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弟だ家族だと思って甘えていたこの馬鹿の気持ちが分かるってかい。番雌として見られる悪さを偉そうに語って、ちっとも分かっちゃいないよ!あの弟を悪く思ったらいけないなんざこの阿呆がよく分かってるさ。それが何?軽蔑されるべきはどっちだって?そのご忠告は瀕死の人間に小水をかけて殺した挙句、死体を犬に食わせてやるのと同等だよ。まったく素晴らしいな。カワイガッテタ弟を貶した男にかましたかった一撃、素晴らしい主張のお礼に受け取ってよね。
女はもう一度拳を振り上げた。アッシュが咆える。仰天する菖蒲の膝に2粒ほど滲みを作った。気が狂ってしまった!男が叫んだ。
家族っていったって結局は違う人間なんだしさ、諦めなよ。第一公子の末路、知ってるんでしょ。
離れ家の大窓を開け放ち、そこに座りながら刈りこまれた青い芝生を眺めている後姿を見ていた。照明は点いていなかったが夕方に差しかかる頃の明るい日の光でその広くない背中は逆光していた。室内も丁度良い暗さで、よく磨かれた床は白く照っている。
独りで生きていきなよ。だってアンタはこの国を裏切るんでしょ?
後姿は黒衿に目に痛いほどの鮮やかなローブを肩から掛けていた。形見だった。しかし棺に入れることは許されなかった。飽くまで城の或る権力者の親しい友人としてしか弔われなかった者の制服だった。襟元の解れた金刺繍を直したこともある。
「それ、返して。大事なものなの」
嫌だよ。あの人の本懐を遂げないヤツが持っていていいものじゃない。
大窓で座っている後姿は足をばたつかせ、きゃははと笑った。その声に反応したように強風が吹きすさんだ。顔を伏せると目の前を花弁が飛ぶ。一面の花畑に眩しいほどの晴天が広がっている。白い小さなチョウが舞っている。
誰かとよろしく、ここで生きていくっていうの?四季国はどうなるの?約束は?
女が両手を大きく開き、胸で風を受けると走り回って花の絨毯とチョウの中ではしゃいだ。見えなくなるほど遠くまで走り、そのことに安堵した。別方向に歩き出す。足を置いたところから花は潰れ、枯れていく。空は黒く染まり、赤みが混じった。黒煙を緋色が彩っている。火の粉がチョウを焼き尽くす。焦げて爛れた無数の手が足に縋る。甲高い女の笑い声が響く。不言通りが燃え、建物が倒壊していった。
覚悟もなしに来たワケじゃないでしょう?
女の姿も火に包まれていく。女の腕の中には業病に侵され没した青年が四肢を投げ出して収められていた。火の粉が渦巻き、消えていく。
人の気持ちは移ろうものだもんね?誰もアンタを恨まないよ。何て言ったって死んじまったんだからね!―貴方以外
女の冷ややかな目に嗤われながら後ろから他人の体温に包まれ、沈み、呑まれていく。
寝室の木目の天井が視界を占め、胸元の苦しさを身動きをとることで払った。呼吸がいくらか楽になる。不満げに脚の間へ野良猫は居場所を見つけたようだった。居間に移ると縁側に人陰があり、一瞬心臓が止まりかけた。
暗殺なんざやめとけ。まだ若ぇ命散らすなド阿呆。
知らない後姿は男のものだった。縁側から膝を下ろし、項垂れている。
「何が…ですか…」
思想のためなら惚れた男も殺すってかい。
訳の分からない男に気味が悪くなり、寝室に戻る。書院窓に置かれた籠を開け、巣箱の中身を掌に出した。木屑が畳に散らばった。埃まみれの生きた毛玉が現れる。動いている。死んでいない。小さな生き物をぞんざいに扱った罪悪感に襲われる。行き場のない激しい活力が渦巻き、歯の間から、唇の隙間から漏れ出そうで、そうでなければ叫びそうだった。畳に崩れ落ち、堅く編まれた藺草に爪を立てる。割れた爪が鋭く痛んだ。
極彩さん。
襖が開き、菖蒲がやってくる。助け起こされるが己の足で立つことを拒む。
あいつは業病だな。幸か不幸か殺さなくても勝手に早死にするさ。
女は泣き喚き、髪を掻き毟る。畳へ頭を打ち付け、腕を噛んだ。低く落ち着いた声で喋る男は突き放すように言葉を続ける。
「許して、そんなつもりじゃなかった…許して…」
手加減のない力で起こされる。暴れる女の口元から腕を放させた。
殺すつもりだったんだろ、裏切るつもりだったんだろ。その感情は偽善だ。
女は悲鳴を上げ、男の胸倉を引き掴む。
「縹さんも銀灰くんもすぐいなくなる!あたしが悪いんだ、あたしが悪いんだ!」
『そうだよ、アンタが悪いんだよ』
男の腕から擦り抜け、隠し持っていた短刀を手に取った。玄関から荒々しい足音がいくつも聞こえ、抜刀した集団が流れ込んできた。白刃が輝き、顔面の傷が大きく痛んだ。師が無数の剣に刺される光景が蘇った。親父、親父と陽気に語る少年が遠い。花畑の中で踏み躙られ、負けを認め、不名誉に生きていく。
誰がそうさせた?
