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飾れ星屑 9話放置/濃いめの暴行・流血の描写あり/殺人鬼美少年/引きこもり美青年
飾れ星屑 8 ※※※
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※※※いじめ・自殺教唆をする描写あり※※※
◇
今日は来たのか、偉いぞ!偉いぞ!偉いぞ、廻冬。偉いぞぉ!
「おはようございます、小春日先生」
校門前に立っていた体育教師に挨拶をする。体罰や悪罵や成績によるあからさまな依怙贔屓をすることはないけれど、言葉を交わしてみてから迂愚な印象が拭い去れなかった。しかし廻冬の見てきた浅はかな教師たちに比べれば毒にはならない。頼りにならないだけなのである。
教室に向かっていく。関わりのない教師にまで顔を覚えられている。学校始まって以来の天才と謳われているらしい。校舎は古いが、この高校は昨年、一昨年あたりに開かれたのではあるまいか。
教室に入る。相変わらず席が乱れていた。ゴミ箱がひっくり返っているのを直す。
おはよう、玄英くん。
髪を左右に束ねたいかにも優等生然とした女子生徒が花瓶を持っていた。
「この前の花はどうしたんですか」
そこにはガーベラではなく、違う花が挿してある。
ああ、あれね、もう枯れちゃってたから。わたしのお婆ちゃんが花とかも育ててるから、持っていきなさいって。
確かにそろそろ枯れてしまっても仕方のない頃合いだ。
「花瓶も、違いますね」
廻冬の指摘に彼女はばつが悪そうに頷いた。
鞴くんたちに……割られちゃって。
「……そうですか」
白と赤ともオレンジともいえないガーベラ2本によく合う花瓶を吟味して選んだというのに、荒くれ者どもに壊されてしまった。
あれって、玄英くんが持ってきてくれたものなんでしょう?
「仕方ありませんよ。いつか物は壊れますし、陶器じゃなおさら割れやすい。誰にも怪我はありませんでしたか」
廻冬は言ってみて白々しくなった。彼女は少し曇った顔をする。
うん……
「その花瓶も、鶉楽さんのですか」
彼女はまた俯いたまま頷いた。廻冬はそれを見下ろしていたが、やがて2人で席を直す。
このクラスには鞴柚木という問題児がいる。ほどほどの優等生が成績にせよ素行にせよ芳しくない生徒を包括するようにある。しかし包括できただろうか。結果は、何人かいる素行不良児がこのクラスを纏め上げてしまった。ひとりの生贄を作り"一体感"を生み出してしまった。そしてそう豪語している。だが果たしてそれは、学校のいう一体感であっただろうか。クラス崩壊は起こらなかった。また教師が出勤不能になるような教師いじめなるものも起こらなかった。学校のいう一体感はあったかも知れない。上面の、都合の良い一体感があった。しかしその裏面にあるのは、各々の保身と怯えと不快感だった。廻冬は窓側の一番後ろの席でぼんやりと花瓶の乗せられた机を見ていた。廻冬が持ち込んだものとは別の、クラスの備蓄品で花はない。そしてあの席の者の訃報はまだ廻冬には届いていなかった。しかしいつその訃報、この光景に花が咲いたのが実現してもおかしくはない。
教室にまたひとり登校者が増える。よたよたとやってくる猫背が花瓶の置かれた席に着く。このクラスの生贄だ。
「おはようございます、神渡くん」
ぎくりと肩を跳ねさせて、神渡という男子生徒が廻冬を振り返る。亡霊でも見るかのような目だった。廻冬はその面構えをまじまじと見つめる。相手は徐々に恐怖の色を滲ませている。
「ははは」
廻冬が高らかに笑ったのを、鶉楽という女子生徒も不安げに見ていた。
クラスの一体感のため犠牲となった神渡橇路への暴力と恐喝は放課後に酷くなる。クラスの者たちはそそくさと帰っていくか部活に行った。その場に残れば自分の身が危うい。加害者か被害者か、どちらかの選択を迫られることになる。
廻冬は机に参考書を開き、ぼんやりと橙を帯びてきた空とグラウンドを眺めていた。真後ろでは一方的な暴力と拒絶、哄笑が響く。彼等は部活には入らないらしい。
まぁた卓球部、遅刻しちまうな。
ダメな先輩は、グラウンド10周して来い!
素っ裸でな。フルちんでよ。学園七不思議になるぜ。
ぎゃはは、それは自殺モンだわ。
ンな度胸こいつにあるわきゃねぇだろ。
鷹庄雪兎吉という莫迦狗を果たして自ら殺す必要があったかと、後ろの会話を聞きながら、濃い青とオレンジにほぼ二分された空を見ていた。
ああ……あああ……
まぁ、まぁ、花でも食ってろよ。
肉食ってるのか?このヒョロガリ。
女みてぇに草しか食ってねぇんぢゃね。
廻冬は振り返ってしまった。鞴柚木と目が合う。
「それ、鶉楽さんが持ってきたやつ……」
彼は呟いていた。鞴柚木は突然の傍聴者の介入に拍子抜けした顔をした。この集団とは事務的な会話しかしたことがない。このクラスの一体感の正体は干渉しない、深く立ち入らない、知らないでいることだった。
ま、まぁ、いいだろ……別に。
「僕のお花……」
廻冬はすでに神渡の口に突っ込まれている草花を見遣った。枯れたと言われ、ここ数日間で溜まったゴミ箱を漁ったが2本の花の残骸は見つからなかった。水道のゴミ箱も漁った。しかし見つからなかった。すでにゴミ出しに出されたてしまったのだと諦めた。
「僕のお花は…………?」
花瓶の末路は分かる。どうせ暴力の機みで落下でもしたのだろう。しかしガーベラはどうなったのだ。本当に枯れたのであろうか。
「ここに活けてあった白と赤っぽい花は……?どうしたんですか」
廻冬は5、6人ほどいる奴等を見回した。やがてそのうちの1人が鞴柚木を見た。鞴柚木はスラックスを奪われて下着を晒している神渡橇路を見遣った。
お前が知ってるよなぁ?
