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熱帯魚の鱗を剥がす(改題前) 陰険美男子モラハラ甥/姉ガチ恋美少年異母弟/穏和ストーカー美青年
熱帯魚の鱗を剥がす 11
しおりを挟む甥から仕掛けられたキスだったが、朋夜は突き撥ねられ、2人の間を一瞬繋いだ橋が脆くも崩れ落ちて消えていった。
京美は振り返りもせずに部屋へと消える。彼は気紛れだ。朋夜も蹌踉としながらベッドに戻る。妙に甘たるい口腔を酒でほのかに苦くした。重い布団を幾重にも被せられたような眠気がやってくる。
朋夜……
意識の遠くで手を握られている。切羽詰まった声と体温と柔らかな握力に聴覚と触覚は浅く醒めていた。
病臥する夫の声音とは違う。彼は最期まで飄々としていた。まるでこの世を去るのはそちら側だと勘違いしているのかと思うほどだった。それが却って、朋夜の済まなさと不甲斐なさを助長することも、罪を知らなげな、否、すでに割り切ってすらいた様子の彼は分かっていないらしかった。
息を引き取る際に握っていた手指の質感がまだ掌に残っている。そして今、包まれている温もりと柔らかさは夫ではなかった。
叔母さん……
咄嗟に目蓋が持ち上がった。自身の息が詰まったのを彼女は聞いた。枕に髪が擦れる音がやたらと大きく感じられた。ベッドの脇に甥がいる。翳った双眸に覗き込まれている。
「……京美くん」
視線が搗ち合った瞬間に相手が動いた。喉の隆起が不穏に転がる。彼は立ち上がった。朋夜は反射的に目を閉じた。前髪を撫でられ、額に唇が当てられる。恐ろしい感じが彼女を硬直させる。夫にされたこともしたこともない。目を見張って、真上にある義甥を凝らしてしまった。それが何かしらの合図だったとでもいうのか、彼はゆっくりとその端正な顔を降ろす。鼻先が触れかけるところで朋夜は甥の肩を押さえた。そしてそのまま身体を起こした。
「おはよう、京美くん。眠れなかった?」
身を捻って目覚まし時計を確認する。甥から目を逸らしたその間に、彼はこの部屋を去っていった。甥の不可解な行動に戸惑った。京美のことは大切だ。同時に彼が怖い。
◇
求人募集サイトから近場でアルバイトを探し、すでに面接を終え、採用の連絡が来たのがつい先程のことだった。甥を待っている。リビングのダイニングテーブルセットにまだ京美は帰ってきていないというのに畏まって座っている。
彼は許すだろうか。リビングに掛かった時計の音に焦れる。こち、こち、と規則正しく小気味良いリズムに鼓動も合わせようとしている。義甥が帰ってくるのを廊下を凝視して待っていた。解錠の音を今か今かと待っている。しかし朋夜の心臓を跳ねさせたのは玄関ドアの軋みではなくインターホンであった。それから間もなくドアが連打される。
『あたしよ、綾鳥さん』
天条奏音の声である。もしかすると京美と再訪の約束があったのかも知れない。甥とはろくに意思疎通が図れていない。そういう話は聞いていなかった。
玄関ドアを開けた。相変わらず気の強そうな風貌の天条奏音がそこに立っている。そしてもう1人、見知らぬ者が彼女に連れ添っている。黒いチョーカーが異様な印象を与える、長身の男性だった。人見知りするのか必要以上に怯えた目が朋夜を窺う。ライトブラウンの髪と同じくライトブラウンの瞳、目元と鼻梁の造形が直感的に外国の遺伝を想起させる。彼はまるで己がハムスターで朋夜をライオンかトラだとでも思い込んでいるみたいに萎縮して天条奏音の後ろに隠れてしまった。
「うふふ。ほら、挨拶なさいな」
天条奏音は真後ろに潜んだ長身の男性を引っ張り出して朋夜の前に突き出した。その仕草の乱雑さが気にかかる。
「初めてまし、て、トモヨサン」
自分の手を何度も握り直して忙しない。日本語が母国語ではない者特有の癖はなかったが、人見知りによる硬さが残っている。
「初めまして……」
かなり緊張した状態にある相手では話になりそうになかった。朋夜は天条奏音に助けを求める。
「ジョーって呼んであげて。ハーフなの」
「ジョーくん……?」
彼は俯いたまま頷いた。
