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その他ジャンル(架空取材、架空レポート)
お題「屋上だけがわたしの居場所」善の残滓
しおりを挟む悪が栄えた試し無しというけれど、悪か否か、結局は大多数の人間が付けた価値でしかない。善悪は人の都合によって決まる。そんなふうな、気の利いた風の標語が寺の掲示板に貼られていた。それが善人に刺されば、それは確かに気の利いた標語だけれど、この世には"悪人"もいる。
勝ったほうが、つまり打ち負かしたほうが正義なら、この状況は"正しい"といえる。
世界に恨みを持った、今"正しくなった"ばかりの組織によって人々の暮らしは壊れた。
わたしがいるのは屋上。辺りは一面の海。故郷は沈みゆく。高いところからそれは見渡せる。
仕方がない。人々は皆、善人ではなかった。飲み水を入れたコップに一滴毒を垂らしたら飲めなくなるだなんて言い回しもあるけれど、人間も水みたいに結合に結合していればいいのに、実際はそうじゃなかった。
わたしの大切な人を、世間は守ってくれなかった。でもそれはわたし一個人の、矮小な怒りでしかない。くだらない感情でしか。でも力があった。わたしにはこの世を壊す力があった。
あらゆることが、もう力の解決で、人間だって動物だから、弱肉強食に片足を突っ込んでいる。文化と法律でキラキラとコーティングされて誤魔化されているけれど、割と格差って目にしない?あれも力。生まれた時からわたしたちは平等じゃないのだから仕方がない。
真面目に正直に生きてきても、損をする。そんな世の中で、まだリスクも取れず、いつか報われるなんて善徳のこだわりに縋って生きていくこともできたけど…
わたしの大切な人を、世間は守ってくれなかった。法で裁きはしたけれど、この世は加害者になったほうが得なのだと知れただけ。勧善懲悪に洗脳するのがお得意なだけ。カタルシスなんて糞食らえ。運命も法も、あいつ等を引き捌いてくれないのならわたしがやればいい。そしてその後、わたしが引き捌れる覚悟はある。
巻き込んでしまった他の人たちはお気の毒だけれど……
いいや、人は滅ぶのがいい。巻き込んでしまった動物たちは可哀想だけれど……
故郷が沈んでいくのを見つめた。あいつ等以外は死なせてから流した。何も感じないのがシアワセだから。不安も恐怖も悲しみも、何もないのがシアワセだから。
わたしの大切な人は、不安と恐怖、悲しみに噎せいで死んでいったから!
善も悪も、人が価値をつけただけなのなら、これも悪とは限らないのでしょう?生き残ったのはわたし。打ち負かしたのはわたし。それならこれが"正しさ"で"善"。
そういうことなんでしょう?
<2023.6.7>
「屋上」は解放と孤高のメタファー(大嘘)
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これらの詩は、古代ギリシャの人々の思想や価値観を反映しています。
神々、英雄、そして人間たちの物語を通して、人生の様々な側面を描いています。
現代でも読み継がれるこれらの詩は、私たちに深い洞察を与えてくれるでしょう。
参考資料
ギリシャ神話
プロメテウス
ヘラクレス
オルフェウス
パンドラ
オデュッセウス
イリアス
オデュッセイア
海精:ネーレーイス/ネーレーイデス(複数) Nereis, Nereides
水精:ナーイアス/ナーイアデス(複数) Naias, Naiades[1]
木精:ドリュアス/ドリュアデス(複数) Dryas, Dryades[1]
山精:オレイアス/オレイアデス(複数) Oread, Oreades
森精:アルセイス/アルセイデス(複数) Alseid, Alseides
谷精:ナパイアー/ナパイアイ(複数) Napaea, Napaeae[1]
冥精:ランパス/ランパデス(複数) Lampas, Lampades
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