廻冬も仰向けで後退る神渡を譴責するように捉えた。自分が唾を付けた女が彼等に集団レイプされたような心地になった。
ああ………あああ………ごめんなさ、あああ……
クラスの一体感のための生贄は逃げようとするところを捕まった。羽交締めにされ、廻冬の前に突き出される。
「僕のお花は……?」
神渡は泣き出した。話せる状態ではない。廻冬もまた大泣きする生贄を慮っていられる様子ではなかった。呆然としている。恋人が輪姦され殺害されてしまった気分だ。廻冬は目を見開いた。神渡を捕まえる手を剥がす。
「君は死んでいいよ、神渡くん。もう用、無いから。飛び降りたら。そこから落ちなよ。手加減しちゃいけない。3階からじゃ生き残っちゃうかも知れないから……」
喉を掠れさせ、廻冬は俯いたまま喋った。激しい絶望感に襲われる。しかし神渡は逃げようとはせず、膝からその場に崩れ落ちる。
「鞴くん。僕のお花は?」
そんな大事なものなのか?あの花……
廻冬は真横にあった花瓶を手に取る。鞴柚木の顔面に投げつける。周りの輩が怯んだ。目に入ったクラスメイトから投げ飛ばす。誰の席だかも忘れ、椅子を取り頭蓋を殴る。石蕗静架の殺害に関しては廻冬は手応えがなかった。彼を殺したのは獄炎である。鷹庄雪兎吉を撲り殺したときのピンポイントな感触とも違う。最後のひとりの喉に腕を置く。鼻先が触れるほど顔を寄せた。
「僕のお花はどうなったんですか……」
頭部を強打し首を圧迫され、震えた指が神渡橇路を示す。
あ、あ………だ、だ、だ、って、鞴くんが、………
すでに廻冬はその場で名前の出た人物を回って尋問するのみになっていた。鞴柚木が"クラスの一体感を高めること"に貢献していたことは廻冬も同じクラスの中にいてよく見知っている。
「鞴くん……クラスを一纏めにしてくれてありがとう。没個性のくだらない不愉快なこの教室が居づらくて仕方なかったよ」
鞴柚木の首に膝を乗せて圧した。
「鞴くん。でもこのクラスの一体感は僕には合わなかったから、次は僕に合うやり方でやるよ。その時は独裁じゃなくて、もっとちゃんとやる。生贄とかは要らないよ。要るのなら君がなって。僕直々のご指名だ。生贄は引継ぎ制じゃないからね。同じものは使えないんだ。残念だけど」
腕時計の嵌った手が床を叩く。まるでプロレスだ。
オレじゃ………ない、
廻冬は一殴りすると、その指が差す、次のクラスメイトに移動した。
「君なの、菜洗くん。僕のお花、どうしたの」
5、6人を回るが、誰も2本のガーベラがどうなったのかを語らない。彼等は本当に彼女の最期を知らないのかも知れない。乾燥してしまった廻冬の目が徐々に"クラスの一体感のための犠牲"に向いた。
み、み、廻冬くん…………
「まだ居たの、神渡くん。どうせ特待生はお金にならないんだから、学校は守ってくれないよ。5、6人の学費のほうが大切なんだから……………」
廻冬はゾンビのように背を曲げ、両手をぶら下げ、へらへらと笑った。大切な女をレイプされた挙げ句に殺されたのだ!
あああ……
のしのしと歩み寄る。そのたびに哀れな生贄は肘で後退る。下着が色を変えた。水溜りが神渡の下半身に広がっていく。
「僕のお花はどうなったの。鶉楽さんは優しいね。枯れたなんて嘘なんでしょ」
廻冬はクラスの掃除用具入れを漁った。ここのモップで"クラスの生贄"の顔面が"洗われて"いるのは見たことがある。ところが、廻冬が手にしたのは長さのある針金の切れ端だった。鞴柚木の手に巻き付けていく。自分はくたびれたゴム手袋を嵌め、掃除用具入れの横にあるコンセントに近付けた。
「教えてくれなくてもいいよ。なんとなく分かってるから。疑わしきは罰せず。だから鞴柚木くんたちの暴行・恐喝・器物破損も疑わしいから罰せられないね。だからこれは僕のシュミで、でももし本当のことが知れたら気が変わるんだけど、神渡くんは僕の気を変えてくれるかな。神渡くんは人が死ぬところ見たことある?肉眼で。見せてあげる。このままじゃ見せる側でしょ。自分の身体使ってさ」
ハリガネの端をコンセントに近付けた。
「焦げた匂いがして、今夜はステーキなの…………ああ、ラッキーって…………神渡くんの今日の晩ご飯はなんだろう?お魚の塩焼きも美味しいけど、今夜はハズレ……ははは、ママがせっかく作ってくれるんだもん。ああ、パパかな。今のおうちは色々形があるからね。それとも自分で作ってるのかな。ママが家事やるの当たり前なんておかしいもんね。僕は妻に家のことやってほしいけど。でも僕も何の不自由もさせないようにいっぱいお金稼ぐんだ。だからたくさん勉強しなきゃ……………なのに邪魔なんだよ。邪魔なんだ、君も彼等も。これで"一体感を生んでやってる"なんて思われちゃ、片腹痛いよ。自分たちは成績で足を引っ張っているくせに、どの口が"一体感"なんて言葉を口にするんだろう」
彼は針金の先端部を針金アートみたいに弄び始めたが、語り終えるとひょいと立ち上がる。クラスメイトの小水で上履きが汚れるのも厭わず神渡に近付いた。
「いいこと思い付いた。お土産にしてあげる。踏み躙ったんだから、君たちがお花を咲かせる器官もらっていくのは当然だよね」
ロッカーから巨大なカッターナイフを取り出した。カリカリ……と刃が伸びる。
や、………やめ………
「でっかいちんちんがいいな。女の人はでっかいちんちんが好きだから。麦蒔先生も、都鳥さんも鶉楽さんだって、女の人はでっかいちんちんが手に入らないと惨めなんだよ。女の人の階級で勝てないから」
