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未完結打切り版(2010年)
andante
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自分では解けないほどきつく縛られた紐がベッドの柵に繋がっている。上半身は裸だった。着ていたシャツは嘔吐物で汚れて、近くに脱ぎ捨ててある。
肋骨が浮き出て、筋肉は殆どない。風呂に入れず、日焼けしていない真っ白い肌は黄ばんでいた。浮き出た頬骨の上にある瞳は虚ろだった。
分厚いドアには鍵が掛かっている。防音効果もあるようで叫んでも誰も助けになどこない。薄暗い部屋に照明器具はなく、壁の上のほうに小さな窓が2つ空いているだけだ。少し大きめの部屋にベッドが1つ。
一日に一度粗末な食事が運ばれてくる意外は扉が開かれることはない。
優秀な兄は毎日部屋に籠もって勉強している。狭くて臭いこの部屋に閉じ込められる前からそうだった。今でもそうだろうな。父親も母親も頭のいい子が好きなのだ。
「どうした?」
キッチンのテーブルで突っ伏したまま寝ていたようで、顔を上げた途端にハンスの声が降ってきた。目の前にある食器はさっきダンテが食したインスタントラーメンが入っていた。湯気を立てていたのにもう冷めているようだ。
「・・・・寝てた?」
「みたいだな」
夕飯を作っている最中のようだが、鍋の中の物が煮えるのを待っているらしく湯気の立つマグカップを手にして時間を潰しているようだ。
「懐かしい夢、見た」
「母親のか」
ダンテは頷いた。
「兄さんはどうして家を出たんだよ?俺のことなら、あのまま放っておけば死んでただろうに」
自嘲的に笑った。
「弟が死んで嬉しい兄はいない。それに、重かった。母親の期待が。いつか母親の期待に応えられないんじゃないかと考え始めたら、俺もお前のように監禁されるのかと思った。それが怖かっただけだ」
「それでも兄さん、俺は兄さんに助けられた」
「せっかく自由にさせられたと思ったのにな」
ハンスは自嘲的な笑みを浮かべてそう言った。
「大丈夫だよ。心配しないでよ。もう子どもじゃないんだ」
これからもっと仕事が危険になる、と言おうとしてやめた。
「すまない」
兄に助けられ、永らえている。だから兄のために死んでも、別にそれでも構わない。
絞り出すような声での謝罪がダンテの胸を締め付けた。
「帽子屋さんのネズミに会いたいんだけど、何時くらいに行けば居るかな?」
「帽子ネズミに?」
「あぁ、訊きたいことがある」
表向きは洒落た帽子専門店だが、そこのオーナーのネズミと呼ばれる人物は顔が広く、この街の情報通だ。この辺りで一番美味しく更に安いランチまで知っている。
「分からないな。忙しいヤツだ。行き当たりばったりなんじゃないか?」
「そっか。とりあえず明日行ってみる」
ハンスがダンテに背を向けて鍋の中身をお玉でかき混ぜながら、あぁ、と返した。
*
ダンテは帽子屋まで歩いていった。大きな店舗で内装はシックだ。真っ白い壁、焦げ茶色の床、照明はぼんやりとした橙色の電気。ダンテも何度か来店したことはあったが、ネズミ目的ではなかった。
「すみません、ネズミさんいます?」
近くにいた女性の店員に声をかける。
「はい。暫くお待ち下さい」
噂で聞いたことがある。落ちぶれたマフィアを拾い集めてこの帽子屋を始めたらしい。この女性の店員には穏和しい印象を受けたがマフィアだった過去があるのだろうか。
「ネズミさんに、ダンテが来たって言ってもらえる?」
「かしこまりました」
数分後に店の奥に通され、上等な皮でできたソファーに座らされた。
「珍しいわね」
ダンテの目の前に座るのはインテリ系の美女。銀のフレーム眼鏡の奥の切れ長の瞳に長い睫毛。茶髪は後頭部で纏められている。
「ネズミさんって女だったんですか」
まず一声はそれだった。
「そうよ。お兄さんから、聞いてなかったかしら?」
「聞いてないです」
「まあ、面倒な前置きはいいわ。本題は?」
「17年前にあった事件のことなんですけど」
「17年前?貴方、生まれてるの?」
くすくすとネズミは笑った。
「え、えぇ、まぁ。それで、17年前に監禁事件あったじゃないですか、女子2人を」
