖る行いだとしても見殺しにすることを彼女は消極的ながら肯定してしまった。そののちに起こるあらゆる出来事を負う覚悟もついていないというくせに。
朋夜は副旋律の歌声を探すのをやめた。そこには辿り着けないと悟ったのだ。
彼女は目を開いた。よく知った部屋の風景が飛び込んでくる。そしてベッドの端に突っ伏す黒髪。甥がベッドを机のようにして寝ている。
ダウンケットを剥がして彼に掛けたところで、黒髪が持ち上がる。
「朋夜……」
睡気眼があどけない。10年は若くなってしまったみたいだった。
「眠いかな。お部屋、戻ったら。身体冷やしちゃダメでしょう」
「うん……」
「寝られなかったの?」
彼は寝間着である。
「早く起きちゃって……」
「怖い夢でもみた?」
叔母も叔母だ。もうすぐで20歳になる者に対し、手を差し伸べる。それだけで甥は頬を擦り寄せた。指先に黒絹が触れる。柔らかく質の良い髪である。こうもコンディションが髪に顕われるとは知らなかった。
「ちょっとだけ……」
「ちゃんと寝ないと。ここで寝るの?」
黒曜石を思わせる双眸が叔母をあざとく見上げ、慎ましく頷いた。
「朋夜もここにいてほしい……」
こうなると、この20歳手前の男は児童同然だった。
「うん。じゃあ、ほら。お布団の中に入って」
「朋夜の匂い嗅いだら……、ちんちん勃っちゃう」
彼本人も、自身を男児だと思っているらしかった。孅いぶって、枕に頭を預けた途端、小首を捻って叔母に上目を遣う。シマエナガだのタイリクモモンガだのオコジョだのを気取っている。
「何を言ってるの……」
「汚さないから……していい?」
「何を?」
朋夜も、意地悪で訊いたわけではなかった。ただ愚鈍であったのである。京美は眉根を寄せ、眶に色香を漂わせる。
「朋夜のベッドの上で、ちんちん、触ってもいい……?」
露骨な物言いに叔母は顔を背ける。
「好きになさい」
「朋夜、観てて」
「朝の支度をしないとだから……」
これがもし、傍にいてほしいだとか、手を握っていてほしいだとかいう欲求であれば、朝の支度などは放り投げていたかもしれないけれど。
背を向けた。冗談ならば傍にいるつもりだった。しかし。
「朋夜………」
甘えた声が耳に水飴を注がれたように張り付く。庇護欲を煽られてしまう。
「ダメ。そういうことは、ひとりでしなさい」
微かな衣擦れが聞こえた。京美はすでに陰部を外気に晒し、自慰をはじめていたのだ。
「朋夜……好き………あっ……気持ちぃ、朋夜、あっあっ……」
手淫のよって寝間着や布団が小さな音をたてているのだ。
「朋夜………きもちぃ………出したい………あ………あぁ、」
朋夜は部屋を出ればよいのであるが、動けなくなってしまった。
「ん………っきもちぃ。好き……」
彼女は淫らな譫言を聞きながら目を伏せる。叔母としてできることではないが、他者としてならば、それは適切な感情ではないのかもしれないけれど、若くして病没を望む哀れな少年に施せることがある。
恋慕ではなく、憐憫によって、彼を慰撫することは、もしかすると後になって自身の汚点になることを彼女は受け止めることにした。叔母として失格なのであれば、何もせずにいるのが正解であったのだろうか。
「手伝う、だけだよ」
踵を返し、ベッドへ戻る。叔母の臥榻に寝そべる京美の美貌は、念願の人に触れられるというのに悲しげであった。
「朋夜」
彼女は答えなかった。先程とは逆転し、ベッドの傍らに膝をついて天を衝く義甥のものを握る。
「あっあっ、好き………朋夜、好き………あぅう、大好き」
熱視線を浴びながら彼女は硬く膨らんで脈を浮かせた太物を扱いた。掌が爛れそうだ。手筒の内部は疼いている。指は回り切らず、骨が疲れてしまう。
「チュウしたい……」
「だめ」
食い気味に返し、先端部が敏感であることに気付くと、彼女はそこばかり刺激した。いつのまにか両手作業である。
「うぅ……っ朋夜……出ちゃう……!」
枕元のティッシュを取るが、1枚では足りなかった。射精の軋みと轟きを掌で味わう。
「朋夜にしてもらえて、気持ちよかった。ありがとう……」