しかし果たして彼の断言したそれが、担任の教師、学年一の美少女、このクラスの学級委員にも当て嵌まるのかは定かでない。彼女たちのセクシャリティですら廻冬は知らなかった。
彼は次々とスラックスを引き裂いていった。どれも彼女に合いそうにない陰茎だった。
「男の子は女の子よりおちんちんが大好きなクセに、ろくなちんちんしてないな。自他共におちんちん見せびらかすの好きなクセにね?―ねぇ神渡くん。君は顔がキレイだからちんちん小さくても許してあげる。でも顔焼いてくれる。彼女、顔に傷ないとイけないんだって」
ライターに火を点け、怯え切り顔中の穴から津液を噴く神渡の前に晒す。
「顔の傷フェチなんだよ、僕のカノジョ。そしたら証拠提出して、鞴くんたちのこと訴えればいいじゃん。あの花食べて、職員室でゲロ吐いてやりなよ。花瓶の指紋取ってもらってさ。掃除当番と鶉楽さんの指紋も出ると思うけど。だっていじめって犯罪だよ?いじめは楽しいコトだからね。楽しいことは無料でやっちゃいけないんだよ」
神渡はぶるぶる震えた。
「僕のカノジョがキモチヨクなる。神渡くんのおちんちんもキモチヨクなれる。鞴くんたちがしょっぴかれる。僕も面白くなる。一石で四鳥落ちるよ。……ははは、あはははは」
教室内は乾いた笑みが響いたが、突然静まり返った。
「僕の単頂花序、消化したクセに!」
神渡の肩を揺さぶり、壁に頭を叩きつける。彼の失神と共に廻冬は次の対象を見つけた。目を覚ました鞴柚木の腰巾着をモグラ叩き同然に殴り倒していく。恋人が輪姦され殺害されたのだ。この程度の報いは当然である!
玄英!
怒声が飛ぶ。振り上げたところで拳が止まる。教室の入り口を見ると廻冬とはあまり関わりのない男性教師と鶉楽の姿があった。
「ああ…………鶉楽さん」
拳が痛む。骨が軋んだ。血塗れにした男子生徒の上から退く。近付くと鶉楽はたじろいだ。
玄英くん………なんで…………
「花瓶を割られたの、むしゃくしゃしちゃって……」
へらへらと笑って潔く教師の元へ向かう。
「どうぞ、暴行罪で警察にでも突き出すんですね。この感じだと殺人罪にも問われそうですか。ははは、多分生きてると思いますけど。僕は一応、学校に忠告はしました。そのことも含めてすべて白状しますよ。若い加害者にも未来があるから仕方ありませんね。楽しいいじめを理性も利かせられないで積極的にやっていた奴等が簡単に変わるワケないですからね。大人になって社会的に孤立なんてしたら暴走を起こしかねません。自殺なら清算したことになるんでしょうけれど、他害して犠牲者が増えたら大変だ。社会は何かできなかったのかなんてまた話題になりますよ。社会が何かする価値を若い時分に自ら捨てていた奴等もいるなんてことは考えもせずにね!でもそういう輩のことまでも救うのが社会なんでしょうね。制度は平等であるべきだとは僕も思います。そうでしょう。学校は建前上そう教えたじゃないですか。誰も傷付けない誰も救わない誰の役にも立たない優しいことは100も200も教えてくれますからね」
すでに逮捕されたかのように彼は両の手首を合わせていた。
「僕は一般生ではないので、とっとと退学になるんでしょうけれど。いじめがあったら退学にすると麦蒔先生は息巻いていたのに残念だな。仕方ありませんよ、新人教師の情熱は職員室で冷まされていくんでしょうからね。安定した給料のつもりが、自分より頭のいい生徒に指摘されて、自分より経験豊富な様を見せられて、自分よりも学のある保護者の相手をして、勤務時間も安定していないんじゃ、やるだけ損ですよ。それで忙しさをそれとなくアピールしてくる大人たちに、生徒が本当に相談をしてきてくれると思っているんだからおめでたいですね」
職員室に連行されるまで彼は延々と嫌味を垂れ流していた。
◇
救急車の音が聞こえる。薄れかけた意識が引き戻された。
「かすみ……」
首を擡げた瞬間に肩を掴まれた。その手が身を捻り、仰向けになる。
「もう……許して、もう…………疲れ、」
ぐいい、と内部に牡が迫る。このままで腹を破られかねない。
「疲れたのか、かすみ。それなら少し休もう」
激しい運動をする叶奏は息ひとつ乱していない。ただ女の名を呼ぶときに目を細め、声を掠れさせ、呼吸が速まる。それか結合が互いに深まったときに。
「泊まっていくか?明日の朝、俺が送るよ。車内で寝ていればいい。俺の仕事場は家だから」
緋霧は首を振った。
「どうして?着替えならもう用意してある。下着はそこで買ってくればいい」
彼女はまた頑なに首を縦に振らない。魅力的な提案だが、この男の傍にいなければならないのは危険だ。
「俺を独りにするのか。俺から静架を奪って……おまえは家族のもとに帰るのか、かすみ」
彼女の眼が虚ろになる。意のままに操れる呪文だ。
「泊まっていけばいい。人の気配がない家は寂しいな。でも弟は、もう居ないんだもんな」
目元や頬、口元にキスしながら叶奏の手は彼女の胸に皮膚を這って近付いていく。
「泊まっていけ。かすみ。明日は俺が送り迎えをする」
彼女の髪に頬擦りをし、やがて両手はふたつの大きな膨らみを捕らえる。
「かすみ……疲れたのだろう?もう動かさない。ただ感じてイくだけでいい」
恐ろしい宣告だった。猛烈な快感と絶頂を殴り叩きつけられ、肉体は限界だった。
「相性がいいんだな、俺たちは。きっと…………女はそう簡単にイかないとネットで調べたよ。色々なところに書いてあった。なのにかすみは俺に抱かれてイくんだな?」
