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熱帯魚の鱗を剥がす(改題前) 陰険美男子モラハラ甥/姉ガチ恋美少年異母弟/穏和ストーカー美青年
熱帯魚の鱗を剥がす 22
しおりを挟む天条奏音に後ろ手に押さえ込まれ、朋夜は膝立ちになっていた。目の前には激しい要求の末に力技で剥かれた乳房を凝視する艶やかな茶髪の青年が自慰に耽っている。
「かわいいのねぇ」
耳の裏に息を吹きかけられ、朋夜は身を堅くする。視界に入れざるを得ない青年の握っているものも彼女の悶える姿に脚の間のものをさらに固くした。赤黒いそれは根本をゴム紐で縛られている。注射をするとき腕を縛るものに似ていた。
「ジョー、そんなに欲情して、喉渇いたんじゃない?ここにドリンクバーがあるんだけど……」
朋夜は天条奏音に操られ、上へと跳ねさせられる。撓わな乳房がぽにょんと揺れる。空を衝くほどに勃起した乳頭は、まるで加虐を期待しているような滑稽さと可憐さを匂わせる。
「こんなにいっぱいキスマークがつけられて……アイサレているのね?」
「恥ずかしい……っ」
朋夜のその拒否は羞恥を帯び、どこか嬌声にも聞こえてしまっていた。
茶髪の青年は射精の許されない陰茎を激しく扱いた。快感を放つことのない卑猥なプラムは透明な蜜を垂れ流して歔欷している。それから彼は、朋夜の胸に二つ生った豊満な果実に手を伸ばそうとした。
「汚ないもの掴んだ手で触る気なの?」
「やめて………っ」
再度の拒否は譫言めく。結局、ブラウンの髪の美しい青年は首を伸ばして、無防備にさせられた剥き身の巨白桃に接吻する。小さいながらも張り詰めた先端部を舌で掬い上げ、唇で覆った。
「あ……っはぁ、!」
朋夜は胸を包む生温かさ、先端部を突いた舌の質感に身を捩った。授乳のような構図でありながら、舌遣いは明らかに意図を持って、果実の花落ち部分を舐めている。吸う力も、唇を窄める加減もそうだった。
「んん……」
「女はおっぱい吸われたら、すぐ好きになっちゃうものなのよ。うふふ……2人ともかわいい……」
青年は口を離すと、猫が自分の毛の手入れをするみたいに数度乳頭を舐め上げた。そして口腔に収める。
「や……ぁっん」
「本当に大きいわねぇ」
天条奏音は朋夜の腕を放した。しかし拘束を解いたわけではない。天条奏音の両手は、今度は朋夜の張りのある大きな胸を包む。丸みに掌が添えられ、痛みはないどころか、むしろマッサージじみて朋夜を困らせた。
「もう……放して、ください………」
「いっぱい犯してもらって、お股は擦れて痛いなら、おっぱいでイくしかないじゃない?」
ブラジャーの代理を務める手は、指を伸ばして近場の鬱血痕を撫でた。
「それとも、可愛い甥っ子じゃなきゃイヤ?端麗さならジョーだって負けてないわよね。彫りが深いのは好みじゃない?」
拗ねたのか、乳頭に浅く歯が立った。絶妙な力加減は故意としか思えなかった。じんわりと甘い悦びが下腹部に伝わる。
「あんっ」
「ほら、拗ねちゃった。綾鳥さん、ジョエルはあなたのことが好きなのよ。毎日あなたのパーカーでオナニーするの。もう毎日洗濯して毛玉だらけ。普通なら捨ててるレベルなんだから」
天条奏音の吐息が耳殻をくすぐる。
「美形過ぎてタイプじゃないってよくあることよね。なんだかんだイケメンってやつも、どこかしら崩れているのだし。顔がいいっていうのも難しいわけだわ」
"ジョー"の舐め啜っていないほうの胸を、天条奏音も弄びはじめた。片方を刺激する粘膜とは異なる摩擦で朋夜は混乱した。天条奏音のただ乳房に添えられていただけのほうの手は徐々に、愛撫を施しながら下降する。臍の周りで止まり、肉体が戦慄いた。
「甥っ子くんにたくさん抱いてもらって、イくの嫌なんだったかしら?それじゃあ、またイかせたら悪いわね。ジョー、イかせたらダメよ。気持ち良くしてあげるだけ、ね」
勃ち上がった胸の実粒をきゅっきゅっと軽く搾られ、朋夜は甘い息を漏らす。
「おっぱいいじられるの気持ちいい?ジョーも、おっぱいが好きなのよ」
