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小説形式になってるやつ

開胸 短編小説? 2018.6.6

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夏目漱石「こゝろ」をベースにした、とある旧友の告白。
正直暇な人向け。あまり細かいこと気にしない人向け。


 迷っているというのが本音なのです。これが、私が好きな本として真っ先に挙げる夏目漱石の「こゝろ」に影響を受けた創作であるのか、それとも偶然書き記すことになった実体験であったのか、それはどちらでも私にはどうでも良いことで私自身に深いこだわりはありません。もし後者だと思う者がいてそれが事実として認識された時、私は関わった人々が忘れていることをただ望むだけです。
 夏目漱石の「こゝろ」が創作であったのか事実であったのかそれは私にとってどちらでも良いことでした。「こゝろ」を読んだ人の感想や考察に興味があっても、「先生」「私」「K」という存在が、モデルが実在していたのかについてはまるで興味がないのです。「こゝろ」に倣って、彼女については「I」と書くだけで、本名…とすればこれは事実と明言することになり、事実と明言した上で本名を使えば問題になります。かといって仮名とするにも、創作であるならば仮名と表現することに、私自身の違和感がどうにも邪魔になるのです。「こゝろ」の冒頭、本編中に「先生」を「先生」と書くことに断りをいれる「私」は、世間をはばかる遠慮というわけでなく「先生」としたほうが自然であるからと記していますが、私にとっては全く自然ではないのです。もしこれが事実だとしたら彼女の愛称を呼んでいるからであり、もしこれが創作であるなら、仮名がぐるぐると出かかっているからです。
 Iとの出会いは共通の友人がきっかけでした。その共通の友人いない時は、そういう空気なのか連帯感なのか、私とIは大して仲が良いわけではなかったが、2人で集まったりもしてその共通の友人と合流ということもありました。
 Iはおとなしくどこか浮いた人でした。マドンナのMiles Awayをよく口ずさんでいたことが印象的でした。かといってマドンナが好きというわけではないようでした。少し変わっていた…どこが変わっていたのかというと具体的にどこが変わっていたのかは挙げられません。ただひとつの印象として変わっていました。返答が斜め上といえばそういうこともありましたし、着眼点が斜め上といえばそういうこともありました。ある程度の清潔感はありましたが年相応のお洒落さはありませんでした。社交性もある程度はありました。かといって人との接触を避けているようにも思えました。でもそれは生来のもののようでした。人見知りというよりかは、砕けた態度で接するもののある程度まで踏み込んできて、それ以上は立ち入ることもせず、立ち入れさせようともしないといったふうでした。
 彼女について私が分かるのはこの程度です。そういった性分のようでしたから、深い仲というわけではありませんでした。私は高校時代に「こゝろ」を知り、そこから文庫本を買い、何度も何度も読み返していたのですが、Iも高校時代に「こゝろ」について学んだと聞いています。現代文が得意だったと豪語する彼女は苦手な理系にいたっては常に学年の下から数えたほうが早かったと話していました。「こゝろ」が大きく出題されるテストで、クラスで最高点を採ったのだと彼女は言いました。自分は劣等生だと言った上でレベルの高いクラスだと聞いていましたから、よほど高得点なのだろうと思いました。でも満点ではなかったと彼女は卒業して数年経っても拗ねた様子でした。彼女は「K」が何故死んだのか分かっていないようでした。「失恋したから」だと言っていました。それも「先生」に裏切られる形の失恋だからだと。私は違うと思いました。「先生」の台詞にある「恋は罪悪ですよ」これが全てだと思っているからです。「K」が自殺したのは、求道者ゆえの「断罪」だと思っていたからです。Iは、大した興味を示しませんでした。「失恋で人は死ぬと思う」と訊かれました。私は、精神的に追い詰められている状態であればなくはないでしょうと言いました。実際、恋人に捨てられたからとインターネットで生中継のまま自殺するという動画は掲示板などで騒がれたりしているのを見たことがありましたから、失恋で人は死なないとは言い切れませんでした。じゃあ「K」は精神的に追い詰められていただけかもしれないじゃないかとIは言いました。あの文章中に「K」の自殺の原因になったことなんて無いかもしれないじゃないかとIは本末転倒なことを言い出しはじめました。いくら「先生」の遺書、つまり「先生」の視点・目線で描かれていたとしてもそれでは作品ではないではないか。彼等はいわばフィクションである―私はそう思っている―から、「先生」の遺書にヒントが無いはずがないのだと言いました。Iは、「K」が死んだのは当て付けだと言い始めました。ですがそれも違うのではないかと私は否定しました。「K」は「先生」を恨んでないと思うかと、Iは私に訊ねました。私は、思わせぶりな女のことなら恨んでいるかも知れないと答えました。Iは、意味が分からなかったようで、私は説明しました。ですが、彼女の読んだ文に、「お嬢さん」が「K」を当て馬のようにし「先生」を焦らすような素振りがあった描写はないようでした。