「あったわね、そんな事件」
「被害者の親族の住所、教えて下さい」
ネズミはうーんと唸った。
「個人情報って言葉知ってるかしら?」
「情報売らなかったら仕事勤まらないんじゃないですか?」
「それはそうだけど。とりあえず探ってはおくわ」
「あともうひとつ」
「帽子、買っていってくれるのよね?」
「・・・はいはい」
「何かしら?」
「Aliceのアレイドってヤツが今受け持っている任務と、そのターゲットと依頼人」
「3つになってるわよ」
「いいから!」
「わかったわ。Aliceの方はちょっと難しいわよ」
「金なら大丈夫っすよ」
「そう。最近の子どもは金持ちね」
揶揄しながらネズミはダンテとの間にあったテーブルの下から色紙をだした。
「サインするにしては随分立派な書類ですね」
ネズミから向けられたそれがサイン用色紙であることはすぐに分かったが敢えて焦らしてみる。
「芸能人が来ることが多いのよ」
ネズミからサインペンを渡されさらさらと色紙に描いていく。
「情報が入り次第、連絡するわ」
「よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げてダンテは立ち上がった。
「それと貴方に塩酸をぶつけた客、あの人のことだけど」
ダンテはネズミを睨んだ。
「その話はいいですよ。大丈夫です」
ネズミはふふっと笑った。
「そう言うと思ったわ。黙っておく」
「頼みますよ」
「キャスケットが新しく入ったの。チェシャ猫みたいなヴィジュアル系ならシルクハットもあるわよ」
「ありがたいですね」
心にもないがダンテはそう言って苦笑すると部屋を出ていった。
店内に戻って、適当に棚に並んでいる帽子を手に取るとレジに向かった。情報屋だけでは大して儲からないのだろうか、どうして帽子専門店まで開いたのだろう。ダンテは店内を見回してそう思った。ダンテが見ているような汚い世界を知らなそうなカップルや、子連れの家族。とはいえ、もしかしたら各々の生活の中に見えない闇があるのかもしれない。
─────俺達みたいにさ
長い年月を経ても甦ってくる母親の手の感覚。乾いた音を立て、頬が熱くなる痛み。無意識に頬に手が伸びる。先日のライブ中継の一件で、頬が疼いた。
暫く店内を見て回った。ネズミはモーセ・ハットというブランドで営んでいるらしい。高値の物もあるが、大体は手頃な価格だ。店内を飽きるまで見て歩くとダンテは店を出た。ライブなどの時と違い、化粧はしていないし、金色のカラーコンタクトレンズも入れていない。髪も暫く音楽活動はしないため昨夜脱色してしまった。ダンテと分かる者はいないだろう。ネズミは分かっていたけれど。ダンテは溜め息をついて依頼人の家に寄ろうと歩き始めた。
レヴィという男は妻一人、子一人と静かに暮らしているようだ。常に何かに怯えているようで、特に娘を恐れているかのように思えた。ダンテが依頼を受けた日、彼は四六時中ガタガタと震え、娘をちらちらと見ては冷や汗を流していた。ルピという娘は愛らしく笑っていた。
─────被害者の家族全員殺せ・・・か
依頼人の言葉に従うだけ。道徳的だとか非道徳的だとか、信念に沿っているとか背いているとかそんなことは関係無い。標的に同情してしまう前に考えるのをやめた。家族を失って、それで自分に殺される。躊躇いが生まれる前に考えるのをやめなければ。そうしなければつらい。けれどやはなければならない。他人を糧にしてまで生かしたい。ダンテは俯いた。そういう生き方しか出来ない自分が情けない。
市内を走るバスに乗って依頼人の家に向かう。
依頼人の過去については知っている。女と酒、薬に溺れてたまたま目に留まった女性を拉致監禁しその数週間後にまた別の女性を拉致監禁。監禁中に一人は亡くなり、少し前にもう一人が亡くなった。依頼人の身勝手な依頼。その依頼に流されるしかない自分はさらに身勝手。
車窓の桟に肘をついて、ぽかーんと口を開いた。
フロレンスィア家に生まれて、9つのときにできた弟は母親に嫌われていた。理由は定かでないけれど、多分、自分が生まれる6年前に死んでしまったというお兄さんに似てるからだろう。でも、どうして似ていることを嫌がるのだろう?
