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「なんで、誰…!」
「静かにして。匿ってもらっているの」
口元を手で覆う。湿った感触が這い、反射によって剥がしてしまった。
「いい匂いがする。蜜柑みたい…苺?」
鼻を突き出し、腹を空かした童同然に極彩の場所を割り出す。
「梅…ですなぁ」
「誰…ッ」
菖蒲は2人へ近付き、捕虜の後襟を引いて極彩から離した。目隠しされた若者は左右に頭を振り、拘束を解こうと暴れる。
「観るは紅梅、嗅ぐは白梅と…別にいいません。梅の香りですね。蜜柑と苺も分からなくはないですが」
呑気に答えあわせの眼差しをくれた中年男だったが、彼女は身に覚えのないことで困惑した。
「誰!誰だよ!」
仔犬が吠える。胡散臭い男は極彩を一瞥した。面倒なことが起きるな、という感じがあった。
「この子の父です」
予感が当たる。
「じゃあ、謀反人なの…?」
菖蒲は気遣わしげにもう一度目を配る。
「本当なの…?不言で流行ってるやつ…?やめなヨ!夫もいるのにどうしてサ!代父交際なんて危ないヨぉ」
「嫌だな。舅です。分かりましたか。彼女は息子の、嫁。出る幕ないです、アナタ」
妻だと思い込んでいるらしい女へ再び身体を委ねようとしてる若者の額を押さえ、距離を取らせる。
「菖蒲殿…」
事態がややこしくなりそうだったが、否定すべきかこのまま通すか判断がつかず、否定の時機を逃す。懐きかけていた青年は態度を一変させた。
「もう結婚してたのかよ…?なんで…放せ!解けよ…!」
「おや、法律には従えるんですね」
噛み付かんばかりの野良犬を挑発しながら制する。目隠しの奥の円い目に捉えられる。
「本当…なの?あんたの口から聞いてない…!脅されてるの…?」
媚びた表情でも冷淡な目元が矢の如く彼女を牽制している。声を発せないでいた。
「これ以上、息子の妻に関わらないでください。それが約束できるなら解放します。二度と彼女と、その家族に関わらないで。了承いただけます?」
「嫌ダ…!」
ふん、と義父になった男は穏やかな顔をして鼻を鳴らした。彼は折り畳み式の警棒を伸ばす。群青や桜も携帯していた。逃がすという提案にも驚いたが戦意や攻撃性の欠片も無いまま警棒を取り出したことにも驚いた。義父を騙りはじめた中年男性は警棒を握った手首を捻り、幾度か感覚を確かめていた。両肩を回し、青年に振りかぶる。
「待って」
極彩は振り下ろされる前に警棒に触れた。電気が走り、腕が別の生命を宿したみたいだった。打撃の痛みは痺れと寸前の抑制によってほとんどなかったが、肘は曲がったり伸びたりして波打つ。
「極彩さん。怪我増やされるとボクが怒られるんですが…」
痙攣している腕を乾燥した手で荒々しく撫でられる
「怪我したの…?大丈夫なの?ねぇ、顔みたい…目隠し取って…お願い、目隠し取って」
甘えた響きが腕の摩擦を止めた。締まりのない舅の瞳が冷淡に身を捩る若者を侮蔑する。
「もう城下には近寄らない。約束できる?わたしにも群青殿にも関わらないで。いい?」
「嫌ダ…イヤだ。そんなの…耐えられない。死んだ方がマシだヨ!」
「本当に?それならこのまま突き出すだけ。いいの?本当に死ぬ?斬り苛まれて、滅多刺しにされて、息絶えるまで慰みものにされるよ。もう人として扱われない。まだ貴方を刺す刀のほうが慎重に扱われるくらい」
白い肌と白い髪が血の海に沈み、染まっていく光景が顔面の傷を痛め付け、喉を縊る。
「なんで…そんなコト言うのサ…ぼくを脅して楽しいの?」