叔母に反応はない。アルコールティッシュで手を拭き、義甥の手も拭いた。彼はされるがままである。長く濃い睫毛をぶら下げた目蓋が重そうである。コーヒーゼリーみたいな瞳は融解しそうだ。ただ、少しだけ寂しげに思える。
「寝なさい」
彼の病巣に口を出すことはやめた。ただ、わずかでも長く生きてほしい。それが滲み出て漏れ出る叔母失格者のエゴであった。後悔は不可避であることを悟ってしまった。あとはいかに小さし、どのように容れるかである。
朋夜は枕元の引き出しから小さなぬいぐるみを取った。モルモットなのかハムスターなのか結局分からずじまいの、毛並みの柔らかな塊を彼の頭に添える。
「朋夜、こういうの、好きなんだ」
「仁実さんに買ってもらったの。何に見える?」
「ハムスター」
眠げな京美の漆黒の目に、叔母の微笑が映る。
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『綾鳥朋夜様
あなたがこれを読んでいるとき、俺はまだ生きているでしょうか。手紙だと少し畏まってしまって恥ずかしいです。
俺はもうすぐ死ぬでしょう。もしかしたらもう死んでいるかもしれません。思ったよりも具合が悪いのです。何も告げられず、突然この世を去ることになるかもしれないことをお詫びさせてください。でもできるだけ、ここに書いて残しておこうと思います。
俺はあなたにたくさん酷いことを言って、バカにしました。でもそれは本心ではありません。素直になれずごめんなさい。
押し入れの中で飢えて腐るだけだった俺を愛してくれた朋夜を、俺がひとつだって恨むことはないのです。何ひとつだって恨みになんて思っていません。ただ叔父貴の好きな人を好きになってしまった自分を受け入れられなかったのです。すべて八つ当たりです。
叔父と、出会い、結婚してくれてありがとう。こんな俺を見放さず、精一杯愛してくれてありがとうございました。
他にもまだ、謝らなければならないのに、口にして謝れずにいたことがあります。それは実父のことです。俺はあの人に会いに行ったことがあります。あの人は俺に一緒に来てほしいといいました。俺は断りました。俺はまだあの人が自分の父親だとは信じられませんでした。でもあの人がわずらっている病気のことを聞いたとき、信じるほかありませんでした。
あの人も余命宣告を受けていました。俺と最期を迎えたいと言っていましたが、要は俺に色々な後始末をさせたかったのだと思います。
俺が断ると、あの人は、朋夜のことを「腹を痛めた子でもないからいずれは俺のことを捨てるに決まっている」というようなことを言いました。俺は腹が立ち、腹を痛めもせずに俺を捨てたあの人を一発でも二発でも殴ってやりたくなりました。
あの人ももう長くないことを朋夜も一目見れば分かると思います。あの人は朋夜にも会ったと言っていました。失礼なことを言っていたら、気にしないでください。子供を捨てるような人間の腐ったやつです。そして俺もその血を濃く受け継いだろくでなしです。それは一緒に受け継いだ厄介な病気が証明しています。
俺はゴミクズみたいな人間から生まれたゴミクズです。叔父貴とあなたに会えてやっと人間にしてもらえた身なのです。ゴミクズのまま終わるはずだった人生が幸せで満たされたのです。見当違いな八つ当たりの末、あなたを追い出そうとしたとき、あなたの私物のあまりの少なさに恐ろしくなりました。また独りになるのが怖かったのです。幸せをこれからもずっと望んでいくのが怖かったのです。治療を拒否したのは俺です。あなたは絶対に自分を責めたり、後悔したりはしないでください。
どうか、俺があなたに働いた乱暴、罵詈雑言を忘れろとは言いません。無かったことにもできません。俺は死んでいるかもしれないけれど、どうか恨んでください。できることならば、俺の言ったことはすべて筋違いのデタラメだったのだと忘れてください。もっとできることなら、俺のことは忘れてください。無かったことにしてください。貴方の夢にも行かないよう努めます。
