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蜜花イけ贄 不定期更新/和風/蛇姦/ケモ耳男/男喘ぎ/その他未定につき地雷注意

蜜花イけ贄 5

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 ダリアは自室で寝たはずだが、夜にまた布団に潜り込んできたものがある。後ろから桔梗を抱く。
「旦那さま……」
 脚に柔らかなものが数本絡んでいる。大根みたいな形をした夫の尻尾だ。彼女の腿や膝を撫でたり割り開いている。
「おヨメしゃんとおしげりしてばっかだったでしょ。ちょっと、ちゃんとおしゃべりしたいなぁって思ったの」
「わたし…………旦那さまと…………?」
 夫の手が桔梗の指を遊ぶ。
「そうだよ。気持ち良すぎて記憶トんじゃってるんだねぇ。ボクといっぱい契ったんだよ。たくさんってかわいかったよ。いいだねぇ」
 夫の手が桔梗の胸や腹を撫でた。下半身も彼の十本近くある尾を巻き付けられている。
「旦那さま……」
「うん……?もう寝るんでしょぉ?寝なさいな。ボクが夜伽してあげる。ちょっとキモチヨクなるだけだよ」
 毛で膨れた尾が寝間着の裾を股ぐらまで持ち上げ、布団の下で桔梗は腿まで素肌に剥かれている。柔らかな毛は心地良いものの、落ち着かなさのほうが上回る。
「旦那さま、裾が……」
 裾だけではない。尾のひとつは彼女の片脚の付け根に巻き付く。秘所を掠め、敏くも鈍い感覚を先走って受け取る。
「なぁに?」
 尻尾が器用に動く。もどかしい疼きが毛で掃かれたところに生じる。
「裾が、」
「裾?裾がどうしたの?」
 内腿に自ら挟まれにやってきていた尻尾の質感が変わる。柔らかさが消えた。妙に冷たい。
「あっ……」
 腿と腿の間を割り入ってくるものがある。内部へ侵入している。桔梗は口元を押さえた。この夫と結婚したときに覚えた感触だ。
「きついねぇ。ボクのおヨメさん。ボクも入っていい?」
「旦那さま、ぁ!ん………ッ」
「愛しい妻のそんな声聞かされたら、ボク、我慢できないよ」
 妻の隘路に入っていったのは夫の尻尾が化けたヘビだ。牙を剥くことも舌を伸ばすこともなく、妻の中で温順しくしている。
「怖いです………旦那さ、ま………」
「怖いの?こんなに締め付けて、怖い?」
「怖、い……」
「そう。じゃあ、ボクが入ってもいい?」
 桔梗の意識は自身の中にあるヘビにあった。形を取り、想像してしまう。
「おヨメしゃん?」
 ヘビが出て行く寸前まで引き抜かれる。もう一度入ってくるのを予期すると桔梗は首を振った。
「旦那さま……旦那さま……」
「ボクが入っていいのかな?桔梗」
 ヘビは怖い。ヘビを身籠もるのは恐ろしい。彼女は必死の思いで頷いた。もしかすると話を聞いていなかったのかも知れない。
「じゃあ、おヨメしゃんとひとつになるね」
 腹にあったものが引き抜かれた。布団ごと片脚を持ち上げられ、一気に狭路が削られた。挿入はすぐに終わったが、衝撃は長い余韻を持つ。彼女は身を震わせて果てていた。激しい収縮によって、それが夫に気付かれないはずもない。頭の中身まで突かれるようだった。
「ボクのかわいいおヨメしゃん。へへへ。明日はあの人のこと、すちすちになってみよっか」
 夫は妻の手にばかり触って動こうとしない。愛しい妻が戦慄しているからだろうか。
「あの人……?」
 彼女がさっと青褪めたのは、おそらく夫とは違う人物を思い浮かべたからであろう。
「―俺ですよ。誰だと思ったんですか?」
 耳元で葵が囁き、桔梗は弾かれたように身を捻って真後ろの男を確認する。彼女の丸く剥いた目はすぐに凪いだ。そして諦めたように四肢を投げ出す。達した肌はただ中に留まるだけの夫にも性感を見出し、仄かな快楽を拾い集める。
 どうでもいい男のどうでもいい肉体ならば、身体はただ触覚だけを頼りにする。感情は眠りについた。
「呆れちゃった?おヨメしゃん、ボクのこと見てよ」
 夫は腰を振りはじめた。下半身を湾曲させたり推し進める様は滑稽で面妖な風情がある。
