18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」-2

結局は俗物( ◠‿◠ )

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熱帯魚の鱗を剥がす(改題前) 陰険美男子モラハラ甥/姉ガチ恋美少年異母弟/穏和ストーカー美青年

熱帯魚の鱗を剥がす 24

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 糸魚川いといがわ瞳汰とうたは童話に出てきそうな女の子みたいだ。両手を後ろに組み、蹴り出した足の爪先を眺めて歩く。彼の周りの空気は悠々としている。朋夜ともよはそれを見守るのを義務だと感じているらしい。
小星こぼしくんはねぇ、オウチニモンダイがあるんだ」
 前を見ず、爪先ばかり気にして喋る彼は淡々としている。今日はサンダルを履いているが、その骨張った薄い足と長い指、そろそろ切ったほうが安全といえる爪がみすぼらしい感じだ。
「問題って……?」
 朋夜は深く考えずに訊き返してしまった。自身の問いを聞いてから思い当たる。今時は家庭に問題があるということが珍しくなくなった。家庭の問題というものにある程度基準が設けられたり、情報化社会になるにつれ各家庭の問題が周りに知られるようになった。
「育児放棄ってやつなんかな。たまに殴ったり蹴ったりもあるらしいんだ」
 瞳汰のいつものふざけた愛嬌が失せ、からからとした質感の声には抑揚がない。時折裏返ったりするのが面白かったが、それを期待できそうにない。
「オレは小星くんに出会えてよかったケド、なんで小星くんのお父さんお母さんは、小星くん産んだんだろ。可愛くないのかな、子供のコト……」
 朋夜は黙っていた。他人の家庭の話である。
「小星くんのお母さんは、小星くんがお父さんに殴られてるの、守ってくれないんだ。小星くんが男の子だから?男の子なら、お母さん庇って殴られていいのかな……」
 それは呟きに似ている。
「どうしてお母さんは、小星くんを守ってくれないんだろう」
 彼の声が沈む。
「小星くんのこと、可愛くないのかな」
 彼はまた繰り返した。
「そのことと、そのことはまた別なんだと思うよ。多分色々、事情があるんだと思うな。思考停止しちゃうっていうか。それでもしかしたら、本音とか、本当のことは分からないけれど、ふと急に、後悔したり、反省したりしてるのかも」
「お母さんのこと?甘いなって、思っちゃって、それじゃ……だってお母さんなんだよ。小星くんのお母さんなんだ。なのにそんなの……」
 瞳汰は拗ねたように唇を食む。
「そうだね。でも、どんな人でも、親になれちゃうから。子供を授かれたら……親になれる資格のある人たちのところだけに、子供が産まれるわけじゃない」
 朋夜の声は底冷えするほど低かった。だが彼女も、それは意図したものではない。ただ脳裏に、よく姿も覚えていない女の姿が甦った。その腹には、当時朋夜が交際中していた男の種が宿っている。
「朋夜さん……?」
 まるで不機嫌ぶりで牽制したみたいになってしまった。そのことに彼女も気付いた。
「ごめんね!ちょっと喉がつかえちゃった」
 努めて愛想笑いを取り繕う。
「浮気して子供デキる人もいれば、案外、浮気相手のほうが母親として相応しかったりなんてこともあって。母親っていっても、絶対に子供が最優先じゃない人もいるから」
 母親と言ったはいいが、仕事仕事仕事と言って家に帰らず海を渡ったきりの父親がふと思い出された。
「そうなんかな。小星くん、大変だな。オレも頑張って支えるよ。小星くんのお母さん、なんも言わないから……」
 それは糸魚川瞳汰個人の頑張りだの努力によって救われるものではなく、行政や福祉を頼るべきであることは、果たしてこの愚直な青年に伝わるのであろうか。
「相談窓口に電話したら」
「小星くんが、嫌だって。小星くんはお母さんといたいんだって。お母さんは小星くんのこと、守ってくれないのに」
 彼はふと顔を上げた。
「オレばっか喋っちゃってゴメン。朋夜さんは?朋夜さん、この前来た男の人、ダイジョーブ?」
