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飾れ星屑 9話放置/濃いめの暴行・流血の描写あり/殺人鬼美少年/引きこもり美青年
飾れ星屑 2
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〈 高くなった青に 線を引く雲が 小さなイワシの尾から 点々と鱗を散らして 見上げた場所 朗らかな故郷 〉
―廻冬ちゃんは、お歌が上手いわねぇ。将来はオペラ歌手よ。
〈 目の前は凍るの 身に付けたダイアモンドは灰みたい 時間が止まって 永遠になる 冬の棘に貫かれ 〉
『下手くそなくせに歌なんて歌わないで!ずぅっと変な声聞かされて、頭がおかしくなっちゃう!』
「―はい、ママ」
廻冬はぶつぶつと口遊んでいるのを止めた。回して弄んでいたオレンジとも赤ともいえない色のガーベラの舌状花を指と指で挟み、つっ、と毟った。歌うのをやめたペールピンクの唇が弧を描く。
「くくく………っ」
花瓶から白いガーベラを抜き取ると、左右にそれぞれ持って戦わせる。その光景は戦わせているようにしか見えなかった。
「ちゅっちゅ………くきききき………」
廻冬は唇を窄め、2つのガーベラの花芯を合わせ、満悦する。それは花の交配ではなく、花を人に見立てた口付けのようだった。色のあるガーベラは白いガーベラをテーブルの上に押し倒す。白いガーベラの茎を花の表面が舐めるように辿っていく。股間が膨れ上がっていく。彼の脳裏には、男女1組の、それも具体的な人物2人の姿が描かれていた。視点は天井からだった。女は喜んで男の背に腕を回し、爪を立てるのだ。男の腰に脚も絡めている。2人は同じリズムで上下に揺れ、やがて男は情けなく別のリズムで尻を前後するのだ。女は高い声で淫らに鳴き、男をさらに抱き寄せる。恥ずかしく下半身を揺らす男は、ぐっと腰を女の股に深く沈めるのだ。利発的で地味で野暮ったいが、雰囲気だけは爽やかな男女が、密室では獣欲の限り歓を尽くす。
廻冬はerectionしたpenisを扱いた。まだ若い身体はejaculationへの欲求に抗えない。予期していないmasturbationだった。磨くように手筒を動かす。一部グロテスクな顔面を持つ美男子に溺れる女を想像する。次々と送られる快感の往なし方も分からず悩ましげな眉と、熱く蒸され潤んだ瞳。好きな男の前では醜情すらも艶美な希求に塗り替える。緩んだ口元が、愛する男にだけはさらなる悦楽を乞い、また見返りとばかりに男を蜜地獄で絞り上げるのだろう。性感帯を突かれ、彼女は男の背中に爪を立て、両脚の組む力を強めるのだ。愛し合い、互いが恋しい2人は片方の絶頂を何よりの淫肴としてオーガズムを迎える。
この男女の濃厚な交合いと心身共に昂り果てる悦楽に思いを馳せ廻冬はぶる、ぶる、と腰を戦慄かせた。そして白いガーベラが一輪挿してあった花瓶の中にとろりとした濁液を放つ。連日の吐精で粘度はあまりなかったが、見た目からは差のある強壮な欲によって勢いは衰えなかった。水の中にレースカーテンを作り、瞬時に消えた。
「お姉ちゃん………お姉ちゃん、お姉ちゃん」
燃えるような色のガーベラは壁に叩きつけられ、残った白のガーベラは廻冬の真珠みたいな頬に擦り寄せられる。
「僕のかすみお姉ちゃん……」
冷たい舌状花に撫でられている心地だ。接吻する。ejaculationの後の気怠さに、彼は花を抱いてベッドへ倒れた。
◇
車庫に、菓子みたいなピンク或いはゴシックロリータファッションを淡い色合いにアレンジしたときのようなピンク色と黄味のあるオフホワイトの車が停められていた。―緋霧の車ではない。彼女の車は白地を下塗りにしたようなモスグリーンだ
来客である。間が悪かった。今の彼女の服装といえば、ボタンの弾け飛んだブラウスに、襤褸雑布と見紛うほど粗末なロングスリットを入れられたスカートだ。木に引っ掛かって転んだ、もしくは転んだ際に木に引っ掛かった。あらかじめ考えておいた説明を内心で復唱する。訊かれないのが最も都合が良い。次善は問われず気にもされないことだ。
