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その他ジャンル(架空取材、架空レポート)

お題「湿度」しとど

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 適当に勢いのまま握り合った手はうまいこと交互に入らなかった。それがなんとなくボクとカノジョの今後を暗示しているような気がしないでもない。だからこう、揃わない。全体的に。味の好みも、音楽の好みも。占いの相性も良くなかったり。綺麗に真っ二つ。同じにならない。ボクが右ならカノジョは左。ボクが上ならカノジョは下。

 当たり前だ。当たり前なのか。でも当たり前だと直感的に思ってしまった。もうどんな理屈でも誤魔化せはしない。
 いわゆる禁断というやつ。そこまで禁断ではないけれど―なんて予防線を張ってみる。最近流行りの多様性という近代化やつでも、自分にすら言い逃れできない。

 だからつまり、法律は若干許してくれるけれども、もっと一個人的で仮想世間《みんな》は赦してくれないようなやつ。気持ちが悪いから、とか、そういう理由ではなくてもっと真っ当な言い分で。ありきたりな倫理観とか持ち出されたりして。ボクはきっとそれを論破どころか撥ね退けることもできないだろう。正しさに囚われ過ぎてしまったら。

「おはよう」
 嘘を吐いて迎えた朝だった。カノジョが起きる。毎回のルーティーンみたくなっている。朝のひとりの反省会。ここにはふたりでいるけれど。毎日・毎朝ではないんだ。だってそんなの、できっこない。やろうとも思っていないから?
「おはよう」
 カノジョに微笑んだ。カノジョは高校時代の親友の妻。親友で妻という意味ではなくて。日本語って難しいね。言い訳を探すのにも苦労する。正しさに囚われ過ぎたらね。

「おはよう」
 ああ、ひとつ多い。やっぱり息が合わない。カノジョが目を擦る。左手の薬指に銀色の輪っか。よく見るとシャンパンピンク。目が焼かれるくらい眩しい。乾いた“拍手”の合いの手だった。指輪と指輪のぶつかる音は。お互いタイセツナヒトがいる身。

 タイセツだって。裏切ることとタイセツにすること。これを両立させているつもりなんだ。
 そう大切にする。ボクはボクのタイセツナヒトを。カノジョはカノジョのタイセツナヒトを。
 タイセツニシテイル。

 カノジョの首の赤黒い痣はボクがボクのタイセツナヒトを大切にしている証。
 ボクの背中の引っ掻き傷はカノジョがカノジョのタイセツナヒトを大切にしている証。

 遠慮なく燃え上がること。
 躊躇いもなくケモノになって咆哮すること。
 食らい合うこと。
 ボクの傷をなぞること。
 カノジョの痣に重なること。
 
 お互いタイセツナヒトのために。
 タイセツナヒトをキズツケナイために。
 
 
 ボクとカノジョはお互いをタイセツニしない。
 ただキズツケ合うだけ。
 その副産物にきっと何か答えがある。
 

 
 それなのに、ひとり反省会の後、縋り付いて近寄る息遣いだけは少し優しい。

<2021.12.15>
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