18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」-2

結局は俗物( ◠‿◠ )

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熱帯魚の鱗を剥がす(改題前) 陰険美男子モラハラ甥/姉ガチ恋美少年異母弟/穏和ストーカー美青年

熱帯魚の鱗を剥がす 21

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 玄関ドアを開けると、ホールには義甥ぎせいが腰を下ろしていた。偽悪的な素行不良児みたいな体勢である。
「ただいま、京美みやびくん……」
 彼は低いところから叔母を睨み上げるように瞥見する。
「おかえり、朋夜ともよ。待ってた」
 彼女の身体は強張った。糸魚川いといがわ家で味わわされた妖気と同質のものがそこにある。
「もう、帰ってたんだね……」
「いつもこの時間には帰ってきてるんだけど。ああ、そっか、最近遊んできてないもんな」
 甥が腰を上げた。朋夜は咄嗟に後退ってしまう。
「口紅落ちてるね。何か食べてきたの?それならいいけど……」
「う、うん……ちょっと……」
「髪も朝と違くない?」
「途中でぼさぼさになっちゃって……」
 一歩一歩、威圧感を与えるように甥がにじり寄る。朋夜も後退り、また後退る。
「ふぅん……」
 背中に扉が当たる。甥は故障したコントローラーで操作されたプレイキャラクターの如く、叔母を挟んで玄関扉に詰めた。
「あ……、み、京美くん………」
 京美の指が首筋を押す。エレベーターの階数ボタンを押すみたいな所作だった。
「友達、ね……どういう友達?男?女?叔母さんのトモダチって、トモダチにキスマークつけるんだ?世代の違い?」
 甥の手が朋夜の首を掴んだ。そして彼は耳元で囁いた。
「ご……めん、なさ……」
「女の友達だって言えよ。なぁ、嘘でも」
 怒気がこもっていた。朋夜は腕を引っ張られる。あまりの力強さに足が縺れた。
「京美くん……っ」
「来なよ。約束どおり、俺が叔母さんを検査してあげる……」
 朋夜は踏み留まってしまった。それが京美の疑念を確信に変えてしまったのかも知れない。彼の目の色が変わった。剣呑で凶暴な光が揺らめいている。
「帰ってきたら検査するって俺言った。それであんたのこと行かせたんだけど……約束、破る気?困るんだ?検査されると……」
 暴力によって朋夜は玄関ホールの床に押し倒された。甥は叔母の衣類に手を掛けた。
「京美く……!」
 ところが彼が力尽くでキャミソールごと服を捲くったとき、制止の声は届いたらしかった。昏い眼を剥いて甥は固まった。
「なんだよ……これ…………」
 彼の視界には叔母の肌に、点綴てんていというにはおぞましく散る鬱血痕が映ったことだろう。
「誰に会ってたんだよ?なぁ、叔母さん……」
 朋夜は唇を噛んだ。羞悪、恥辱、厭悪を堪えた。
「言えないのかよ。なんで俺に嘘吐くの。ガキだから簡単に騙せると思った?」
 忌まわしい情痕を彼はわずかな時間も目に入れたくないらしかった。トップスの裾が乱雑に下ろされる。
「……出ていけよ。出ていけよ、叔母さん。俺に嘘吐いて、叔父貴のことも裏切って……サイテーだ。とっとと離婚して、俺とも縁切って、違う男と結婚でも子作りでもすればいいだろ」
 朋夜は身を起こしたはいいが、そこにペタリと座ったままぼけ、としていた。頭を真っ白にした。辛辣な事実を突き付けられ、考えるだけその思考はどこかに飛ばされている。
「出ていけよ……出ていけ!」
 何のリアクションも起こさない叔母に、京美の堪忍袋の緒は切れたようだ。彼は空け者の如くぼんやりした叔母を玄関の外へと引き摺って放り出す。それから間髪入れずにドアロックとチェーンロックの音がした。朋夜は玄関扉にうつらうつらと縋りかけ、しかしまだぼんやりとしていた。諦めが起こる。疲れ果てた心身は弁解の意思も与えない。彼女はとぼとぼと今乗ってきたばかりのエレベーターに乗り、マンションのエントランスの隅にあるラウンジに身を寄せた。
 帰る場所がないわけではなかった。実家がある。だが弟がいる。弟との関係だけでなく、アルバイトのこともあった。通勤はどうなるのか―……彼女は考えて、まだあの仕事を続けるのか、迷いも生じてしまったのだ。
 元恋人が選んだ女も、まさか強姦されて浮気相手になったのではあるまいか。望まない無理矢理な行為による妊娠だったのではあるまいか……
 朋夜は今の己を過去の出来事の他人に馳せてみた。おかしさに嗤う。
「あら、綾鳥さんじゃなくって?」
 ラウンジのソファーでひとり自嘲に耽っていると高圧的な声が頭上から降った。顔を上げると、気の強そうな美女が若い男をはべらせて立っている。
「誰か待ってらっしゃるの?先約があった?綾鳥さんに用があって来たんだけれども、残念なことね」
 激怒の末に先程叔母を放り出した京美の長年の想い人・天条 奏音かのんだ。彼女の奥にいる茶髪の青年が朋夜の視線に気付くと会釈した。
「い、いいえ……別にそういうわけでは。わたしに何か用があるんですか?」
 彼女は努めて愛想笑いを浮かべた。天条奏音は鼻を鳴らし、呆れたような怒ったような顔をする。
「そうよ。甥っ子くんはうちにいるの?」
「はい」
「そう。じゃあ、あの人に線香をあげてくるから、ジョー、あなたはここで待ってなさい」
 "ジョー"と呼ばれた美しいブラウンの髪の青年は頷くと顔を真っ赤にしながら俯いて朋夜の対面のソファーに腰を下ろす。エントランスに心地良いヒールの音が鳴り響く。
 朋夜は対面で俯く茶髪の青年をちらと覗ったが、すぐに目を逸らした。天条奏音が戻ってくるまでの時間を沈黙の中で過ごすのかも知れない。周りには他の住民が行き交っているが、深い関わりはなく、ときたま顔を見る程度の人々だった。
「と、朋夜サン……」
「うん?」
 見遣れば彼が向けているのは脳天と旋毛つむじである。
「あ……えっと、綺麗です………今日も………」
 彼は顎を撫で摩りながらほんの少しだけ顔を上げた。艶やかなブラウンの髪には照明の白い輪がきゅるきゅると冠されていた。
「あ、あ、あ……あり、がとう……」
 糸魚川 瞳汰とうたから渡された茶を飲む。
「あ……えっと、その……ちょっとだけ、散歩、行かない、ですか」
 日常生活はおそらく日本語ではない。そういう外国語を思わせる訛りがあった。
「でも、天条さんが……」
 朋夜はエントランスの天井を見上げた。"ジョー"は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
「あの、えっと、えっと……」
「ジョーくんだっけ」
「は、い……」
「何か飲む?そこに自動販売機あるから。お茶も出せないし」
 相手はこくりと首肯する。
「ジュースとお茶、どっちがいい」
「お茶で……」
「分かった。じゃあちょっと待っててね」
 朋夜はソファーを発ち、自動販売機スペースに向かった。ペットボトルの茶を買う。がこんと品が落ちてくる。
「朋夜サン」
 ラウンジで待っているはずの"ジョー"青年の声が間近で聞こえ、彼女は驚いた。真剣な眼差しを捉えたとき、エレベーターがてぃりんと到着を告げた。シックなダークブラウンの木理もくめのドアが横にスライドする。
「ああ……」
 落胆は真後ろからだ。天条奏音と京美が降りてきたのだった。
「あっはっは。もしかして本当に締め出されたの?」
 むっすとした京美を後ろに置いて、天条奏音はエントランスにこだまするほど高らかに笑った。
「いや、別に―」
「―それならあたしのところ泊まればいいじゃない。ねぇ、ジョー?」
 重苦しげに口を開いた京美の言葉に愉快げな天条奏音の声が被さる。彼女は"ジョー"に視線をくれた。
「え……あぁ、は、い……」
 "ジョー"は優柔不断そうな返事をする。京美の目が、この艶やかなブラウンの髪の青年を品定めした。
「叔母さん」
 周りに迷惑をかけるな、或いは、天条奏音に迷惑をかけるな、と甥は言いたいのだろう。朋夜にはそう聞こえた。
「だ、大丈夫よ。実家に帰ってもいいって……弟も言ってるから…………」
 咄嗟に嘘が口をいて出る。姉からみるに、弟の神流かんなは、帰って来るなとは言わないであろう。言わないどころかむしろ―……
 朋夜には兄がいる。神流かんなとは何の関係もない、両親が同一の兄がいる。彼を介して仁実ひとみと結婚したのである。今から出ても深夜前には到着するほどの場所に一人で暮らしている。甥は知らない人間だ。
「いい。うちに帰ってき―」
 またもや京美が喋るのと同時に天条奏音が言葉を重ねる。
「あら、弟?弟さん?でも、もし本当に帰ったりなんかしたら、弟さん、びっくりするんじゃない?あたしのところに一晩でも二晩でも泊まって、お互い頭を冷やせばいいじゃない。そういう時間って必要でしょう?」
 天条奏音は忽如として愛想の良くなった。果たして朋夜は、彼女と泊まるの泊まらないのという話が出るほどの仲であっただろうか。
「あ……叔母さ―」
「ねぇ、ジョー?」
 天条奏音は満面の笑みであった。
「は………い、はい。確かに……」
 "ジョー"はこくん、こくん、と張り子の虎を突ついたような有様である。
「決まりね、綾鳥さん。京美くん、綾鳥さんを借りるから。行きましょう」
 京美が叔母に寄ろうとした。
「何があったか知らないし、あたしが訊くことでもないですけどね、締め出すってよっぽどの出来事なんでしょう?居合わせちゃったからには無関係だなんて言わせないんだからね。京美くん、あたしにとって綾鳥さんは、尊敬していた人の大切な妻なワケ……ね?」
 彼女はばち、と京美に向けてウィンクした。
 天条奏音が半ば押し切る形で朋夜をほぼほぼ連行した。朋夜は、事を大きくしてしまった済まなさに甥を見ることもできず、天条奏音と"ジョー"についていく。
 綾鳥仁実の元交際相手で、飛髙ひだか京美の長年の想い人とその連れは車で来ていた。糖衣を纏ったような白いスポーツカーだった。
「乗りなさい」
 運転席に回ったのは天条奏音で、"ジョー"は後部座席のドアを開け、朋夜に乗車を促す。糸魚川 瞳希とうきに汚されたままの身体が後ろめたい。
「お邪魔します……」
 朋夜が乗った。その後に"ジョー"が乗る。天条奏音も運転席に乗り込み、ドアを閉めた。その直後、四方向でロックの掛かる音がした。
「あ……あの……」
「着替えとか忘れちゃったわね。あたしの貸すわ。着てないのもあるし。でも綾鳥さんには、お胸がきついかもね?」
 それは嫌味のようにも受け取れた。天条奏音は痩せぎすというわけではないが、豊満な胸はないものの腰周りは括れて、脚もすらりと細く長かった。朋夜も胸の割りに腰は細かったけれど、見た感じで天条奏音ほどではないのは分かってしまう。
「い、いいえ……そんな……」
「あら、褒めてないわよ。何を謙遜しているのかしら……なんてね?ジョーには嬉しいんじゃない?あたしのお胸周りがきつい服を着る綾鳥さん。ねぇ?ジョエル?」
「じょえる……」
 聞き覚えのある名を朋夜も小さく復唱した。隣に座る青年の顔がまたかぁっと赤く染まる。
「なぁに?知り合い?」
「い、いいえ……」
「そのままジョエルって呼んでやりなさいよ。そのほうがジョーも嬉しいんじゃない?」
「あ……お、おでは……どっちでも……」
 朋夜はすいと"ジョー"を見た。彼は車窓を向いてしまった。耳が赤く輝いているように見える。
 車が発進し、20分ほどでアパートに着く。白を基調とした瀟洒しょうしゃな造りだ。玄関扉で"ジョー"がポケットに手を突っ込み、鍵を取り出す。解錠すると中へ促した。朋夜は天条奏音を見てしまう。そこには意地の悪そうな微笑があった。
「あたしのところ……たまにあたしが寝泊まりしてるところ。うっふっふ」
「じゃ、じゃあ、ここって……」
「そう。"ジョー"の家」
 玄関は天条奏音が塞いでいた。彼女はのしのしとホールへ上がり、朋夜を捕まえる。
「ジョエル、ほら。あなたの好きな女を捕まえたわよ。あっはっは」
 亡夫の元交際相手の手が朋夜の胸を揉む。
「やらしいおっぱい。甥っ子くんもイライラするわけよ。主に下半身がね。そりゃ一つ屋根の下で間違いが起こる前に、締め出したくもなるわねぇ」
 "ジョー"は女が女の胸を揉みしだくのを顔を逸らしながら躊躇いがちに見ていた。
「ほらジョー。何をしているの?このバター犬」
 胸を揉まれながら押され、天条奏音と"ジョー"との間で挟まれた。"ジョー"が後退り、広々としたリビングへと放られる。メゾネットタイプで、窓ガラスの面積も大きく、自然光がよく入った。
「ご両親が今旅行中なんですって。素敵なおうちよね」