 無邪気に無自覚に、糸魚川瞳汰は踏み込むのが上手かった。
「朋夜さん、あの男の人が怖くて、もうお店来てくれないんじゃないかって……こうやってお迎えしてれば、朋夜さんとは会えるケドさ……」
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。ごめんね」
 瞳汰は首を振る。
「朋夜さんの謝ることじゃないっすよ」
「お店の前、塞いじゃったでしょ」
 苦笑を返す。瞳汰は少しの間黙っていた。
「オレはああいうのよく分からないケド、瞳希とーきはしょっちゅう……ある」
 何か言わねばとでも気を遣ったのだろう。言い切るか言い切らないかの躊躇いが窺えた。
「え……?」
「別れたんだか、ちゃんと別れてないんだか分からない人が、バイト先とかおうちまで来ちゃうの。危ないし、怖いよ」
 糸魚川瞳希の温厚柔和、人畜無害な風体の裏にある欲望に満ちた貌を、朋夜は知っている。他者の肉体を玩具だとしか思っていないような……
「あの人とはちゃんと別れてるよ。それは向こうも理解してるはず。だって、多分だけど、あの人、結婚して子供もいる……はず」
 朋夜も瞳汰と同じ言い方になってしまった。元交際相手が朋夜の思っている相手と今も関係が継続しているのか確証がない。子は無事産まれたのかもまた知らないのである。
「そうなん?」
「うん……多分」
 向けられた双眸の無邪気さに、ふとあの喫茶店で、あの男との思い出の甘さに浸っていたことを思い出す。
「あ!でもそっか、朋夜さんも結婚してるんだった」
 急に声を上げられ、朋夜は一瞬といわず半瞬、どく、と心臓がおかしな脈をうった。
「そうそう」
「たまに忘れちゃって」
「結婚してる割りには、抜けてるからかな?子供っぽい?」
 瞳汰は慌てたように首を振る。
「違う、違う!結婚ってなんかオレには遠いからさ、若い夫婦とかいるけど、もっと年上の人たちがやる先入観イメージあったから……朋夜さん、まだそんなオレと歳変わらないでしょ」
 さっきとはうって変わり、瞳汰は軽快に笑う。
「でも、オレとそんな変わらないのに、結婚してるのすごいな」
「瞳汰くんだって、わたしと同じくらいになったとき、結婚してるかも知れないよ」
 糸魚川瞳汰のような甲斐性のなさそうな、趣味一辺倒といった感じの、貧相なくせどこかへ旅立ったまま帰ってこなさそうな頼りない雰囲気に惹かれる者はいそうである。
「ええ~、できるっすかね」
 微苦笑しながら彼は太陽に焼かれた毛先を撫でた。
「多分、とーきが結婚して、子供できると思うんだ。だからあんまり意識したことないや」
「子供は授かりものだからね、誰にも分からないよ」
 元交際相手の子を授かった年下の女のことがふと思い出された。両親には望まれて生まれたのだろう。その裏で、その命の芽吹きを悲しむ存在があったことを知る必要はない。父母の罪を知るよしもなければ、まず彼等がそれを不適切だとさえ認識していないかもしれない。
「だってオレ、誰かと付き合ったことない」
 確かにそういう雰囲気を、朋夜も感じ取っていた。見た目は醜怪というほどではないが、表情を失くすと特徴もなく冴えない。麗しい外貌の双子の弟と並ぶ立場というのもさらに果敢はかなく地味な兄のほうをひどく劣って見せる。
「このまま初恋の人と付き合って、そのまま結婚っていうのもロマンスっすけどね。夢見すぎだなって……小星くんとか、とーきのフったたち見てると思う」
 細長い糸魚川瞳汰は頭と顔こそ小さいが、雰囲気と相俟って威圧感がなく、そう大きな体積があるように見えなかった。隣に立ち、彼の顔を見上げるまで、背の高さに気付かない。義甥ほどはないが、思っていたよりも首を上げる必要がある。
 朋夜は瞳汰を仰ぐ。彼もその視線に気付いた。
「初恋は叶わないってよく言うじゃない」
「えっ、そうなんすか?」
 瞳汰は目をかっと開いた。
「迷信で……聞いたことないかな?」
「知らないっす、知らないっす。そうなんだ。初めて聞いたっすよ。で、実際のところ、朋夜さんは?どうだったんすか?」