母さんは弟を部屋に閉じ込めてしまった。理由は分からない。
弟はフロレンスィアの名を持つことを認められなかった。
思い出せば父さんは弟を殴った。弟のこめかみ付近に今でも残っている火傷の後は、焼けたフライパンを押し付けたときのだ。
自分は母親の猫撫で声に誘われるがまま部屋に籠もって与えられるだけの課題をこなした。そうしている間にも弟が父さんと母さんから暴力を振るわれているのをいつの間にか知っていた。
「自分が勉強に集中できないから」と悲鳴を上げる度に父さんと母さんは弟をさらに痛めつけた。
母さんが好きなのは、勉強が出来る子。言う事を聞く子。お金になる子。要するに自分に都合の良い子が好き。だからそれを精一杯演じようと思った。弟を助けたいと思うより前に、弟と同じ扱いを受けるのが怖かった。
弟は自分をこれ以上ないくらいの鋭い眼差しで睨んだ。自分は弟を助けたいだけなのに。弟のエメラルドグリーンの瞳が自分を貫いて仕方ない。自分にはないエメラルドグリーンの瞳が。
弟と自分は血が繋がっていないのだろうか、と思ったこともある。弟とは母さんも父さんも同じ、本当の兄弟だった。
どうして母さんと父さんは弟を嫌うのだろう、いや、嫌うなんてものではない。憎んでいる。その例えの方が正しいだろう。
学校の勉強をしっかりやったところで、自分の一番知りたいことは何も分からない。
あの日は冬だった。酷くなる弟への暴力が更に酷くなった。
弟の閉じ込められている倉庫は冬はとても冷たい。せめて毛布だけでも持っていかなければ凍死してしまうだろうと思い、自分は毛布を持っていった。弟は寝ていた。小さく、丸くなって。
ぼろぼろの夏物のTシャツと黄ばんだ肌。痣だらけの骨と皮だけの脚。弟の背中にはミミズ腫れがあったし、青い痣も転々としている。肩甲骨のところは火傷の痕がくっきりと見えた。ここにはもう居られない。絶えられない。そう直感した。
自分が16、弟が7歳のとき、父さんと母さんの家を出て行った。弟も自分も心身共に限界だった。
公立の大学に入れば奨励金を貰い、その奨励金とバイト代で2人で生きていくには十分だった。
母さんと父さんのもとを離れるのが弟にも良いことだと思っていた。けれど弟の執着は母さんに向いたまま。
兄弟喧嘩をしたこともあった。
憎まれた弟とそうでない兄。この溝はとても深くて埋めようがなかった。弟が13のとき。チェシャ猫というヴィジュアル系のロックバンドがメディアを通して注目されるようになった。
最初から弟が音楽活動に興味があったかといえばそういうわけでもない。
弟は学校の誰かと遊ぶということはなく、学校が終わればすぐに家に帰ってきた。優しい母親も、頼もしい父親もいない弟を待つのは、こんな自分だけだった。待つといっても殆ど仕事で家に居なかったため弟が自分を待っているという表現のほうが適切だろう。
13の弟と22の自分が住むには十分過ぎるくらいの高級マンションだった。弟が友人を家に呼ばない理由は住居の問題ではないのだろう。やはり良心がいないからだろうか。それとも、呼ぶ友人がいないのだろうか。自分に気遣ってくるだろう弟にはなるべく学校のことは訊かないようにしている。
あんな母親に感謝していることは2つ。母さんが教育熱心なおかげでいい大学からいい就職先が見つかったこと。そして弟を生んでくれたこと。自分は1人ではないのだ。
弟がある日友人を家に連れてきた。自分が休みの日に約束していたようだ。弟の初めて見る友人は身体が弱かった。
病的なくらい肌が白い気がした。艶のある真っ直ぐな黒髪のせいかもしれない。弟の初めての友人は女の子だった。そのことについて、自分はどうこう言うつもりはない。
弟も年頃なのかと思っていた。友情から愛情に変わってしまうなんてよくあるパターンだ。
23の夏が終わり、秋に変わる頃、弟は14になったばかりだった。コンピュータによるゲームを製作、開発する会社に勤めていたときだった。
弟から電話がかかってきた。いつもの声の調子で、淡々と「トモダチが死んだ」と。
寂しいだろう、つらいだろう、悲しいだろうとその日は早く家に帰った。
弟は特に何があったという風でもなく、いつものように学校の宿題をやっていた。
「今日は帰ってくるの、早かったね。今からご飯の用意するから」といつもと同じ調子の、同じ台詞。間違い電話だったのかと訊ねた。
「ああ、死んじゃったんだって」。顔色一つ変えない弟。この子にはどこか欠陥があるのだろうか、そんな考えが浮かび始めた。
次の日、弟と弟の初めての友人の亡骸に会いに向かった。
弟はただ動かない友人を見ているだけだった。
