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衝動的薄紅色へダイブ 同い年受/女性キャラ/モブレする攻
衝撃的薄紅色へダイブ 9
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◇
黒髪を揺さぶる美青年の両腋の下から腕を差し込み背中と胸を密着させて臀部へ楔を打ち込むと、敏感な先端が内部に引き絞られ、茎を粘膜の筋肉に扱かれ頭が真っ白になる快感に襲われた。くぐもった息に汗まみれの胸が高鳴った。ささやかな、しかし贅沢極まりない宴だった。想うだけで炙られた気になる。自身の昂りを煽っていく。粘膜になっていく肌を摩り、きつく擦り、刺激する。妄想の中で焦がれた柔肉へ侵入すると質量を増し、見覚えのある蕩けた横顔を描くと身体は滾った。
「ねぇ」
幻想の美青年が快感に喉を震わせ、吐息の中で名を喘いだ時に、よく似た匂いをした妹が近付いた。扱いていた焼鏝に氷の一閃が当てられる。夢幻は消え失せ、妹の私室の広い天井が視界を占める。
「兄さんのこと考えてる?」
ペティナイフの刃が燃えて滾る屹立に添えられていた。活気のない、落ち窪んだ目がぎょろぎょろと、小川の魚のように膨れ上がった陰茎から腹、胸、首、顎を辿ってフォランの目に泳いでいった。
「夢の中でも!兄さんはレイプされるんだ!」
妹は頭を抱え、ベッドの脇に崩れ落ちた。
「汚い!汚い!汚い!兄さんは色んな頭の中でレイプされて汚されるんだ…!みんな殺さなきゃ……こんな街!爆発しちゃえばいいんだ……つらい…つらいよ、お人形さん…お人形さんだけが兄さんのこと考えていいのに…」
妹の叫びが響き渡る。妹のことを見る通行人たちへ殺意を抱いたことがあった。可愛い妹を辱しめ、搾取する妄想をしているに違いない頭を撃ち抜くか、打ち砕くかしなければ彼女に安穏な未来は無いような気がした。互いに好き合って、大事に出来るだろうと思えた者にしか、割って入らないということは出来なかった。
妹は眼球だけを動かした無表情の顔をゆっくり上げた。
「そんな汚いもの、取っちゃえばいいんだ!」
ペティナイフがフォランの勃っている腹の器官へ吸い寄せられる。
「わぉん…!わぉぉぉん、」
「兄さんもきっと怖かったろうな。身体の中引き摺り回されて可哀想に……あたしが女だから守れないのかな…」
冷たい手が、焦れて露の玉が飾られた先端部を摘んだ。
「ぅ、あっ、わん、」
「こんなものがあるから…!」
ペティナイフの刃が根元に当てられる。フォランは目を剥いた。
「わぉぉん、くぅん」
性器に裂傷があったと告げられた時は、気が狂わんばかりだった。ただ殺されただけではなかったのだ。辱しめられたのだ。何を言われたのか分からなかった。自分の認識を疑った。あの可愛い妹は何をされたのかと。間違いであって欲しいと思った。守っているつもりで彼女を見殺してしまった罰だ。似た痛みが無ければならない。でなければ曖昧な期待と疑わしい不安に揺れ動いてしまうのだ。痛みのほうがよかった。実妹を忘れてしまうから。
「兄ちゃんが悪かった、ごめんな。怖かったよな。許せなかったよな。ごめんな、お前のこと守れなくてごめんな」
「こんなもの!兄さんを虐めて!許さない!」
「わぅぅん、わん…」
妹の怒りは尤もだった。フォランは目を閉じた。罰を与える者がいる。喜びだった。
「いけない!他の誰のものを切り取ったって!お人形さんは兄さんのお人形さんなんだから!」
ペティナイフを投げ捨て、栗色の髪を結ぶリボンを解きはじめる。真紅の平べったい紐が猛りを彩る。
「わんわん……」
陰茎の根元を締められる痛みに顔を顰める。幻想の中の美男子に我慢させた。男性器に苦しみを与えてしまった。空色の双眸が良心を掻き毟っていく。
「お人形さんのこと大事にしなきゃ…兄さんの大切なお人形さんなんだから…」
妹はぶつぶつ言ってリボンで飾られた肉棒をしまい、服を整える。髪を梳かし、両の脇腹を掴むとベッドに立て掛ける。妹の細腕の力にフォランは積極的に従った。ヘアブラシが茶髪を再び梳いた。
「お人形さん…」
首輪が解かれ、放り投げられた。鎖が軋む。
妹は1日中家にいた。この暮らしは悪くなかった。何の不安もない。妹は傍にいる。だが妹だけだった。しかし妹がいる。カールした毛先が愛らしい。円い目をした可愛い娘。外に行ったらぬいぐるみや菓子を買ってきたくて堪らなくなる。恋人ができたら上手く付き合えるだろうか。いじめてしまうかもしれない。結婚式できっと泣いてしまう。子供ができたら不安がまたひとつ増えるだろう。自分の配偶者や子供より優先してしまったらどうしよう。妹で、娘。可愛い子。彼女が選ぶなら愛そう。愛せなければ、愛そうとするだけだ。悩むだろう。きっと悩む。けれど。
「お人形さん」
「わんわん…わぉん」
妹が涙を拭いた。シロクマのぬいぐるみにキスしてから、妹の唇が前髪越しに額に当たる。その後にシロクマのぬいぐるみの革製の鼻が額に当てられた。
「おやすみなさい。シロクマちゃん、お人形さん」
タオルケットに包まれ、妹に背後から抱き締められて眠る生活を送った。食事、入浴、寝る支度、全てを妹が介護した。お人形さん、お人形さんと可憐な笑顔を浮かべ、兄さんがね、兄さんとね、と話が始まるのだった。素敵だよね、綺麗でしょ、優しいんだから、と結ばれる。