「気付いてなかった?職場のデザイン事務所でバイトしてた子なんだけど」
「え……そうなの?………全然、知らなかったです………」
項垂れたままの訪問者の連れを一瞥した。まるきり見覚えがない。
「綾鳥さんのことずっと好きだったらしいのよ」
朋夜はぎょっとした。軽蔑とも紛う驚きの眼差しを向けてしまう。
「あ、あ……」
彼は本人に告げられたくなかったらしい。哀れなほどひどく狼狽えて、天条奏音に縋り付かんばかりであった。それからやはり怯えた様子は変わらずに朋夜を窺う。苦笑いを返すしかなかった。異性からそのような感情を向けられることに慣れていない。初めてではあるまいか。夫との間にあったのは一種の契約であり、友情に近かった。
「綾鳥さん、溜まってるんじゃないかと思って」
天条奏音の口元が吊り上がる。どこか意地の悪さの滲むその表情と言葉の意味を理解することができなかった。俯いたきり話になる様子のないシャイな青年に補足を求めるが、彼は耳まで真っ赤にしているだけで顔を上げようともしない。
「あ、の……」
「お邪魔していいかしら?お邪魔するなら帰ったほうがいい?玄関前で失礼することになるけど?」
天条奏音は気の強い姿勢を崩さない。
「どうぞ……上がってください」
京美と約束があるわけではないのだろうか。彼女は京美の恋心を知らず、こうして若い男連れなのではあるまいか。否、察したうえでの駆け引きか。朋夜は不慣れな分野についてあれこれと勘繰るが濃厚な線も掴めない。
「ありがとう。ほら、ジョー、しっかりして」
項垂れた青年のチョーカーに指を引っ掛けて引っ張る様が危なげだった。それでも彼は朋夜に何度も会釈をする。苦しげである。
「だ、大丈夫?」
すぐ傍に首を引くも同然の天条奏音がいるために、気遣う声は控えめになった。彼は会釈なのか首肯なのか判じられないが頭を下げて応えた。リビングに辿り着いてやっと放される。青年は首を押さえて顔を上げた。人見知りだけではない赤みを帯びている。
「綾鳥さんからいただいた人参は、グラッセにしたわ。美味しかったでしょう?ジョー」
キッチンのほうを見渡して思い出したように彼女は言った。朋夜の頬も染まる。
「うん……」
「大丈夫よ、綾鳥さん。ジョーはあれが、貴方のナカに入ったものだって知ってて食べたんだから」
服の裾を掴む両手を取られる。言葉にされてさらに朋夜は紅潮を強める。
「ね、ジョー?美味しかったでしょう?」
「美味しかった、です」
そう甲高くもないはずの、むしろ低めな彼女の声が金属のぶつかり合う音みたいにキンキンと鼓膜に響く。
「直接、食べたいって」
天条奏音の殺伐とした朗らかな笑みに朋夜は戦慄いた。
「ジョー」
まるで愛犬や愛猫にでも呼びかけているような声音だった。赤面中の青年は下を向いたまま朋夜に近付く。
「トモヨサン……」
持ち上げられた顔はまだ薄紅色をしていた。幅の広い二重目蓋を被せたアイスブルーの目が潤んでいる。精悍に吊り上がった眉も情けなく下がっている。そのただならない眼差しに朋夜は身を強ばらせた。
「トモヨサンのこと、好きです」
「え、ええ……うん、ありがと………?」
しかし所詮は京美とそう変わらない年頃の子供である。朋夜はそれよりもリビングを包み怪しい雰囲気に圧された。天条奏音の含みのある視線に皮膚をちくりちくり刺されている感じだった。
「京美君は何時頃帰ってくるの?」
「そのまま寄り道しなければ、もうそろそろだと思います。あと、30分くらい……」
声が震えてしまう。天条奏音を向いた途端に朋夜は後ろから羽交締めの雁字搦めにされた。だがそう思ったのは当人だけらしい。はたから見ればそれは多少の拘束的な色を帯びてはいたが、抱擁に違いなかった。人肌に温まったバニラの香りがした。
「ジョーく、ん」
振り向いた。がっちりと身体を捕まえている。力加減はされているが、暴力の匂いを嗅ぎ取った。誘拐、監禁されるのではないか。
「トモヨサン……」
「ジョーはね、狗なのよ」
天条奏音が躙り寄る。朋夜は思わず後退りかけたが、真後ろの青年がそれを許さない。鮮やかなピンク色のグラデーションに塗られた爪がバッグからブラウンの容器を出す。シロップなどを入れるボトルのように思えた。天条奏音は透明にフィルムを剥がす。キャップを外し、銀紙も取り去るところを見ると未開栓だったらしい。
「トモヨサン……」
天条奏音の手にあるブラウンのものが入った容器に目が釘付けになっていた。真後ろの青年が構えとばかりに名を呼び、抱擁の力を強める。
朋夜の前にやってきた元職場の知人が服を捲り上げた。女2人のときならば、朋夜もこの奇行にそう焦らなかったかも知れない。真後ろの青年の腕の中で彼女は服を戻そうと身動いだ。纏わりつく体温も邪魔だったが離れることはない。
「ジョーくん、放して……」
服が上手く整わない。腕は朋夜の身体を這い、服を直せないように素肌に触れる。信じられなかった。いやでも察してしまった。天条奏音は以前の来訪のようなことを、今度はこの青年の前で行うつもりなのだ。
「ジョーくん……」
身を捩って振り返る。
「ごめんなさい、トモヨサン。ごめんなさい……」
青年は依然として頬を赤らめ、よく濡れた目を泳がせた。朋夜は下着姿に剥かれていく。服は胸に乗り上げ、履いているものは膝まで落とされる。ブルーベリーを彷彿とさせる赤みがかった青の下着が露わになる。紅色の花の飾りと金色のレースを模した刺繍が艶やかだった。前に立つ天条奏音から顔を背ける。
「かわいいのね」
真後ろの青年の絡みつく腕を剥がそうとする朋夜の手を意地の悪い女が掴んだ。その指の上でボトルが逆さにされた。粘度のある茶色の液体が滴り落ちる。むわ、と甘い香りがした。チョコレートの匂いだ。指先に流れていく。
「待て、よ。待て。ステイ」
化粧によってさらに自信家風に強調された気の強い目は朋夜の後ろを捉えている。
「放して、ください……」
後ろの男は言いなりだった。話を通すのならば天条奏音のほうにだろう。しかし彼女は朋夜に陰湿な微笑を浮かべるだけである。
「放して……」
肌の上を茶色の甘たるいシロップが滑っていく。
「よし」
綺麗にレッドの塗られた唇が動く。途端に朋夜の腕はまた別の質感に明け渡され、指から手の甲、そして手首までが生温かくぬめった。後ろにいた男が中梅色の舌でチョコレート液を舐め拭っている。
「やだ……やめてっ、!」
腕を引こうとする。しかし取り戻せはしなかった。
「放して……」
「う、ふ、ふ。まだ終わらないわよ。ほら、溜まってる人妻なんて飢えた男子大学生の前にはご馳走みたいなものよ」
捲られた服の裾の襞とブラジャーの狭間にもチョコレートシロップが降る。柔肌に落ち、膨らみと膨らみの中を伝う。
「ああ……トモヨサン…………」
巨大なイヌがいるみたいだった。荒れた息遣いと切羽詰まった声に朋夜は恐怖する。
「ダメよ、ジョー。ステイ」
「ああ…………ああ………トモヨサン」
背中が蒸れるのは、後ろで密着している男の体温が上がっているからだった。朋夜は胸の谷間をすり抜けて臍へ向かう茶色の液体を見下ろしていた。ところが顎を掬われる。
「綾鳥さんて本当にかわいいわね」
「ど……どうして、こんなこと…………」
「さぁね?」
朋夜は目を伏せた。一渡り足元を見回す。何も彼女は床に探し物をしたわけではない。
「わたしが……―仁実さんと結婚したからですか?」
相手の眼差しを真っ直ぐ受け入れることはできなかった。ただ歪んでいく赤い唇を凝らすので精一杯だった。
「ジョー、よし」
後方からの物凄い力で朋夜は床に押し倒された。それでも巨犬の腕によって強打は免れる。ブラジャーをつけたまま、胸元では染められた形跡のない明るい茶髪が躍る。本物のチョコレートと幻じみたバニラの香りが混ざり、眩暈を誘う。
「あっ……」
生温かく濡れた柔らかいものが膨らみ同士の間に挟まりにいく。
「きもち、わるい………」
朋夜は身体を弛緩させた。そうせざるを得なかった。四肢に力が入らない。ブラジャーを外されることはなかったが、チョコレートシロップのついたところはくまなく舐め回される。臍の近くまで舌で撫でられ、下腹部が妙に疼きに襲われる。
「やだ……」
「トモヨサン……好きです。舐めたい」
天条奏音の手にあるチョコレート液は容赦なく朋夜のショーツを汚した。すかさず飢えた狗が布の上から唾液まみれにする。
「やめて……っ」
「ジョー、もっと奥まで舐めたいんじゃない?」
色を変えた生地が呆気なく下されていく。薄い茂みにとろとろとブラウンの甘い粘液が塒を巻く。荒々しい呼吸をする狗がそこに口吻を突き入れる。
解錠の音がしてドアが開いた。淡々とした仕草の京美が帰ってくる。彼は一度玄関ホールの奥、リビングを睨んでから玄関ドアを静かに閉めた。そして鍵を掛け、チェーンを繋ぐ。普段は優雅に靴を脱ぐが、今日はまるで忘れ物を取りに来たときみたいに粗雑な所作で靴を投げんばかりに脱ぎ捨てた。足音も構わずリビングに大股で突撃する。だがそこに朋夜の姿を見ると急ブレーキをかけた車の如く、多少の反動を持って立ち止まる。そして改めて叔母へ近寄った。
「叔母さん」
「おかえり、京美くん」
朋夜は部屋着に降りた草臥れたピンクのロングスカートに、これまた草臥れたブルーグレーのジップアップを身に着けていた。
「誰か来た?」
甥の問いに彼女は顔を青白くして否定する。
「神流おぢさんとか?神流おぢさん、高校生でしょ。こんな変な香水なんてつけないよね」
鼻を鳴らし、彼はリビングに彷徨うグルマン香水の気配を嗅いでいる。人工的なバニラと本物のチョコレートの混ざったおかしな匂いがまだ空気中に残っている。
「誰か、来た?」
言い逃れさせないらしかった。朋夜の座っている椅子の背凭れに手を置き、彼は姿勢を低くする。下から顔を覗き込まれた。
「来てないよ」
京美はすぐに退かない。叔母を見つめ、やがて前にのめる。迫る唇を易々と受け入れる。それは尋問であったのかも知れない。数分前ここで起きたことを糊塗するための手段であったのかも知れない。
「どうしたの、今日。またひとりでしてた?」
唇を離し、叔母の髪を梳いて耳に掛ける指が優しい。この空間に漂う残り香以外のものを嗅ぎ取られかねない。
「う、うん………」
「そう」
口寂しいのか彼は叔母の額にも接吻した。離れていく甥の横顔がまた何か嗅ぎ取りそうだった。
「ココア、こぼしちゃって……変な匂いするの、そのせいかも…………」
ココア程度の匂いではなかった。溶かしたチョコレートをそのままかぶったような濃厚な香りが朋夜の肌からも放たれている。
「冷たいやつ?火傷しなかったの」
「うん……」
「…………じゃあいいや」
すっかりアルバイトのことを話せる雰囲気ではなくなってしまった。自室に向かう甥の後姿を呼び止める気力もなかった。
「エントランスで、奏音さんに会ったんだけど」
呼び止めるまでもなく、京美のほうから背中を晒して歩みを止める。
「そ……う、なんだ……」
冷えていく。喉が痞る。
「若い男連れだった」
何か言わねばならないと思いながら言葉が出てこない。それなりにパターンはあったけれど迷いが妙な間を空けた。もう取り繕えはしない。
「叔母さん」
諭すような声音だった。朋夜は苦し紛れの愛想笑いを浮かべる。徐ろに義甥が振り返る。
「俺に嘘吐くなよ」
目が合う前に咄嗟に顔を逸らしてしまった。
「ご……め、」
「その謝罪は何?嘘吐いた?やっぱり誰か来たの?」
汗と共に醸し出されるチョコレートの匂いが鬱陶しい。薄らとバニラが薫っている気もする。
「叔母さん」
「来て……ない」
憤懣がその昏い双眸にかぎろうのを朋夜はぼさっと見上げていた。
「ふぅん……じゃあカラダに訊くよ。叔母さんが俺にまともに取り合ってくれたことなんか無いもんね」
離れた分以上に彼は叔母のもとに戻ってきた。狼狽える朋夜に甥の手が伸びくる。服を摘んだ。
「京美くん、何を……」
「脱げよ。ひとりで寂しくオナニーしてたんだろ。俺が手伝う」
乱暴に叔母の身体を椅子から薙ぎ払って床に落とそうとする。しかし叩きつけられはしなかった。甥に抱き留められている。
「だめ……!だめだよ、京美く、んっ」
拒否は彼の唇によって奪われた。身が竦む。俯いて接した口元を離した。
「脱げよ。脱げ。裸、見せろよ」