長い指が柔らかな脂肪を揉み、小さな箇所を的確に、程良い力加減で擂った。
「ぁ、っ」
「中が締まった。かすみ……かわいい」
耳の裏に吐息が吹く。それのみならず、舌が撫でていった。その間も双芽を繰って撚る指遣いは止まらない。
「ぁっんッ……」
内部に納まっている肉管を瀞んだ肉で食い千切りそうだった。実際に彼女は食い千切ることを試みていたかも知れない。
「かわいい………こんなに締め付けて……………抱き締められているみたいだ。嬉しい。かすみ………!」
彼は甘い溜息を吐くと、一打だけ腰を入れた。
「ああうっ!」
蜜壁を削られた衝撃で緋霧の視界は明滅する。
「あ、あ、あ………」
「すまない、かすみ……………あまりにもかわいいから…………愛してる。大好きだ。早く結婚したい。毎日…………しよう」
この調子でいけば毎晩、翌日の予定も無いことにされ強姦されるということだ。悍ましい日常である。この男は避妊もせず身籠っただけ産むよう強いるかも知れない。
「い…………や、」
声が嗄れていた。
「相性はいいのにか。優しくする。大切に………」
「して、ない…………あっあっ、」
強く摘まれるが、それは力任せではなかった。痛覚には至らない。それが却ってこの場には効いていることを叶奏は分かっているらしい。
「してないか。どうすればいい。どうすれば、俺はかすみを優しくできる?」
指の腹に囚われていた淫粒が膨らみの中に押し戻される。脳天まで甘く痺れていく。締め付けたものが反発して膨張を知る。
「俺が夫になったら、もうその後は、かすみの奴隷だ」
胸への指淫が激しくなっていく。下腹部が疼いた。滲んでいく。溢水した柔路は牡を押し出そうとしているのか、むしろ引き絞ろうとしているのか肉体の持主にも分からなかった。
「かすみ……こんなにかわいいのは、苦しい。愛してる。苦しい……………苦しいんだ、かすみ」
彼は喉を擦り切らして喘いだ。腰を引いたはいいが、そのあとのことを躊躇している。女の狭い肉路を穿つか、このまま焦れているのがいいか。
「かすみ……」
「こんなの、いや…………もういや、あっあっあああ!」
彼が選んだのは衝突だった。奥まで一気に入り直される。左右の胸の頂を潰されながらの深い抱接は鋭い電撃を生み出した。
「俺はかすみの悦いところいっぱい知っているのにね」
「助け………も、たす………っあッんっあ、」
淫らな放電も済まぬままに弱い場所を抉られる。
「あ……あっ」
「かすみがいけない。俺を独りにしておいて、ここから離れて行こうとするんだから」
彼は首の許す限り彼女の肌に唇を押し当てる。
「も、放して………」
「放さない。静架はかすみが可愛くなかったんだ。愛しくなかった。大切にできそうになかった。だからおまえを遺して呆気なく死んだ」
彼の言うのはつまり根性論だ。しかし弱った彼女には芯のほうまで意地悪く染み入っていく。
「俺ならかすみをひとりにしないのに」
「放して………しずちゃんじゃないクセに、あたしに触らないで…………触らないで、触らないで…………!」
纏わりつく腕をひとつひとつ打ち払った。逃げ出す。彼のベッドを抜け、脱がされたものを拾い、リビングから玄関ホールに繋がる廊下へ出る。インターホンが鳴る。金持ちの引きこもり青年が宅配ピザでも頼んだのかも知れない。
「お時間ですよー」
ふざけた声に彼女は一瞬動きを止めた。
「かすみ、」
叶奏が追ってくる。長考はできなかった。
「助けて……」
シャツだけ羽織った。身なりにも構わずいられたのは、玄関ドアの奥にいる人物が静架とよく似ていたからなのかも知れない。靴も履かずに外へと飛び出す。
「鷹庄緋霧ゲット」
呑気な声が降り、他所の家庭の匂いに包まれる。いつもの冷やかしの言葉はない。ウィンドブレーカーが肩に掛かった。まだ他者の体温が残っている。だがすぐに冷めた。
「かすみ………」
閉めたドアは直後に開いた。目の前は翳る。白いフード付きのスウェットシャツが視界一面に占められる。
「おいたんの義妹になるかも知れなかった人に、酷いことしないでよ」
「誰だ」
「顔見て分からない?君等のお父さんが君等のお母さん裏切って作った子供」
氷麗歌は大袈裟に肩を竦めた。
「母を裏切ったのは俺の父だけではないはずだが」
「そうだね。おいたんのママンも、君等のお母さんにはすまないことをしたって最期まで言ってたよ。まぁ、生まれちゃった命はしゃーないから、許してよ」
「親世代のことは親世代で始末をつければいい。それよりかすみを返せ。母親に似て略奪が好きなのか」
ふは、と人を小馬鹿にした笑い声が上がる。
「そんな一言のうちにいきなり矛盾しないでよ」
「かすみを返せ」
「そもそも君のものじゃないよね。お異母兄ちゃんにそんな口の利き方、いいのかな」
肩を竦めて落ちてきた手が戦慄いていることに緋霧は気付く。
「不倫で生まれたやつが同胞なわけはない。やめろ、悍ましい。他人だ。母を苦しめた女の息子の分際で、よくも同胞などと軽々しく口にできたな。失せろ。いくら欲しい?」
握られた拳が震えている。殴りかかりはしないかと、緋霧は後ろから掴んだ。
「ははは、ざっと100万…………ナンチャッテ…………」
「分かった。来月からでいいな。父に渡す金を増やしておく。上手くねだれ。父には言わないことだ。だから二度と、俺の前に姿を出すな。消えろ」
冷たく言い捨てから叶奏の目が緋霧を捉まえる。
◇
今日は来たのか、偉いぞ!偉いぞ!偉いぞ、廻冬。偉いぞぉ!