「あたしの父さんは兄さんのこと膝に乗っけてさ、ずっとくすぐってんの。下半身に手、突っ込んで。ずっと。シャーリィにはしないで、シャーリィにはしないでって泣いてるのか笑ってるのか分かんなかったワケ。あたし意地悪してるんだと思ってた。父さんのこと独り占めしてるんだと思ってたワケ」
毎夜のようにタオルケットに包まれたフォランを背後から抱き締める。先住民のシロクマの大きなぬいぐるみは枕元に正されていた。
「お人形さん……父さんって最低。なんで父さんって最低なの?兄さんの幼い身体で遊んでたんだ…!あたしはずっと気付かなかった。父さんが兄さんの生足すりすりしてさ、その時にあたしのことニヤニヤした顔して見るの。あたしそのこと思い出して怖くなる。多分もっといっぱい気付かなかったケド、兄さんに守られてたことあるんだなって」
"兄さん"について妹は寝る前とは思えないほど饒舌だった。その途中で糸が切れたように眠る。だが今日は違った。飛び起きて、喚いた。
「この世の全ての男を殺すしかない!この世の全ての男を殺さなきゃ、また兄さんを傷付ける!消さなきゃ……それであたしも死ななきゃいけないんだ!」
髪を掻き乱し、両耳を押さえ、血走ったら瞳がシーツを見ている。フォランも身を起こした。動いた物を捕らえてしまう野生に似た動きで眼球だけがフォランを捉える。
「素敵でしょ、兄さん。あたしは兄さんのあの美しさに気が触れたワケ。お人形さんも、あの綺麗さに頭がおかしくなってるんだ。あんなに素敵な人いないよなぁ?お人形さん、兄さんのこと頼むね」
痙攣を起こしたのかと思った引き笑いをして妹はベッドから降りる。
「どこに行くんだ?こんな時間に…」
外は暗い。
「あたしのこと忘れてね。でもよろしくっていうのは忘れないで。さようならだよ。さようなら」
追うことも出来たはずだ。何か夢から覚めてしまう心地がして、明るい廊下へ消えていく小さな背中を見ているばかりだった。扉が閉まっても、ずっと。
妹は帰って来なかった。夜明け前に私室を出てリビングを通った。ダイニングテーブルにラップで覆われたオムライスが置いてあった。昨晩の物だ。人形の口に運ぶばかりで、妹が食べているところは見なかった。ダイニングチェアに座り、テーブルに伏せた。妹が帰って来ない。妹が帰って来ず、妹はやはり死んだのだと少しずつ理解した。その後、まだ理解しきれないまま部屋に自治警団が入ってきて、手錠を掛けられるのだ。妹を陵辱し殺害した下劣な兄として世間に引き摺り出された。遺伝子編集のことだけは隠されて。
誰かの来訪を知らせる扉の音にフォランは飛び上がる。誰の名かも分からない人名を吐いて、爪先は床を蹴った。自治警団が来る。妹殺しの容疑がかかり、実家でも施設でもない場所に軟禁されて、母親と研究室の見慣れた先生が来るのだ。妹の私室に逃げ込んで、内側から鍵をかける。ベッドの下に潜り蹲った。妹はどこへ行った。何故帰って来ない。チャイムが鳴る。
―神様からの借り物なんだと奴等はきっと言いますよ。人間が勝手にいじくっていいはずがないってね。つまりぼくらって異端なんです。有限かつ血を流すロボットですよ!傑作だ!
簡単にあの少年は口を割った。妹を犯し、殺した、後輩のような存在だった。
―ぼくが異常だって言うなら!あんたらがいじくった遺伝子で!正常な遺伝子がぶっトんだってどうして思わない?ねぇ、思い通りにならなかった個体って殺されるんですかね?いや…ぼくはあの子とは違うから、壊されるんですよ、きっと…
彼のほうができがよかった。高品質だった。高性能だった。
―ぼくの気持ちは、貴方にしか分からないでしょう?貴方はぼくと同じなんだから。ねぇ、誰がぼくらに寄り添ってくれる?バカどもを奴隷にしたら何故いけない?何故技術をひた隠し、まだ神だの、倫理だのって言ってるバカどもに媚び諂う??何故ぼくらはバカどもに治療される?ぼくらよりも劣悪種なのに!
彼は施設で見たことのある奇形児が廃棄処分になったことを疑っていた。その子供もまた、彼のいう"ぼくら"だった。彼は、あれは要署名者が捨てたんですよきっと、と言ってその時は笑っていた。忘れていたことだった。取るに足らないことだった。妹や母親と歩いた外では珍しい人々ではなかったから。
―ああいう風に捨てられるんですよ!科学技術がなきゃ死んでた奴等も生きて行けるんです!素晴らしい慈悲の御手ですな!なのに今度は死にづらい個体だなんて、そんな!急成長する人口で沈めたくなりませんか、大地。
他の者では微動だにしなかった彼はフォランを前にすると興奮気味に話した。
―あのガキは害獣駆除みたいに毒ガスだったんでしょうけれど、ぼくは電気椅子ですよ、分かってます。この前に女と子供殺してますからね。ふと腹に戻してやりたくなったんです。父親が母親を陵辱してそのまま生まれた子供がね、可哀想になったんです。小難しい病気になるかも知れないし、白痴かも知れないのにどうしてそんな不安因子を愛せる?子供が可哀想になったんですよ。元来た産道に帰したら、死んじゃったんです。
彼はマジックミラーを見て口の端を吊り上げた。犯人がまだ捕まっていない事件だったというのに簡単に喋った。反対にフォランは、何も言えなかった。
―あんたの妹を殺ったのはね、あんたの反応が見たかったからです。同じ人間とも思えなかった…ほとんど同じ遺伝子でしょ?だのにあの女はあなたと違う!感動しましたね!ぼくらがやられたのは小さな治療行為と相違なかった、そんな幻想が壊された気さえしましたね!遺伝子いじくった優秀な息子と!そのまま生まれた劣悪種!2人目は遺伝子編集を選ばなかった!何故なんだ?貧乏人なのか?一体誰に何を義理立てしているんだ?