玄関前に訪問者はいなかった。家主不在だというのに中へ入ったらしい。いくらか図々しさは否めなかったが、車庫に駐車しておきながら物盗りとはあまりに大胆だ。車のカラーリングもカラーリングである。スウィートでキュートかつファンシーを全面に出しているのだ。それが最も緋霧に大した警戒心も抱かせなかった。友人か誰かが来たのだろう。それか家族の知り合いか。しかしやはりこの家の者がいないことは分かるはずだ。
不在を詫びながら玄関扉を開く。まだいくら警戒心はある。いきなり、まるで応答代わりにぐぉぉ、と鼾が聞こえた。どき、としたがすぐに思い当たった。
「叔父さん!」
リビングの床でごろりと横たわっているクマみたいなのは、緋霧の父の異母弟だ。もっさりと頭と首、肩のラインまで隠す傷んだ毛が巨大な毛虫、ヒトリガの幼虫を思わせる。明らかに堅いところの会社勤めをしている身形ではなかった。背が高く、肩幅は広く、胸と腹が厚くしっかりと構えられ、強靱な腿と脹脛、雪山で見つければイエティと紛う足が見えた。それがどかりとラグの上に寝ているのだから緋霧は怯んでしまった。ぐぉおお、ぐごぉ、と地響きのするような寝息だ。特定動物が逃げ出したと大騒ぎされても仕方のない大仰な轟きである。彼はスーツを着ていた。オーダーメイドだろう。既製品では納まるはずもない。ダークグレーがなかなかに似合っている。ネイビーでは似合わず、ブラックでは重っ苦しかっただろう。
「叔父さん!」
車庫に停まっていたピンク色の車は彼のものということになる。
「起きて、叔父さん。風邪ひいちゃうよ」
しかし父の異母弟は起きない。もう一度声を掛けようとしたが、緋霧は今の自身の服装を思い出すと、叔父が目覚めないことを幸いとしてその場を離れてしまった。身体を洗う間はないけれど、着替える間はある。恋人の双子の兄に出されたものが不快だ。クリニックに行かなければならないと思いながら、あの出来事と向き合えず、行けないかも知れない。叔父が来ていることも一瞬で忘れ急激な憂鬱に押し潰されそうになる。
着替えを持って風呂場に入った。脱衣所の鏡の前でおそるおそるブラウスを開く。どうにか、あれは悪夢で、虚構で、嫌な幻覚だったことにはできないか。しかし皮膚には薄紅色が浮かんでいる。5つ、6つ……数えるのをやめて、溜息を吐く。そのタイミングで風呂場のドアが開いた。鏡に「うぃ~」と唸りながら呑気に入ってくる。この脱衣所を兼ねた洗面所はそう広くない。大男が入って来ると緋霧はもう身動きが取れないほどだった。
「おっ………おん?」
彼はがりがりと枯れ葉の山みたいな頭を掻いて、まず異母兄の娘の姿に驚いてから、彼女の風采に驚いた。二段構えに人懐こげな目を丸くした。それから眼鏡を失くした近視の者みたいに目を細める。寝起きに顔でも洗いにきたらしい。
「おお……」
「叔父さん、ごめんなさい。今帰ってきたところで………」
「おん」
健康的な浅黒い顔は今はまだ寝呆けたところがあり、夏休みの活発な男児の早い朝を思わせる。
「叔父さん、顔洗う?」
カニ歩きで横へずれる。
「おん……急に来ち悪かったんな。パチで勝ったけん菓子っこ、テーブルに置いてあるから食いやっせ」
目元や眉間を揉みながら彼は言った。野生的な匂いが強いけれども男振りは悪くなかった。すれ違うと異国情緒溢れる焼香系の甘たるい匂いがした。
「あのピンクの車、叔父さんの?」
「おん。この前買い替えた。可愛いんべ。あーしのパーソナルラッキーカラーちゆうもんがベビーピンクだったんさね」
彼は大きな両手で水を受け止め、顔面に叩きつける。呼吸もしているのか、ぶほぉ、ぶほぉと破裂したみたいな音を立てて息が抜けていく。
「悪ぃんね。風呂入るんだんべ?頭乾しちくるまで、ちょくら自販機までゆく。ごゆっくり」
ある種スタイリッシュだが、どこか佚民じみた図体がのしのしと出て行く。
身を清め、髪を乾かしてからリビングにいる叔父にペットボトルの茶を出した。彼はテレビ番組を観ていた。
「待たせてしまってごめんなさい」
