お題アリ掌編集。

その他ジャンル(架空取材、架空レポート)

お題「架空のカップル」トイボックス

『
「金木犀の香り、見～つけた」
　女の子が少し、冷えた空気には丁度いいくらいの温かい夜風に吹かれます。
「もうそろそろ冬が来るね。クリスマスはどこで過ごそう？」
　男の子が女の子を抱き寄せ、道の端、白線の内側に避けました。徐行していた車がす～っと通っていきます。アーモンドのお菓子みたいな可愛らしいトイプードルが2人をちらちら見上げてとことこと追い抜いていきます。
　2人はこの春、都内、それも都心の近くで古くからある住宅街に引っ越してきました。とても仲が良く、幸せそうです。前に暮らしていた場所よりも、家賃がかかり、空は明るく星も見えないけれど、それでも2人は2人でいれば節約生活で、贅沢はたまにしかできなくても、この平穏を楽しんでいるようでした。
　2人はコンビニに酔ってお酒とおつまみを買いました。これからほろほろに酔ってお互いの時間を堪能するようでした』

　お人形遊びの途中に巨神は泣いてしまいました。現実はこうではなかったのです。女の子のお人形は、男の子のお人形の弟に殺され、散々おもちゃにされると山に埋められてしまったのです。男の子のお人形も包丁で切り刻まれ、運ばれた病院で死んでしまいました。
　巨神は女の子のお人形を山から拾うと泥と血を洗いました。男の子のお人形も棺から摘まみ上げて傷口を縫って繕い、2人のために静かな街を作りました。

「どうして殺したんですか」
　巨神は男の子のお人形の弟に訊きました。
「お義姉さんが欲しかったのに、別れるとか言い出すからです」
　男の子のお人形の弟は、お人形みたいな綺麗な顔とさらさらと絹糸みたいな髪をしていました。男の子のお人形は逞しい感じでしたが、男の子のお人形の弟は線が細く、何度も兄を滅多刺しにした少年とは思えないほどでした。
「彼女が別の男の妻モノになるくらいなら、死ねばいいんです。兄の恋人モノですよ。ボクのお義姉さんになる人なんです。別れるくらいなら死ねばいいんです。これで永遠に彼女はボクの兄の恋人モノで、ボクのお義姉さんに等しくなった」
　男の子のお人形の弟は女の子のお人形を抱き締めました。
　巨神は恋心を抱くほど女の子のお人形が大好きでした。男の子のお人形は巨神がまだ人間だった頃の大親友でした。巨神は男の子のお人形の弟を殺害すると、土に埋め、そこに立派な樅の木を植えました。クリスマスのモニュメントになることでしょう。

<2021.10.7>