 朋夜は「ええ~っ?」とおどける。それから真顔になった。父や兄と結婚するのだ、という幼く甘い遠い昔の無知で稚拙な夢は、実弟の悍ましい行為によって忌まわしく染まりきった。それらを抜きにした、他者との境界による初恋は、交際にまで発展はしたけれど、望まぬ形で離散した。
「叶うって、どこまでのことを言うんだろう?」
「お付き合い!」
 彼は無邪気に甘えた声で定義づけた。
「じゃあ叶った」
「じゃあ嘘じゃん」
 朋夜はふふ、と笑った。
「論破?」
「論破じゃないわ」
 彼女はほんのりと意地悪げに口元を緩ませている。
「でも瞳汰くんは、初恋の人と結婚したいんでしょう?」
「理想的過ぎる、メルヘンな理想でいうと、そうっすね」
 照れ臭そうに顔をくしゃりとさせる。そういうところに彼の魅力があった。
「それでいうと、叶わなかったかも。結婚しようって話まではいったんだけれど……」
 これでは匂わせている。朋夜は言ってしまってから気恥ずかしくなった。年下の、朴訥な子供に察しろと言っているつもりはなかったけれども、言っている気になってしまった。それが彼女なりの矜持きょうじに反する。
「だからその、この前お店に来てた人のこと」
「そうなんすね。あの人がかぁ……」
「なんか恥ずかしいな」
「なんでっすか?」
 彼は朋夜を顔面で見下ろす。身長に大差があるわけではないが、疲れるであろう。
「だって、わたしはもう結婚していて、君はそれを知っていて、なのに昔の恋人ひとはなしして、その人は、実はこの前君も会ってた人だったなんて」
「ええ?言うほど恥ずかしいすかぁ?よく分からん」
 瞳汰は腕を組み、ううむと空を睨む。
「乙女心ね」
「乙女心っすかぁ」
 そのまま肯定されるとむず痒い。
「訊いてもよければ、訊いちゃうんすけど、オレ"女心おとめごころ"分からないんで、参考のために……なんで婚約そこまでいって、その、ぽしゃっちゃったんすか……?」
 彼は声を潜めた。しかつめらしい、彼の魅力を殺す顔になっている。
「わたしがね、上手く……だから"カノジョとしての役目つとめ"っていうのを果たさなかったんだよ。だから、新しいカノジョが、欲しくなっちゃったんだと思うな。"カノジョの役目"を果たすような……」
 これは朋夜なりの自己保身の、自己弁護であった。糸魚川瞳汰は元交際相手に会っている。糸魚川瞳汰からすれば客である。そういう男が浮気をした、そして自分は浮気をされたという告白を、彼女は恐れてしまった。だがいずれにしろ、あの男の浮気は隠せない。
「む、難しい」
「意外とシンプルよ」
「ええ~?」
 糸魚川瞳汰を前にすると口がよく回った。時間は早く過ぎて、気付くと大型駅の架線下に着いている。ここが別れ道である。
「気を付けてね、朋夜さん」
 手を振り合って、互いに互いの行く方へ爪先を向けているはずだった。しかし手首を掴まれて、瞳汰は朋夜の見たことのない、しかつめらしい貌をしていた。重大なことが起きたのかと彼女は一瞬、鼓動を速くした。歌っていないときは甲高く上擦り、裏返りがちな声も低かった。これでは普段はあざとく媚びているのではないかと疑えないこともない。
「うん……瞳汰、くんも……」
 心臓を落ち着けている間、茫としてしまう。彼女のその語調は譫言めいていた。糸魚川瞳汰はすでに平生へいぜいの白痴的な匂いも否めないあの顔に戻っている。落差に戸惑う。糸魚川瞳汰という人物をどう捉えていいものか。
 数歩行ってしまってから顧眄こべんする。瞳汰はまだそこに立っていた。手を振っている。朋夜は手を振り返し、また少し行った。雑踏に掻き消えていることを認めても、彼女はもう少し待った。彼はまだそこにいた。真上へ腕を伸ばして手を振る。恥ずかしげもない。朋夜は応じなかった。見失うまで居るつもりなのかもしれない。早く行かねば彼が困るだろう。彼女はもう後ろを見ることはなかった。



 マンションのエントランスで義甥が待っていた。中のラウンジではなく、警備員の如く外で人の出入りを逃さないといった姿勢だ。口にはしないが、この甥は、叔母の前に現れたその元交際相手を警戒しているであろうことは朋夜にも分かっている。身の危険を警戒した糸魚川瞳汰とはまた別の方向性から。叔母が夫の亡くなったのをいいことに、元交際相手とりを戻すのではないかと。