 夫婦の睦事は夜更けまで続いた。深く眠ってしまい起きるのが遅くなった。すでに目を覚ましていたダリアが用意した湯に浸かる。夫に抱かれておきながら不潔で不浄な幻を見た。
 湯上がりにダリアが出迎える。朝取り替えている垂れ布がすでに汚れている。
「ダーシャ、お前も入りなさい。そうしたら薬を塗るから。昨日の分だけ落として、あまり傷口には触るんじゃないよ」
 膝に手を当てて低姿勢の少年は怯えて震えている。
「ダーシャ」 
「あ……は、はい………」
 怖気付おじけづいているダリアに微苦笑する。そうするとわずかながら、彼のほうでも警戒を緩めた。
「そう怖がらなくていい。怒ったり殴ったりなんてしないよ。お前は真面目によくやってくれている」
 頭に手を置いた。細い質の髪が柔らかい。
「布はこまめに取り替えなさい。痕になると事だから」
 桔梗はそうしてダリアが湯浴みを終えるのを待った。薬を塗ろうとすると彼は身を竦める。膝の上の拳は真っ白く、力み過ぎて震えている。
「怖いか」
 まだ水気の多い状態で剥き出しにされた部分を触られるのだ。痛みを想像し、緊張するのだろう。
「い、いいえ……」
「痛かったら突き飛ばせ。恨みはしないよ」
 彼女は爪に気を付け、火傷の薬を塗布する。ダリアは固く目を瞑っていた。
「滲みるか」
「いいえ」
「そうか」
 桔梗の見解では、彼のこの傷は痕になるだろう。皮膚が抉れているわけではないけれど、深さがある。色濃く残るかは分からないが、少なからず痕にはなりそうだ。
 指を患部から離す。するとダリアは虫を捕まえるみたいに彼女の手を両手で包んだ。
「どうした」
「お手が汚れて……」
「いい。このまま洗う」
 そうして桔梗が手を洗っている最中に玄関戸が叩かれた。この屋敷の正面にある薬屋の若い店主が呼んでいる。物腰の柔らかい、聡明で謙虚な美青年だ。声を聞いた瞬間、桔梗はどくりと胸を高鳴らせた。玄関戸までの距離に焦がれる。
「ごめんください」
 戸を引いた。淡い緑色の割烹着が目に入る。長身というほど極端に長身ではないが、小柄でもない。華奢な感じはあるが精悍さも帯びている。山奥で見掛けたら、その容姿で人を誑かし喰らう魑魅魍魎と疑ったかも知れない。
 桔梗はどっどっと鼓動の速まるのを感じる。
「薬師さま……」
 彼女の声もどこか媚びたように甘く掠れる。若い薬屋の店主はぎょっとした。
「どこかお身体が優れませんか」
 桔梗の瞳はしっとりとして見目麗しい薬師を捉えた。彼はたじろいで長く濃い睫毛を伏せ、目を泳がせる。
「いいえ……どこも悪くはありません」
 孅細かぼそい声が溶けていく。この美男子を目に入れてから、胸が張る。視線を逸らせない。
「失礼します」
 激しい狼狽をその仕草から感じた。美しい薬屋は何度か手を開いたり握ったりして、やっと桔梗の額に掌を添える。手首を返し、手の甲で頬や首に触れて大雑把に検温した。
「お酒は召し上がりましたか」
「いいえ」
 その間、彼女はこの秀麗な若店主から一切目を離さなかった。湯中ゆあたりを起こしかけているような色を差し、虚ろに、しかし熱心にその細面を見つめている。少し荒れたところの肌も、傷んだ毛先が混じっているところも却って人の温かみを感じられる。頬の剥がれかけた瘡蓋が気になった。猫であろうか。それとも女にされたのであろうか。或いは、男にされたのかも知れない。この者に関係した女がいるのかと考えると、急に息が詰まった。勢いのあまり、困惑気味の美丈夫に桔梗の手が伸び、瘡蓋を撫でる。彼女自身、自分の行動に狼狽えた。背を向けて縮こまる。
「あ……も、申し訳ございません。勝手に………」
 やっとその眼差しを彼から切り離すことができた。手に残る肉感に落ち着かず、自分の両手を揉み合って誤魔化す。
「き、桔梗様…………」
 互いに顔を耳まで真っ赤にして俯く。
「痛かったですか。ごめんなさい……」
わたくしは、まったく気にしておりませんので……」
 美貌の薬師は自ら彼女に触れられたところに手を当てる。
「い、一体誰が、薬師さまのお綺麗な顔にそんなことをしたのでしょう……!」
 猫であればいいのに!と彼女の顔はまだ赤々としていた。反して薬師のほうの赤みは褪せていく。