「おはようございます、小春日先生」
校門前に立っていた体育教師に挨拶をする。体罰や悪罵や成績によるあからさまな依怙贔屓をすることはないけれど、言葉を交わしてみてから迂愚な印象が拭い去れなかった。しかし廻冬の見てきた浅はかな教師たちに比べれば毒にはならない。頼りにならないだけなのである。
教室に向かっていく。関わりのない教師にまで顔を覚えられている。学校始まって以来の天才と謳われているらしい。校舎は古いが、この高校は昨年、一昨年あたりに開かれたのではあるまいか。
教室に入る。相変わらず席が乱れていた。ゴミ箱がひっくり返っているのを直す。
おはよう、玄英くん。
髪を左右に束ねたいかにも優等生然とした女子生徒が花瓶を持っていた。
「この前の花はどうしたんですか」
そこにはガーベラではなく、違う花が挿してある。
ああ、あれね、もう枯れちゃってたから。わたしのお婆ちゃんが花とかも育ててるから、持っていきなさいって。
確かにそろそろ枯れてしまっても仕方のない頃合いだ。
「花瓶も、違いますね」
廻冬の指摘に彼女はばつが悪そうに頷いた。
鞴くんたちに……割られちゃって。
「……そうですか」
白と赤ともオレンジともいえないガーベラ2本によく合う花瓶を吟味して選んだというのに、荒くれ者どもに壊されてしまった。
あれって、玄英くんが持ってきてくれたものなんでしょう?
「仕方ありませんよ。いつか物は壊れますし、陶器じゃなおさら割れやすい。誰にも怪我はありませんでしたか」
廻冬は言ってみて白々しくなった。彼女は少し曇った顔をする。
うん……
「その花瓶も、鶉楽さんのですか」
彼女はまた俯いたまま頷いた。廻冬はそれを見下ろしていたが、やがて2人で席を直す。
このクラスには鞴柚木という問題児がいる。ほどほどの優等生が成績にせよ素行にせよ芳しくない生徒を包括するようにある。しかし包括できただろうか。結果は、何人かいる素行不良児がこのクラスを纏め上げてしまった。ひとりの生贄を作り"一体感"を生み出してしまった。そしてそう豪語している。だが果たしてそれは、学校のいう一体感であっただろうか。クラス崩壊は起こらなかった。また教師が出勤不能になるような教師いじめなるものも起こらなかった。学校のいう一体感はあったかも知れない。上面の、都合の良い一体感があった。しかしその裏面にあるのは、各々の保身と怯えと不快感だった。廻冬は窓側の一番後ろの席でぼんやりと花瓶の乗せられた机を見ていた。廻冬が持ち込んだものとは別の、クラスの備蓄品で花はない。そしてあの席の者の訃報はまだ廻冬には届いていなかった。しかしいつその訃報、この光景に花が咲いたのが実現してもおかしくはない。
教室にまたひとり登校者が増える。よたよたとやってくる猫背が花瓶の置かれた席に着く。このクラスの生贄だ。
「おはようございます、神渡くん」
ぎくりと肩を跳ねさせて、神渡という男子生徒が廻冬を振り返る。亡霊でも見るかのような目だった。廻冬はその面構えをまじまじと見つめる。相手は徐々に恐怖の色を滲ませている。
「ははは」
廻冬が高らかに笑ったのを、鶉楽という女子生徒も不安げに見ていた。
クラスの一体感のため犠牲となった神渡橇路への暴力と恐喝は放課後に酷くなる。クラスの者たちはそそくさと帰っていくか部活に行った。その場に残れば自分の身が危うい。加害者か被害者か、どちらかの選択を迫られることになる。
廻冬は机に参考書を開き、ぼんやりと橙を帯びてきた空とグラウンドを眺めていた。真後ろでは一方的な暴力と拒絶、哄笑が響く。彼等は部活には入らないらしい。
まぁた卓球部、遅刻しちまうな。
ダメな先輩は、グラウンド10周して来い!
素っ裸でな。フルちんでよ。学園七不思議になるぜ。
ぎゃはは、それは自殺モンだわ。
ンな度胸こいつにあるわきゃねぇだろ。
鷹庄雪兎吉という莫迦狗を果たして自ら殺す必要があったかと、後ろの会話を聞きながら、濃い青とオレンジにほぼ二分された空を見ていた。
ああ……あああ……
まぁ、まぁ、花でも食ってろよ。
肉食ってるのか?このヒョロガリ。
女みてぇに草しか食ってねぇんぢゃね。
廻冬は振り返ってしまった。鞴柚木と目が合う。
「それ、鶉楽さんが持ってきたやつ……」
彼は呟いていた。鞴柚木は突然の傍聴者の介入に拍子抜けした顔をした。この集団とは事務的な会話しかしたことがない。このクラスの一体感の正体は干渉しない、深く立ち入らない、知らないでいることだった。
ま、まぁ、いいだろ……別に。
「僕のお花……」
廻冬はすでに神渡の口に突っ込まれている草花を見遣った。枯れたと言われ、ここ数日間で溜まったゴミ箱を漁ったが2本の花の残骸は見つからなかった。水道のゴミ箱も漁った。しかし見つからなかった。すでにゴミ出しに出されたてしまったのだと諦めた。
「僕のお花は…………?」
花瓶の末路は分かる。どうせ暴力の機みで落下でもしたのだろう。しかしガーベラはどうなったのだ。本当に枯れたのであろうか。
「ここに活けてあった白と赤っぽい花は……?どうしたんですか」
廻冬は5、6人ほどいる奴等を見回した。やがてそのうちの1人が鞴柚木を見た。鞴柚木はスラックスを奪われて下着を晒している神渡橇路を見遣った。
お前が知ってるよなぁ?
