240 / 294
【BL】「そりは"えちぅど"」から
お題「熱帯夜とドライブ」残暑のサラウンド
しおりを挟むクーラーはあまり得意ではなかったけれど、この国のこの季節、都内はそれなりに暑かった。昼間の熱がまだ残っている。主に湿気となって。
だからクーラーを点けるしかなかった。それに同乗者がいるから。俺の斜め後ろ。なんだかタクシーの気分だ。
関係性からいって、助手席でもおかしくはなかったけれど……
俺は結局のところ、エゴイストなのだ。咄嗟の流れで、反射的に、おそらくは自分の助かる道を選ぶのだろう。嫌になるな。
愛を欲し、愛を捧ぎたがるのは、自分が永遠ではないからだ。だから相手に刻みたがる。本能なのだろう。繁殖欲の。
けれど、そういうの面倒臭い。厄介だ。愛だなんて幻だから。ゆえに物質なんて無くても。畢竟、人間の 業だな。
夜景が線を残して流れていく。シティポップというジャンルを最近理解して、有名どころをプレイリストにまとめてみたりしたのを思い出して、かけてみた。
「この曲、懐かしい」
「俺たちの世代だもんな」
シンセサイザーの軽快なイントロが特徴的な海外の曲だった。
理想だった。この曲を初めて聴いたときから、夜の高速道路を走り抜ける光景を想像していた。エアコンから吹く冷気が頬を撫でて、なんだか4D映画みたいじゃないか?
「結局、どこに行くん?」
ペットボトルが後ろで小気味よく鳴った。それから涼やかな水の音。漣めいた……
「行くんじゃない。帰るんだ」
バックミラーを見たわけでも、後部座席を振り返ったわけでもないが、俺は彼が首を傾げているのが分かった。
「帰るって、どこに?」
オーディオに雑音が混じりはじめた。嫌な耳鳴りに似ている。
「どこに?」
俺が答えようとしたときに、彼が声を上げた。
「花火だ、花火。打ち上げ花火。どっかで祭りやってんだ!」
見なくても、彼が窓の外に釘付けになっているのが分かる。
俺のところからも花火が見えた。音はない。まだまだ暑く、湿気っているけれど、もう夏も終わる気がした。
「どこに帰りたい?」
オーディオは、とうとう音を失くしてしまった。彼と俺と。逃げられない会話。
「オマエとなら、別にどこでもいいんぢゃね?」
彼らしい受け答えだと思った。迷いもない。どこか投げやりでいて、俺の不安を見透かしている。
「じゃあ、帰ろう」
「待って、お前の実家にも顔出さんと」
「気付かないさ」
「ヤだよ。オマエん家、メロンとか出してくれるじゃん」
キュウリやナスではなかったけれど、まあ、時代というやつで。
<2023.8.21>
花火は鎮魂の意らしいので
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる