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その他ジャンル(架空取材、架空レポート)

お題「コンビナートの町」魚人

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 T地区の夜景は綺麗で嫌いだ。きらきらと輝いている。誰かが働いていいたり、家帰ったり、酒飲んだり、飯食ったり、映画観たり、ドライブしたりとか。そういう人の営みが見える。多分毎日見下ろしてる夜景の正体ってそういうものだ。何かに気付いた気になれる。

 ボクはT地区を見渡せる高台で悪友と廃棄ガスで汚染されたハーブを吸ってトんでいた。頭の中に虹色がうねうねと輪を作り、伸び縮みしている。夜景が霞む。
 T地区には大規模な工業地帯がある。その乱立した腐卵臭を撒き散らす摩天楼では、人型兵器を作っているとかいう話だった。この土地のずっと下にはアースクリスタルとかいう巨大な石が埋まっているらしい。それが大地を貫通して巨大な魚に突き刺さっているとかいう伝説を信じていて、それを確かめにいくのだとか。もうアースクリスタルの破片は採集しているとかで、それを使ってさらに強化された兵器を作るとか聞いていた。

このハーブは排気ガス、つまりそのクリスタルの瘴気を浴びているからボクたちはクリスタルを直接吸っているも同然ってことになる。

「やべぇ~、手が光ってきた」

 ハーブを吸いながらぼやけた腕を翳した。肌に鱗が生えている。完全にトんだと思った。蒼白い光を放ちながら皮膚にトカゲみたいな鱗が。これは別に初めてのコトじゃない。ハーブを吸っていると最近よくこうなった。

 でも今日は、肩甲骨の辺りも痛くなる。皮膚が張り裂けそうになるほどの痛みだった。しかしさらにハーブを吸うと頭がマヒした。腰の辺りもおかしい。頭も痛い。内部が痛いんじゃない。髪を引っ張られたように痛い。頭皮が痛い。裂けるみたいに。

 悪友が悲鳴を上げる。悪いトび方をしたのだと思う。

「お前、なんだよ、それ……」

 悪友のさっきまでトんでたカオが蒼褪めてた。でもボクもそこまで気にしてなかった。

 でも、少しずつ分かった。ボク、人間じゃなくなってる。頭痛くて押さえたら、自分の頭に硬いものが刺さっていた。でも刺さった痛さはなかった。何か生えている。背中が重い。振り返る。背中にも何か生えている。腰にも鱗に覆い尽くされたものが垂れ下がっていた。尻尾だ。魚みたいな尻尾が生えている。頭の中の虹色のびよんびよんが消える。それでもまだふらふらした。

―魚になってしまった!

 悪友が逃げ出した。手を伸ばす。指には鋭い爪が伸びていることに気付いた途端、稲光が悪友の真横に落ちた。ボクの掌にも静電気の感じが残る。

 

 ボクの噂はたちまち広がった。後から耳に入った話によるとボクが吸っていたのはクリスタルの瘴気ではなく、複製した大陸魚の鱗の瘴気を吸っていたらしい。夜、あのT地区のコンビナートが稼働する時間、ボクの身体は怪物になる。ボクは珍しい生体としてT地区の研究所から今も追われている……


<2021.6.27>
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