―馬鹿じゃないのか
全く別のことを考えていた。目の前の後輩のことも、妹のことも、母親のことも、研究班のこともまるきり頭にはなかった。
―それですよ!他者をバカだと一蹴出来る!その思想です!両親の遺伝子も大したことがないくせに、少しいじくられて選ばれた気になる!そういう奴等が跋扈する、アホみたいな国を見たかったものです!
彼は施設に預けられたままだった。事故死だった。法的制裁よりも証拠隠滅が図られたのだとフォランは思った。彼が振り返って笑った姿が頭に焼き付いている、はずだった。忘れていた。嫌なことは全て切り替えろと研究員は言った。でなきゃ大成しないと言った。君は次世代を担うんだよ、と言った。母親もそう望んでいる。優秀な遺伝子を持った女と子を成し、有り余る富を手に入れた後は貧民に金を撒き散らし、名誉まで手にすれば病や著しい老いの心配もなく寿命まで生きろと言った。誰が死んでも嫌なことは切り替えられるんだから、寂しさも悲しみもないはずだと言った。それが幸せなのだと言っていた。誰もが望み、誰もが目指して叶わなかった、誰もが思う幸せなのだと。
―あいつは死んだじゃないか!
妹を殺した人間のために何故拳を痛める必要があったのか。ブネーデン式遺伝子編集は失敗なのだと他の研究員が言った。人間の実験台は厄介だとも言っていた。この子の暴力的な個性かも知れないと言い、派手なのはこの研究に向かないとも言った。
―いいかい、君はロボットではないのです。有限な私の息子よ。
世間では通信機器が発達しているというのに文通しか許されなかった精子提供者が身を保証すると手紙を寄越した。もうその頃から末期の病とは聞いていた。
―この病の苦しみや悲しさを知っているから、私は君という子供が産まれることに同意したのです。自分と他者の心願や慚愧ではこの痛みは和らがないことを知っているのです。子供というのは顔が見えずとも、君という存在だけで、私は君がこの病に罹らない可能性を思うのです。
ベッドの下で震え、ノブが捻られる金属の軋みを聞いていた。妹が来ない。指を噛む。誰かの癖だった。
シャーリィお嬢さん!
扉の奥から呼ぶのは、フォランも見たことのあるハウスキーパーだった。乱暴にノブが数回捻られ、足音が忙しなく遠ざかる。
朝日が射し込み、妹はまだ帰らないのかと胃が引っ繰り返るような緊張を抱いてリビングに向かう。ダイニングテーブルセットに何者かがいたが、妹でないのは確かだった。短く整えられた黒髪と、端整ながらも冷淡な雰囲気のある顔立ちの男。フォランに気付き、印象に似合わないあどけない表情を浮かべた。
「探したぞ…シャーリィが世話になったようだな」
喋るとは思わずフォランは怯んだ。夢の中で掻き抱いた美男子が顰めっ面へ変わった。
「帰ろう。ここにいても仕方がない…」
美男子が伸ばした手を擦り抜け、フォランは四つ這いになる。長くしなやかな脚へ身体を擦り付けた。
「わん!わんわん、わぉん」
「何の真似だ」
「わんわんわんわん!」
スラックスの固い生地に頬擦りする。
「惚けるつもりか…まさか」
美男子は片膝をついてフォランの顎を掬う。美男子の前に倒れ、床に背を転がす。腹を見せると飼い主の少女は喜んだものだった。
「…フォラン」
毎日リボンが替えられては飾られる陰茎を白い手が捲った。勃起したまま放置された根元にパープルのリボンが照る。
「わぉぉん…くぅん、くぅん」
上体をくねらせ、逆光した美男子を見つめる。
「何をしている…?シャーリィのリボンじゃないか…」
美男子は唇を舐めて、それから噛んだ。眉を歪め、リボンを陰茎から解いていく。
「くぅぅん、くぅん」
背中を床に擦り付け、妹が喜ぶ通りに転がった。
「フォラン…気が触れてしまったのか……?」
シャツの裾が翻り腹を晒す。直そうと手を伸ばした美青年の腕を緩く握って頭ごと頬擦りする。
「わぉぉん、わぉん」
「フォラン……本当に…?」
フォランをじっと見つめている。裾を直してから躊躇いながら布越しに腹部を撫でる。くすぐったさに身悶え、喉が鳴った。
「ほら、気持ちいいか」
「ぉぉん、ぉおおん、わぉん」
美男子は暫くフォランの腹を撫で回してから、人懐こい犬がよくするような指を揃えて手首を曲げるフォランの手を握った。
「大事な話なんだ」
「おぉん、わんわん!」
冷淡な面構えの美男子はフォランへ深く眉間を寄せ、口を開く。長く濃い睫毛が伏せられる。
「シャーリィが逮捕された」
「たいほ…」
フォランは起き上がり、美男子の胸にしがみつく。
「たい、ほ…?」
「…偶然じゃ、ないんだろうな。俺を縛り上げた専務の息子を、殴ったんだ。ビール瓶で。現行犯逮捕だと…さっき、連絡が入った」
「……っぁ、あ、ああ…」
わんわん!わんわんわん!わおおお!