「京美くん」
 甥の元に自ら歩み寄る。彼は叔母を睨んだ。"おかえりなさい"だの"ただいま"だのは鬱陶しがられる日々のなかで消えていった。不快になる挨拶ならば無いことのほうがむしろ礼儀であるまいか。
「どこか出掛けるの?」
 朋夜はそれが監視であることに気付いていた。彼女は何度義甥を呆れさせ、落胆させ、巻き込み、裏切ったのか分かっている。元交際相手の登場について監視されることは是非もない。
 しかししらばくれた。
「叔母さん待ってた」
 彼は掌を差し出す。自動販売機で使えるような小銭を求められているのかと思った彼女は財布を出そうとした。
「手」
「え……?」
 バッグに突っ込みかけた手を掴まれる。握り直された。朋夜は気難しい義甥の表情を覗く。
「本当に、イトイガワって人と帰ってきてるの」
「うん。駅まで……」
 会話は終わった。自動ドアを潜ると彼はもう喋らない。ロビーを渡り、2人きりのエレベーターに朋夜は身構える。痛烈な非難が飛ぶのではあるまいかと。辛辣な弾劾を受けるほどのことをしたかと彼女は反芻する。心当たりはない。しかし知らず知らずのうちに甥の気に食わないことをしていないとも限らない。京美から嫌悪、侮蔑、忌避されているのは無自覚無意識な行いを積み重ねてきたせいだろう。甥を恐れている。それがこの叔母に自省を促す。
 冷たい手が強張った手を握り直した。
「朋夜」
 低い声で呼ばれ朋夜はびくりと肩を震わせる。
「うん……?」
 平静を装った。何を言われるのだろう。自分は何をしでかしてしまったのだろう。彼女の関節は軋んだ。
 京美は呼ぶだけ呼んで、続きを言わない。手を強く握られる。これでは握力測定器だ。しかし手の震えが誤魔化せる。
 エレベーターが指定の階に着く。京美はすたすたと先に行ってしまうが、手は繋がれたままだ。朋夜は引き摺られるようにして後を追う。玄関扉に鍵を挿し込む仕草が乱暴で、甥の不機嫌さに彼女は怯えた。これは玄関ホールといわず、三和土たたきで説教がはじまる可能性が高い。
 中に入った途端、華麗な捌きで朋夜は玄関扉の真横の壁に背を打った。義甥は憤怒しているようだった。糸魚川瞳汰と暢気に喋って帰ってきている場合ではなかったのだ。一体どこを失敗したのであろう。朝飯の後に食器は片付けた。いいや、水切りざるに放置したままだ。しかしそれだけでここまで怒るのか。否、積もり積もった不満というものがある。それか洗濯漏れがあった。脱衣かごをしっかりと確認すべきだったか。自分の洗濯物に紛れているかも知れない。他に何かあるか。勘違いがあるのかも知れない。
「俺じゃダメなの?」
 高速回転していた思考が急激に止まる。気付けば打ちつけられた壁から剥がされ、身体には甥の腕が巻き付いている。 
「な……にが……」
 予定していたもの、否、彼女にしてみれば確定していたものと異なっていた。これは朋夜の頭の中を白くしてしまった。だが訊き返してみてから思い当たる。京美も詳細を言わない。
「だって……京美くんは忙しいでしょう?わざわざ迎えに来てもらうの、悪いよ」
 何故その話に蒸し焼きにするような抱擁が要るのだろう。甥の腕蒸籠に加熱されている。
「朋夜」
 妖しい音色だった。反射的に見上げれば、京美の唇に受け止められる。判断の余地はなかった。背中で組まれていた彼の腕が解かれ、生温い涼しさがあった。ところが朋夜はふたたび壁に打たれ、筋肉質な男体で縫い留められる。
 甘く咀嚼されるような口付けが徐々に踏み込んで深入りしてくるものへと変わる。
「んっぅ、」
 身体と身体の狭間に捻じ込んでいた拳と肘が甥を突っ撥ねる。だがそれを押し返す力もまた強い。口腔への闖入者は淫らに暴れ回り、朋夜から意識を奪っていく。
「ぁ ………ふ、」
 力が抜け、首が後ろへと垂れる。乗り上げた甥の舌が喉奥を突きそうだった。拒む彼女の舌は罠に嵌っている。京美は竜巻でも起こしたいらしい。絡みつかれ、纏わりつく口水の冷たさが官能をくすぐる。
 朋夜の片膝が惚けた。下降しかけた叔母の肌を義甥が支える。2人の間に伸びた蜘蛛の巣よりも細い命綱めいた糸が切れる。
