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柄の織物を張り替えられたばかりの懐剣を菖蒲から渡される。房飾りも替えられていた。若者の置いていった懐剣と同じ物か否かの判別はつかなかったが、菖蒲は「返す」と言った。二公子にはすでに話が通り、一時的に指名手配が取り止めになるらしかった。弁柄地区に送られ、菖蒲はわずかな憂惧を媚びの中に浮かべていた。しかしそれを口にすることもなく、弁柄地区の入口にある停留所で別れた。橡によく似ているという若者が現れるのかは分からなかった。弁柄地区での目撃情報の後に新たな情報はない。もう会うこともないのかも知れない。まだ死亡の報せは聞いていないが或いは。しかし粗末な花束は山を作り続けているところをみると、まだ捕まってはいないようだった。
まだ人々が活動をするには早い時間帯だったが、玄関前を掃いている柘榴の姿を見つける。飾襞がふんだんにあしらわれた前掛に、鮮やかなドレスを身に纏い、明るくなっていく空に不自然な金髪が煌めく。厚い手に握られた箒が止まった。
「あら、おはよう。朝から活動的じゃないの」
黒く縁取られた目元も活動的だった。
「おはようございます」
「銀灰ちゃんから色々聞いているわ。縹くんにはとってもお世話になったんだから、何か困ったら頼りなさいね」
気の強そうな顔を緩め、柘榴ははっきりと描かれた眉を下げる。
「ありがとうございます」
「銀灰ちゃん、また家族ができて嬉しいんだから、あまり突き放しちゃダメダメよ」
「はい」
銀灰の名を出されると、背筋をぎくりと警棒に触れたとき以上の電圧が駆けた。宿の店主はそれに敏く気付いたらしく、苦々しい笑みをみせる。
「あの時は野暮なことを言ったわ。忘れてちょうだい。アナタの旦那さんに会ったんだってね。よく話してくれたわ。アテクシの思った人とは随分印象が違うみたいだけど。姉と義兄ができたって喜んでたわ。桜くんの負担がちょっとは減るわね」
凄まじく、それでいて静かな桜の立腹を思い出す。話を切り上げたくなってしまったが、ずいと柘榴は顔を下から突き出した。
「桜くん、今居るわよ。会う?」
店主は立派な店蔵の2階を見上げる。
「いいえ…」
「会いなさいよ」
温かい手に腕を掴まれる。
「鬱ぎ込んでるの。アナタじゃなきゃきっとダメよ。アテクシから言うのも変な話だけど、よろしく」
中に通されながら朝餉の有無を問われる。すでに菖蒲の作った歪な握り飯を摂っていた。朝飯を勧められたが断ると、柘榴は少し残念そうな表情をして極彩を2階の端の部屋に引っ張った。部屋の前で扉を叩く躊躇を柘榴は赦さなかった。極彩の後ろから大きな拳が木板を叩く。
「寝てるのかしら。いつもこの時間には起きてるのだけど」
店主はこきりと首を傾げた。数拍遅れて返事が聞こえ、やがて扉が開く。柘榴は彼が現れないうちに極彩の肩を軽く払って、階段を下りていった。呼び止めそうになってしまった瞬間に桜の姿が現れた。いくらか肌の荒れが消えていた。互いに目を丸くする。拒まれ、そのまますぐに帰ることになるのだろうと高を括っていたが桜は室内に促した。部屋は垂幕が掛かり、机の電灯が点いているだけで時間的にまだ暗い。ぎこちない動作で、互いに無言だった。どちらから口を開いていいものか分からないでいた。そのことだけは暗黙的に通じていた。寝台に座ることを勧められ、桜は電灯で明るくされている机と対になっている椅子に腰を下ろす。勉強をしているらしかった。
「この前はすみませんでした」
机の上に開かれた分厚い本を閉じ、桜は極彩を向いた。しかし彼女は顔を伏せ、逃げてしまう。
「あの書はもうお読みになりましたか」
首を振る。桜から落ちる影が恐ろしくなる。
「どうして…どうして縹様を蔑ろにばかりするんですか。僕が許せないと言ってしまったからですか」
「違います。読む資格がないからです。縹さんの遺言は遺体を役立てることだった。それなのにわたしは二公子に火葬を頼みました。遺言に背いて私情に走ったわたしにどうしてあの書を読めるんです」
桜は椅子から立ち上がり、寝台に座る極彩の前に膝を着いた。二公子が耳元で繰り返した言葉が思考を埋め尽くし、耳鳴りと共にまた囁く。目を見開いて桜の上目使いを凝視する。頭痛がした。
「御主人が姪だからです。それらしい理由を並べたって、そんなのは感情の話で、立場からは逃げられないはずです」