「悲しくないのか」と問えば「悲しくない」と返ってきた。
「怖くないのか」と問えば「怖くない」と返ってきた。
大切なのは兄だけだと、弟は言った。それ以外は自分の何であろうと大切だとは思わない、とも言った。
この友人も、「友人」という名ばかりの存在。弟にとっては「友人」という名のついた、何の意義もない存在だったのか。それではあまりにもこの少女が気の毒だと思った自分は、きっと自分と兄しか愛せないのであろう弟の分も、と暫く喪に服した。
自分が24、弟が15のとき、チェシャ猫のヴォーカリストが脱退した。様々なメディアがうるさくこの記事を取り上げた。そしてチェシャ猫のリーダーは代わりのヴォーカリストを公募すると言っていた。
本当に何となくだった。実際有り得ないような話だが、マイクに向かっていたチェシャ猫のリーダーがまるで自分を見ているような気がしたからだ。カメラに向かっているのだから当然のことだが。これも気の所為だろうが、チェシャ猫のリーダーの目つきと似ていると思った。本当に何となくで弟に「やってみるか」と訊ねた。
弟なりに出来る仕事を考えたのだろう、弟は笑って「やってみたい」と答えた。
未成年は保護者同伴だった。課題曲と自由曲と、ちょっとした自己紹介で審査される。審査員はチェシャ猫のメンバーだったが、ヴォーカルのアリアの姿はなかった。
チェシャ猫のリーダーは弟を推薦した。弟は前のヴォーカルとは対象的で敬語も使えず、穏和な雰囲気を与えるアリアとは違い、警戒心剥き出しで自分以外には敵意を見せ態度は攻撃的で挑戦的だった。
前・ヴォーカルの印象に縛られているであろうメンバーたちはリーダーの推薦に顔を顰めていた。
歌うことなんて滅多にしない子だったし、音楽に溢れた生活をしていたわけでもない。不合格を言い渡されたところで弟を責めるつもりでもなかった。結果、弟は不合格。合格した人はやはり穏和な雰囲気を持った青年だった。
弟はしきりに自分に謝った。働けなくてごめんなさい、金喰い虫でごめんなさい、と。実の母親に言われていたことだった。奴等のところを離れても弟の恐怖は消えないのか。ひどく空しく、ひどく悲しい。
そんな弟を拾った女がいる。デザイナーのモーセ・ミックという女だ。今では帽子専門店を営んでいる。そして情報屋とまではいかないが彼女の情報通さに頼っている人達もいるようだ。
彼女は弟に我が社のCMに出ないかと話を持ち掛けてきた。弟は喜んでいたが自分は承諾しなかった。チェシャ猫の公募は本当にただ、何となくの今さら説明もつかない心理状態だったわけで、弟はまだ義務教育も修了していないのだ。
けれど自分は心に決めたことがあった。弟は長い年月監禁され酷い暴力を振るわれていた。だから解放してやれることが出来たなら好きなことをさせよう、と。
「やってみるか?」と問えばこくこくと弟は頷いた。初めてのCMを収録した後、数ヶ月で彼女はあるバンドを紹介した。ヴォーカルの欠けたバンドだ。
「才能があるにしろ無いにしろ、私にはそれを見極められる力はないわ」
弟が加入して間もなくこのバンド「舌切雀」は爆発的にヒットした。1年足らずで移籍が決定し弟の意志に関係なくチェシャ猫の加入が決まった。オーディションで合格した青年がまだ公開されていない頃だった。暫くの活動休止のままだったせいだ。その青年には悪いことをした気がして仕方ない。
チェシャ猫に加入することが決まったとミック・モーセ氏が知ったとき、彼女は落胆を自分達に見せた。それから彼女とは一切の接触がなくなった。
チェシャ猫のメンバーと初めて顔合わせに行ったときの弟は不機嫌だった。「舌切雀」にいたときとは違う冷遇。しかも望んで求めたメンバーではない。音楽の方向性も「舌切雀」とは違う。「辞めるか」と問えば首を横に振るばかり。
そんな日々が続いて、やっと弟がチェシャ猫に慣れてきた頃。
訪問者が自宅の扉を叩く。扉の向こう。激しい憎悪と共に、暗闇に転落した。
14歳の終わりに近付いた頃兄が死んだ。それ以来、ずっと誰かを傷つけて、何かを奪って、殺す仕事をしている。姿の分からない誰かの命に従い、依頼を呑む。それが良いことだとか悪いことだとかなんて関係ない。
初めての任務は、随分離れた街だった。チェシャ猫のライブなどもあって人物・場所の特定に時間がかかった。その街は女王制だった。自分の生まれた街には王などいなかった。
くるくると螺旋を描く髪と華々しいドレス。玉座に座った女王と、標的である召使。
あの日のことはよく覚えている。毒を塗った短刀で、一人でいた召使の首筋を掻っ切った。