『アンタじゃないの』
剣のひとつが女の喉を突いた。その刃の持主が、明るい茶髪の琵琶弾きへと変わっていく。布団の中で重なった体温に寒気がした。眠げな双眸と見つめ合っていると、相手は可憐な少女と腕を組みながら人々の祝福を受けていた男へ変貌していく。床に血が落ちていく。喉を貫く剣が抜かれ、畳へと落ちた。耳鳴りで囀りも聞こえない。穏やかな眠り。叔父の遺した花の芳烈がやって来ることもない。しかし深い安堵があった。少年が何の後ろめたさもなく表を歩ける。そしてあの色罪人の浮気の証拠も消えるのだ。白い袴の奥に陰湿な笑みを湛えた麗らかな少年が立っている。
「―、君のことは、すぐ忘れてあげるよ」
結局あたしたちはさ、同じ穴の狢なんだよ。狢はかわいいけど、あたしたちは醜いね。広く長い斬頭台の階段をさ、右往って左往って昇り降りしてるだけなんだ、生まれた時から。アンタも満更でもなかったんじゃない。あの縁談に乗れば万事解決だよ。血が繋がってなくてよかったね。でもさ、死別する回数増やしてどうするの?せっかく誘惑して誑かして捨てたのにさ。この国を滅ぼすって決めたんでしょ。どんなこともするって決めたんじゃないの。そんな人間がさぁ、おめでたく幸せになりますなんて許されると思ってるの?あの人が生きてる時に何もしなかったくせに。あの人の手枷・足枷になってさ、何もせず終わるつもりなの?情けないな。生き残ったのがアンタじゃなきゃよかったね。そうしたら今頃、この国は事変だよ。風月事変になって一矢報いていたかも知れないのにね!四季国の人も浮かばれないよ。アンタを信用しちゃってたあの人が可哀想だな。四季国じゃ手に入らなかったものが揃って、舞い上がって、嬉しくて幸せで、ここで生きていこうだなんて思っちゃったんだ?かっわいそ。もっと可哀想なのはアンタに短剣くれた第一公子とあの人だよ、恥知らず!アンタは女体以上の価値がないことに早く気付いてったら。精々カワイイ弟とあの襤褸雑巾の面白道具にでもなってめでたくこの国で朽ちることだよ。誰も傷付けずに済むんじゃない?喜びに満ちた別れ方まで期待できるよ。おめでとう!やったね!やったね!やった!やった!やった!
「極彩さん?極彩さん?」
肩を揺さぶられ、目が覚める。
「お疲れですか?お疲れですね。こんな生活続けてたら気が狂うのは必定ですわな!」
菖蒲の呆れた嘆きが聞こえ、腋に腕を通されると足が宙に浮いた。
女はもう一度拳を振り上げた。アッシュが咆える。仰天する菖蒲の膝に2粒ほど滲みを作った。気が狂ってしまった!男が叫んだ。
家族っていったって結局は違う人間なんだしさ、諦めなよ。第一公子の末路、知ってるんでしょ。
離れ家の大窓を開け放ち、そこに座りながら刈りこまれた青い芝生を眺めている後姿を見ていた。照明は点いていなかったが夕方に差しかかる頃の明るい日の光でその広くない背中は逆光していた。室内も丁度良い暗さで、よく磨かれた床は白く照っている。
独りで生きていきなよ。だってアンタはこの国を裏切るんでしょ?
後姿は黒衿に目に痛いほどの鮮やかなローブを肩から掛けていた。形見だった。しかし棺に入れることは許されなかった。飽くまで城の或る権力者の親しい友人としてしか弔われなかった者の制服だった。襟元の解れた金刺繍を直したこともある。
「それ、返して。大事なものなの」
嫌だよ。あの人の本懐を遂げないヤツが持っていていいものじゃない。
大窓で座っている後姿は足をばたつかせ、きゃははと笑った。その声に反応したように強風が吹きすさんだ。顔を伏せると目の前を花弁が飛ぶ。一面の花畑に眩しいほどの晴天が広がっている。白い小さなチョウが舞っている。
誰かとよろしく、ここで生きていくっていうの?四季国はどうなるの?約束は?
女が両手を大きく開き、胸で風を受けると走り回って花の絨毯とチョウの中ではしゃいだ。見えなくなるほど遠くまで走り、そのことに安堵した。別方向に歩き出す。足を置いたところから花は潰れ、枯れていく。空は黒く染まり、赤みが混じった。黒煙を緋色が彩っている。火の粉がチョウを焼き尽くす。焦げて爛れた無数の手が足に縋る。甲高い女の笑い声が響く。不言通りが燃え、建物が倒壊していった。
覚悟もなしに来たワケじゃないでしょう?