「桔梗様」
 物腰の柔らかく、聡明で謙虚な薬師のその声音は先程とは打って変わって低かった。彼は背を向けつつある彼女の肩を鷲掴む。玄関戸をうるさく弾き、力尽くで中へと押し入った。壁に叩きつけられ桔梗は目を見開く。物腰の柔らかい、聡明で謙虚な薬屋の若店主がそのようなことをするとは思わなかったのである。
「薬師さま……」
 怯えているのか媚びへつらっているのか分からない眼差しで桔梗は冷え切った麗貌を見上げた。牡の腕力に怯えながら、同時にこの牡の力強さに惹かれているのかも知れない。
「怒らないでくださいまし……」
「怒ってはいません!怒っては…………怒ってはいないのです」
 だがその顔は誰が見ても多くはそこから憤激を見出せずにいられないだろう。両肩に食い込む指からみてもそうだった。血走った眼に物腰の柔らかさも聡明さも謙虚ぶりもない。怒りと共にでなければみなぎることのない欲情があるだけだった。
「あっ、」
 噛みつき食い千切るような接吻で彼女は頭も壁に留められた。胸を焦がす男からの口付けである。桔梗の手はおそるおそる、意外にも逞しい薬屋の若旦那の背中に回った。
「ぁ……っん、ふ………」
 生温かい舌が入り込む。巻き付かれながら夢中で食んだ。舌の根に鈍痛を覚えるほど縺れ合う。どちらのもので濡れているのかも分からないほど、啜り合い、舐め合う。舌が絡むだけ身体も絡む。身体中が疼く。
「ん、ぁ………く、ぅ」
 力一杯、乱暴な美男子を抱き寄せる。短いことだったとはいえ玄関では大きな物音がしたというのに、この屋敷の使用人は何をしているのか、まったく姿を現さない。桔梗のほうでも先程まで気に掛けていた使用人のことをまるで意に介さなくなっている。
 血足らずのように思考に靄がかかる。壁伝いに崩れ落ちそうな彼女の身体を瑞々しい腕が支えた。
「ききょうさま………ぅ、ん」
 離れかけた唇を桔梗から追い求める。抱き締め合っていた腕は次第に合流し、指を絡めて深く交わる。
「薬師さま……」
 口腔は溢水いっすいし、朝露のようなを紡ぐ。
「例の件でお話があって参りました……」
 とても勤めの話ができる様子ではない。
「例の件……」
 潤んだ目は相手に情愛の念を訴えている。ふたたび瘡蓋に掌を重ね、接吻を乞う。話は進まない。
「桔梗様……これではお話が、―っ、」
 桔梗の唇が堅い口を塞ぐ。話を進めたがっている薬師からも啄むだけに留めていた彼女に唇を押し付けた。
「桔梗様、お話を……」
 彼女は艶冶えんやに微笑む。胼胝たこだらけの手を遊び、胸元に当て鼓動を聞かせている。薬屋の若店主の双眸は、爛々として粘こい輝きを集め、己のつがいを見出した歓喜を静かに燃やしていた。生唾を呑む音が聞こえ、桔梗の身体も熟れていく。
「中へ……散らかっておりますけれど……」
 茶室に通した。馨しい容姿の若店主が腰を下ろす。桔梗は彼の開き直った欲深さのある視線を浴び、たちまち湧き起こる悦びに膝を擦り合わせる。
「桔梗様の外出の件のことでございます」
 耳鳴りが起こった。彼女は眉を下げる。その仕草までが今向かい合っている牡を尊び、平伏しているようである。桔梗は固まったように若い男を見つめ続ける。
「外出……?」
 ふと、八重歯で上手く閉じられない口元が桔梗の脳裏を過った。寒気がする。異様な恐ろしさに襲われた。客人から目を逸らす。首ごと逸らして、身体を背ける。頭を抱えた。
「桔梗様」
 耳腔から糖蜜を注がれる。桔梗は髪を乱し戦々恐々と目を見開いていたが、やがてその眸子は昏く濁り、艶美な牡に向き直った。
「どうかなさいましたか……?」
「いいえ……」
「ですが………」
 心の臓を握り潰すような情動を引き起こすほど端麗な青年へ苦味のある微笑を浮かべる。
「………少し不安になってしまって」
「不安、ですか。近場への散策には許可が降りました。条件がありますが……」
 桔梗は首を傾げた。ぴん、と弛んだ糸を引っ張るような耳鳴りが起こる。ふ……と意識が遠退く。咄嗟に頭を押さえた。
「桔梗様。やはりどこか具合が悪いのでは」