「したい」
 あとは壁伝いに尻餅をつくだけの朋夜を見下ろし、甥はやがて彼女を容易に掬いあげた。玄関ホールに座らせ、靴も脱がせずに彼は叔母にのしかかる。
「京美くん……?」
「俺が検査してあげる。叔母さん。本当にイトイガワと帰ってきたんだよね?」
 信用されていないことも、また度重なる裏切りのせいだ。服にかかる手を掴んで止めることしかできない。
「恥ずかしい?俺はもう叔母さんの痴態カラダ知ってるんだけど」
「こんなことは……」
「甥と叔母だから?でも俺はあんたのことを女としか見てなかった。あんたの夫の叔父貴は死んだんだ。俺があんたをもらう」
 異論は認めないらしい。何か言おうとする口は口で塞がれる。
「ぃや……っ、!」
 顔を背けキスから逃れ口元を拭う。
「朋夜は俺のだ。イトイガワがなんだよ……元カレが急に出て来て、なんの用なんだよ」
 普段の甥の無頓着で自暴自棄を通り越した末に辿り着いた虚無みたいな喋り方ではなかった。苦悩に満ち、若く青臭い。
 朋夜は混乱した。悠長に靴を脱いでおきながら、防衛本能が逃げろと急かす。下半身を引き摺る姿はさながら人魚である。しかし真上から京美が覆いかぶさる。
「京美くん……っ、おねがい、やめ……」
「朋夜は俺の。どこにも行かせないし、誰にも渡さない……」
 感情を垣間見せたのはあの一言二言だけだった。また普段の虚無感を携え、彼は這って逃げようとする叔母の背に乗った。
「やめて………やめて、おねがっ、」
「朋夜」
 甥は汗をかいた髪を嗅いでいる。鼻を差し込んで毛先まで辿り、頸を啄み、手は叔母の胸元をまさぐる。
「いい匂いがする」
 服の上から大きな薄い手が乳房を揉んだ。彼なりに力加減はしているようで、鷲掴みにされたり、痛みを伴うようなことはなかった。それが叔母を惑乱させる。肉欲の処理ではないのか。
「朋夜」
 京美は叔母の耳殻を散々舌先で突ついた。耳朶を吸い、歯を立てて餅だとでも思っているのか、伸びを愉しむ。
「京美くん……京美くん…………っ」
 この暴挙をやめてくれと、無意識が彼女に媚びへつらわせる。それがさらに発情した牡を煽っていることにも気付かない。
「朋夜……」
 がっちりと男体が朋夜の身体に密着した。尻といわず、腰といわず、腿ともいえないところに預けられた威圧に朋夜は小さく呻く。
 乳房を揉む手とは別の手が彼女の穿いていたコットンパンツのホックを器用に外す。そしてショーツのゴム部分を装飾したレースを指で遊ぶ。
「柔らかい」
 キャミソールの下に手を入れ、京美は若い叔母の腹を摩る。そのなめらかな肌に感嘆した。
「ダメ……京美くん………」
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 臍の周りを撫で回していた手は、ショーツの中に滑り込んだ。そして叔母の茂みを指で繰って遊ぶ。
「京美くん、これ以上は………」
 しかし甥は聞かなかった。叔母の下半身を曝け出し、指と口で育てていく。結局、義理の甥は叔母と交尾した。硬くいきり勃つものを、恩人の妻の潤んだ隘路に出し入れする。蜜を含んだような肉筒がさぞかし気持ちよかったことだろう。痛覚も疲労も鈍らせる快感が容赦のない抽送を可能にする。器用なこの甥は、叔母の内部の事情をすぐに知れた。どこをどのように突けば、この牝が悦びに果てるのか。嫌がる女の拒否と否定の言葉は、もはや意味を成さない、牡を誘うだけの嬌声と化していた。
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「あ……ああっ!あっ、」
 甥は叔母の小さく凝ったところを捏ねた。すると大きなうねりで、牝は牡を歓待する。そうされては、淫楽に夢中な牡獣は叔母の小さなしこりを嬲らずにはいられない。
「朋夜……」
「ぃや………ぁっ、あぁ!」
 前後に揺さぶられ、打ち込まれた肉杭を咥えて悦ぶ女は、まだ拒否を口にする。彼女の義理の甥は歯軋りをした。女の態度が気に入らないらしい。
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