「あ、ひ………ぅんっ」
茶髪の青年は手淫を続けながら乳を吸う。
「放して………おっぱい、おかしくなる………」
朝から散々に嬲られている。今は凝り固まっているが、柔らかなそこは明日といわず今にも気触れそうだ。その下のちりちりとした疼きによって朋夜は陶酔感に痛痒を忘れる。
「おかしくなりなさいよ」
片方では生温かく瀞んだ快感を与えられ、もう片方では摩擦の利いた鋭い淫楽を与えられる。強弱も質感も体温も違う。
「だめ………だめ、だめ……」
下腹部に高まりを鎮めようと、彼女は自身に言い聞かせているようだ。そこに訴えるような響きはない。
「乳首気持ちいいんでしょう?」
天条奏音に顔を覗き込まれる。官能に惚けつつも悩ましい表情は誰にも見せたくなかったが、不躾なほどに頑とした視線を受ける。
「あ、んぁ、あっ……」
視界がぼやけた。臍裏に潜む情欲が脳天を駆け抜けそうであった。そのときになって天条奏音の手が、胸を吸う青年を剥がす。
「あ………」
朋夜の腹の中に滾りたつ煩悩の渦は爆発四散を許されず、そこに押し込められたままになる。
「イきたくないんだものね。約束どおり、イかせなかったでしょう?」
天条奏音の絡みつく腕が離れ、朋夜は支えを失い、緩やかに床へ引き寄せられた。息が弾み、腹の中ではどろどろとした淫らで粘り気のある悩みが煮えている。絵本の中の魔女が、彼女の腹を秘薬の壺代わりに、無骨な杖で掻き混ぜているみたいだった。
「ねぇ、いいことを思い付いたんだけど。うっふっふ、綾鳥さん。お股、擦らなければいいのよね?」
彼女は手淫を緩める四つ這いの"ジョー"を見下ろした。彼もその視線に気付いたらしかった。蕩けた顔を上げた。
「あなたも乳首なさいよ、ジョー」
天条奏音はカバンから小さな薄い、四角形の袋を取り出した。朋夜はそれを欲熱に潤む瞳で凝らす。粉薬、主に胃薬を思わせるが、しかし袋はあまりにも無地であった。そのような不親切なデザインの胃薬があるだろうか。
天条奏音はいくらか気を遣った仕草で袋を切っていく。中から淡いブルーの円いものが現れた。実物を見たことはないけれど、まったく見たことがないわけではない。それは避妊具である。
「来なさい、ジョエル。着けてあげるから」
"ジョー"は真っ赤に頬を染めて頻りに朋夜を瞥見する。
「綾鳥さんに着けてほしいの?」
天条奏音の語気はぴしゃりと冷ややかで厳しいものがある。だが怒っているのかと思えば、彼女はいやらしく莞爾としていた。"ジョー"はまた項垂れて、首を必死に横に振る。さらに顔が赤くなりそうだった。
「来なさいよ。何少し萎えさせてるの?」
"ジョー"は命令に従った。天条奏音は意地が悪いのかも知れない。彼女は朋夜の目の前で、座る青年の膝を開いた。根本を縛られて充血し、血管を浮かせた禍々しく猥褻な畜生竿が曝け出される。"ジョー"は朋夜から顔を背けたが、その器官は女の視線を受けて上下に跳ねた。
「あら、ごめんなさい、綾鳥さん。粗末なものを見せたわね」
それは心にもない謙遜だった。あまりにも悍ましい、太く長いものである。
「比べられちゃったんじゃない?綾鳥さんが夢中になったお相手と……」
淡いブルーの避妊具を後ろから被せながら、天条奏音は嘲笑する。
「綾鳥さんをイかせてあげられない粗ちんで可哀想。かわいそ……小型ちんぽ」
天条奏音のしなやかな手が、"ジョー"の股ぐらから離れたが、臍の上を辿り、胸元を撫で回していく。薄く透明な被せ物をされた猛々しい器官がぶるん、と飛び跳ねた。
朋夜は惨めな肉塔を呆然と見つめ、"ジョー"が腰を上げた途端に我に帰った。膝に力が入らず、彼女は下肢を引き摺って後退る。
「だめよ、綾鳥さん」
ネイルカラーの綺麗に施された手が朋夜の足首を掴んだ。
「出し入れさせないから」
視界が翳った。"ジョー"の虚ろな妖しい眼光が降り注いでいる。生唾を呑む音が生々しかった。
「天条さ……」
助けを求めても叶わない。天条奏音こそが仕掛人である。脚と脚に割り込む牡獣などは、最初から話も通じないであろう。