 先程まで好き放題に抱き合っていた腕が伸びる。瞬間的な迷いが生まれたことは否めない。判断が遅れたのか、結局選択肢を棄てたのかは分からない。彼女はもう次のときには薬屋の若店主の胸に寄せられていた。鼻先と鼻先がぶつかりそうな距離にある。その隙間を埋めたのは桔梗からだった。清純げな薬屋の若旦那を誑かす。体重をかけて男体を引き倒した。
「どういうおつもりですか、桔梗様……」
 それは婉曲的な批難や咎めではない。そうであったなら玄関での彼は愚かであった。
「どういうおつもりも、こういうおつもりも……」
「貴方様への想いは、先に申し上げたとおりです。わたくしは貴方様と契れるのなら、この職も辞する覚悟があります」
 彼女はぼんやりとして覆い被さる男の顔に触れた。
「貴方様は―とのご関係をどうなさるおつもりですか」
 彼女は重く瞬くだけだ。彼の唇の動きばかり見つめ、聴覚はこのとき働くのをやめていた。頬から撫で下ろし、唇に触れる。欲熱のまま吸い合って濡らした箇所が乾いている。干涸びてさえいた。薄いがもう少し弾力のあったような気がする。
「もう後先を考えていられません……桔梗様。お慕いしております。お慕いしております…………好いております」
 彼もまた痛みを堪えるように頭を抱えた。
「嬉しいです。嬉しい……薬師さまがわたしのことを好いてくださっているだなんて……」
 桔梗は紅潮した頬に潤んだ目で破顔する。優秀な忠臣が血肉に飢えた狗獣になってしまった。ひとりの村娘の肌に牙を立て、爪を引っ掛ける。たわわな双丘で花を摘まれ、高らかな唄が響く。
 野犬に揺さぶられ、肉と肉の悦びで蒸れていく。互いに体温を渡した。胸を掻き乱す麗男子の情液を注がれ桔梗の欲望は天へと至る。共に果てたことで手を握り合う。口付けをねだった。廊下から足音が聞こえる。
『お桔梗きょう
 天井裏から氷水が降ってきたのではあるまいか。真冬の極寒日に外で放置していた氷水が落ちてきたのでは。夫の野太い声を聞いた途端、桔梗はまなじりがはち切れそうなほど見開いた。脚の間に男を咥え込んでいる自分の状況を理解できないでいる。
『お桔梗きょう、どこにいる?』
 部屋の外にいる野太い声を夫だと思い込んだ。呼び方が夫である。
「あ………い、や…………」
 監視役と交接している。見れば分かるもの、否、見ずとも肉体が感じているものを彼女は受け入れられなかった。自ら腰を振り、その狭肉で牡芯を扱いていたことも桔梗の覚えにはない。だが彼女の異変に気付きながら、肌を食い込ませる真後ろの凶暴な意思は離れようとしない。
「そ、んな………そんな、ぁあ………っ」
 畳を引っ掻き、夫の呼ぶほうへ這う。自分と叔父を捕縛した憎い男は彼女の腰を力強く握り結合を緩ませはしない。
「一緒です。同罪です。俺たちは」
「あっ、う……んっ」
 暴力的な律動に晒される。激しい快感が彼女の厭悪感を弾こうとしている。畳に縋り付き、襖に近付く。夫以外の者に抱かれながら出る気なのだろうか。監視役はというと彼女の腰を抱き締めはするが、這いずる彼女を止めはしなかった。
「桔梗様」
 一打を確実に穿たれ、崩れそうになる。睡魔に似た快楽が迫ってきている。
『お桔梗きょうさん?』
 足音が近付いてきている。
「い、や………いや、っ!」
 桔梗は口元を押さえた。葵の腕は彼女を転がして引き寄せる。対面する姿勢に変えられ、声を抑えるか自分を犯す男を拒むのか判断ができずにいた。
「ぃや、……!あっ、あっ、やめ、ぁんっ、!」
 上半身を倒し、強く掻き抱かれた。裸体と裸体が密着する。男の筋肉の質量と重みを感じた。この者の好さを知った潤路は簡単には忘れずに喜悦を搾り取ろうとする。
「あっあっあぁ、おや、め……くださ、あっぁ」
 言動と肉体反応が一致しない。奥を突かれ、彼女はまた果てる。野犬と化した監視役も最奥まで進んで吐精した。
「あ………っ、ぁあ…………」
 身体を反らすこともできない力任せの抱接だった。
「あ、ああ………夫、夫……………が、」
「俺も一緒に咎を受けます」
 蠕動ぜんどうする若い肉杭を収斂のまだ治まらない精壺が引き留める。
「罰は俺一人が受けますから」