 Iとはその後も卒業まで変わりなく過ごしていました。彼女が卒業式の後に長文メールをいくつかに分けて送ってくるまでは。短文を送ることに特化し、すぐに相手が既読したか確認できる機能のあるアプリケーションが主流であるのに、彼女は古い、迷惑メールとして読まれない可能性も低くはないメール機能を使っていました。
 私は彼女の書き方を真似しました。さすがに彼女も本名を出すことを躊躇ったのでしょう。
 

 言おうかどうか迷っているけど、こころが好きだという話をしてから何度か迷って、でもなんとなく話そうと思ったから話すことにする。まるで比べ物にならない不出来でオチのない作り話だと思うなら、それはそれで活字中毒者だというから、ひとつ暇潰しになってくれたらいいかなと思う。忘れていた話で、常に頭の中にあったことじゃなくてたまに、ふと思い出す。単純作業をしてる時にたまにふと。忘れることはないけど、常に頭の中にあることじゃなくてひとつの思い出として。でも誰かと共有できないでいる。話せないでいる。本当に、不出来な創作だと思うならそれでいい。でも感想は求めてない。きっと何か返信があっても、私は返さないだろう。一方的なメールでごめんなさい。
このメールでパチモノを書くつもりだったとかじゃなくただなんとなくふと目に止まったからこころの文庫本を買った。正直ページが揃ってるのか分からない状態ではある。
 ファンに対して、寄せてきた文章はもしかしたら愚弄と受け取られるかもしれないけど、自分の言葉だけじゃ話せそうにない。整理のためにも付き合ってほしい。どう受け取ってもらえるかは分からないけど、これを私の過去とも創作とも分からないように書かなきゃいけないからね。
 長い前置きになったけど、こころでは最初に先生を先生と書くことに断りをいれてるけど、私の場合は、世間をはばかる遠慮ではなく「先生」としたほうが自然であるからと言っているけど私からすると全く自然じゃないし、今でも脳内ではニックネームが出てくる。でも本名とかニックネームを出すのはちょっと抵抗があるから、その人をTと呼ぶことにする。Tとの出会いは覚えていなくて、でも小学校の1年のときにはもう同じクラスだったような気もするし、もしかしたら2年から一緒だったかも知れないけど、田舎は小中のメンバーがほぼ一緒で、場合によっては保育園やら幼稚園やらから高校まで同じってこともあるし、もしかしたら大学、もしかしたらその後まで、ってこともなくはない。高校で再会ってのもあるけどね。だから私の学年は100人満たなかったし、90人もいなかった。その中でTとは別段仲が良かったわけではなくて、かといって話したことがないほどでもなく、彼とは趣味が合ったからそれなりに関わることがあって、仲は良かった。そこに甘酸っぱくなるようなものだとかはなかった。変わり者といえば変わっていたし、平凡といえば平凡だった。時折冗談なのか本気なのか分からないことを言うけれど、穏やかで面白いことが好きな人だった。学業成績のことは、覚えてない。小学時代の学業成績は高校とか大学の学業成績とある程度指標になってもほとんど関わってこないような気がするから。正確な実験データの話とかは分からないけど。
 Tとは小学校の委員会が同じだったりした。記憶はおぼろげで、他校の委員会で集まる行事にも私と私の友人とTで行ったのは印象深く覚えてる。いじめというほどにも思えなかったけど、素行不良っぽい生徒と同じクラスになった年に、背中に鉛筆を突き付けられて何か脅されていたのも。それは見た目ほど深刻そうな雰囲気ではなくて、でも私の数少ないTの姿の記憶にはある。ひとつ、話の本筋から逸れて申し訳なく思うけどこれも話しておきたい。これは本当に私のエゴで、不快にさせたら本当にごめんなさい。弱くても申し訳ない、でも言いたくなってしまった。文章にして整理するいい機会として…中学時代に、小学時代からちょっと嫌われているというかみんなあまり関わりたくないような男子がいた。何の時の記憶だったかは忘れた。校外学習かな。とりあえず外に出る行事だった。集合場所から少し離れて、集合場所近くの側溝のある小道だった。