女の姿も火に包まれていく。女の腕の中には業病に侵され没した青年が四肢を投げ出して収められていた。火の粉が渦巻き、消えていく。
人の気持ちは移ろうものだもんね?誰もアンタを恨まないよ。何て言ったって死んじまったんだからね!―貴方以外
女の冷ややかな目に嗤われながら後ろから他人の体温に包まれ、沈み、呑まれていく。
寝室の木目の天井が視界を占め、胸元の苦しさを身動きをとることで払った。呼吸がいくらか楽になる。不満げに脚の間へ野良猫は居場所を見つけたようだった。居間に移ると縁側に人陰があり、一瞬心臓が止まりかけた。
暗殺なんざやめとけ。まだ若ぇ命散らすなド阿呆。
知らない後姿は男のものだった。縁側から膝を下ろし、項垂れている。
「何が…ですか…」
思想のためなら惚れた男も殺すってかい。
訳の分からない男に気味が悪くなり、寝室に戻る。書院窓に置かれた籠を開け、巣箱の中身を掌に出した。木屑が畳に散らばった。埃まみれの生きた毛玉が現れる。動いている。死んでいない。小さな生き物をぞんざいに扱った罪悪感に襲われる。行き場のない激しい活力が渦巻き、歯の間から、唇の隙間から漏れ出そうで、そうでなければ叫びそうだった。畳に崩れ落ち、堅く編まれた藺草に爪を立てる。割れた爪が鋭く痛んだ。
極彩さん。
襖が開き、菖蒲がやってくる。助け起こされるが己の足で立つことを拒む。
あいつは業病だな。幸か不幸か殺さなくても勝手に早死にするさ。
女は泣き喚き、髪を掻き毟る。畳へ頭を打ち付け、腕を噛んだ。低く落ち着いた声で喋る男は突き放すように言葉を続ける。
「許して、そんなつもりじゃなかった…許して…」
手加減のない力で起こされる。暴れる女の口元から腕を放させた。
殺すつもりだったんだろ、裏切るつもりだったんだろ。その感情は偽善だ。
女は悲鳴を上げ、男の胸倉を引き掴む。
「縹さんも銀灰くんもすぐいなくなる!あたしが悪いんだ、あたしが悪いんだ!」
『そうだよ、アンタが悪いんだよ』
男の腕から擦り抜け、隠し持っていた短刀を手に取った。玄関から荒々しい足音がいくつも聞こえ、抜刀した集団が流れ込んできた。白刃が輝き、顔面の傷が大きく痛んだ。師が無数の剣に刺される光景が蘇った。親父、親父と陽気に語る少年が遠い。花畑の中で踏み躙られ、負けを認め、不名誉に生きていく。
誰がそうさせた?
『アンタじゃないの』
剣のひとつが女の喉を突いた。その刃の持主が、明るい茶髪の琵琶弾きへと変わっていく。布団の中で重なった体温に寒気がした。眠げな双眸と見つめ合っていると、相手は可憐な少女と腕を組みながら人々の祝福を受けていた男へ変貌していく。床に血が落ちていく。喉を貫く剣が抜かれ、畳へと落ちた。耳鳴りで囀りも聞こえない。穏やかな眠り。叔父の遺した花の芳烈がやって来ることもない。しかし深い安堵があった。少年が何の後ろめたさもなく表を歩ける。そしてあの色罪人の浮気の証拠も消えるのだ。白い袴の奥に陰湿な笑みを湛えた麗らかな少年が立っている。
「―、君のことは、すぐ忘れてあげるよ」
結局あたしたちはさ、同じ穴の狢なんだよ。狢はかわいいけど、あたしたちは醜いね。広く長い斬頭台の階段をさ、右往って左往って昇り降りしてるだけなんだ、生まれた時から。アンタも満更でもなかったんじゃない。あの縁談に乗れば万事解決だよ。血が繋がってなくてよかったね。でもさ、死別する回数増やしてどうするの?せっかく誘惑して誑かして捨てたのにさ。この国を滅ぼすって決めたんでしょ。どんなこともするって決めたんじゃないの。そんな人間がさぁ、おめでたく幸せになりますなんて許されると思ってるの?あの人が生きてる時に何もしなかったくせに。あの人の手枷・足枷になってさ、何もせず終わるつもりなの?情けないな。生き残ったのがアンタじゃなきゃよかったね。そうしたら今頃、この国は事変だよ。風月事変になって一矢報いていたかも知れないのにね!四季国の人も浮かばれないよ。アンタを信用しちゃってたあの人が可哀想だな。四季国じゃ手に入らなかったものが揃って、舞い上がって、嬉しくて幸せで、ここで生きていこうだなんて思っちゃったんだ?かっわいそ。もっと可哀想なのはアンタに短剣くれた第一公子とあの人だよ、恥知らず!アンタは女体以上の価値がないことに早く気付いてったら。精々カワイイ弟とあの襤褸雑巾の面白道具にでもなってめでたくこの国で朽ちることだよ。誰も傷付けずに済むんじゃない?喜びに満ちた別れ方まで期待できるよ。おめでとう!やったね!やったね!やった!やった!やった!
「極彩さん?極彩さん?」
肩を揺さぶられ、目が覚める。
「お疲れですか?お疲れですね。こんな生活続けてたら気が狂うのは必定ですわな!」
菖蒲の呆れた嘆きが聞こえ、腋に腕を通されると足が宙に浮いた。
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