「ジョーも苦しいのよ。中には出させないし、綾鳥さんもイかせない。うっふっふ」
天条奏音の目交ぜが合図だった。"ジョー"は腰を進め、朋夜と結合する。
「あ、あ……」
射精を許されず、勃起したままの"ジョー"にとって、長年の想人との抱接はどれほど官能的だったのか。彼は艶めいた呻めきを漏らす。
「あ………う、っ」
見た目は確かに大きかった。ところが、数時間前まで何度も糸魚川瞳希のものを捩じ込まれていたそこに、予期していたような強い圧迫感はなかった。
「こら、ジョー!そんな一気に突き入れて!このクソガキ」
天条奏音はいつのまにか青年の真後ろにいた。欲望に任せて腰を振ろうとする彼の耳に齧りつく。
「ジョー。あんたみたいな童貞が、憧れの綾鳥さんとマトモなセックスができると思ってるの?」
「あ………っはっ、はっ……朋夜サン………」
腹の中でめりめりと重なった部分が膨らむ。
「あんたは乳首でイくのよ。あんたに綾鳥さんが満足させられるもんですか」
天条奏音の長い指が、"ジョー"の胸の蕾を詰る。彼は背筋を逸らし、腰を前にやった。朋夜の他人の体液まみれの隘路に、深々と突き挿さる。
「あ……っう、」
朋夜は腰を掴む筋張った手を落とすつもりで無意識に握ってしまう。
「ほら、綾鳥さんが暇でしょう?どうせあなたのクソガキ粗ちんぽじゃ中イキさせてあげられないんだから、万年オナニーで培った指先のテクニックでもてなしてあげなさいな」
天条奏音は"ジョー"の両胸の鈕を引っ張った。
「ぅあ……あ、」
「ぁ……っん」
ピストン運動は禁じられているはずだった。だが青年は腰をずんと前にやった。彼は覚束ない手で結合部真上の朋夜の秘核を触る。
「何、粗チンで気持ち良くなろうとしてるの?あんたは乳首で十分でしょう?」
耳を噛まれ、尻を叩かれ、"ジョー"は動いてしまう腰を止めるのに苦心しているようだった。
「ごめんなさいね、綾鳥さん。躾が行き届いてなくって。ほら、クソガキ、この童貞!綾鳥さんを気持ち良くしてあげなさいったら」
天条奏音は"ジョー"の乳頭を捏ねる。"ジョー"は振りたくりそうな腰を止め、朋夜の蕊肉を擂った。
「あっんっ」
「あ……朋夜サン………朋夜サン………動きたい………っ」
肉芽を触られるだけ蜜孔が蜿る。それは"ジョー"を煽ることを意味した。彼はとうとう前のめりになる。しかし抽送を断念し、腰がぶるぶると戦慄いていた。
「朋夜サン………朋夜サン、ちんちんイきたい……」
同情を乞う、泣きそうな調子で彼は口走る。
「だめよ。綾鳥さんは他に好きな人がいるのよ。ちゃんとおまんこイきさせてくれる素敵な殿方がいるの。あんた一人だけちんちんイきするなんて、そんな情けない話があるかしら?ほら、乳首でイきなさい。イけ」
結局"ジョー"は天条奏音に会陰を刺激されて絶頂を迎えた。突然もがき苦しみ翻筋斗うって咆哮する"ジョー"に朋夜は驚いてしまった。倒れかかる青年の下敷きにされる。瞬時に蒸れた。
「あら、綾鳥さん、こういうのは初めてなのね」
朋夜は小馬鹿にした笑みを浮かべ、痙攣している男体を起こす天条奏音を恐れた。
「か、帰ります、帰ります……帰らせてください………」
半裸であることも忘れて朋夜は両手で顔を覆った。
「どこに帰るの?」
「マンションに……」
「どうして?」
「……帰りたいです」
問答の形を成していなかった。ただ朋夜はこの小綺麗なメゾネットがお化け屋敷よりも怖い。
「残念ね。あたしがまだ綾鳥さんと遊べてないのに」
天条奏音は朋夜から脱がせたものを近くに落とす。
「自分で、帰れますから……」
「でも、ここはちゃんと掻き出したほうがいいわよ。あとこのパンツはちょうだい。代わりのあげるから」
天条奏音は部屋の奥に消えた。代わりに"ジョー"が傍に寄る。
「い………やっ!」
触れようとする手を払う。乾いた音がして、朋夜は自身の行いを知る。
「ごめんなさい……」
「い、え……。でも、ここは、掻き出します」
「大丈夫…………大丈夫ですから…………」
朋夜は両腕で気怠い身体を引き摺る。
「やります」