私とTと同じ学年に妙に威張ったような雰囲気の男子がいる。サイコパスという言葉からどういう図像が浮かぶか分からないけど、とにかく私は彼がサイコパスだと思うんだ。育ちが良くて弁が立って見た目もそれなりにいいサイコパス、そんな感じだった。そいつと、その関わりたくないような子が2人でいて、私は呼びに行くように指示されたんだったのか覚えてないんだけど、2人のところに行ったんだ。曇ってたけど道は乾いていた。あまり筋道を立てて書くのは得意じゃないから結論から言ってそのサイコパスみたいなやつが、その子に命令してカエルをアスファルトに叩きつけさせてた。私はびっくりして何も言えなかった。嫌がるくせに命令されるとカエルを捕まえて、何度も腕を振りかぶってアスファルトに叩きつけてた。1匹2匹じゃなくて、私が見た時には少なくとも4匹はいた。多分前日が雨だったのか忘れたけど、側溝の川も流れが速くて流れてたトレイに死体を乗せて、流してた。これは私の話したいこととは違うけど、思い出しちゃったから。今思い出しても罪悪感にキュってなる。緑のカエルが折り重なって。不快にさせたらごめんね。時代は違うけど、小学時代にTと同じクラスになった時に、その2人も同じクラスだったから。Tはというと、学校に来なくなっていた。中学2年の頃からは確かだった。1年の時は覚えてない。ただ、グレたんだって噂だった。不登校状態で。ただ優等生とまではいかなくても、人畜無害なタイプだった。教師もあまり気に留めないような、秀でているわけでも、問題を起こすわけでもないタイプ。形から入る反抗期だったのかも分からないけど、たまに外をぷらぷら歩いていた。違う、帰るところだった。昼間になんとなく登校して、なんとなく帰るところだった。私は呼んだ。特別仲が良いわけではないが、顔を見たら声を掛けるくらいには親しいつもりでいた。まだグレてると噂が立ち始めた頃は顔を見て喋ったりはした。でもそれから少し経つと、もうTの目には誰も映っていないようだった。Tのことはもう頭からずっと消えていた。学校には来ていないし、深く立ち入る前にまずTという存在が頭から消えていた。たまに別室登校はしているらしかった。あくまで、らしかった。確実なことは分からないし、目にしていない。Tの友人で、もしかしたらTよりも親しい気でいた友人のBから困った顔でノートの切れ端を簡単に折ったものを渡されたのはいつ頃だったのかも覚えてない。同級生にSという色白の女子がいる。やや性格に難のある、可愛らしい女子。意地が悪いというよりかは少しクセの強い子だった。Sとは小学校6年間で1回だけ同じクラスになっただけだったが、共通の友人や共通の趣味や部活で関わりがあった。TがBに渡したノートの切れ端のような物を私はBから、Sに渡してほしいと預かってしまった。預かってしまったというのは妙な書き方だった。でも預かってしまった、という気がする。興味はなかった。BはSが苦手なようだったし、Sは男子というものがおそらくは年頃というだけでなくそのクセの強さの反発から嫌いだったというところもある。男子の大多数がSをどう思っているかは分からなかったし、好意よりかは苦手意識を強く感じもしたが、何と言ってもSは見た目がそれなりに良かったというのがある。中学生男子を軽んじるつもりはないけど、年頃といえば年頃で今思えばあの妙な苦手意識はそれを込みでのものだったのかは分からない。ただBは自分からは渡せないでいるということを私に告げ、私は簡単に折られたノートの切れ端を預かった。何故なのかと自分で疑問に思うほど、私はそのノートの切れ端の中身が、全く気にならなかった。それが何なのか知りたいという気にならなかった。見ることも出来たはずなのに、全く。ただこれをSに渡すということだけが頭にあって、まるで、そのノートの切れ端に中身があることを忘れていたように。Sと会うのは簡単なことで、すぐにそれを渡すことは出来た。SはTから送られた物だと知るや否や、受け取ることを拒絶した。中身も確認せずに、代わりに読んでと。簡潔な告白と、呼び出し。今思えば、どうして呼び出しと同時に告白をするのか疑問は少しあるけど、そこに多分意味はないと私は勝手に思ってる。呼び出してから告白するのが通常の段階だと思うけど、当時はただ呼び出しのほうが重要なことのように思えたし、TがSを好いていることに驚いた。そしてTがSを好くような接点があったことにも。でも今思えば、ほとんどが今思えばだけれど、TとSの趣味のようなものは少し近かったかも知れないし、2人が会話するところを想像は容易に出来る。もともとアプローチがあったのかも知れないし、もしかしたらなかったのかも知れない。ただSはTからだというノートの切れ端を拒絶して私が中身を読んだことは確かで、そこに日時と場所が書いてあって、Sは行かないことを選んだ。