 中から葵が抜けていった。栓を失い、執拗に注がれた彼の子種が漏れた。
「か、帰って…………帰ってください…………」
 まだ状況が呑み込めていない。部屋の隅で小さくなり自分の裸身を抱いて、身形を整える監視役に懇願する。
「帰ってください………お願いします…………帰って………くださいまし………」
「ご夫君に挨拶をさせてください」
 彼の貌には残酷な決意が秘められていた。
「やめて!やめてください………帰ってください、お願いですから…………」
 自分には夫がいるという事実に彼女は傷付き、好きでもないどころか憎んでいる男に身体を許した現状に彼女は絶望してしまった。目は真っ赤になり水の膜が出来上がっている。
「ご夫君に挨拶をします」
 彼は裸の女に着物を掛け、屋敷の中を歩き回る。桔梗は茶室に頭を擦り付けてうずくまった。
「ご夫君はどちらにいらっしゃるんです」
 女体を味わい尽くした男が戻ってくる。彼女はびくりと震えた。
「帰ってくださいまし……」
 震える手を構え、裸のまま額を擦り付ける。彼女の低姿勢に合わせ、相手も膝をついた。
「ご夫君に挨拶をしなければなりません」
 彼はあまりにも移ろいやすいこの女の機嫌に疲れ果て、とうとう気が狂ってしまったのかも知れない。正気の眼差しではなかった。自分を苦しめた女への憎悪と愛欲に満ち満ちている。
「許してくださいまし………許してくださいまし、許して……」
「ご夫君はどちらに?」
「夫を連れて、後から参ります……参りますから、………」
 監視役は虚無を捉えた目で桔梗を見つめる。
「夫は今いないんです………」
 するとどこからか、白い蛇が侵入してきたらしい。畳を這っている。桔梗のほうに向かってきていたのを監視役が一瞥する。
「ヘビがおります。始末しますか」
「いいえ…………」
「そうですか」
「お帰りください。こんな小さいヘビよりも、今は貴方のほうが恐ろしいです……」
 彼は無言だ。立ち上がるとヘビを素手で拾い上げる。
「始末はしません。外に放つだけです」
 物静かに監視役は帰っていった。玄関戸が閉まるのを聞いてから、桔梗はうっうと泣き始める。
「お人形ヨメさん」
 夫の無邪気な声が死角から聞こえる。
「可哀想なお生贄ヨメさん」
 裸足が畳を踏み鳴らす。泣き伏す妻の背中に手を当てた。
「旦那さま……許してください。許して………」
「許してあげる。楽しかったから。全部、許してあげる」
 全裸に毛むくの尻尾と尾を生やした夫に、着る物を引っ掛けただけの女が縋りついて泣きじゃくる。
「全部、許す。ボクのかわいいカワイイお生贄ヨメちゃん。大事な大事なお人形ヨメしゃん」
 護符の下の口元が吊り上がる。夫の手に髪を撫でられるうちに桔梗は眠りについてしまった。少し魘されて、あとはすべて悪夢である。起きてしまえば幻と化し、取るに足らない出来事として泡沫の如く消えた。

「泣いちゃダメだよ、おヨメしゃん」
 目元を摩られて顔も分からない夫の姿で目が覚める。膝枕で目が覚める。自分の丸裸の姿に彼女は赤面した。夫婦の密事を昼間から大いに愉しんでしまった。
「ごめんなさい。こんなかっこうで……」
「ボクはいいよぉ。お目々が幸せ。だっておヨメさんだもん」
「まだダーシャにはならないでくださいまし。あの子が可哀想ですから」
 桔梗は急いで服装を整える。夫はすぐ傍でそれを眺めていた。そして妻を構いたがる。
「さっき薬屋さんが来たよ。なんかね、散歩行く時は薬屋さんの許可が要るんだって」
「……そうなんですか。すみません、眠ってしまっていて」
「いいよぉ。ボクでいっぱいキモチヨクなってくれたんだもんねぇ。おヨメしゃん、すごく可愛かったよ。今も可愛いのに、ボク、もう止まんないよぉ」
 歩こうとする妻を邪魔して夫はその背中に前から凭れかかる。
「おヨメちゃんは、キモチヨカッタ?」
「……はい」
「キモチヨ過ぎて泣いちゃってたもんね。いい!すち!」
 長いこと夫は妻を追い回していたが、やがてダリアに戻った。傷に接する垂布を汚してきょとんとしている。
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