フォランは吠えた。それから妹の名を叫んだ。そして同時に、あの娘が妹ではないことに気付いてしまう。けれど、妹だった。
「知られていないつもりだった」
美男子は凍えたように振動しているフォランへ腕を巻き付け体温を与える。
「あの子の手を、二度も汚させるなんて…俺は兄失格だ…!」
震えているのは美男子もだった。
「俺を洗脳装置にかけて、記憶から消すつもりだったらしい。さっき、よく知りもしない研究員が来たよ。バカな子だ……」
美男子はフォランの体温に縋りつき、本当に凍えているようだった。
「フォラン…お前ならどうした?俺はどうすればいい…?俺は、あの子を、忘れたほうが、」
「いいよ。忘れたほうがいい…つれぇよ、つれぇよ……忘れられるなら、忘れちゃえよ…!」
いやだ。美男子はフォランにしがみつかれたまま、身を縮めた。互いに寒がり、互いの体温で暖を取り合う。美男子は、いやだ、と繰り返した。
「忘れちゃえよ…あの子はあんたに雁字搦めなんだよ。あんたが、あの女の子を思えば思うほど、あの子はつれぇんだよ、互いのために忘れちゃえよ」
喉が渇いた。目元が痛んで、かぶれてしまう。
「オレが覚えてるから。あんたが妹大好きだったこと、オレが覚えてるから…」
「いやだ!忘れたくない…シャーリィを忘れていいわけあるか!俺の人生のほぼ全てにあの子がいた!どうしてそこに大きな空白を作れる!俺しか知らないあの子が俺の頭の中にあるのに、どうして消せるんだ…!」
美男子の額がフォランの額にぶつかった。
「あんただって、つらいだろうが…!忘れちゃえよ…!あの子のために忘れちまえ!」
触れ合う額が力強く左右に揺らぐ。
「あの子を忘れた俺は、俺か…?あの子は俺を兄にしてくれた…あの子は俺を、俺にしてくれた…」
頬に美男子から滴った涙が伝う。切り揃えられた爪が光る長い指がフォランを濡らす雫を払った。
「お前だってそうだ…」
抱き締められ、前髪に唇が当たった。妹と同じ位置に同じ強さで。
「これが、俺の本音だったんだな…?」
問いかけられ、それから唇へ唇が軽く触れた。紅い双眸が見開いた。吊り気味な眦の、優しい眼差しに戸惑う。この人に何をした。自問に襲われ、自答でとどめを刺す。この人を喰い散らかした。美男子の胸と腕の中から慌てて這い出る。
「オレ、待って…オレ…」
独りになってしまった美しい男はさらなる美しさを湛えていたがフォランは不安を覚えた。彼が漂わせる不穏な美しさを拭い去らなければ、自分もまた不安になるという気がしてならなかった。
「フォラン」
「オレ、あんたに酷いことした…!オレ、あんたに…」
「されてない」
「妹のことは、分かってる。離れない。ここにいる。ずっといる。ずっとかわいい犬でいるから」
惜しげに伸ばされた腕から後退った。美しい男を壊してしまいそうだ。あの娘は何と言った。よろしくと言った。
「違う…!お前は犬じゃないだろう!シャーリィのことは…俺が、逃げたからで…」
「オレ…もうあんたのこと傷付けたくない!」
美男子はフォランの意思に反して傷付いた様子で空色の目が彷徨った。
「お前は俺に選択肢をくれていた…俺が、選んだんだろう…?」
「あんたが欲しかった。だから逃げ場のないあんたに迫った…!あんたが選んだんじゃない!選ばされたんだ!」
「フォラン…俺は本気にしたぞ。去り際に言った言葉」
フォランは首を振る。全てを否定し、拒否を続ける幼子のように、美男子の声を聞けなかった。嬌態まで知っているこの声に、さらに惹かれるのが怖い。
「分かった。シャーリィを頼む。俺はあの子を破滅させるだけだから。職も失って、これから制裁を待って、犯罪者として規制される未来が待ってる。お前だけは、あの子に寄り添ってやってくれ…」
美男子は踵を返した。触れたら割れてしまう繊細なガラス細工に似ていた。咄嗟に伸ばした手を引いた。壊してしまう。汚してしまう。溶かしてしまう。砕いてしまう。あの娘の言ったことは守れそうにない。後姿が腕を上げ、顔を拭う。
「ボーダムさん…」
呼ぶと控えめに振り返った。気が触れることを望むほどに美男子の肌を落ちていく涙は美しかった。感性も言語も捨て、ただ美しいとだけ思った。息を呑んで、呼吸を忘れ、肉体が急かし、咽せる。
「頼む。シャーリィのことだけは…頼む」
妹に雁字搦めで、暴漢にも懇願するしか出来ないのか。痛め付けて、謗った。嫌がる肌に触れて、激しく抱いた。体内を欲望に汚した。穏やかな男を刺激して、不本意ながらも深く傷跡をつけてしまった。
「待って。オレ、あんたに謝らなきゃ…」
「要らない…」
美男子との距離が開いていく。自署すべきだった。安らかな毒ガスの中で永い眠りにつくべきだった。何故拒んでいた。母親だった女の言う通りだった。妹がいないというのに何故まだ生きている。
「でもオレ、あんたに…」
「謝るな。俺は…確かにお前に、ほんの少しでも…救われた」
好きだ。抑えきれない。フォランは額を覆って屈み込む。伝えてどうするのか。彼を辱しめたのは誰だ。彼を傷付けたのは誰だ。好きだと告げて、渦巻く蟠りから解き放たれるのか。結局は帰って自署するか、そうでなくとも与り知らない代筆によって処分される身だ。パラボレーを出ればもう会うことはない相手。長居してしまった。
「また来る」
美男子が去って行く。フォランはガス室にひとり残されたような気でいた。
シャールファシーは落ち窪んだ目を怯えながらフォランへ向けた。受話器を取ろうとせず、俯いている。白く反射したアクリル板が時折彼女の表情を隠す。フォランは受話器を耳に当てたまま固まっている。妹は怒られることを怖がっているのだ。怒るつもりなど微塵もない。数分待って、少し乾燥している細く長い指が受話器を握る。
「シャーリィ」
「あたしのこと忘れてないの?電流通されて、ないの?」
ベルフレイシェから聞いた話だった。ベルフレイシェの元を訪れた後にフォランの元に来るはずだったという。シャールファシーの名を騙る輩だと思い、追い返してしまったらしい。まだきちんとした法整備が必要な技術だったが、研究の補助金をシャールファシーから受けていたため協力的だったと話していた。