熱い手に膝を開かれた。咄嗟に蹴りそうなのを堪え、彼女は羞悪に顔を覆う。大きなものが出入りした場所に指が挿れられたところで、圧迫感や痛みはなかったが異物感は否めなかった。
「う、う………」
「朋夜サン………」
それは掻き出す作業ではなく、指淫の所作だった。朋夜は青年を蹴りそうになるのを留め、仄かに再燃する欲望をも抑えなければならなかった。
天条奏音が戻ってくる足音が聞こえる。
「これでいい?綾鳥さん。まだ使ってないから」
彼女はファストファッションのブランドロゴが入った小さなジップパックを持っていた。中には淡いピンク色のショーツが入っている。
「いやだわ、ジョー。あなた、綾鳥さんをイかせたいのね。好きな女に爪痕を残したいのかしら。でも無駄よね」
天条奏音は新しいショーツを朋夜の近くに置くと、彼女もそこに混ざった。朋夜の頭を膝に乗せ、胸に手を伸ばす。上と下を刺激され、肉欲の埋火は一気に燃える。
「ああっ!」
天条奏音には、どこかどのように弱いのかすでに把握されていたらしい。性感帯を摘まれ、糸魚川瞳希の残滓を掻き出す指を締め上げる。
「あっんっ、!」
「イくときはイくって言いなさい」
内肉の蜿りによって"ジョー"は朋夜の限界を察したらしかった。水音が増す。
「イきそうなのね?」
「もう、イく―!」
朋夜は腰を浮かせ、身体を反らす。彼女はいやらしく両膝を割り開き、自ら"ジョー"の指に好いところを擦り付けた。
「あっは!かわいいのねぇ」
何度も迎えたオーガーズムによる疲労によって、吐気がするような重苦しい快楽だった。目蓋が開かなくなってしまった。意識が遠のく。
浮気女、と記されたメールが上司に届いたらしかった。真偽を問われ、ありのまま打ち明けると、本当に信じられたのか、或いは深入りして厄介なことになるのを恐れたか。
『ねぇ、聞こえているのかしら。仁実もだけど、ジョエルが色々走り回ってくれたのよ』
髪を梳かれるのは心地良かったけれど、意識を呼び覚まされそうで、朋夜はまだ眠っていたかった。
『ああいう卑劣な女って、やっぱりムカつくもの』
そう長い時間寝ているつもりはなかった。ただ肩を揺すられて起こされると、朋夜は車内にいた。枕にしていた人の硬い腿に気付き、彼女はその持ち主を見上げた。目と目が合ってしまう。
「ジョー……くん?」
「如衛龍です」
腿に手を乗せていたことに気付き、彼女はすばやく身を起こした。
「ああ……ごめんね、如衛龍くんか。気安く呼んじゃって……」
艶やかな茶髪が左右に揺れる。車はエンジンをかけたままだったが、運転手はいなかった。
「天条さんは……?」
「朋夜サンの甥御を迎えに……」
「え……?」
朋夜はまた如衛龍を見た。首を捻る。如衛龍は戸惑ったふうに眉根を寄せ、顔を逸らした。
「えっと……飛髙さんの甥が、来れたら迎えに、来てくれると……思います、……」
彼は妙な抑揚をつけて喋った。つまり京美がここまで来る。朋夜の胸が苦しくなった。不安が膨らんでいる。怒られるに違いない。地の底まで呆れさせるだろう。すでにこれ以上ないほど嫌われ、侮蔑されているというのに、また迷惑をかけてしまう。
「そうなんだ……」
歩けないわけではなかった。今から車を降りれば。しかしすれ違ったなら余計な手間がかかる。
「朋夜サン」
顔を逸らしていた如衛龍がこちらを向いた。改まった声音に緊張を強いられる。
「う、うん……」
「好きです」
一直線に好意を打ち明けられ、彼女は電流を通されたみたいな衝撃が走る。あまりにも急な告白に驚いたのだ。
「あ、あり、ありがとう……」
「あ、あの……おでと、付き合ってください」
今度は棍棒で脳天を搗ち割られるような衝撃であった。シンプルでダイレクトな告白に彼女は慣れていない。
「えっ、でも、あの、わたし、既婚者だし、その、如衛龍くんからみたら年増だし………ね?」
ブラウンの髪がさらさらと横に靡く。
「朋夜サンは素敵な人です」
「あ、あ、あ、ありがとう……」
「おでは……ずっと、これからも、好きでいます。朋夜サン……」