別に処女を失っただとか、そういう意味とは違くて、純潔を失った気がした。
悲しみと怒りに狂った女王は犯人を捜しだし、処刑した。もちろんそのときに処刑されたのは俺ではない。姿も顔も知らない、俺の恩人の仕業だ。
帰りの列車の中は胸糞悪くて仕方がなかった。自分の罪を誰かに着せること。けれど自首する度胸なんてなくて。
俺が殺した召使は女王の隠し子らしい。
「ただいま」
「おかえり」
家に帰れば、死んだ筈の兄が風呂を沸かし、夕食を作って待っていてくれている。
どれだけ汚れても、絶対に失くしたくない生活。
2回目の任務は依頼人の勤めている会社の社長の一家暗殺だった。承諾するしか選択肢がなかった俺はまた人を殺した。一気に、4人も。子と仲の良かった家庭のようで、癪に触ったのと同時に羨ましかった。
父、母、姉、弟。自分たちとほぼ同じ家族構成で対象的な仲。まるで自分がぶち壊したように───否、俺がぶち壊した。最後に弟を殺したとき、俺は泣いた。あの時生き延びることの出来た俺の身代わりのようで、そうは思っても止めることなんて出来なかった。
「おかえり」
「ただいま」
これが俺の望んだ世界。
そのためなら俺は
────喜んで汚れよう。
肋骨が浮き出て、筋肉は殆どない。風呂に入れず、日焼けしていない真っ白い肌は黄ばんでいた。浮き出た頬骨の上にある瞳は虚ろだった。
分厚いドアには鍵が掛かっている。防音効果もあるようで叫んでも誰も助けになどこない。薄暗い部屋に照明器具はなく、壁の上のほうに小さな窓が2つ空いているだけだ。少し大きめの部屋にベッドが1つ。
一日に一度粗末な食事が運ばれてくる意外は扉が開かれることはない。
優秀な兄は毎日部屋に籠もって勉強している。狭くて臭いこの部屋に閉じ込められる前からそうだった。今でもそうだろうな。父親も母親も頭のいい子が好きなのだ。
「どうした?」
キッチンのテーブルで突っ伏したまま寝ていたようで、顔を上げた途端にハンスの声が降ってきた。目の前にある食器はさっきダンテが食したインスタントラーメンが入っていた。湯気を立てていたのにもう冷めているようだ。
「・・・・寝てた?」
「みたいだな」
夕飯を作っている最中のようだが、鍋の中の物が煮えるのを待っているらしく湯気の立つマグカップを手にして時間を潰しているようだ。
「懐かしい夢、見た」
「母親のか」
ダンテは頷いた。
「兄さんはどうして家を出たんだよ?俺のことなら、あのまま放っておけば死んでただろうに」
自嘲的に笑った。
「弟が死んで嬉しい兄はいない。それに、重かった。母親の期待が。いつか母親の期待に応えられないんじゃないかと考え始めたら、俺もお前のように監禁されるのかと思った。それが怖かっただけだ」
「それでも兄さん、俺は兄さんに助けられた」
「せっかく自由にさせられたと思ったのにな」
ハンスは自嘲的な笑みを浮かべてそう言った。
「大丈夫だよ。心配しないでよ。もう子どもじゃないんだ」
これからもっと仕事が危険になる、と言おうとしてやめた。
「すまない」
兄に助けられ、永らえている。だから兄のために死んでも、別にそれでも構わない。
絞り出すような声での謝罪がダンテの胸を締め付けた。
「帽子屋さんのネズミに会いたいんだけど、何時くらいに行けば居るかな?」
「帽子ネズミに?」
「あぁ、訊きたいことがある」
表向きは洒落た帽子専門店だが、そこのオーナーのネズミと呼ばれる人物は顔が広く、この街の情報通だ。この辺りで一番美味しく更に安いランチまで知っている。
「分からないな。忙しいヤツだ。行き当たりばったりなんじゃないか?」
「そっか。とりあえず明日行ってみる」
ハンスがダンテに背を向けて鍋の中身をお玉でかき混ぜながら、あぁ、と返した。
*
ダンテは帽子屋まで歩いていった。大きな店舗で内装はシックだ。真っ白い壁、焦げ茶色の床、照明はぼんやりとした橙色の電気。ダンテも何度か来店したことはあったが、ネズミ目的ではなかった。
「すみません、ネズミさんいます?」
近くにいた女性の店員に声をかける。
「はい。暫くお待ち下さい」
噂で聞いたことがある。落ちぶれたマフィアを拾い集めてこの帽子屋を始めたらしい。この女性の店員には穏和しい印象を受けたがマフィアだった過去があるのだろうか。
「ネズミさんに、ダンテが来たって言ってもらえる?」
「かしこまりました」
数分後に店の奥に通され、上等な皮でできたソファーに座らされた。
「珍しいわね」
ダンテの目の前に座るのはインテリ系の美女。銀のフレーム眼鏡の奥の切れ長の瞳に長い睫毛。茶髪は後頭部で纏められている。
「ネズミさんって女だったんですか」