「通されてない。オレは大丈夫。君のお兄様も」
「残念だケド…ちょっとだけ嬉しい」
ひび割れた唇が緩く開いた。可憐な笑顔が花開き、フォランも笑った。
「馬鹿なことしてごめん」
「それは人を殴ったことか?それとも、オレたちに電気流そうとしたこと?」
「電流のほう」
迷うこともなくシャールファシーは俯いたまま置いた受話器に答えた。まだ面会人をアクリル板越しとはいえ対するだけの力はないようだった。
「後悔してないから」
「それは、人を殴ったことか?それともオレたちに電流通したかったことか?」
「両方」
即答だった。電流を通され、本当に記憶が消せたなら。この娘を忘れたら。アクリル板を隔てた向こう側の人間は冷たく牙を剥いて見える。全てが敵に見える。
「シャーリィ。君には今一番、人が必要な時だ」
「後悔してる。どうしてビール瓶にしちゃったのか!兄さんを縛り上げて、兄さんの髪を切り刻んで!怖い思いさせて!どうしてハンマーにしなかったのかって…」
「君のお兄様が、あの日何があったのか証言するそうだ」
床を凝視する空色の目が眼球を排出するのではないかというほど大きく開いた。
「やめさせて!やめて!兄さんが好奇の目で見られるじゃないか!邪推されて!やらしい妄想に使われて、それでまた辱められるんだ!」
「そんなことは絶対に無い…なんて言えない。でもそうならないようにしよう?お兄様を傷付けない方向で。そうなった時に支えられるようになろう?」
「帰って!あたしとアンタは分かり合えない!アンタの言い分を、あたしは解する能が無いんだから!アンタも!分かり合えないの!能が無い!」
「分かる!全部じゃねぇけど分かるよ、オレもそうだった。オレも妹のこと可愛くて仕方がなかったんだ。どうかしてた。オレはただの独り善がりと自己暗示に浸って、酔って、あの子が死んだらもぬけの殻だ。オレには今何も無いんだ。何も…君と君のお兄様だけ」
シャールファシーの不満げな表情が白い反射の下にある。
「あたしのことはもういいから!あたしが職場をぶち壊して、浮気野郎の婚約者を半殺しにした!気に入らない上司はぶん殴る!それがこの一連の出来事の全貌なの!分かった?物分かりの悪いシスコン兄貴は関係ない!分かった?恥ずかしい告白が無駄になる前にやめさせることだよ。セカンドレイプしたくて堪らない輩がいっぱいいるんだから、あたし含めてさ。弱った人間をぶん殴って、蹴り飛ばして自分の手で死なせたくて堪らないんだから!聖堂の先生は人を赦せって言うけど!人を赦すの赦さないのを決めるのは人じゃないとか言うけど!じゃあ神様はどうしてあの罪業の吐瀉物どもが焼かれないの?あの卑劣極まりない男が死なれでもしたら困る家族がいるから?じゃあ兄さんの髪は切られて身体は暴かれて、それでいいの?人の怒りは人の怒りなのに?どうして全てを赦せ、赦す赦さないの決定権は人にはないなんて言うの!聖堂の教えで!全てを赦さなきゃって強迫観念に苦しんでる人がきっといるのさ!でなきゃ自分はとんでもない白痴だって!苛まれるんだ!兄さんはきっと諦めてるんだから!神様には取って替えられる信奉者がパラボレーの食品廃棄の大山より多いんだろうけどね、あたしにはたった1人の兄さんなの!でも兄さんはそうじゃない!兄さんは自分を縛り上げたあの卑しさの権化と陰茎の魔獣まで赦す気なんだから!兄さんが教えに従って抑圧されるならあたしが精算採らないでどうするの?いっぱい兄さんは我慢してきたのに?あたしは神様に見放されたっていいんだから!あたしには兄さんがいたから!兄さんがあたしのために心願って、喜んで他者になんでも投げ打って神様に助けを乞うのさ!あたしの!赦せなかった。あたしが幸せなのは神様のおかげじゃない!兄さんのおかげなのに!どうして!強姦魔はね!自分が強姦される可能性なんて考えないんだから!あたしがあの愚物どもの身体を破壊したって考えもしないでしょうね!なんで自分の肛門がビール瓶でぐちゃぐちゃに壊されたのか!どうして兄さんに無体を強いた忌々しいあの腕に弾丸を撃ち込まれたのか!」
シャールファシーの叫びが面会室に響いた。
黒髪を揺さぶる美青年の両腋の下から腕を差し込み背中と胸を密着させて臀部へ楔を打ち込むと、敏感な先端が内部に引き絞られ、茎を粘膜の筋肉に扱かれ頭が真っ白になる快感に襲われた。くぐもった息に汗まみれの胸が高鳴った。ささやかな、しかし贅沢極まりない宴だった。想うだけで炙られた気になる。自身の昂りを煽っていく。粘膜になっていく肌を摩り、きつく擦り、刺激する。妄想の中で焦がれた柔肉へ侵入すると質量を増し、見覚えのある蕩けた横顔を描くと身体は滾った。
「ねぇ」
幻想の美青年が快感に喉を震わせ、吐息の中で名を喘いだ時に、よく似た匂いをした妹が近付いた。扱いていた焼鏝に氷の一閃が当てられる。夢幻は消え失せ、妹の私室の広い天井が視界を占める。
「兄さんのこと考えてる?」
ペティナイフの刃が燃えて滾る屹立に添えられていた。活気のない、落ち窪んだ目がぎょろぎょろと、小川の魚のように膨れ上がった陰茎から腹、胸、首、顎を辿ってフォランの目に泳いでいった。
「夢の中でも!兄さんはレイプされるんだ!」
妹は頭を抱え、ベッドの脇に崩れ落ちた。
「汚い!汚い!汚い!兄さんは色んな頭の中でレイプされて汚されるんだ…!みんな殺さなきゃ……こんな街!爆発しちゃえばいいんだ……つらい…つらいよ、お人形さん…お人形さんだけが兄さんのこと考えていいのに…」
妹の叫びが響き渡る。妹のことを見る通行人たちへ殺意を抱いたことがあった。可愛い妹を辱しめ、搾取する妄想をしているに違いない頭を撃ち抜くか、打ち砕くかしなければ彼女に安穏な未来は無いような気がした。互いに好き合って、大事に出来るだろうと思えた者にしか、割って入らないということは出来なかった。
妹は眼球だけを動かした無表情の顔をゆっくり上げた。
「そんな汚いもの、取っちゃえばいいんだ!」
ペティナイフがフォランの勃っている腹の器官へ吸い寄せられる。
「わぉん…!わぉぉぉん、」
「兄さんもきっと怖かったろうな。身体の中引き摺り回されて可哀想に……あたしが女だから守れないのかな…」