「いんや。急に来ちまって悪かったぃな」
遠慮することもなく叔父は湯呑が猪口に見えるくらい大きな手を伸ばして茶を呷る。緋霧はまたペットボトルから茶を注いだ。
「ほい」
彼は代わりに缶のココアを出した。有名なメーカーで、よく見る商標だ。
「飲みやっせ」
礼を言って手を伸ばすと火傷するほどではないけれども長く握ってはいられないくらい温度があった。
「あたたかいの、買ってきてくれたんですね」
「おん。ああ、そうだ。こり、寄付の礼ちもらったけ。こげん使わん。2つやる」
彼は寄付した先の施設の子供たちの絵が刷られた卓上カレンダーや、自治体名の入った安そうなボールペン数本を渡した。彼の寄付した金は、このカレンダーに載っている紙や画材、印刷などにも使ったらしい。スーツの胸元には端材でできたらしき枝木のブローチが刺さっていた。そのままピンの土台に円形の木材の土台を貼り付けた後に、短く切られた太い幹が横たわって貼られ、赤いリボンが巻いてあるだけの、簡素というより粗末な、作るだけ作ったという感じのブローチだ。環境保護団体か、ボーイスカウトやガールスカウトにも寄付したのかも知れない。
「うん。じゃあテレビの上に飾っておくね」
包装を剥いて頼りなげなアクリルパーツを組み立てると、テレビの上にあるスペースに置いた。
「線香上げてよかか」
叔父はのしりと立ち上がった。緋霧は頷いて仏壇へ案内した。今年のはじめに弟を亡くしている。今年2人、立て続けに周りの者が死没した。
「うん」
弟は殺された。犯人は依然として捕まっていない。頭蓋骨を鈍器で砕かれたのだ。誰にも見つかることなく寒空の下、冷えたアスファルトを寝棺に死んでいた。即死ではなかったのが、さらに鷹庄家一同を滅多打ちにしたのだった。
線香に火が着いた。ち~んと金属音が鳴る。大きな掌が合わさった。彫りの深い叔父の窪んだ目が閉じていく。長い沈黙だった。緋霧はぼんやりと違うことを考えていた。否、何も考えずに思考は空虚の最中にあったのかも知れない。
「カレぼんのお宅行ってたんけ」
父の異母弟は膝を擦って、傍に控えていた緋霧を向いた。
「うん」
「そうけ」
この大柄な男は、異母兄の息子を可愛がっていた。自分たちの父や母のことを巡り兄弟の仲はぎくしゃくしていたようだが、甥姪の存在は彼等の関係を軟化させたようだ。この見目は厳つく恐ろしい男も、甥の前では非常に柔和な顔をした。まだ16だった彼が息を引き取った日から、叔父はすっかり寡黙になってしまった。
「それじゃ、お疲れのとこ悪かった」
「いいえ」
「仕事に戻る」
叔父の職業は、簡単にいうと占い師だった。そういう職種のどこかに所属しているわけではないため職業欄には自営業と書いているらしい。
無愛想に彼はのしのしと玄関に向かっていく。
「叔父さん」
「おん。お父ちゃんに味良く。そいぎ」
振り返ることもなく大きな背中が窮屈ではなかったはずの玄関から出ていった。弟の生きていた頃は、手相鑑定をよくして帰っていった。弟の掌に顕れていたという凶兆を、まるで冗談のように語っていたが、実際、彼は死んでしまった。殺されてしまった。そこまでは見通せたわけではないようだが、これを凶兆の結果といわず何というのだろう。
易占を職にしておきながら、あの叔父自身、占いを信じていたわけではなかったようだ。しかし弟の運命をある意味では漠然としながらも当ててしまった。思えば彼の毎月の寄付はそこから始まった。もうすぐ1年になる。
◇
鷹庄雪兎吉は、特別美童というわけでもなく、一目見て美男子と判じられるほどの端整な顔立ちはしていなかったが、決して醜悪というほどでもなく、また華やかな愛嬌や雰囲気からいっても冴えない少年というほどでもなかった。己の審美眼にそこそこの信用を廻冬は持っている。可もなく不可もない、いくらかその持ち前の明るさと危ういまでの人懐こさが微かなアドバンテージといったところの凡俗な少年だった。廻冬より学年も年齢も1つ下の、彼女の弟であるという点以外、何の面白みもない迂愚な存在だった。姉と違い、見るからに軽率そうだと思ったが、言葉遣いや喋り方からしても、聡明げな姉には似なかったのだと知る。軟派で軽率で、頭は良くなかったみたいだ。そういう相手であるから、その中身の無さそうな頭を搗ち割ることに廻冬は躊躇いを覚えなかった。何も入っていなかったからこそ、簡単にその頭蓋骨は砕けたのかも知れない。