 彼女はそう話しながら、視線で"ジョー"を威圧していた。彼は怯えた様子で朋夜に近付く。
「あ、あ……朋夜サン……」
「ごめんなさいね、綾鳥さん。エサが欲しいみたい。あたしのかわいいワンちゃんの」
 言葉の意味を理解した頃には、甥の長年の想い人によって羽交い締めにされていた。前からは"ジョー"が服を脱がせに迫る。
「どうして……」
 理由を問いたい訳ではなかった。嘆きである。諦めも含まれていた。散々な1日に対しての、怨嗟えんさ、落胆、哀切だ。
「かわいいからじゃない?いじめると」
 他人事のように天条奏音は吐き捨てて首を傾げた。そうしている間にも下肢はショーツだけとなる。朋夜は涙を浮かべて目を閉じた。睫毛が照り輝く。
_"ジョー"が股に顔を埋めた。しかしすぐに顔を離した。彼は朋夜を凝らす。そしてネイビーの布を下ろし、急に指を突っ込んだ。
「あっ!」
「朋夜サン……」
 "ジョー"は朋夜の膣を掻き回す。そして粘こい液の絡む手を見せた。
「なに?ジョー。どうかしたの?」
 天条奏音も疑問の声を上げる。答えを待つでもなく、訳が分かったらしい。
「いやだ、綾鳥さん……あなたって異常サイコー。あたしだってまさか本当に……そうかも知れない、そうだったら面白いだなんて思ったけど、まさか……まさか本当に……」
 それは非難めいていて、その響きは楽しそうな興奮に満ちている。
「こんな清純なカオして……?あなたって……あなたって…………本当に鬼畜サイコーよ!」
 それは金切り声に近かった。目をきらっきらと燦然さんぜんと煌めかせ、天条奏音は何かに憑かれたみたいだった。
「舐めておあげなさいよ……好きなメス畜生エロ穴を、舐めておあげなさい……ああ、ああ……そんな……うっふっふ、熱が出てきたかも知れないわ」
 マロンの毛並みの忠犬みたいなのは、天条奏音の活き活きとした命令に従った。朋夜の朋夜以外の体液の貯め込まれた肉の穢甕を臆することもなく口で愛撫した。口渇に苦しむ遭難者みたいに誰のものかも分からない遺液を啜る。前屈みになる彼女を、彼女の亡夫の元交際相手ががっちりと押さえる。
「あらあら、そんなじゅるじゅる吸って……"どっちか"がビョーキ持ってたらどうするつもり?」
 しかしそこに、根から心配する色は伴っていなかった。むしろ面白がっている。
「あ………あぁ……」
 体力の限界まで散々に貪られ、苦痛と大差ないほどの快楽を叩き込み、刻み込まれた身体に、丹念な舌遣いなどというのはもはや毒であった。
「も……ムリ、だから………」
「どうして?散々にアイサレちゃったから?」
 耳殻をむような距離で天条奏音が囁く。
「だ……め、だめ……もうそこ、痛いから………」
 朋夜は譫言同然にか細い声で呻く。
「いや?お股が痛い?アイサレ過ぎちゃって?……じゃあ、陰部そこでイくのやめましょう?ジョー、綾鳥さんのおっぱい触ってあげて」
 口元を妖しくおぞましく照らした"ジョー"が顔を上げた。彼が目にしたのは、おそらく悩ましげに眉根を寄せる陰影を帯びた朋夜の顔だったろう。明るい色の眼がぎょっとした。顔が一瞬にして赤くなる。
「で、でも………でも………朋夜サン、が……」
「じゃああなたがイトシノトモヨサンを押さえていなさいよ。あたしが綾鳥さんの大きなおっぱいを揉みますから」
 後ろから突き飛ばされてつまずきのめる朋夜を、膝立ちから足で立った"ジョー"によって支えられる。甘い香水が薫る。
「あら、なんだかドラマみたいね?」
 天条奏音は嗜虐的な一翳いちえいを纏い口角を吊り上げた。
「お、おでに何してもいいですから…………朋夜サンには、何もしないで……ください」
 "ジョー"は朋夜を腕に抱いたまま、同情を乞うような姿を飼主みたいなのに晒した。
「ねぇ、綾鳥さん。あなた覚えてる?"ジョー"はね、大きなやらかしをあなたに庇ってもらって、そこから意識したらしいわよ。あのときの……借りを返したいのかしら?」
 朋夜は"ジョー"と視線がち合ってしまった。相手は真っ赤な顔に涙ぐんだ目をしている。ほぼ反射的に顔を逸らす。天条奏音のいう話に、思い当たる節がなかった。回想する心のゆとりがなかったこともあるだろう。