「脅迫で済んだらよかったけれど。もう貴方は死に方を選べないから。これは…―お義父様が与えてくださった厚意なの」
携帯式の警棒が畳まれる。
「ただ首を縦に振りさえしてくれれば、あとはアナタを放り出すだけです」
若者は頭を横に振る。媚びた顔、媚びた態度、媚びた声音の義父のすべてが威圧的なものに変わっていた。
「自分の立場を分かっているんですか…分かっていませんね?」
「だってボクが夫なんだヨ…?結婚なんて嘘だ…嘘だろ!ホントの夫のコトはどうだっていいのか!」
「アナタが自分を橡さんと偽れば偽るほど、私たちはその言を信じて、何故正規の手順を踏んで帰還しないのか…後学のために、拷問にかけます。それで処刑します」
明るい茶髪は俯く。
「拷問…」
「ただわたしと関わらなければいいだけ。住む場所が変わるのは大変だと思うけれど、城下とは遠い所で暮らして。できるでしょう?」
彼は身動きを止めてしまったが、強く拒否した。
「あんたと会えなくなるなんて、そんなの…」
菖蒲は彼の言葉に、自らの額をべちりと叩いた。黙っているが、頭を抱えている。
「冗談はやめて。これが最後。二度と関わらないで。お願い。命を大事にして」
「嫌だ…まだあんたといたい。もう会えないなんて、」
「拙いですね。形式ならとにかく、本物の寝取り野郎は匿えません」
媚びを売り忘れている。据わった目が淡泊に奸夫を射す。極彩は大きく息を吐き、納屋をあとにする。下ろされた場所で寝ている太った猫の前に屈んだ。粗末な小屋から断続的に悲鳴がした。太った猫はいい椅子を見つけ、彼女の足の上に乗り、体重を預けた。自重を支える気力もないらしかった。毛並みは柔らかく、食べている物の良さが窺える。痛みを訴える声が頭を叩く。拷問官の刀の柄頭で打たれた時のようだった。拒絶と執着ばかりが亜鉛鉄板の内にこもる。やがて苦痛の喘ぎもやむ。やがて納屋の扉が開く。
「もう少しだけ様子を看ます」
「菖蒲殿のお立場は大丈夫なのですか」
「いやぁ…それを訊かれると弱っちゃいますね。下手すれば…しなくても解雇ですね、ええ。おや、今、打ち首くらいいくと思ったでしょう?」
首を払う仕草をして彼は太った猫を挟むかたちで対面に屈む。撫で回された毛玉は喉を鳴らしながら転がり、腹を晒した。
「どうしてあの曲者にそこまでするのです」
「警棒から庇った貴方が言いますか…息子くんと同じくらいの歳だからですかね。多分、あんな感じの素直で可愛らしい子になってると思うんで、ボクに似て。それだけです」
冷たい風に煽られ、菖蒲は中に入るように言った。
「腕は大丈夫ですか。微弱とはいえ電流ですからね。指に板っぺらが入っているんでしょう?」
「特にどうということもありません。すみませんでした…わたしもどうかしているみたいで…」
「いいえ。似ていましたからね、仕方ありませんよ。このことは群青さんには内密に。身体に鞭打ってまで処しに行っちゃうと思うので」
彼は唇に人差し指を押し当て、片目を瞑る。市井で見る親子のものに似ていた。気恥ずかしさに俯いた。同時に病没した保護者を思い起こす。おそらく情けない表情をしていた。
「勝手な嘘を吐いてすみませんでした。気を悪くしたらごめんなさいね。縹さんに申し訳が立ちませんよ」
頭上に降り注ぐ声は優しい。市井で聞いた親子のものと重なった。目の前に優しかった叔父が立っているようで足元が滲む。たった1人のたったひとつの頼みを叶えたかっただけのはずだ。たとえ配偶者を巻き込もうとも。顔を上げる。諂った笑みがわずかに強張ったが、瞬く間に胡乱げな媚びを取り戻す。