廻冬はみかん色のガーベラの舌状花をぶちぶちと毟っていた。彼は壁面収納のクローゼットがある部屋の隅を凝らす。そこに彼女の弟を飼っていた。ほんの3日間、2泊3日、番犬にはならなさそうなのをそこに繋いでいた。
「ぐ、くくく……」
花を放り、腹を抱えて嗤った。しかしあまり覚えていなかった。石蕗静架を焼き殺したときの叫び!そして喜び!噎ぶ彼女の姿!頭の悪い狗を一匹叩き潰したことなどすぐに忘れてしまった。
男の悲惨な最期と女の喪服姿が同時に甦り、廻冬は勃起を握り締めた。火を纏い、血肉を焼かれていく恋人にも、青褪めていた彼女は股を開くのだろう。彼女は神だ!火を纏う男から、焼け爛れた子を、焼かれた股から分娩するのだろう。激しい興奮に、廻冬は我が身こそ焼けてしまいそうだった。5分と経たずに射精する。白いガーベラにべったりと粘液が付着した。
「ひひひひ………」
顔面に牡種を受ける女を思い描いた。放精した直後にもかかわらず、倍増した欲情を催してしまい、彼は花瓶からその白い花を抜き取った。形が崩れるのも厭わず、濡れ汚れている勃起ペニスで花を突き、そして花茎と陰茎を一緒に扱いた。花茎とmasturbationするのでは治まらず、花を握り潰して自涜する。女のあの小さな口に無理矢理この汚穢棒を咥え込ませているようだった。否、恋人のものならば喜んで舐め舐ったに違いない。それもまた猛烈な官能の材料にされた。しかし力尽くで彼女の可憐な口に突き入れるのも悪くない。彼女の喉に締め上げられる快感を想像した。腹の中にも放出したいが、彼女の胃にも放出したい。味の査定もさせたかった。
ぶるぶる震えて精液を飛ばす。射つたびにグロテスクな肉棒が跳ねた。美味そうな色のガーベラが横たわり、そこで白濁粘汁を受け止めていた。
「可哀想なゆうきちちゃん。お姉ちゃんのこと想って出したんだから、実質、お姉ちゃんジュースだよね?感謝してよ、ゆうきちちゃん……………ひひひひひ、うふ、うふふふふふふ、あはっ」
木琴でも奏でるような手付きをした。手を落とすようにスナップを利かせる。彼女の弟を葬るときも、そのようにハンマーを落としたような気がする。気持ちはそうだった。だがやはりあまり印象に残っていなかったのは、彼から名前や住所などを聞いた彼女の恋人の、或いは彼の義兄になり得た美男子の惨劇に上塗りされたからだろう。
「ゆうきちちゃん、君のせいだよ、ゆうきちちゃん。ひひ……お姉ちゃん、ホントのコト知ったら君のこと恨むだろうな。サイテーだよ、ゆうきちちゃん」
しかしながら、目の前でスプレー缶を用いた簡易的過ぎて危険なガスバーナーを見せつけたのだから、いくら家族とその恋人とはいえ、訊かれたことを喋ってしまうのは仕方がない。廻冬もまたそれが脅迫として成り立つことを分かった上で準備したのである。
「そうだよね、ゆうきちちゃん」
振り向いた。机の上に小さな写真立てがある。鼻水と涙、涎に汚れた顔は怯えに満ち満ちている。監禁している時にスマートフォンで撮ったものを遺影にした。その隣には、彼の義兄にさえなり得た男が炎に巻かれた姿が遠目から撮られている。ズームして撮ったため、映りは悪かった。緋色の中で人型の影になり、誰とでも言えるところが気に入らない。石蕗静架に関しては他に隠し撮りがあるけれど、廻冬のこだわりからすれば、命を落とす直近でなければ遺影らしくない。
「ゆうきちちゃんがやったんだよ!」
怯えきった写真に燃やされる男の写真を見せてやった。鷹庄雪兎吉は顔中からあらゆる液体を出し、姉の恋人の惨たらしい最期を見てやる気もないらしかった。
「ふ………ひ、ひひ」