まず一声はそれだった。
「そうよ。お兄さんから、聞いてなかったかしら?」
「聞いてないです」
「まあ、面倒な前置きはいいわ。本題は?」
「17年前にあった事件のことなんですけど」
「17年前?貴方、生まれてるの?」
くすくすとネズミは笑った。
「え、えぇ、まぁ。それで、17年前に監禁事件あったじゃないですか、女子2人を」
「あったわね、そんな事件」
「被害者の親族の住所、教えて下さい」
ネズミはうーんと唸った。
「個人情報って言葉知ってるかしら?」
「情報売らなかったら仕事勤まらないんじゃないですか?」
「それはそうだけど。とりあえず探ってはおくわ」
「あともうひとつ」
「帽子、買っていってくれるのよね?」
「・・・はいはい」
「何かしら?」
「Aliceのアレイドってヤツが今受け持っている任務と、そのターゲットと依頼人」
「3つになってるわよ」
「いいから!」
「わかったわ。Aliceの方はちょっと難しいわよ」
「金なら大丈夫っすよ」
「そう。最近の子どもは金持ちね」
揶揄しながらネズミはダンテとの間にあったテーブルの下から色紙をだした。
「サインするにしては随分立派な書類ですね」
ネズミから向けられたそれがサイン用色紙であることはすぐに分かったが敢えて焦らしてみる。
「芸能人が来ることが多いのよ」
ネズミからサインペンを渡されさらさらと色紙に描いていく。
「情報が入り次第、連絡するわ」
「よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げてダンテは立ち上がった。
「それと貴方に塩酸をぶつけた客、あの人のことだけど」
ダンテはネズミを睨んだ。
「その話はいいですよ。大丈夫です」
ネズミはふふっと笑った。
「そう言うと思ったわ。黙っておく」
「頼みますよ」
「キャスケットが新しく入ったの。チェシャ猫みたいなヴィジュアル系ならシルクハットもあるわよ」
「ありがたいですね」
心にもないがダンテはそう言って苦笑すると部屋を出ていった。
店内に戻って、適当に棚に並んでいる帽子を手に取るとレジに向かった。情報屋だけでは大して儲からないのだろうか、どうして帽子専門店まで開いたのだろう。ダンテは店内を見回してそう思った。ダンテが見ているような汚い世界を知らなそうなカップルや、子連れの家族。とはいえ、もしかしたら各々の生活の中に見えない闇があるのかもしれない。
─────俺達みたいにさ
長い年月を経ても甦ってくる母親の手の感覚。乾いた音を立て、頬が熱くなる痛み。無意識に頬に手が伸びる。先日のライブ中継の一件で、頬が疼いた。
暫く店内を見て回った。ネズミはモーセ・ハットというブランドで営んでいるらしい。高値の物もあるが、大体は手頃な価格だ。店内を飽きるまで見て歩くとダンテは店を出た。ライブなどの時と違い、化粧はしていないし、金色のカラーコンタクトレンズも入れていない。髪も暫く音楽活動はしないため昨夜脱色してしまった。ダンテと分かる者はいないだろう。ネズミは分かっていたけれど。ダンテは溜め息をついて依頼人の家に寄ろうと歩き始めた。
レヴィという男は妻一人、子一人と静かに暮らしているようだ。常に何かに怯えているようで、特に娘を恐れているかのように思えた。ダンテが依頼を受けた日、彼は四六時中ガタガタと震え、娘をちらちらと見ては冷や汗を流していた。ルピという娘は愛らしく笑っていた。
─────被害者の家族全員殺せ・・・か
依頼人の言葉に従うだけ。道徳的だとか非道徳的だとか、信念に沿っているとか背いているとかそんなことは関係無い。標的に同情してしまう前に考えるのをやめた。家族を失って、それで自分に殺される。躊躇いが生まれる前に考えるのをやめなければ。そうしなければつらい。けれどやはなければならない。他人を糧にしてまで生かしたい。ダンテは俯いた。そういう生き方しか出来ない自分が情けない。
市内を走るバスに乗って依頼人の家に向かう。
依頼人の過去については知っている。女と酒、薬に溺れてたまたま目に留まった女性を拉致監禁しその数週間後にまた別の女性を拉致監禁。監禁中に一人は亡くなり、少し前にもう一人が亡くなった。依頼人の身勝手な依頼。その依頼に流されるしかない自分はさらに身勝手。
車窓の桟に肘をついて、ぽかーんと口を開いた。
フロレンスィア家に生まれて、9つのときにできた弟は母親に嫌われていた。理由は定かでないけれど、多分、自分が生まれる6年前に死んでしまったというお兄さんに似てるからだろう。でも、どうして似ていることを嫌がるのだろう?
