Lifriend

結局は俗物( ◠‿◠ )

文字の大きさ
上 下
11 / 35

スロウリートロッコ 5-2

しおりを挟む

 別れ際に片岡の背後に舞うモンシロチョウを見つけた。視界を踊る。片岡の右肩に止まって羽根を開閉する。人懐こいモンシロチョウだ。
「どうしました?」
 片岡が動くとモンシロチョウも飛び立った。
「ううん。何でもない」
 立ち止まる片岡よりも先に歩きだせば後ろから包み込まれる、首に両腕を回される。背中に片岡の体温を感じて、突き飛ばそうにも、突き飛ばせない。身体が片岡の身体を粗雑に扱うことを拒否している。
「やっぱり言わせてください」
 唇を噛みしめることしか出来なかった。棒立ちのまま、ぼうっとまだ視界を泳ぐモンシロチョウを見つめる。用意している返事はひとつしかない。そしてそれを言いたくはない。
「片岡くん」
「自己満足なのは、分かっているんです」
「片岡くん」
「好きです。初めて見た時から」
 一目惚れだ。何とロマンチックなことだ。けれど片岡に限っては、違う。
「なんだか寂しそうな感じがして。悲しそうな感じがして。でもどこか…強そうな気がして」
 いつの話なのか。初音と勤務先まで行ってしまった時のことだろうか。振り返ってみる。それとも、死ぬ間際か。
「初音さんと一緒に居るの見た時、最初、嫌だなって」
「そう」
「一方的でごめんなさい」
「話、きちんと聞いてあげられなくてごめんね」
「いいんです。気にしな…気にしてほしいですけど、でもオレ、好きになってもらえるよう頑張ります…諦めたくないんです」
 たとえば片岡に命を半分渡していなかったとして。片岡に同じことを言われたとしても、きっと同じことを言うだろう。だから片岡が悪いわけではないのだ。片岡には何の非もない。
「じゃあ、ね」
 片岡を振り返ることは出来なかった。そこにある事実を直視したくなかった。
 アパートに帰って今に話し掛ける。ここかバイト先のモデル事務所か。玄関に靴はあるけれど、姿はない。行ったことのない場所には移動できないと言っていたから、あの奇妙な部屋に閉じこもっているのだろう。
「初音くん、帰ってるの?」
 帰っている。分かっている。
「今日さ…ううん。バイトどうだった?」
 片岡とのことを言いかけてやめる。初音に言っても仕方のないことだ。初音には関係のないことだ。
「モデル、楽しい?思ったのと違ったかな?雑誌載ったら買うね」
 返事はない。聞こえてすらいないかもしれない。一時期の習慣だ。ただ宛てが変わり、声に出すか否かの違い。宛てのない誰かに向けていた言葉。感情。問いかけ。
「まだ怒ってるの?お腹、空いてない?」
 やはり返事はない。吸血したがっていたくせに。監視するとも言っていた。また1人の生活に戻るだけだ。
 もし過去を捨て片岡の告白を受け入れて。2人の生活になったとしても。ほぼ同時期に死ぬのだ。多少の差はあるらしいけれど。
「バカみたい」
 2人で一緒に死ねるのなら本望ではないか。過去を捨て、未来を塗り替えて。片岡なら。片岡しかいない。伴わない感情など取るに足りない差でしかない。或いは後からついてくるかもしれない。だとしたら相手は片岡しか。正当化しようとする度に揺らぐ気のない意思が居座り続けて払拭する気も譲る気もないようだ。
 片岡が必然的に、本能で錯覚に従ったのと同じように、片岡を利用するようなカタチで、結果ありきで受け入れることはやはり出来なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25) 「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」 ◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20) 「京都案内しようか?今どこ?」 再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。 「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」 「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

オ ト ナ の事情。~人気アイドル × 人気モデル、今日から “ワケあり” な同棲始めます!~

月野アナ
恋愛
【”スキ” と言えない距離が切ない、ワケあり同棲ラブコメディー】 オトナの恋は、複雑な事情で溢れてる──それは甘くて、切なくて、誰にも秘密の期限付きの恋 *** 人気アイドルグループ BLUE のボーカルとして活躍する向坂宏之(コウサカ ヒロユキ)は、ひょんなことからドラマの共演者である狭間ルナ(ハザマ ルナ)と同棲することになってしまう。しかし、7つも年下のルナは、28歳の宏之にはとても理解のできない超自由人! 最初はそんなルナのマイペースに戸惑いを隠せず調子を狂わされているばかりの宏之だったけれど、ぎこちない同棲生活の中でその飾らない素顔とミステリアスな過去に触れ、次第に惹かれていってしまう。ところが、通い合い始める二人の心とは裏腹に、実はルナにはあるタイムリミットが迫っていて……?! 本当のことなんて誰も知らない。日本中が見守ったビッグ・カップルの、切なすぎる恋の始まり。 *** 人気アイドル × 人気モデル、今日から “ワケあり” な同棲始めます! 《明るい君が 困ったように笑うから、俺は好きなんて言わないと決めた》

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

処理中です...