「分かったわ、"ジョー"。あなたの意見を尊重してあげる。じゃあ、ほら、ちんちんなさいよ」
 朋夜は俯く栗毛の青年の赤い横顔を見つめていた。
「ちんちんなさい」
 同じ調子で天条奏音は繰り返した。"ジョー"はやっと動き出す。床に尻をつけ、天条奏音に向けて脚を大きく開き、そのまま仰向けに寝転んだ。黒レースのフットカバーに包まれた足が丘陵を描く部分に乗る。傍観しているだけの朋夜の全身の毛が逆立つ。
「綾鳥さんもやりたいのかしら?」
 天条奏音の眼光を浴びて朋夜は震えあがる。首を左右に振ると、男性器を踏む嗜虐的な女は、朋夜から目を外した。
「ああ……」
 レースに包まれた足が前後に揺すられ、悲嘆とも喜悦ともいえない呻きが漏れた。
「あ、あの……」
 朋夜はこの異様な光景、頓狂な状況にどう介入していいのか、もしくは介入すべきでないのか判断がつかなかった。
「朋夜サン……」
 涙ぐんだ目は照明を直に受けて昼間の太陽でも閉じ込めているみたいだった。だが真っ赤な顔ごと両腕で隠されてしまう。
「嫌いにならないで……くださ………おでを、嫌いにならないで………」
 彼の声は曇って聞こえた。股間に据えられた女の足が前後する。フットカバーのレースの奥に鮮やかなピンクのネイルが透けていた。
「だめよ。きっと綾鳥さんは嫌いになるでしょうね。だから諦めておねだりなさいよ。最後に気持ちよくイきたいから、おっぱい見せてくださいってね」
「ああ……ああ……!」
 フットカバーの下の膨らみが大きさを増していく。布を押し上げて、形がはっきりとしてきていた。朋夜はそこを凝らしてしまう。
「見ヌきさせてもらいなさいよ、ジョエル。おっぱい見せてくださいって言いなさいよ。毎日シコシコしこしこ励んでるんでしょう?想像して。この童貞」
 うっふっふ、と彼女は笑って朋夜を向いた。
「この子ったらね、綾鳥さんになりきって乳首でオナニーするのよ。あっはっは。―あら、恥ずかしい暴露をされて大きくしてる悪い子がいるわね」
 天条奏音の声音は朋夜からまた"ジョー"に直ったときワントーン下がった。朋夜もつられたように股間を踏まれる青年を捉えた。
「朋夜サン……!朋夜サン!」
 仰向けの腰がゆらゆらと揺れた。それは天条奏音の足裏に膨張したものを摩擦しているようでもあった。
「綾鳥さん。かわいいそうだなんて思わないことね。それは逆に侮辱よ」
 天条奏音は"ジョー"の両足首を拾い上げる。彼女の足が布ごとぱんぱんに張った器官を踏む。
「あ……っひ、うう……!」
 悲鳴にしか聞こえない"ジョー"の発声に朋夜の顔は凍りつく。彼女は自分の存在を透明にしてしまいたかったことだろう。何故この場に立ち会っているのか、その疑問に頭は真っ白な様子だ。その固まった視線が告げている。
「言いなさいよ、おっぱい見せてくださいって。うふふ、綾鳥さん。あなた、退社した日に上着忘れていったのは覚えてる?青い、花柄の……」
 それには心当たりがある。社内の冷房が強すぎたときに羽織っていた、常備用のフード付きジップアップだった。衣料量販店で安売りされていた、野暮ったい淡いブルーの布地に白い花のプリントのものだ。退社後に気付いたが、惜しいものでもなく、処分してもらうようメールをしたのである。
「この子ったらまだ持っててね、今じゃ立派なオカズよ。あっはっは。でも数回しか着てないんでしょう?傷みも少なかったし。虚しいわね、ジョー?」
「あっあっ………あう、」
 天条奏音は足の指を曲げて、輪郭の浮かんだ茎を摩った。"ジョー"も自ら押し付けている。
「ふふ、あとは自分でやりなさいよ。あたしは見ていてあげるから……」
 足首を放されて"ジョー"は踵を床に落とした。天条奏音は朋夜のほうへやってくる。
「ごめんなさいね、綾鳥さん。ひとりにしちゃって」
 朋夜はやっと我に帰る。身体はすでに近付いてくる女を警戒して後退っていた。
「ジョーはお楽しみ中だから、あたしたち女2人で仲良くやりましょう?」
 ハイヒールを脱いでもまだ少し背の高い、亡夫の元交際相手に追い詰められる。彼女の控えめな胸と朋夜の豊満なバストが折衝する。
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