母さんは弟を部屋に閉じ込めてしまった。理由は分からない。
弟はフロレンスィアの名を持つことを認められなかった。
思い出せば父さんは弟を殴った。弟のこめかみ付近に今でも残っている火傷の後は、焼けたフライパンを押し付けたときのだ。
自分は母親の猫撫で声に誘われるがまま部屋に籠もって与えられるだけの課題をこなした。そうしている間にも弟が父さんと母さんから暴力を振るわれているのをいつの間にか知っていた。
「自分が勉強に集中できないから」と悲鳴を上げる度に父さんと母さんは弟をさらに痛めつけた。
母さんが好きなのは、勉強が出来る子。言う事を聞く子。お金になる子。要するに自分に都合の良い子が好き。だからそれを精一杯演じようと思った。弟を助けたいと思うより前に、弟と同じ扱いを受けるのが怖かった。
弟は自分をこれ以上ないくらいの鋭い眼差しで睨んだ。自分は弟を助けたいだけなのに。弟のエメラルドグリーンの瞳が自分を貫いて仕方ない。自分にはないエメラルドグリーンの瞳が。
弟と自分は血が繋がっていないのだろうか、と思ったこともある。弟とは母さんも父さんも同じ、本当の兄弟だった。
どうして母さんと父さんは弟を嫌うのだろう、いや、嫌うなんてものではない。憎んでいる。その例えの方が正しいだろう。
学校の勉強をしっかりやったところで、自分の一番知りたいことは何も分からない。
あの日は冬だった。酷くなる弟への暴力が更に酷くなった。
弟の閉じ込められている倉庫は冬はとても冷たい。せめて毛布だけでも持っていかなければ凍死してしまうだろうと思い、自分は毛布を持っていった。弟は寝ていた。小さく、丸くなって。
ぼろぼろの夏物のTシャツと黄ばんだ肌。痣だらけの骨と皮だけの脚。弟の背中にはミミズ腫れがあったし、青い痣も転々としている。肩甲骨のところは火傷の痕がくっきりと見えた。ここにはもう居られない。絶えられない。そう直感した。
自分が16、弟が7歳のとき、父さんと母さんの家を出て行った。弟も自分も心身共に限界だった。
公立の大学に入れば奨励金を貰い、その奨励金とバイト代で2人で生きていくには十分だった。
母さんと父さんのもとを離れるのが弟にも良いことだと思っていた。けれど弟の執着は母さんに向いたまま。
兄弟喧嘩をしたこともあった。
憎まれた弟とそうでない兄。この溝はとても深くて埋めようがなかった。弟が13のとき。チェシャ猫というヴィジュアル系のロックバンドがメディアを通して注目されるようになった。
最初から弟が音楽活動に興味があったかといえばそういうわけでもない。
弟は学校の誰かと遊ぶということはなく、学校が終わればすぐに家に帰ってきた。優しい母親も、頼もしい父親もいない弟を待つのは、こんな自分だけだった。待つといっても殆ど仕事で家に居なかったため弟が自分を待っているという表現のほうが適切だろう。
13の弟と22の自分が住むには十分過ぎるくらいの高級マンションだった。弟が友人を家に呼ばない理由は住居の問題ではないのだろう。やはり良心がいないからだろうか。それとも、呼ぶ友人がいないのだろうか。自分に気遣ってくるだろう弟にはなるべく学校のことは訊かないようにしている。
あんな母親に感謝していることは2つ。母さんが教育熱心なおかげでいい大学からいい就職先が見つかったこと。そして弟を生んでくれたこと。自分は1人ではないのだ。
弟がある日友人を家に連れてきた。自分が休みの日に約束していたようだ。弟の初めて見る友人は身体が弱かった。
病的なくらい肌が白い気がした。艶のある真っ直ぐな黒髪のせいかもしれない。弟の初めての友人は女の子だった。そのことについて、自分はどうこう言うつもりはない。
弟も年頃なのかと思っていた。友情から愛情に変わってしまうなんてよくあるパターンだ。
23の夏が終わり、秋に変わる頃、弟は14になったばかりだった。コンピュータによるゲームを製作、開発する会社に勤めていたときだった。
弟から電話がかかってきた。いつもの声の調子で、淡々と「トモダチが死んだ」と。
寂しいだろう、つらいだろう、悲しいだろうとその日は早く家に帰った。
弟は特に何があったという風でもなく、いつものように学校の宿題をやっていた。
「今日は帰ってくるの、早かったね。今からご飯の用意するから」といつもと同じ調子の、同じ台詞。間違い電話だったのかと訊ねた。
「ああ、死んじゃったんだって」。顔色一つ変えない弟。この子にはどこか欠陥があるのだろうか、そんな考えが浮かび始めた。
次の日、弟と弟の初めての友人の亡骸に会いに向かった。
弟はただ動かない友人を見ているだけだった。
「悲しくないのか」と問えば「悲しくない」と返ってきた。
「怖くないのか」と問えば「怖くない」と返ってきた。
大切なのは兄だけだと、弟は言った。それ以外は自分の何であろうと大切だとは思わない、とも言った。
この友人も、「友人」という名ばかりの存在。弟にとっては「友人」という名のついた、何の意義もない存在だったのか。それではあまりにもこの少女が気の毒だと思った自分は、きっと自分と兄しか愛せないのであろう弟の分も、と暫く喪に服した。
自分が24、弟が15のとき、チェシャ猫のヴォーカリストが脱退した。様々なメディアがうるさくこの記事を取り上げた。そしてチェシャ猫のリーダーは代わりのヴォーカリストを公募すると言っていた。