お世話になりました。ありがとうございました。貴方の様々な犠牲の上に成り立っていた生活でしたが、あんな幸せはありませんでした。恩返しはできないけれど、朋夜のこれからの人生が、穏やかで、幸せでいっぱいになるよう、俺も死ぬ間際まで祈っています。さようなら。大好きです』
淡いブルーの便箋の遺書が破かれて、風に攫われていく。これは、この書翰の筆者の叔母のハンドバッグに捩じ込まれていたものである。
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甥の咳は日に日に増え、もともとあまり肉の少なかった身体も痩せ衰えていった。食べる量も減り、戻してしまうことも多くなった。
朋夜は何も言わなかった。ただ傍に居ることにした。
艶を失った黒髪が風に靡く。2人は家具屋に出掛けようとしていた。生い先短いというのに、京美は自室の暗幕を剥がした。そこへ朋夜がカーテンを買い行こうと誘ったのである。
少し風のある日だったがそれが心地良い。
甥の干涸びた手を取り歩く。視界に白い物体が紛れ込み、朋夜は足を止めた。甥が彼女の腕にぶつかる。
「朋ちゃん」
彼女は、そこに立つ白い服の元交際相手を見つめた。柔らかな風が言葉を奪う。いいや、風のせいではなかった。煌めく刃物のせいであろう。自宅マンションを出てすぐの広大な遊歩道に、刃物を持った男が立っている。
朋夜は真後ろで身動ぐ甥の気配を感じ取った。
「朋夜……」
京美は、叔母の震える手を取った。彼はこの頃、右目の霞みを訴えていた。しかし視力が急激に低下しているわけではないようだった。
「朋ちゃん。やり直してよ。オレと。なんで……?オレとやり直してよ。オレとやり直せよ!」
逃げろ、と脳が言っている。体格差からまず勝てない。さらには刃物を手にしているのである。
「その男、誰だよ!」
白刃が甥に向く。元交際相手の所作には落ち着きがなかった。すでに朋夜の知る人物ではないのかもしれない。霊に憑かれたのか、宇宙人の円盤に誘拐されたのか、生き写しの別人であるのか……
現実逃避の時間は与えられていなかった。
「オレとやり直してくれよ!先に浮気をしたのは、そっちじゃないか!」
まったく覚えのないことであった。過去まで捏造されている。
「何、それ……」
甥の手が後ろへ引く。だが、背を向けてはならない気がした。
「とぼけるなよ!知らない男と並んで歩いてたの、オレは見たんだ!喧嘩中に!君は当てつけに浮気した!」
それが何となく、兄のことだとぼんやり浮かんだ。この元交際相手と共にいた当時のことを振り返ると、兄と会っていた覚えがある。そのときは他に異性と関わりがなかった。一緒に歩いていたとなれば尚更だ。艶福家とは程遠く、交遊関係も派手さに欠けた。恋人か弟に感けた日々はもう遠い。
だが反論は赦されない。薄い金属が鈍く光り、事情などまったく関係なく、弁明も通用しないと語っている。真実がどうであれ、浮気相手の正体が誰であれ、赦される回答はひとつ。この男と破局しているのだけは互いに理解しているのである。
「朋夜、逃げなきゃ……」
甥が言った。不安が、そう聞こえさせたのかもしれない。
「だめだよ……」
彼女の声は優しかった。諦観に似た寛容さである。
「どうしてオレばっかり悪者になるんだ!」
「朋夜、だめだ。俺に隠れて」
しかしこの場に於いても、朋夜という女は意地っ張りでプライドが高いのである。
「あれは兄さん。いつか話したこと、あったでしょ。あなたに話だって、したのに……」
震えてしまった。ただ兄に対する名誉というものを彼女は気にした。迫り来る運命について、抗うつもりはもうなかったとしても。
「ううううう!赦すよ、そんな嘘つかなくても赦すからさ……朋夜もオレを赦して、オレと来てよ……」
元交際相手の足が地を蹴るのを見た。そしてその鋒の向くところが自分でないことにも、コマ送りに見ていた朋夜は気付いてしまった。後ろから出てこようとする甥を引き留めて、彼の前に躍り出る。
肌を突き破られる衝撃があった。目の前には元交際相手の相変わらずな白い服と、驚愕する顔。
周辺から悲鳴が上がった。
「朋夜!」