廻冬も仰向けで後退る神渡を譴責するように捉えた。自分が唾を付けた女が彼等に集団レイプされたような心地になった。
ああ………あああ………ごめんなさ、あああ……
クラスの一体感のための生贄は逃げようとするところを捕まった。羽交締めにされ、廻冬の前に突き出される。
「僕のお花は……?」
神渡は泣き出した。話せる状態ではない。廻冬もまた大泣きする生贄を慮っていられる様子ではなかった。呆然としている。恋人が輪姦され殺害されてしまった気分だ。廻冬は目を見開いた。神渡を捕まえる手を剥がす。
「君は死んでいいよ、神渡くん。もう用、無いから。飛び降りたら。そこから落ちなよ。手加減しちゃいけない。3階からじゃ生き残っちゃうかも知れないから……」
喉を掠れさせ、廻冬は俯いたまま喋った。激しい絶望感に襲われる。しかし神渡は逃げようとはせず、膝からその場に崩れ落ちる。
「鞴くん。僕のお花は?」
そんな大事なものなのか?あの花……
廻冬は真横にあった花瓶を手に取る。鞴柚木の顔面に投げつける。周りの輩が怯んだ。目に入ったクラスメイトから投げ飛ばす。誰の席だかも忘れ、椅子を取り頭蓋を殴る。石蕗静架の殺害に関しては廻冬は手応えがなかった。彼を殺したのは獄炎である。鷹庄雪兎吉を撲り殺したときのピンポイントな感触とも違う。最後のひとりの喉に腕を置く。鼻先が触れるほど顔を寄せた。
「僕のお花はどうなったんですか……」
頭部を強打し首を圧迫され、震えた指が神渡橇路を示す。
あ、あ………だ、だ、だ、って、鞴くんが、………
すでに廻冬はその場で名前の出た人物を回って尋問するのみになっていた。鞴柚木が"クラスの一体感を高めること"に貢献していたことは廻冬も同じクラスの中にいてよく見知っている。
「鞴くん……クラスを一纏めにしてくれてありがとう。没個性のくだらない不愉快なこの教室が居づらくて仕方なかったよ」
鞴柚木の首に膝を乗せて圧した。
「鞴くん。でもこのクラスの一体感は僕には合わなかったから、次は僕に合うやり方でやるよ。その時は独裁じゃなくて、もっとちゃんとやる。生贄とかは要らないよ。要るのなら君がなって。僕直々のご指名だ。生贄は引継ぎ制じゃないからね。同じものは使えないんだ。残念だけど」
腕時計の嵌った手が床を叩く。まるでプロレスだ。
オレじゃ………ない、
廻冬は一殴りすると、その指が差す、次のクラスメイトに移動した。
「君なの、菜洗くん。僕のお花、どうしたの」
5、6人を回るが、誰も2本のガーベラがどうなったのかを語らない。彼等は本当に彼女の最期を知らないのかも知れない。乾燥してしまった廻冬の目が徐々に"クラスの一体感のための犠牲"に向いた。
み、み、廻冬くん…………
「まだ居たの、神渡くん。どうせ特待生はお金にならないんだから、学校は守ってくれないよ。5、6人の学費のほうが大切なんだから……………」
廻冬はゾンビのように背を曲げ、両手をぶら下げ、へらへらと笑った。大切な女をレイプされた挙げ句に殺されたのだ!
あああ……
のしのしと歩み寄る。そのたびに哀れな生贄は肘で後退る。下着が色を変えた。水溜りが神渡の下半身に広がっていく。
「僕のお花はどうなったの。鶉楽さんは優しいね。枯れたなんて嘘なんでしょ」
廻冬はクラスの掃除用具入れを漁った。ここのモップで"クラスの生贄"の顔面が"洗われて"いるのは見たことがある。ところが、廻冬が手にしたのは長さのある針金の切れ端だった。鞴柚木の手に巻き付けていく。自分はくたびれたゴム手袋を嵌め、掃除用具入れの横にあるコンセントに近付けた。
「教えてくれなくてもいいよ。なんとなく分かってるから。疑わしきは罰せず。だから鞴柚木くんたちの暴行・恐喝・器物破損も疑わしいから罰せられないね。だからこれは僕のシュミで、でももし本当のことが知れたら気が変わるんだけど、神渡くんは僕の気を変えてくれるかな。神渡くんは人が死ぬところ見たことある?肉眼で。見せてあげる。このままじゃ見せる側でしょ。自分の身体使ってさ」
ハリガネの端をコンセントに近付けた。
「焦げた匂いがして、今夜はステーキなの…………ああ、ラッキーって…………神渡くんの今日の晩ご飯はなんだろう?お魚の塩焼きも美味しいけど、今夜はハズレ……ははは、ママがせっかく作ってくれるんだもん。ああ、パパかな。今のおうちは色々形があるからね。それとも自分で作ってるのかな。ママが家事やるの当たり前なんておかしいもんね。僕は妻に家のことやってほしいけど。でも僕も何の不自由もさせないようにいっぱいお金稼ぐんだ。だからたくさん勉強しなきゃ……………なのに邪魔なんだよ。邪魔なんだ、君も彼等も。これで"一体感を生んでやってる"なんて思われちゃ、片腹痛いよ。自分たちは成績で足を引っ張っているくせに、どの口が"一体感"なんて言葉を口にするんだろう」
彼は針金の先端部を針金アートみたいに弄び始めたが、語り終えるとひょいと立ち上がる。クラスメイトの小水で上履きが汚れるのも厭わず神渡に近付いた。
「いいこと思い付いた。お土産にしてあげる。踏み躙ったんだから、君たちがお花を咲かせる器官もらっていくのは当然だよね」
ロッカーから巨大なカッターナイフを取り出した。カリカリ……と刃が伸びる。
や、………やめ………
「でっかいちんちんがいいな。女の人はでっかいちんちんが好きだから。麦蒔先生も、都鳥さんも鶉楽さんだって、女の人はでっかいちんちんが手に入らないと惨めなんだよ。女の人の階級で勝てないから」