昏かった眼が妖しく輝いた。甥はひとりの女を脱がすことしかもう頭にないらしかった。力任せに叔母を組み敷いてジップアップフーディーのファスナーを下ろした。固い床に背や肘をぶつけて抗う。
「いや……!やめて、やだ……!」
甥の手を掴む。振り払われども、抓り、引っ掻き、撥ねる。
「何、それ。なんでそんな抵抗するの?今までなすがままだったクセに」
纏う空気もその眼光も危険な色を濃くしていく。鼻に齧りつきそうなほど彼は叔母に顔面を寄せた。
「もしかして、もう抱かれたの」
「ち、が……」
「怪しいよ、叔母さん。そんな必死で」
「京美くん…………叔母と甥でこんなの、おかしいから………」
ジップアップフーディーの前を開けられ、チョコレートの匂いがむわりと濃くなった。朋夜は胸を押さえる。舐め回された膨らみへの気持ち悪さとべたつきは、まるでブラジャーを奪われたみたいな心地だった。
「血、繋がってないよ」
「繋がってない……けど、」
「弟とセックスしてるくせに、今更だろ」
ホラー映画に出てくるゾンビよろしく彼は叔母の身体に乗った。首筋に齧りつく。活動停止をするまで肉を求め流離う人食いモンスターと化してしまったらしい。
「いや!」
泣き夫から息を引き取る直前まで口酸っぱく託された甥を突き飛ばしてしまう。意外にも彼は弾かれる。起き上がって目にする冷えた眼差しには侮蔑の念が燃え滾っていた。
「ダメだよ、叔母さん。退けないよ。俺もう勃ってるんだけど」
ほぼ反射的に朋夜は甥の脚と脚の間を凝視した。それから羞恥に火照りはじめる。
「いいよ、別に。見ろよ。俺のこと、見ろよ。たまには俺のこと……」
「いけない。京美くん、ごめんなさい…………お願い……、赦して………」
甥は叔母を見下ろして小首を傾げる。
「だから何に対して謝ってるの、叔母さん」
京美の足が一歩前に出る。陰影が巨大化する。甥が恐ろしい。朋夜は土下座でもしかねない伏せた姿勢で夫の甥を仰ぐ。
「口でする………から……………カラダは、」
義甥は遠慮なく叔母を賤んでいるに違いなかった。拳を握り、震わせている。関節の軋みが聞こえそうだった。
「プライドないのかよ」
弟に犯された身である。甥にも犯されたなら、すでにへし折られ粉々に砕け散ったプライドなどは砥石となって心身を削ぎにかかるだろう。
「じゃあ、舐めて。この前みたいに俺が腰振る?」
京美は嘲笑し、ダイニングチェアを乱暴に引くとどかりと腰を下ろした。横柄な態度である。膝を左右に開き、その片方を叩いた。
「京美くん……考え、直して………」
「やっぱりできないんだ。嘘並べてテキトーに謝って、やれもしないことやるって言って、俺のことバカにしすぎじゃないの」
朋夜はただフローリングの光沢を見つめ、時間が過ぎ去るのを待っていた。硬い殻が身体に構築されはしないかと半ば現実逃避をはじめている。
「やれないならいいよ。叔母さんはテキトーにしてて。俺が勝手に叔母さんに突っ込んでオナニーするから」
腰を上げようとする素振りは脅迫のようだった。朋夜は震える膝を堪えて甥の膝の間に座る。
「いいんだよ、叔母さん。俺が勝手に叔母さんをレイプするだけだから、別に叔父貴に対する裏切りなんかじゃない。浮気でも不倫でもない」
「やめて……言わないで…………」
「言うよ。分からせないと。叔母さんは俺のだってこと」
歯がかちかちと鳴りそうだった。防衛本能は逃げろと命じている。しかし理性が意地を張る。
「考え直して…………仁実さんが、悲しむよ………」
大きな溜息が目の前で溢れる。艶やかな黒髪を京美は掻き乱した。
「子供騙しみたいなこと言うんだね。悲しむ?叔父貴死んでるんだけど。叔父貴死んでるのは、叔母さんも妻なら分かってるよね……病んでるの?悲しんでるって言うなら連れて来いよ!」
突然の咆哮に朋夜の心臓が跳び上がる。一瞬視界も白飛びした。貧血じみた浮遊感がある。
「舐めろ、朋夜」
彼はまた膝を叩いた。口の中は渇きながら、チョコレートの味を帯びている。先程もこうして男のものを咥えた。
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