それはまず間違いなく社交辞令だろう。いずれは新しい出会いにより、他の人物を好きになり、誰が好きだったのか忘れるのだ。思い出したとて、告白したことにも恋慕を抱いたことにも後悔する。それが世の常、人の常だ。
朋夜は返事もしなかった。何を語ってよいのかも分からず、静かに事を待っていた。やがて天条奏音が京美を連れてきた。車窓の奥から冷ややかな視線を注いでいる。表情、雰囲気、目付きからして激しく憤っているのが分かった。
車のドアが開けられ、朋夜の身柄は京美に預けられた。肩を抱き寄せ、がっしりと確保している。
「頭は冷えたかしらね?」
「何度も行ったり来たり、すみません」
天条奏音の問いに京美は答えなかった。
「いいのよ、別に」
「叔母も疲れているようなので、この辺で」
甥は朋夜に何も言わせようとしなかった。力任せに振り回して駐車場を去る。
「み、京美くん……」
「何」
義甥に喋りかけるのには勇気が要る。決行しても逡巡は吃りとなって現れる。
「ごめんなさい……迷惑かけて……」
「別に」
冷淡に切り捨てられたが、いつものことだった。慣れた返しでむしろ安堵する。ところがそれも玄関に入る前までの話だった。ホールに入った途端、義甥は朋夜を壁に押し付け、両手を縫い留めるのと同時に、彼女の唇に襲いかかる。
「ぁふ、ん」
口唇を唇で揉みしだかれ、彼が満足すると、舌が口腔へと入り込む。奥に控えていた彼女の舌を根元から掬われ、中で固結びでもする勢いである。
口水が溢れ出て顎へと滴った。腰や膝から力が抜けて壁伝いに落ちていく。すると甥は彼女の腰に腕を回した。抱き寄せて留めておく。ちゅくちゅくと湿った音が、朧げになる朋夜に現状を知らせる。甥と深い口付けを交わしている。甥と。
放された手が義甥を拒む。
「ん……っ、みやびく………っ、」
「俺の朋夜」
しかしそれは彼を燃え上がらせるだけだった。京美は角度を変えて叔母の唇を吸った。
「京美くん……」
「どこの誰に何されても、朋夜は俺のだ……!」
骨が粉砕されるほど強く彼の腕がしがみつく。まるでそうしていないと、底無し沼と化した床に沈みでもしそうなほどだった。
「絶対手放さない。あんたは一生、俺のものだ」
朋夜はわずかな隙間のなかで身動いだ。
「どこにも行かないから、平気よ……」
つまりこの義甥は、節操無しの義理の叔母が、自分の敬愛する叔父を裏切り、軽視し、冒涜するように別の生きた男のもとに行ってしまうことを危惧している。
甥は彼女の頭を両手で包む。困惑の表情を浮かべながら、彼はまた叔母の口を吸う。
「ん……ぁ、」
乗っていたエレベーターが壊れ、高層階から落下する。上り階段を踏み外し、真っ逆さまに落ちていく。ジェットコースターの下りのレールが消失していく。そういう急加速な浮遊感があった。四肢から力を失い、甥の腕の中ですべてを壁に委ねた。接吻が解かれても、彼は離れるまで唇を食む。
「朋夜、愛してる。壊しそうなんだ」
聞け、とばかりに両頬を固定され、逸らせるものは眸子しかない。甥の衝撃的な発言は、先程の青年から受けたものと比べると陰鬱な気配を伴っている。背徳と被虐の奇妙な悪寒が金縛りの如く、朋夜を凍りつかせる。
「愛してる……朋夜、俺を見て」
悪夢である。腹を殴られたのかと思ったが、痛みはない。胃の辺りがびりびりと痺れている。聞き間違いだと決めた。反芻にも強い躊躇いが生まれる。一体何と聞き間違えたのかを確かめる気にもならなかった。
「ごはんの用意、しないと」
散々言葉を取捨選択したつもりで、結局選び取ったのは使い古された無難な一言だった。
迫る甥の躯体を軽やかに往なす。甥のほうでもそういう反応をされるとは思わなかったのだろう。
「朋夜」
廊下を急ぐ叔母を止めた京美の喉にはまだ甘ったるさが残っている。
「ごめん。なんて言ったのか、う、上手く聞こえなくて……」
振り向きもせずに彼女は答えた。飯の支度をすると言いながら、その足は浴室に入っていった。
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