「今はただの裏切り者です。縹さんを焼いてもらう代わりに二公子と共に生きることにしました。もう身分もないただの人形です。だから貴方に御主人などと呼ばれる立場にもない。無責任なのは重々承知の上ですが、他にやりようもなかった。今までお世話になりました」
寝台から腰を上げ、部屋を出ようとした。目的は桜との和解ではなかった。相容れないのなら仕方がない。解決しないことがあるとは彼も実家との摩擦でよく知っているはずだ。だが桜は退室を赦さなかった。部屋の扉へ先回りされ、前を塞がれる。
「僕の御主人は極彩様だけです。僕の前に現れて、夢をみせてくれた、生かしてくれた、居場所をくれた。だのに僕は御主人の居場所にはなれないんですか。使用人だから?情けないからですか。権力も立場も家名もない平民だからですか」
桜は怒っていた。穏和な顔には似合わない眉根の皺から目を逸らす。
「そうです」
「嘘だ」
「私情で遺言を無視するような恥知らずのまま縹さんを胸に生きるのはあまりにも面汚しだからです。桜さんは縹さんと生きてください。そうできるのは桜さんだけですから」
脇を通り抜けることも彼は赦さなかった。
「銀灰さんはどうなるんです?御主人の弟になるんですよ…!」
「ひとつ遺言を破ったんです。当然すべて無効でなければ都合が良すぎます。お時間をいただきありがとうございました」
退けと言わんばかりに極彩は改めて一礼した。桜はよろよろと力なく寝台に崩れ落ちる。
「御主人は酷い人だ。酷い人です。それでも僕は御主人についてゆきたい…」
「利はありませんよ。貴方を雇える扶持がありません」
「利とか、利じゃないとか…」
「ただ何となく一緒にいて、ただ何となく傷を舐め合う関係ではもういられません」
扉を開ける。寝台の発条が軋んだ。桜が拳を握り締めて立ち上がっていた。
「さようなら、御主人。そんな姿、そんな言葉、見たくも聞きたくもありませんでした」
扉が閉まっていく。受付に戻ると、柘榴は長台に頬杖をついて退屈そうに煎餅を齧っていた。
「仲直り、できた?」
「…はい」
仲直りはしなかったが決着はしたつもりでいる。店主は疑わしげだったが根掘り葉掘り訊かれる前に邪魔した旨を告げて宿を出る。醤油と糠の香りがする地区に活気が出てくる少し前の時間帯だった。近くの食事処には暖簾が掛かり、斜向かいの店にはガラス張りの厨房に人がいる。注意深く周囲を見渡す。明るい茶髪の若者はいない。変装しているのかもしれない。大通りをゆっくり進み、それから住宅地へと延びる狭い裏路地に入った。開放的な小道に出る直前で背後に気配を感じた。手を握られる。体温が接近した。「ぼくのこと探してるの?」と耳元でからからした明るい声で囁かれる。頬に湿った柔らかな感覚が触れ、腹に腕を回される。
まだ人々が活動をするには早い時間帯だったが、玄関前を掃いている柘榴の姿を見つける。飾襞がふんだんにあしらわれた前掛に、鮮やかなドレスを身に纏い、明るくなっていく空に不自然な金髪が煌めく。厚い手に握られた箒が止まった。
「あら、おはよう。朝から活動的じゃないの」
黒く縁取られた目元も活動的だった。
「おはようございます」
「銀灰ちゃんから色々聞いているわ。縹くんにはとってもお世話になったんだから、何か困ったら頼りなさいね」
気の強そうな顔を緩め、柘榴ははっきりと描かれた眉を下げる。
「ありがとうございます」
「銀灰ちゃん、また家族ができて嬉しいんだから、あまり突き放しちゃダメダメよ」
「はい」
銀灰の名を出されると、背筋をぎくりと警棒に触れたとき以上の電圧が駆けた。宿の店主はそれに敏く気付いたらしく、苦々しい笑みをみせる。
「あの時は野暮なことを言ったわ。忘れてちょうだい。アナタの旦那さんに会ったんだってね。よく話してくれたわ。アテクシの思った人とは随分印象が違うみたいだけど。姉と義兄ができたって喜んでたわ。桜くんの負担がちょっとは減るわね」
凄まじく、それでいて静かな桜の立腹を思い出す。話を切り上げたくなってしまったが、ずいと柘榴は顔を下から突き出した。
「桜くん、今居るわよ。会う?」
店主は立派な店蔵の2階を見上げる。
「いいえ…」
「会いなさいよ」
温かい手に腕を掴まれる。
「鬱ぎ込んでるの。アナタじゃなきゃきっとダメよ。アテクシから言うのも変な話だけど、よろしく」
中に通されながら朝餉の有無を問われる。すでに菖蒲の作った歪な握り飯を摂っていた。朝飯を勧められたが断ると、柘榴は少し残念そうな表情をして極彩を2階の端の部屋に引っ張った。部屋の前で扉を叩く躊躇を柘榴は赦さなかった。極彩の後ろから大きな拳が木板を叩く。
「寝てるのかしら。いつもこの時間には起きてるのだけど」
