18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」-4

結局は俗物( ◠‿◠ )

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ネイキッドと翼(74話~) ケモ耳天真爛漫長男夫/モラハラ気味クール美青年次男義弟/

ネイキッドと翼 78

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 目覚めているのか、眠っているのか、現実なのか、夢なのか、茉世まつよはその境界に立っていた。られ、弾かれる胸の実粒の存在だけ、この世にあることを認識できた。
「茉世奥様……臀部が忙しないようですが」
 鏡花辺津きょうげべつつきの囁きで、茉世は身悶える。肩が痛む。月の皮膚も、結ばれたことで硬度を持ったリボンで擦れているはずだ。
「乳頭の刺激にんで、膣を収縮させているのですか」
 彼女は反射によって首を振る。ただ聴覚が働くのみ。言葉は所詮、雑音に過ぎなかった。そしてその些末な音を彼女は拒絶した。
 月の指が、摘んだものに力を加える。
「ああん……っ」
 茉世の弓なりに仰け反った身体が引き攣れる。内部もうねらせてしまう。接着した尻から伝わってしまっているに違いない。
「茉世奥様……」
 月は生唾を呑む。乳房を揉む手は、どこか気を紛らわせるような所作が含まれていた。
「ぅ………ん………」
「そろそろ乳頭が気触かぶれてしまいますね。薬を塗っておきましょう」 
 茉世からは月の手元が見えなかった。しかしチューブ状のものからクリームを出しているのは音で分かった。
「ぁ……っひん……」
 冷たくなめらかなものが胸の先を覆う。月はそれを塗り広げ、突起を轢いていく。
「ぅんんっ!」
 幾度目かの軽い絶頂があった。関節を伸縮させ、月の首に負担を強いる。
「素敵ですよ、茉世奥様。たいへん優秀でいらっしゃる」
 尻が真後ろの男体を掻く。膨らみの狭間に棒状の瘤が居座っている。
「欲しいんですね?」
「ふ………ぁ、あ………」
 口角から溢水する筋が照りつける。
「ですがゲテモノ食いの茉世奥様に、そのまま美味エサを差し上げるわけにはいきませんね」
 胸を嬲っていた指は大きく下降し、茉世の陰阜いんぷを寝間着の上から撫でていく。
「ここで私たち分家一同を食べようとしていますね?」
 臍の下から陰裂までを往復する手袋はしんねりとして意地の悪さが所作によく現れている。
「ああ………!っ」
 上擦った彼女の声は、期待に満ち満ち、輝いているようだった。腰を前後に動かし、男体棒を尻肉で扱く。それを催促という以外にどう捉えよう。
「いけない奥様だ……」
 月は茉世の腕から首を引き抜いた。そして支えを失った彼女は布団へと崩れ落ちていく。そして月は自らの男体を蓋として、彼女に覆い被さった。
 虚ろな双眸は鏡花辺津月をしかと見ていた。だがそれを鏡花辺津月と認識しているわけではないようだった。
「ん……っ」 
 甘えた吐息を混じらせ、彼女は縛られたままの手で、月の首に縋る。
「茉世奥様」
 茉世の眉根が悩ましげに皺を刻む。
「急いてはいけません。すべては茉世奥様……奥様にセックスを好きになってもらうためなのですから」
 鏡花辺津月の手が、寝間着の下に潜っていった。すでに手袋はなかった。肌に肌が触れている。そうしながら彼は茉世の腕を掻い潜り、クリームの沁み入ったばかりの胸を吸った。
「あっ、ん!」
 指の摩擦では得られなかった感触に包まれ、茉世は大きく震えた。絶妙な力加減で歯を立てられると、仰け反って悦ぶ。
「あぁあんっ……!」
 ますます、下腹部の寂寞感が強くなっていく。腹の奥を押し上げられたい。腰を揺すり、月の手に濡肉を触らせた。そのまま中へ滑り込ませてしまいたかった。
「よく濡れていますね。こちらも優秀です」
 彼は褒美とばかりに舌先の裏側で勃起した乳頭を舐めねぶった。質感の薄い表面が唾液の滑りを借りて激しく行き来する。
「ん、あ……」
 涙に潤んだ目が、鏡花辺津月に同情を乞う。だが果たして彼女が同情を乞うたのは、鏡花辺津月であったのだろうか。
「陰核も肉感があって美味しそうです。きっと大旦那様も、構わずにはいられなくなるでしょう」
 胸の先に歯を立てながら、彼は淫芽を抉った。
 強い快感は行場をなくし、茉世の視界に星が散る。
「ゃああん!」
「陰核でオーガズムしてはいけません。乳頭でオーガズムするのです。乳首アクメせななぁ? 意識を乳頭に注いでください」
 茉世は首を振った。胸粒と淫粒を同時に捏ね回されている。腹の奥が甘く疼いた。
「永世さん……っ!」
 彼女は叫んだ。ねだればその者が満たしてくれることを知っていた。
 生温かく、粘こい空気が一瞬にして切り替わった。窓のないこの部屋に寒風が吹いた。
「あ[D:12316]……いけませんね……」
 声色こそ飄々としているが、弧を描く目蓋の奥は一切笑っていない。
 茉世は我に返った。
「ごめ………なさ…………ッ、!」
 彼女は怖くなった。頭が冴えていく。咄嗟に月を掴む。爪は皮膚を浅く裂いた。色の白い肌に引かれた傷が色付いていく。
「赦して……」
「大旦那様とセックスさえしてくれれば、茉世奥様のお気持ちが誰を向いていても私は構いません」