しかし果たして彼の断言したそれが、担任の教師、学年一の美少女、このクラスの学級委員にも当て嵌まるのかは定かでない。彼女たちのセクシャリティですら廻冬は知らなかった。
彼は次々とスラックスを引き裂いていった。どれも彼女に合いそうにない陰茎だった。
「男の子は女の子よりおちんちんが大好きなクセに、ろくなちんちんしてないな。自他共におちんちん見せびらかすの好きなクセにね?―ねぇ神渡くん。君は顔がキレイだからちんちん小さくても許してあげる。でも顔焼いてくれる。彼女、顔に傷ないとイけないんだって」
ライターに火を点け、怯え切り顔中の穴から津液を噴く神渡の前に晒す。
「顔の傷フェチなんだよ、僕のカノジョ。そしたら証拠提出して、鞴くんたちのこと訴えればいいじゃん。あの花食べて、職員室でゲロ吐いてやりなよ。花瓶の指紋取ってもらってさ。掃除当番と鶉楽さんの指紋も出ると思うけど。だっていじめって犯罪だよ?いじめは楽しいコトだからね。楽しいことは無料でやっちゃいけないんだよ」
神渡はぶるぶる震えた。
「僕のカノジョがキモチヨクなる。神渡くんのおちんちんもキモチヨクなれる。鞴くんたちがしょっぴかれる。僕も面白くなる。一石で四鳥落ちるよ。……ははは、あはははは」
教室内は乾いた笑みが響いたが、突然静まり返った。
「僕の単頂花序、消化したクセに!」
神渡の肩を揺さぶり、壁に頭を叩きつける。彼の失神と共に廻冬は次の対象を見つけた。目を覚ました鞴柚木の腰巾着をモグラ叩き同然に殴り倒していく。恋人が輪姦され殺害されたのだ。この程度の報いは当然である!
玄英!
怒声が飛ぶ。振り上げたところで拳が止まる。教室の入り口を見ると廻冬とはあまり関わりのない男性教師と鶉楽の姿があった。
「ああ…………鶉楽さん」
拳が痛む。骨が軋んだ。血塗れにした男子生徒の上から退く。近付くと鶉楽はたじろいだ。
玄英くん………なんで…………
「花瓶を割られたの、むしゃくしゃしちゃって……」
へらへらと笑って潔く教師の元へ向かう。
「どうぞ、暴行罪で警察にでも突き出すんですね。この感じだと殺人罪にも問われそうですか。ははは、多分生きてると思いますけど。僕は一応、学校に忠告はしました。そのことも含めてすべて白状しますよ。若い加害者にも未来があるから仕方ありませんね。楽しいいじめを理性も利かせられないで積極的にやっていた奴等が簡単に変わるワケないですからね。大人になって社会的に孤立なんてしたら暴走を起こしかねません。自殺なら清算したことになるんでしょうけれど、他害して犠牲者が増えたら大変だ。社会は何かできなかったのかなんてまた話題になりますよ。社会が何かする価値を若い時分に自ら捨てていた奴等もいるなんてことは考えもせずにね!でもそういう輩のことまでも救うのが社会なんでしょうね。制度は平等であるべきだとは僕も思います。そうでしょう。学校は建前上そう教えたじゃないですか。誰も傷付けない誰も救わない誰の役にも立たない優しいことは100も200も教えてくれますからね」
すでに逮捕されたかのように彼は両の手首を合わせていた。
「僕は一般生ではないので、とっとと退学になるんでしょうけれど。いじめがあったら退学にすると麦蒔先生は息巻いていたのに残念だな。仕方ありませんよ、新人教師の情熱は職員室で冷まされていくんでしょうからね。安定した給料のつもりが、自分より頭のいい生徒に指摘されて、自分より経験豊富な様を見せられて、自分よりも学のある保護者の相手をして、勤務時間も安定していないんじゃ、やるだけ損ですよ。それで忙しさをそれとなくアピールしてくる大人たちに、生徒が本当に相談をしてきてくれると思っているんだからおめでたいですね」
職員室に連行されるまで彼は延々と嫌味を垂れ流していた。
◇
救急車の音が聞こえる。薄れかけた意識が引き戻された。
「かすみ……」
首を擡げた瞬間に肩を掴まれた。その手が身を捻り、仰向けになる。
「もう……許して、もう…………疲れ、」
ぐいい、と内部に牡が迫る。このままで腹を破られかねない。
「疲れたのか、かすみ。それなら少し休もう」
激しい運動をする叶奏は息ひとつ乱していない。ただ女の名を呼ぶときに目を細め、声を掠れさせ、呼吸が速まる。それか結合が互いに深まったときに。
「泊まっていくか?明日の朝、俺が送るよ。車内で寝ていればいい。俺の仕事場は家だから」
緋霧は首を振った。
「どうして?着替えならもう用意してある。下着はそこで買ってくればいい」
彼女はまた頑なに首を縦に振らない。魅力的な提案だが、この男の傍にいなければならないのは危険だ。
「俺を独りにするのか。俺から静架を奪って……おまえは家族のもとに帰るのか、かすみ」
彼女の眼が虚ろになる。意のままに操れる呪文だ。
「泊まっていけばいい。人の気配がない家は寂しいな。でも弟は、もう居ないんだもんな」
目元や頬、口元にキスしながら叶奏の手は彼女の胸に皮膚を這って近付いていく。
「泊まっていけ。かすみ。明日は俺が送り迎えをする」
彼女の髪に頬擦りをし、やがて両手はふたつの大きな膨らみを捕らえる。
「かすみ……疲れたのだろう?もう動かさない。ただ感じてイくだけでいい」
恐ろしい宣告だった。猛烈な快感と絶頂を殴り叩きつけられ、肉体は限界だった。
「相性がいいんだな、俺たちは。きっと…………女はそう簡単にイかないとネットで調べたよ。色々なところに書いてあった。なのにかすみは俺に抱かれてイくんだな?」