甥の声にわずかな安堵がある。朋夜は目玉を動かすのが怖かった。そうすれば、もう後には引けないと思った。
「朋ちゃん!なんで!朋ちゃん!」
彼女は普段から、臆病で、怯懦で、事勿れ主義であった。外貌からしても気の弱さを窺わせ、実際控えめであった。だがどのような弱い女もトラを秘めている。龍を飼っている。何がそれを引き出すのかは定かでない。何のためのものかも分かっていない。
彼女はこのまま目を瞑ってしまおうとしたが、そうはいかないのである。怒りのない、激しい殺意が湧き起こった。腹に突き刺さった刃物を、狼狽する男の手から捥ぎ取る。だが叶わなかった。男の手が包丁を抜く。朋夜の腹から血が噴き出て、白い衣装を染めた。白刃が振りかぶられる。猛獣のようになってしまった女は後ろにあるものを譲らない。また、前に出させもしなかった。
「どうしてだよ!どうして!朋ちゃん!」
今度は、朋夜を狙って鋒が振り下ろされるのである。胸を抉り、骨の狭間を縫うのは、数打てば当たる。やがて肺を突き破られ、彼女は重いものを胸に乗せられたかのように息ができなくなった。身体は逃げろというが、哀しみに似た殺意が足を動かさない。視界が明滅する。血塗れの手が元交際相手の包丁へと喰らいつく。力を入れれば入れるだけ、十数箇所に及ぶ傷口から血が滲み出るのである。
彼女は、己の負った傷の深さを理解してしまった。肺に入った一撃があまりにも大きかった。息をしても半分も呼吸できず、苦しみが募る。だがくたばっていられない。彼女には大きな後悔がある。不安を吐露し、情緒不安定な庇護対象に、守るとたった一言、きっちり聞かせてやれなかったことを、彼女は強く後悔していた。優柔不断であった。薄志弱行で、不覚悟であった。
己の尻は己で拭わなければならないのだ。逃げて、顔を伏せ、目を閉じてきた事柄のツケを清算しなければ。
猛虎、怒龍と化した女は、白刃を奪うと、何の躊躇いもなく、力任せに元交際相手を刺した。掌が柄を通過して切り裂けても、構わず、真っ赤に染まりながら元交際相手を滅多刺しにする。この命が尽きるまでに、この外敵を屠らねば、守ってやれない。息のできない苦しみを込め、全身から気力が解き放たれていくのを感じながら、彼女は元交際相手の下に血の池地獄をみた。昔は好きだと思っていた男の首は襤褸布のようになっていた。彼女はそれをみると、大量に赤いものを吐き出した。視界が緑色を帯び、ところどころモザイク処理されているみたいだった。倒れてしまえば、悍ましい枕があった。
「朋夜……」
どこかでヒヨコが鳴いているかと思えば、自身の胸から空気が漏れている。彼女は朦朧とした意識の中、汚らしい枕を退けてアスファルトに転がった。
「朋夜!」
だが固い寝床からすぐに抱き起こされるのである。義甥だ。義甥は無事である。
自身の身体のことは自身でよく分かると彼が言っていた。その意味が、ようやく朋夜にも理解できた。息ができず、脳に酸素は行き渡らない。思考は奪われたが、常々頭の中にあった言葉がある。それだけは克明だった。
朋夜には兄がいる。優しいが、優し過ぎるがゆえに支配的なのだ。呪縛になってしまうこともある。それは避けたい。強迫観念にも、脅しにもしたくないと考えながら、常々、内心で彼に訴えていた言葉。
「生………き、て…………ほし……―」
激しい耳鳴りの中で彼女は目を閉じかけた。しかし最期まで哀れな甥を独りにできなかった。目蓋を開き、だがやがてその瞳が鏡のようになるまで啜り泣く少年を見詰めていた。
ピアノの音が聞こえる。細長い指が鍵盤を弾き、荒削りな歌が遠くまで響く。好いた相手には、もう、完全に会えなくなる。もう会わないのではなく、会えなくなる。しかし満たされた心地がした。
目の前で野暮ったい人物が無垢に笑う。そのまま惹き込まれていく。何の後ろめたさもない。これが現実でないと知れたのは―
綾鳥朋夜はこうして義甥の腕の中で静かに息を引き取った。その汚れた貌には憂いも悲哀も、苦痛さえもなかった。
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