店主はこきりと首を傾げた。数拍遅れて返事が聞こえ、やがて扉が開く。柘榴は彼が現れないうちに極彩の肩を軽く払って、階段を下りていった。呼び止めそうになってしまった瞬間に桜の姿が現れた。いくらか肌の荒れが消えていた。互いに目を丸くする。拒まれ、そのまますぐに帰ることになるのだろうと高を括っていたが桜は室内に促した。部屋は垂幕が掛かり、机の電灯が点いているだけで時間的にまだ暗い。ぎこちない動作で、互いに無言だった。どちらから口を開いていいものか分からないでいた。そのことだけは暗黙的に通じていた。寝台に座ることを勧められ、桜は電灯で明るくされている机と対になっている椅子に腰を下ろす。勉強をしているらしかった。
「この前はすみませんでした」
机の上に開かれた分厚い本を閉じ、桜は極彩を向いた。しかし彼女は顔を伏せ、逃げてしまう。
「あの書はもうお読みになりましたか」
首を振る。桜から落ちる影が恐ろしくなる。
「どうして…どうして縹様を蔑ろにばかりするんですか。僕が許せないと言ってしまったからですか」
「違います。読む資格がないからです。縹さんの遺言は遺体を役立てることだった。それなのにわたしは二公子に火葬を頼みました。遺言に背いて私情に走ったわたしにどうしてあの書を読めるんです」
桜は椅子から立ち上がり、寝台に座る極彩の前に膝を着いた。二公子が耳元で繰り返した言葉が思考を埋め尽くし、耳鳴りと共にまた囁く。目を見開いて桜の上目使いを凝視する。頭痛がした。
「御主人が姪だからです。それらしい理由を並べたって、そんなのは感情の話で、立場からは逃げられないはずです」
「今はただの裏切り者です。縹さんを焼いてもらう代わりに二公子と共に生きることにしました。もう身分もないただの人形です。だから貴方に御主人などと呼ばれる立場にもない。無責任なのは重々承知の上ですが、他にやりようもなかった。今までお世話になりました」
寝台から腰を上げ、部屋を出ようとした。目的は桜との和解ではなかった。相容れないのなら仕方がない。解決しないことがあるとは彼も実家との摩擦でよく知っているはずだ。だが桜は退室を赦さなかった。部屋の扉へ先回りされ、前を塞がれる。
「僕の御主人は極彩様だけです。僕の前に現れて、夢をみせてくれた、生かしてくれた、居場所をくれた。だのに僕は御主人の居場所にはなれないんですか。使用人だから?情けないからですか。権力も立場も家名もない平民だからですか」
桜は怒っていた。穏和な顔には似合わない眉根の皺から目を逸らす。
「そうです」
「嘘だ」
「私情で遺言を無視するような恥知らずのまま縹さんを胸に生きるのはあまりにも面汚しだからです。桜さんは縹さんと生きてください。そうできるのは桜さんだけですから」
脇を通り抜けることも彼は赦さなかった。
「銀灰さんはどうなるんです?御主人の弟になるんですよ…!」
「ひとつ遺言を破ったんです。当然すべて無効でなければ都合が良すぎます。お時間をいただきありがとうございました」
退けと言わんばかりに極彩は改めて一礼した。桜はよろよろと力なく寝台に崩れ落ちる。
「御主人は酷い人だ。酷い人です。それでも僕は御主人についてゆきたい…」
「利はありませんよ。貴方を雇える扶持がありません」
「利とか、利じゃないとか…」
「ただ何となく一緒にいて、ただ何となく傷を舐め合う関係ではもういられません」
扉を開ける。寝台の発条が軋んだ。桜が拳を握り締めて立ち上がっていた。
「さようなら、御主人。そんな姿、そんな言葉、見たくも聞きたくもありませんでした」
扉が閉まっていく。受付に戻ると、柘榴は長台に頬杖をついて退屈そうに煎餅を齧っていた。
「仲直り、できた?」
「…はい」
仲直りはしなかったが決着はしたつもりでいる。店主は疑わしげだったが根掘り葉掘り訊かれる前に邪魔した旨を告げて宿を出る。醤油と糠の香りがする地区に活気が出てくる少し前の時間帯だった。近くの食事処には暖簾が掛かり、斜向かいの店にはガラス張りの厨房に人がいる。注意深く周囲を見渡す。明るい茶髪の若者はいない。変装しているのかもしれない。大通りをゆっくり進み、それから住宅地へと延びる狭い裏路地に入った。開放的な小道に出る直前で背後に気配を感じた。手を握られる。体温が接近した。「ぼくのこと探してるの?」と耳元でからからした明るい声で囁かれる。頬に湿った柔らかな感覚が触れ、腹に腕を回される。
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