むしろ、行くわけないじゃんというようなほどで、私も頭は悪いほうではあったけど、グレてるような、大分変わってしまってしかもSを好いている男の元に行かせるのはどうだろうとは思っていた。指定された場所は中学校の敷地ではあったが少し校舎とは離れているから尚更、もしSが行くと言っても私は止めただろう。当時の私の心情は分からないけれど、もともと心配性のケはあったから、頭は悪かったがおそらく止めた。とはいえ彼女は行かなかったのだからあくまで仮定だ。過去に確かに自分だった自分への仮定がこれほど曖昧だとは自分でも驚くほどに、多分、おそらく、きっととしか言えないでいる。Bにあのノートの切れ端の中身を知っていたのかと問うたのかももう覚えていない。ただ記憶に、Bがこの件にはあまり関わりたくながっているような気がしたのは覚えている。もう十何年も前の話だから、ここもまた曖昧で、もしかしたらこのBの困り顔はSにまだあの切れ端を渡す前の段階で見たものかも知れなかった。そこの曖昧さは申し訳なく思う。Tと関わったのはもうこれが最後。本当にTが指定した場所に来たのか覚えてない。もしかしたら、指定の場所に来るか否かが、添えられた告白の返事と同義だったのかも知れない。本当に曖昧だ。いずれ使う記憶として認識されないまま、情報を取捨選択されたのだと思うと惜しく思う。これがどの程度のことだったのかは分からない。もしかしたら全く関係の無いことなのかも知れないし、私はこれが全てだとは全く思わないでいるのだけれど、どうしても思い出すひとつの出来事であり、内容はおぼろげだが確かにこのことはあった。これが決定打だとは全く思わない。時期が空きすぎているから。あのノートの切れ端に添えられた告白がどの程度のものか分からないから。なんとなく、なんとなくだけど、私は中学時代の色恋沙汰をただ大人ぶりたいだけなんじゃないかと、思ってたし今でも思ってる、きっと。
 Tの死が明らかになったのはもう高校に入って、環境に慣れるのがとにかく苦手な私が随分慣れた頃だったから、例の一件とは間が空いてる。ただTの死が明らかになった時期と、Tの死んだ時期が大幅にズレていることを除けば。だのに通夜に参加出来たということは、長い間Tの死は社会的に認知されてなかったことを意味するわけで、じゃあTが死んだ時期とTの死が明らかになった時期との間には何があったかって話なわけで。もう小中学校の同級生は揃わないんだなって思ったし、まだ実感がない。遺影の中のまだ笑ったりしているTの姿にも実感がない。ただ今思い出して、そういえば小学時代はよく笑ってよく喋っていたTは無表情で喋らなくなったなってことだけは気付いた。今、思い出して気付いた。でも、これは逃避だの自己正当化だのではなくて、やっぱりあの一件は関係ないと思う。ただTの死によって浮かび上がった私の中の思い出であり、負い目であり、ひとつの綻びだと思うから。ただ真っ白じゃないというだけ。その一件がただの思い出のひとつに過ぎなくて、もしかしたらこの一件よりも私が関わっていない大きな一件が彼の中にあったかも知れない。Tは聡いところがあったから、自分の人生を精算出来たのかも知れない。だからあの一件は関係がない。そう思っているし、軽んじている自分もいる。きっとBは覚えてないと思う。Tとはそれなりにその後もしかしたら思い出があるかも知れないから。Sも性格上、きっと覚えてないし、気にしてないと思う。これも多分。ずっと頭にあるわけじゃない。ただふと思い出す。でもたったひとつの、セーターの毛糸のほつれみたいなのが怖くなって、誰にも言えないでいる。そしてほんのひとつだけやっぱり言い直したい。よそよそしい頭文字と「私」はいうけど、Tはあまりにも彼の本名とかけ離れているから。個人的にも法的にも特定が怖くもある。でも私の中の違和感がさらに私の記憶をおぼろげにしそうであるからたった一行だけで済ませたかった。彼の本当の頭文字は「K」です。


 長い文章を送ってきた彼女は卒業式に出なかったため長い春休みに入る前に少し話しただけでもう会っていません。彼女は中学時代や高校時代の友人たちの連絡先は消す、同窓会には行かない、卒業すると終わった関係だと常々言っていましたから、彼女の性格上もう会うことはないかも知れません。ところで私もひとつの違和感が拭えずにいます。私も彼女に倣い、よそよそしく頭文字を「I」としていました。ですが偶然ということは大いにあり、珍しいことではありませんし作為的かも知れません。ですがこの頭文字の違いだけでなく、もうひとつの違和感として一行だけで済ませたかったのです。彼女の本当の頭文字は「S」でした。

 2018.6.6
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