冷たい手が、焦れて露の玉が飾られた先端部を摘んだ。
「ぅ、あっ、わん、」
「こんなものがあるから…!」
ペティナイフの刃が根元に当てられる。フォランは目を剥いた。
「わぉぉん、くぅん」
性器に裂傷があったと告げられた時は、気が狂わんばかりだった。ただ殺されただけではなかったのだ。辱しめられたのだ。何を言われたのか分からなかった。自分の認識を疑った。あの可愛い妹は何をされたのかと。間違いであって欲しいと思った。守っているつもりで彼女を見殺してしまった罰だ。似た痛みが無ければならない。でなければ曖昧な期待と疑わしい不安に揺れ動いてしまうのだ。痛みのほうがよかった。実妹を忘れてしまうから。
「兄ちゃんが悪かった、ごめんな。怖かったよな。許せなかったよな。ごめんな、お前のこと守れなくてごめんな」
「こんなもの!兄さんを虐めて!許さない!」
「わぅぅん、わん…」
妹の怒りは尤もだった。フォランは目を閉じた。罰を与える者がいる。喜びだった。
「いけない!他の誰のものを切り取ったって!お人形さんは兄さんのお人形さんなんだから!」
ペティナイフを投げ捨て、栗色の髪を結ぶリボンを解きはじめる。真紅の平べったい紐が猛りを彩る。
「わんわん……」
陰茎の根元を締められる痛みに顔を顰める。幻想の中の美男子に我慢させた。男性器に苦しみを与えてしまった。空色の双眸が良心を掻き毟っていく。
「お人形さんのこと大事にしなきゃ…兄さんの大切なお人形さんなんだから…」
妹はぶつぶつ言ってリボンで飾られた肉棒をしまい、服を整える。髪を梳かし、両の脇腹を掴むとベッドに立て掛ける。妹の細腕の力にフォランは積極的に従った。ヘアブラシが茶髪を再び梳いた。
「お人形さん…」
首輪が解かれ、放り投げられた。鎖が軋む。
妹は1日中家にいた。この暮らしは悪くなかった。何の不安もない。妹は傍にいる。だが妹だけだった。しかし妹がいる。カールした毛先が愛らしい。円い目をした可愛い娘。外に行ったらぬいぐるみや菓子を買ってきたくて堪らなくなる。恋人ができたら上手く付き合えるだろうか。いじめてしまうかもしれない。結婚式できっと泣いてしまう。子供ができたら不安がまたひとつ増えるだろう。自分の配偶者や子供より優先してしまったらどうしよう。妹で、娘。可愛い子。彼女が選ぶなら愛そう。愛せなければ、愛そうとするだけだ。悩むだろう。きっと悩む。けれど。
「お人形さん」
「わんわん…わぉん」
妹が涙を拭いた。シロクマのぬいぐるみにキスしてから、妹の唇が前髪越しに額に当たる。その後にシロクマのぬいぐるみの革製の鼻が額に当てられた。
「おやすみなさい。シロクマちゃん、お人形さん」
タオルケットに包まれ、妹に背後から抱き締められて眠る生活を送った。食事、入浴、寝る支度、全てを妹が介護した。お人形さん、お人形さんと可憐な笑顔を浮かべ、兄さんがね、兄さんとね、と話が始まるのだった。素敵だよね、綺麗でしょ、優しいんだから、と結ばれる。
「あたしの父さんは兄さんのこと膝に乗っけてさ、ずっとくすぐってんの。下半身に手、突っ込んで。ずっと。シャーリィにはしないで、シャーリィにはしないでって泣いてるのか笑ってるのか分かんなかったワケ。あたし意地悪してるんだと思ってた。父さんのこと独り占めしてるんだと思ってたワケ」
毎夜のようにタオルケットに包まれたフォランを背後から抱き締める。先住民のシロクマの大きなぬいぐるみは枕元に正されていた。
「お人形さん……父さんって最低。なんで父さんって最低なの?兄さんの幼い身体で遊んでたんだ…!あたしはずっと気付かなかった。父さんが兄さんの生足すりすりしてさ、その時にあたしのことニヤニヤした顔して見るの。あたしそのこと思い出して怖くなる。多分もっといっぱい気付かなかったケド、兄さんに守られてたことあるんだなって」
"兄さん"について妹は寝る前とは思えないほど饒舌だった。その途中で糸が切れたように眠る。だが今日は違った。飛び起きて、喚いた。
「この世の全ての男を殺すしかない!この世の全ての男を殺さなきゃ、また兄さんを傷付ける!消さなきゃ……それであたしも死ななきゃいけないんだ!」
髪を掻き乱し、両耳を押さえ、血走ったら瞳がシーツを見ている。フォランも身を起こした。動いた物を捕らえてしまう野生に似た動きで眼球だけがフォランを捉える。
「素敵でしょ、兄さん。あたしは兄さんのあの美しさに気が触れたワケ。お人形さんも、あの綺麗さに頭がおかしくなってるんだ。あんなに素敵な人いないよなぁ?お人形さん、兄さんのこと頼むね」
痙攣を起こしたのかと思った引き笑いをして妹はベッドから降りる。
「どこに行くんだ?こんな時間に…」
外は暗い。
「あたしのこと忘れてね。でもよろしくっていうのは忘れないで。さようならだよ。さようなら」
追うことも出来たはずだ。何か夢から覚めてしまう心地がして、明るい廊下へ消えていく小さな背中を見ているばかりだった。扉が閉まっても、ずっと。
妹は帰って来なかった。夜明け前に私室を出てリビングを通った。ダイニングテーブルにラップで覆われたオムライスが置いてあった。昨晩の物だ。人形の口に運ぶばかりで、妹が食べているところは見なかった。ダイニングチェアに座り、テーブルに伏せた。妹が帰って来ない。妹が帰って来ず、妹はやはり死んだのだと少しずつ理解した。その後、まだ理解しきれないまま部屋に自治警団が入ってきて、手錠を掛けられるのだ。妹を陵辱し殺害した下劣な兄として世間に引き摺り出された。遺伝子編集のことだけは隠されて。
誰かの来訪を知らせる扉の音にフォランは飛び上がる。誰の名かも分からない人名を吐いて、爪先は床を蹴った。自治警団が来る。妹殺しの容疑がかかり、実家でも施設でもない場所に軟禁されて、母親と研究室の見慣れた先生が来るのだ。妹の私室に逃げ込んで、内側から鍵をかける。ベッドの下に潜り蹲った。妹はどこへ行った。何故帰って来ない。チャイムが鳴る。
―神様からの借り物なんだと奴等はきっと言いますよ。人間が勝手にいじくっていいはずがないってね。つまりぼくらって異端なんです。有限かつ血を流すロボットですよ!傑作だ!