長い指が柔らかな脂肪を揉み、小さな箇所を的確に、程良い力加減で擂った。
「ぁ、っ」
「中が締まった。かすみ……かわいい」
耳の裏に吐息が吹く。それのみならず、舌が撫でていった。その間も双芽を繰って撚る指遣いは止まらない。
「ぁっんッ……」
内部に納まっている肉管を瀞んだ肉で食い千切りそうだった。実際に彼女は食い千切ることを試みていたかも知れない。
「かわいい………こんなに締め付けて……………抱き締められているみたいだ。嬉しい。かすみ………!」
彼は甘い溜息を吐くと、一打だけ腰を入れた。
「ああうっ!」
蜜壁を削られた衝撃で緋霧の視界は明滅する。
「あ、あ、あ………」
「すまない、かすみ……………あまりにもかわいいから…………愛してる。大好きだ。早く結婚したい。毎日…………しよう」
この調子でいけば毎晩、翌日の予定も無いことにされ強姦されるということだ。悍ましい日常である。この男は避妊もせず身籠っただけ産むよう強いるかも知れない。
「い…………や、」
声が嗄れていた。
「相性はいいのにか。優しくする。大切に………」
「して、ない…………あっあっ、」
強く摘まれるが、それは力任せではなかった。痛覚には至らない。それが却ってこの場には効いていることを叶奏は分かっているらしい。
「してないか。どうすればいい。どうすれば、俺はかすみを優しくできる?」
指の腹に囚われていた淫粒が膨らみの中に押し戻される。脳天まで甘く痺れていく。締め付けたものが反発して膨張を知る。
「俺が夫になったら、もうその後は、かすみの奴隷だ」
胸への指淫が激しくなっていく。下腹部が疼いた。滲んでいく。溢水した柔路は牡を押し出そうとしているのか、むしろ引き絞ろうとしているのか肉体の持主にも分からなかった。
「かすみ……こんなにかわいいのは、苦しい。愛してる。苦しい……………苦しいんだ、かすみ」
彼は喉を擦り切らして喘いだ。腰を引いたはいいが、そのあとのことを躊躇している。女の狭い肉路を穿つか、このまま焦れているのがいいか。
「かすみ……」
「こんなの、いや…………もういや、あっあっあああ!」
彼が選んだのは衝突だった。奥まで一気に入り直される。左右の胸の頂を潰されながらの深い抱接は鋭い電撃を生み出した。
「俺はかすみの悦いところいっぱい知っているのにね」
「助け………も、たす………っあッんっあ、」
淫らな放電も済まぬままに弱い場所を抉られる。
「あ……あっ」
「かすみがいけない。俺を独りにしておいて、ここから離れて行こうとするんだから」
彼は首の許す限り彼女の肌に唇を押し当てる。
「も、放して………」
「放さない。静架はかすみが可愛くなかったんだ。愛しくなかった。大切にできそうになかった。だからおまえを遺して呆気なく死んだ」
彼の言うのはつまり根性論だ。しかし弱った彼女には芯のほうまで意地悪く染み入っていく。
「俺ならかすみをひとりにしないのに」
「放して………しずちゃんじゃないクセに、あたしに触らないで…………触らないで、触らないで…………!」
纏わりつく腕をひとつひとつ打ち払った。逃げ出す。彼のベッドを抜け、脱がされたものを拾い、リビングから玄関ホールに繋がる廊下へ出る。インターホンが鳴る。金持ちの引きこもり青年が宅配ピザでも頼んだのかも知れない。
「お時間ですよー」
ふざけた声に彼女は一瞬動きを止めた。
「かすみ、」
叶奏が追ってくる。長考はできなかった。
「助けて……」
シャツだけ羽織った。身なりにも構わずいられたのは、玄関ドアの奥にいる人物が静架とよく似ていたからなのかも知れない。靴も履かずに外へと飛び出す。
「鷹庄緋霧ゲット」
呑気な声が降り、他所の家庭の匂いに包まれる。いつもの冷やかしの言葉はない。ウィンドブレーカーが肩に掛かった。まだ他者の体温が残っている。だがすぐに冷めた。
「かすみ………」
閉めたドアは直後に開いた。目の前は翳る。白いフード付きのスウェットシャツが視界一面に占められる。
「おいたんの義妹になるかも知れなかった人に、酷いことしないでよ」
「誰だ」
「顔見て分からない?君等のお父さんが君等のお母さん裏切って作った子供」
氷麗歌は大袈裟に肩を竦めた。
「母を裏切ったのは俺の父だけではないはずだが」
「そうだね。おいたんのママンも、君等のお母さんにはすまないことをしたって最期まで言ってたよ。まぁ、生まれちゃった命はしゃーないから、許してよ」
「親世代のことは親世代で始末をつければいい。それよりかすみを返せ。母親に似て略奪が好きなのか」
ふは、と人を小馬鹿にした笑い声が上がる。
「そんな一言のうちにいきなり矛盾しないでよ」
「かすみを返せ」
「そもそも君のものじゃないよね。お異母兄ちゃんにそんな口の利き方、いいのかな」
肩を竦めて落ちてきた手が戦慄いていることに緋霧は気付く。
「不倫で生まれたやつが同胞なわけはない。やめろ、悍ましい。他人だ。母を苦しめた女の息子の分際で、よくも同胞などと軽々しく口にできたな。失せろ。いくら欲しい?」
握られた拳が震えている。殴りかかりはしないかと、緋霧は後ろから掴んだ。
「ははは、ざっと100万…………ナンチャッテ…………」
「分かった。来月からでいいな。父に渡す金を増やしておく。上手くねだれ。父には言わないことだ。だから二度と、俺の前に姿を出すな。消えろ」
冷たく言い捨てから叶奏の目が緋霧を捉まえる。
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