「静かにして。匿ってもらっているの」
口元を手で覆う。湿った感触が這い、反射によって剥がしてしまった。
「いい匂いがする。蜜柑みたい…苺?」
鼻を突き出し、腹を空かした童同然に極彩の場所を割り出す。
「梅…ですなぁ」
「誰…ッ」
菖蒲は2人へ近付き、捕虜の後襟を引いて極彩から離した。目隠しされた若者は左右に頭を振り、拘束を解こうと暴れる。
「観るは紅梅、嗅ぐは白梅と…別にいいません。梅の香りですね。蜜柑と苺も分からなくはないですが」
呑気に答えあわせの眼差しをくれた中年男だったが、彼女は身に覚えのないことで困惑した。
「誰!誰だよ!」
仔犬が吠える。胡散臭い男は極彩を一瞥した。面倒なことが起きるな、という感じがあった。
「この子の父です」
予感が当たる。
「じゃあ、謀反人なの…?」
菖蒲は気遣わしげにもう一度目を配る。
「本当なの…?不言で流行ってるやつ…?やめなヨ!夫もいるのにどうしてサ!代父交際なんて危ないヨぉ」
「嫌だな。舅です。分かりましたか。彼女は息子の、嫁。出る幕ないです、アナタ」
妻だと思い込んでいるらしい女へ再び身体を委ねようとしてる若者の額を押さえ、距離を取らせる。
「菖蒲殿…」
事態がややこしくなりそうだったが、否定すべきかこのまま通すか判断がつかず、否定の時機を逃す。懐きかけていた青年は態度を一変させた。
「もう結婚してたのかよ…?なんで…放せ!解けよ…!」
「おや、法律には従えるんですね」
噛み付かんばかりの野良犬を挑発しながら制する。目隠しの奥の円い目に捉えられる。
「本当…なの?あんたの口から聞いてない…!脅されてるの…?」
媚びた表情でも冷淡な目元が矢の如く彼女を牽制している。声を発せないでいた。
「これ以上、息子の妻に関わらないでください。それが約束できるなら解放します。二度と彼女と、その家族に関わらないで。了承いただけます?」
「嫌ダ…!」
ふん、と義父になった男は穏やかな顔をして鼻を鳴らした。彼は折り畳み式の警棒を伸ばす。群青や桜も携帯していた。逃がすという提案にも驚いたが戦意や攻撃性の欠片も無いまま警棒を取り出したことにも驚いた。義父を騙りはじめた中年男性は警棒を握った手首を捻り、幾度か感覚を確かめていた。両肩を回し、青年に振りかぶる。
「待って」
極彩は振り下ろされる前に警棒に触れた。電気が走り、腕が別の生命を宿したみたいだった。打撃の痛みは痺れと寸前の抑制によってほとんどなかったが、肘は曲がったり伸びたりして波打つ。
「極彩さん。怪我増やされるとボクが怒られるんですが…」
痙攣している腕を乾燥した手で荒々しく撫でられる
「怪我したの…?大丈夫なの?ねぇ、顔みたい…目隠し取って…お願い、目隠し取って」
甘えた響きが腕の摩擦を止めた。締まりのない舅の瞳が冷淡に身を捩る若者を侮蔑する。
「もう城下には近寄らない。約束できる?わたしにも群青殿にも関わらないで。いい?」
「嫌ダ…イヤだ。そんなの…耐えられない。死んだ方がマシだヨ!」
「本当に?それならこのまま突き出すだけ。いいの?本当に死ぬ?斬り苛まれて、滅多刺しにされて、息絶えるまで慰みものにされるよ。もう人として扱われない。まだ貴方を刺す刀のほうが慎重に扱われるくらい」
白い肌と白い髪が血の海に沈み、染まっていく光景が顔面の傷を痛め付け、喉を縊る。
「なんで…そんなコト言うのサ…ぼくを脅して楽しいの?」
「脅迫で済んだらよかったけれど。もう貴方は死に方を選べないから。これは…―お義父様が与えてくださった厚意なの」