簡単にあの少年は口を割った。妹を犯し、殺した、後輩のような存在だった。
―ぼくが異常だって言うなら!あんたらがいじくった遺伝子で!正常な遺伝子がぶっトんだってどうして思わない?ねぇ、思い通りにならなかった個体って殺されるんですかね?いや…ぼくはあの子とは違うから、壊されるんですよ、きっと…
彼のほうができがよかった。高品質だった。高性能だった。
―ぼくの気持ちは、貴方にしか分からないでしょう?貴方はぼくと同じなんだから。ねぇ、誰がぼくらに寄り添ってくれる?バカどもを奴隷にしたら何故いけない?何故技術をひた隠し、まだ神だの、倫理だのって言ってるバカどもに媚び諂う??何故ぼくらはバカどもに治療される?ぼくらよりも劣悪種なのに!
彼は施設で見たことのある奇形児が廃棄処分になったことを疑っていた。その子供もまた、彼のいう"ぼくら"だった。彼は、あれは要署名者が捨てたんですよきっと、と言ってその時は笑っていた。忘れていたことだった。取るに足らないことだった。妹や母親と歩いた外では珍しい人々ではなかったから。
―ああいう風に捨てられるんですよ!科学技術がなきゃ死んでた奴等も生きて行けるんです!素晴らしい慈悲の御手ですな!なのに今度は死にづらい個体だなんて、そんな!急成長する人口で沈めたくなりませんか、大地。
他の者では微動だにしなかった彼はフォランを前にすると興奮気味に話した。
―あのガキは害獣駆除みたいに毒ガスだったんでしょうけれど、ぼくは電気椅子ですよ、分かってます。この前に女と子供殺してますからね。ふと腹に戻してやりたくなったんです。父親が母親を陵辱してそのまま生まれた子供がね、可哀想になったんです。小難しい病気になるかも知れないし、白痴かも知れないのにどうしてそんな不安因子を愛せる?子供が可哀想になったんですよ。元来た産道に帰したら、死んじゃったんです。
彼はマジックミラーを見て口の端を吊り上げた。犯人がまだ捕まっていない事件だったというのに簡単に喋った。反対にフォランは、何も言えなかった。
―あんたの妹を殺ったのはね、あんたの反応が見たかったからです。同じ人間とも思えなかった…ほとんど同じ遺伝子でしょ?だのにあの女はあなたと違う!感動しましたね!ぼくらがやられたのは小さな治療行為と相違なかった、そんな幻想が壊された気さえしましたね!遺伝子いじくった優秀な息子と!そのまま生まれた劣悪種!2人目は遺伝子編集を選ばなかった!何故なんだ?貧乏人なのか?一体誰に何を義理立てしているんだ?
―馬鹿じゃないのか
全く別のことを考えていた。目の前の後輩のことも、妹のことも、母親のことも、研究班のこともまるきり頭にはなかった。
―それですよ!他者をバカだと一蹴出来る!その思想です!両親の遺伝子も大したことがないくせに、少しいじくられて選ばれた気になる!そういう奴等が跋扈する、アホみたいな国を見たかったものです!
彼は施設に預けられたままだった。事故死だった。法的制裁よりも証拠隠滅が図られたのだとフォランは思った。彼が振り返って笑った姿が頭に焼き付いている、はずだった。忘れていた。嫌なことは全て切り替えろと研究員は言った。でなきゃ大成しないと言った。君は次世代を担うんだよ、と言った。母親もそう望んでいる。優秀な遺伝子を持った女と子を成し、有り余る富を手に入れた後は貧民に金を撒き散らし、名誉まで手にすれば病や著しい老いの心配もなく寿命まで生きろと言った。誰が死んでも嫌なことは切り替えられるんだから、寂しさも悲しみもないはずだと言った。それが幸せなのだと言っていた。誰もが望み、誰もが目指して叶わなかった、誰もが思う幸せなのだと。
―あいつは死んだじゃないか!
妹を殺した人間のために何故拳を痛める必要があったのか。ブネーデン式遺伝子編集は失敗なのだと他の研究員が言った。人間の実験台は厄介だとも言っていた。この子の暴力的な個性かも知れないと言い、派手なのはこの研究に向かないとも言った。
―いいかい、君はロボットではないのです。有限な私の息子よ。
世間では通信機器が発達しているというのに文通しか許されなかった精子提供者が身を保証すると手紙を寄越した。もうその頃から末期の病とは聞いていた。
―この病の苦しみや悲しさを知っているから、私は君という子供が産まれることに同意したのです。自分と他者の心願や慚愧ではこの痛みは和らがないことを知っているのです。子供というのは顔が見えずとも、君という存在だけで、私は君がこの病に罹らない可能性を思うのです。
ベッドの下で震え、ノブが捻られる金属の軋みを聞いていた。妹が来ない。指を噛む。誰かの癖だった。
シャーリィお嬢さん!