本当に何となくだった。実際有り得ないような話だが、マイクに向かっていたチェシャ猫のリーダーがまるで自分を見ているような気がしたからだ。カメラに向かっているのだから当然のことだが。これも気の所為だろうが、チェシャ猫のリーダーの目つきと似ていると思った。本当に何となくで弟に「やってみるか」と訊ねた。
弟なりに出来る仕事を考えたのだろう、弟は笑って「やってみたい」と答えた。
未成年は保護者同伴だった。課題曲と自由曲と、ちょっとした自己紹介で審査される。審査員はチェシャ猫のメンバーだったが、ヴォーカルのアリアの姿はなかった。
チェシャ猫のリーダーは弟を推薦した。弟は前のヴォーカルとは対象的で敬語も使えず、穏和な雰囲気を与えるアリアとは違い、警戒心剥き出しで自分以外には敵意を見せ態度は攻撃的で挑戦的だった。
前・ヴォーカルの印象に縛られているであろうメンバーたちはリーダーの推薦に顔を顰めていた。
歌うことなんて滅多にしない子だったし、音楽に溢れた生活をしていたわけでもない。不合格を言い渡されたところで弟を責めるつもりでもなかった。結果、弟は不合格。合格した人はやはり穏和な雰囲気を持った青年だった。
弟はしきりに自分に謝った。働けなくてごめんなさい、金喰い虫でごめんなさい、と。実の母親に言われていたことだった。奴等のところを離れても弟の恐怖は消えないのか。ひどく空しく、ひどく悲しい。
そんな弟を拾った女がいる。デザイナーのモーセ・ミックという女だ。今では帽子専門店を営んでいる。そして情報屋とまではいかないが彼女の情報通さに頼っている人達もいるようだ。
彼女は弟に我が社のCMに出ないかと話を持ち掛けてきた。弟は喜んでいたが自分は承諾しなかった。チェシャ猫の公募は本当にただ、何となくの今さら説明もつかない心理状態だったわけで、弟はまだ義務教育も修了していないのだ。
けれど自分は心に決めたことがあった。弟は長い年月監禁され酷い暴力を振るわれていた。だから解放してやれることが出来たなら好きなことをさせよう、と。
「やってみるか?」と問えばこくこくと弟は頷いた。初めてのCMを収録した後、数ヶ月で彼女はあるバンドを紹介した。ヴォーカルの欠けたバンドだ。
「才能があるにしろ無いにしろ、私にはそれを見極められる力はないわ」
弟が加入して間もなくこのバンド「舌切雀」は爆発的にヒットした。1年足らずで移籍が決定し弟の意志に関係なくチェシャ猫の加入が決まった。オーディションで合格した青年がまだ公開されていない頃だった。暫くの活動休止のままだったせいだ。その青年には悪いことをした気がして仕方ない。
チェシャ猫に加入することが決まったとミック・モーセ氏が知ったとき、彼女は落胆を自分達に見せた。それから彼女とは一切の接触がなくなった。
チェシャ猫のメンバーと初めて顔合わせに行ったときの弟は不機嫌だった。「舌切雀」にいたときとは違う冷遇。しかも望んで求めたメンバーではない。音楽の方向性も「舌切雀」とは違う。「辞めるか」と問えば首を横に振るばかり。
そんな日々が続いて、やっと弟がチェシャ猫に慣れてきた頃。
訪問者が自宅の扉を叩く。扉の向こう。激しい憎悪と共に、暗闇に転落した。
14歳の終わりに近付いた頃兄が死んだ。それ以来、ずっと誰かを傷つけて、何かを奪って、殺す仕事をしている。姿の分からない誰かの命に従い、依頼を呑む。それが良いことだとか悪いことだとかなんて関係ない。
初めての任務は、随分離れた街だった。チェシャ猫のライブなどもあって人物・場所の特定に時間がかかった。その街は女王制だった。自分の生まれた街には王などいなかった。
くるくると螺旋を描く髪と華々しいドレス。玉座に座った女王と、標的である召使。
あの日のことはよく覚えている。毒を塗った短刀で、一人でいた召使の首筋を掻っ切った。
別に処女を失っただとか、そういう意味とは違くて、純潔を失った気がした。
悲しみと怒りに狂った女王は犯人を捜しだし、処刑した。もちろんそのときに処刑されたのは俺ではない。姿も顔も知らない、俺の恩人の仕業だ。
帰りの列車の中は胸糞悪くて仕方がなかった。自分の罪を誰かに着せること。けれど自首する度胸なんてなくて。
俺が殺した召使は女王の隠し子らしい。
「ただいま」
「おかえり」
家に帰れば、死んだ筈の兄が風呂を沸かし、夕食を作って待っていてくれている。
どれだけ汚れても、絶対に失くしたくない生活。
2回目の任務は依頼人の勤めている会社の社長の一家暗殺だった。承諾するしか選択肢がなかった俺はまた人を殺した。一気に、4人も。子と仲の良かった家庭のようで、癪に触ったのと同時に羨ましかった。
父、母、姉、弟。自分たちとほぼ同じ家族構成で対象的な仲。まるで自分がぶち壊したように───否、俺がぶち壊した。最後に弟を殺したとき、俺は泣いた。あの時生き延びることの出来た俺の身代わりのようで、そうは思っても止めることなんて出来なかった。
「おかえり」
「ただいま」
これが俺の望んだ世界。
そのためなら俺は
────喜んで汚れよう。
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