携帯式の警棒が畳まれる。
「ただ首を縦に振りさえしてくれれば、あとはアナタを放り出すだけです」
若者は頭を横に振る。媚びた顔、媚びた態度、媚びた声音の義父のすべてが威圧的なものに変わっていた。
「自分の立場を分かっているんですか…分かっていませんね?」
「だってボクが夫なんだヨ…?結婚なんて嘘だ…嘘だろ!ホントの夫のコトはどうだっていいのか!」
「アナタが自分を橡さんと偽れば偽るほど、私たちはその言を信じて、何故正規の手順を踏んで帰還しないのか…後学のために、拷問にかけます。それで処刑します」
明るい茶髪は俯く。
「拷問…」
「ただわたしと関わらなければいいだけ。住む場所が変わるのは大変だと思うけれど、城下とは遠い所で暮らして。できるでしょう?」
彼は身動きを止めてしまったが、強く拒否した。
「あんたと会えなくなるなんて、そんなの…」
菖蒲は彼の言葉に、自らの額をべちりと叩いた。黙っているが、頭を抱えている。
「冗談はやめて。これが最後。二度と関わらないで。お願い。命を大事にして」
「嫌だ…まだあんたといたい。もう会えないなんて、」
「拙いですね。形式ならとにかく、本物の寝取り野郎は匿えません」
媚びを売り忘れている。据わった目が淡泊に奸夫を射す。極彩は大きく息を吐き、納屋をあとにする。下ろされた場所で寝ている太った猫の前に屈んだ。粗末な小屋から断続的に悲鳴がした。太った猫はいい椅子を見つけ、彼女の足の上に乗り、体重を預けた。自重を支える気力もないらしかった。毛並みは柔らかく、食べている物の良さが窺える。痛みを訴える声が頭を叩く。拷問官の刀の柄頭で打たれた時のようだった。拒絶と執着ばかりが亜鉛鉄板の内にこもる。やがて苦痛の喘ぎもやむ。やがて納屋の扉が開く。
「もう少しだけ様子を看ます」
「菖蒲殿のお立場は大丈夫なのですか」
「いやぁ…それを訊かれると弱っちゃいますね。下手すれば…しなくても解雇ですね、ええ。おや、今、打ち首くらいいくと思ったでしょう?」
首を払う仕草をして彼は太った猫を挟むかたちで対面に屈む。撫で回された毛玉は喉を鳴らしながら転がり、腹を晒した。
「どうしてあの曲者にそこまでするのです」
「警棒から庇った貴方が言いますか…息子くんと同じくらいの歳だからですかね。多分、あんな感じの素直で可愛らしい子になってると思うんで、ボクに似て。それだけです」
冷たい風に煽られ、菖蒲は中に入るように言った。
「腕は大丈夫ですか。微弱とはいえ電流ですからね。指に板っぺらが入っているんでしょう?」
「特にどうということもありません。すみませんでした…わたしもどうかしているみたいで…」
「いいえ。似ていましたからね、仕方ありませんよ。このことは群青さんには内密に。身体に鞭打ってまで処しに行っちゃうと思うので」
彼は唇に人差し指を押し当て、片目を瞑る。市井で見る親子のものに似ていた。気恥ずかしさに俯いた。同時に病没した保護者を思い起こす。おそらく情けない表情をしていた。
「勝手な嘘を吐いてすみませんでした。気を悪くしたらごめんなさいね。縹さんに申し訳が立ちませんよ」
頭上に降り注ぐ声は優しい。市井で聞いた親子のものと重なった。目の前に優しかった叔父が立っているようで足元が滲む。たった1人のたったひとつの頼みを叶えたかっただけのはずだ。たとえ配偶者を巻き込もうとも。顔を上げる。諂った笑みがわずかに強張ったが、瞬く間に胡乱げな媚びを取り戻す。
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