扉の奥から呼ぶのは、フォランも見たことのあるハウスキーパーだった。乱暴にノブが数回捻られ、足音が忙しなく遠ざかる。
朝日が射し込み、妹はまだ帰らないのかと胃が引っ繰り返るような緊張を抱いてリビングに向かう。ダイニングテーブルセットに何者かがいたが、妹でないのは確かだった。短く整えられた黒髪と、端整ながらも冷淡な雰囲気のある顔立ちの男。フォランに気付き、印象に似合わないあどけない表情を浮かべた。
「探したぞ…シャーリィが世話になったようだな」
喋るとは思わずフォランは怯んだ。夢の中で掻き抱いた美男子が顰めっ面へ変わった。
「帰ろう。ここにいても仕方がない…」
美男子が伸ばした手を擦り抜け、フォランは四つ這いになる。長くしなやかな脚へ身体を擦り付けた。
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「おぉん、わんわん!」
冷淡な面構えの美男子はフォランへ深く眉間を寄せ、口を開く。長く濃い睫毛が伏せられる。
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「たいほ…」
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「たい、ほ…?」
「…偶然じゃ、ないんだろうな。俺を縛り上げた専務の息子を、殴ったんだ。ビール瓶で。現行犯逮捕だと…さっき、連絡が入った」
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フォランは吠えた。それから妹の名を叫んだ。そして同時に、あの娘が妹ではないことに気付いてしまう。けれど、妹だった。
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美男子は凍えたように振動しているフォランへ腕を巻き付け体温を与える。
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美男子はフォランの体温に縋りつき、本当に凍えているようだった。
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「オレ、待って…オレ…」
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「フォラン」
「オレ、あんたに酷いことした…!オレ、あんたに…」
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美男子はフォランの意思に反して傷付いた様子で空色の目が彷徨った。
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「あんたが欲しかった。だから逃げ場のないあんたに迫った…!あんたが選んだんじゃない!選ばされたんだ!」
「フォラン…俺は本気にしたぞ。去り際に言った言葉」
フォランは首を振る。全てを否定し、拒否を続ける幼子のように、美男子の声を聞けなかった。嬌態まで知っているこの声に、さらに惹かれるのが怖い。
「分かった。シャーリィを頼む。俺はあの子を破滅させるだけだから。職も失って、これから制裁を待って、犯罪者として規制される未来が待ってる。お前だけは、あの子に寄り添ってやってくれ…」
美男子は踵を返した。触れたら割れてしまう繊細なガラス細工に似ていた。咄嗟に伸ばした手を引いた。壊してしまう。汚してしまう。溶かしてしまう。砕いてしまう。あの娘の言ったことは守れそうにない。後姿が腕を上げ、顔を拭う。
「ボーダムさん…」
呼ぶと控えめに振り返った。気が触れることを望むほどに美男子の肌を落ちていく涙は美しかった。感性も言語も捨て、ただ美しいとだけ思った。息を呑んで、呼吸を忘れ、肉体が急かし、咽せる。
「頼む。シャーリィのことだけは…頼む」
妹に雁字搦めで、暴漢にも懇願するしか出来ないのか。痛め付けて、謗った。嫌がる肌に触れて、激しく抱いた。体内を欲望に汚した。穏やかな男を刺激して、不本意ながらも深く傷跡をつけてしまった。
「待って。オレ、あんたに謝らなきゃ…」
「要らない…」
美男子との距離が開いていく。自署すべきだった。安らかな毒ガスの中で永い眠りにつくべきだった。何故拒んでいた。母親だった女の言う通りだった。妹がいないというのに何故まだ生きている。
「でもオレ、あんたに…」
「謝るな。俺は…確かにお前に、ほんの少しでも…救われた」
好きだ。抑えきれない。フォランは額を覆って屈み込む。伝えてどうするのか。彼を辱しめたのは誰だ。彼を傷付けたのは誰だ。好きだと告げて、渦巻く蟠りから解き放たれるのか。結局は帰って自署するか、そうでなくとも与り知らない代筆によって処分される身だ。パラボレーを出ればもう会うことはない相手。長居してしまった。
「また来る」
美男子が去って行く。フォランはガス室にひとり残されたような気でいた。
シャールファシーは落ち窪んだ目を怯えながらフォランへ向けた。受話器を取ろうとせず、俯いている。白く反射したアクリル板が時折彼女の表情を隠す。フォランは受話器を耳に当てたまま固まっている。妹は怒られることを怖がっているのだ。怒るつもりなど微塵もない。数分待って、少し乾燥している細く長い指が受話器を握る。
「シャーリィ」
「あたしのこと忘れてないの?電流通されて、ないの?」
ベルフレイシェから聞いた話だった。ベルフレイシェの元を訪れた後にフォランの元に来るはずだったという。シャールファシーの名を騙る輩だと思い、追い返してしまったらしい。まだきちんとした法整備が必要な技術だったが、研究の補助金をシャールファシーから受けていたため協力的だったと話していた。
「通されてない。オレは大丈夫。君のお兄様も」
「残念だケド…ちょっとだけ嬉しい」
ひび割れた唇が緩く開いた。可憐な笑顔が花開き、フォランも笑った。
「馬鹿なことしてごめん」
「それは人を殴ったことか?それとも、オレたちに電気流そうとしたこと?」
「電流のほう」
迷うこともなくシャールファシーは俯いたまま置いた受話器に答えた。まだ面会人をアクリル板越しとはいえ対するだけの力はないようだった。
「後悔してないから」
「それは、人を殴ったことか?それともオレたちに電流通したかったことか?」
「両方」
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