彼女にこの写真を見せたら、彼女は驚倒してしまうかも知れない。そして失神してしまうだろう。妄想の中の彼女は2人の葬儀の時のようにワンピースの喪服だった。肩や背中からして薄く見えてもしっかりとそこに或る豊かな膨らみ、腰で引き締まり襞を作るフレアスカート、ストッキングの透けた脚……なめらかなラインをつくる足首とパンプス。青白くなりながら汗をかいて意識を失った彼女からひとつひとつ衣皮を剥ぐのだ。その時はどれだけ痛々しく漲っても我慢せねばならない。彼女を全裸にするまで、ひとつひとつが試練だ。
シミュレートを逞しくしただけで、廻冬は生唾が止まらなくなっていた。
一糸纏わぬ身体にしたら、次は汗を拭くのだ。黒真珠のネックレスが映えていた首をまず丁寧に拭くのだろう。強烈な情欲が先走り、その首を扼してしまわないか、廻冬は己の所業を信用できなかった。そして胸だ。彼女の胸は、淫らな焦燥の中に幾度となく描像した。死んだ男に揉まれたのだろう。その男の種で身籠った子に吸わせる箇所の悩ましさに廻冬はぶるぶる震えてしまった。野良犬の子を産む悍ましさと同時に、殺した牡種で孕んだ女の哀れさに沸々と欲望が煮え滾る。
シミュレーションは中断された。下腹部にぶら下がった器官が腫れ上がって疼いている。廻冬は脳裏に横たわる女をそのまま犯した。そこに彼女の愛する故人はいない。廻冬がその手で陵辱する。弟と恋人を殺した年下男の凶暴なピストン運動に、女は最初は嫌がるが、やがて嬌声を上げ、快楽に悶えるのだ。そして殺人犯の種を欲しがり、子を授かる。恋人が舐め回し、吸い尽くした乳を、我が子が咥えるのだ。
びゅびゅ!と数度目とは思えない射精をした。廻冬は今回の勃起に関しては一度も手を触れなかった。にもかかわらず、彼の下着の中はしとどに粘り気を帯びて湿った。ふうふうと呼吸する。内部の問題としてはまだ物足りない。しかし体表は急な摩擦に音を上げていた。
「ぐ、ひ………ひひひひひ」
廻冬は写真立てを伏せた。
『廻冬ちゃん!廻冬ちゃん!何時間もお部屋に籠って何してるの!』
ヒステリックな女の声が部屋の前の廊下に響いた。廻冬は意地の悪い笑みをやめた。ぱん、と自らの横面を張る。
「ママ……」
『ママと話すときはお部屋から出てきなさい!』
「はい、ママ―」
彼はすいと勉強椅子から腰を上げた。
+
緑公園は市民と自然のふれあう場所として近ごろ出来たばかりの大規模な公園だった。芝生の上でピクニックもできれば、その周りを走れるよう整備もされている。グラウンドの外周には小山もあり、屋外用トレーニング器具なども設置されていた。中心部にはなかなか背の高い木が数本植えられて日陰を作る。
廻冬は小さく音楽をかけて歌っていた。好きなミュージシャンだが、すでに解散している。好きな曲も、自分が生まれて間もない頃に発表されたものばかりだ。流行りの曲にはあまり詳しくない。
「天気良くてよかった。あっちどう?」
「すみちゃん、虫大丈夫?」
「うん。夏よりいないでしょ、多分」
目の前をカップルが通るけれど、彼は構わず歌い続ける。広い空の下では母の耳に届くことはない。
カップルは走路を挟んで廻冬の視界の真ん中の辺りにビニールシートを敷いた。近くにある洒落たパン屋の袋を提げていたが、出てきたのはまずコーヒーと思しき紙タンブラーとサラダパスタだった。それから3つほど小振りなパンが並べられる。その間、女のほうは身体を揺らしていた。
「すみちゃん、この曲知ってるの?」
「知らないけど、綺麗な声だなって」
女は穏やかに微笑した。男もつられて笑う。暖かな日差しを浴びて、2人の朗らかな時間が廻冬の眼に灼きつく。眩しいまでに世界が塗り変わって見えた。見上げた空に女と男の姿が濃い影を遺している。
「ははは、妬いちゃった?」
「妬いてないよ。おれも思ったもん。おれ音痴だし」
「でもあの変わった鼻歌、わたしは好きだよ。あはは―」
眩しかった。あの日から善悪の点について廻冬は盲てしまった。燃え盛る炎の中で焼けていく男は、麗かに陽射しを受ける彼のようにはならなかった。けれど、眩しかった。猛火よりも。
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