 表情も声音も変わらない。だが鏡花辺津月は茉世の寝間着を乱暴に剥いでしまった。
「ああ……っ!」
 茉世は白桃の果肉のような脚を閉じ、縛られた両手で股を隠す。彼女の裸体は淫欲から羞恥の薄紅色に染まっていた。
「セックスの最中、茉世奥様がどこの誰を思い描こうが、私たち分家一同には関係がありません。大旦那様の陰茎が、茉世奥様の膣に挿入されていれば、互いの感情は必要ありません。茉世奥様の膣の内部で大旦那様の射精をし、受精し妊娠に至り、無事に男児を出産してくださるのならば、私たち分家一同、それ以外のことは関係がないのです。互いに恋慕を抱いていようとセックスもなく、あったとて妊娠しないのであれば、そちらの方こそ意味がありません。けれど茉世奥様。公然と口にした以上は大旦那様とセックスするのが筋でございます。辜礫築つみいしづくを愛する後ろめたさで大旦那様とセックスができないのであれば、それは間違いです。元も子もないことです。セックスは償いです。後ろめたさがあるのならば尚のこと、大旦那様とセックスしてください」 
 月は茉世の膝を割り開いた。
「赦してください……っ」
 彼女は呻いた。月はすがめた目元に女を映し、薄ら笑いを浮かべている。彼は棒状のものを手にしていた。青白い肌に握られている肉色の物体が相対的に黒ずんで見える。一見、棒状だが全体的に無機質な一直線ではなく緩やかに湾曲している。筋状の凹凸が蔦のごとく絡みつき、異様な緊迫感を与えていた。先端は奇妙な蛸の頭でも嵌めたようで、丸みを帯び、色も違っている。その反対は、餅を落としたような腑抜けた輪郭をしておきながら、細かい皺を刻み、二つの丸みを浮かび上がらせている。グロテスクな色味、グロテスクな形状、グロテスクなディテール。男性器の模型であった。
「大旦那様とセックスした後は、辜礫築とセックスをするというのはいかがですか。私が交渉いたしましょう。ご安心くださいませ。三途賽川さんずさいかわの男児に茉世奥様のセックスの誘いを断ることはできません。辜礫築も喜んで承諾するでしょう」
 茉世は頭を振った。近付けられるおぞましい器物を押し遣った。だがそれは焼けただれた巨大蚯蚓の断頭部を拒んだのか、将又はたまた、鏡花辺津月彼当人を嫌がったのか。
「やめてください……やめてください! 永世さんに迷惑をかけないでください……!」
「分家の分際で本家の嫁とセックスができる! 茉世奥様、辜礫築は使命感で陰茎を勃起させ、義務で茉世奥様の膣に男性器を挿入するのではありません。たいへん名誉なことです。たいへん名誉なことでございます。茉世奥様が義務で膣に陰茎を迎え入れなければならないのは大旦那様が相手のときのみで、逆もまた然り。辜礫築も泣いて喜ぶでしょう。では明日にでも交渉しにいきます」
 月は暴れはじめた茉世の身体を組み伏せた。
「嫌……っ、いや………っ! 永世さんには何も言わないで……!」
 布団を蹴る。シーツが伸び、踵は火を吹いた。鏡花辺津月から逃れたい。或いは突き付けてしまった不甲斐ない事実から。
「茉世奥様、暴れないでくださいませ」
 彼女は首を振った。この男の言うことすべてを否定したかった。
「わたし一人の思い込みですから! わたしが我儘に付き合わせているだけなんです! お願いします……っ、永世さんに迷惑をかけたくない……!」
「辜礫築は迷惑だとは思いません。本家のため、本家の嫁のために身を捧げられるだなんて、こんな名誉はありません」
 茉世はまた首を横に振る。目元と口元に髪が張り付いた。
「永世さんには他に好きな人がいるんです……! 嫌われたくない……っ」
 目頭が熱くなった。優しい男が傷付き、苦しみ、無理矢理笑っているのを見たくない。胸が潰されるようだ。腹が軋む。頭が鈍く痛み、視界がぼやける。月を突っ撥ね、その場でうずくまると、両手で顔を覆った。
「困りましたねぇ」
『本当に困ったよ』
 襖ががたぴし鳴りながら、優柔不断に開いた。かろうじてできた隙間から爪先が割って入り、襖は横から叩き上げられる。
「あのさ、うるさい。何時だと思ってるの?」
 入ってきたのは蘭である。普段の穏和な表情はどこへやら、眉を潜め、光が眩しいのか目を細めているのと相俟って、怒っているように見えた。実際、その語気には不機嫌ぶりが隠されてもいなかった。耳と尻尾も機嫌の悪さを物語っている。とても病的ないびきをかいて寝ていた人物とは思われない。
「大旦那様、これは、これは。失礼」
 蘭は平伏して啜り泣く茉世を一瞥した。彼女もまた青褪め、固まり、蘭を仰ぐ。
「なんで茉世ちゃん、裸なの」
 茉世本人ではなく、蘭は月へ説明を求めた。声は低く、平生へいぜいで聞くことはない。
「茉世奥様が寝失禁をしたため、風邪を召されませんよう、脱がした次第でございます」 
「……ああ、そう。それでなんで手を縛ってあるの?」
「茉世奥様が寝失禁で気触かぶれたところを掻き毟ろうとなさるので、縛り上げたのでございます」
 月は目を細め、平然と、あたかもそれが事実であったかのように嘘を並べる。動揺は微塵もなかった。茉世も記憶を塗り替えられた気分になり、自身を疑いかける。
「ああ、そう。それはおでの妻がお世話になったな。あとのことはこっちでやるから、おやすみなさい」
 蘭は汚れるのも厭わず茉世を拾い上げる。
「蘭さん……」
 軽々と肩に担ぎ、暗い廊下へと出た。
「ごめんなさい……」
「謝らないで。謝らなくて、いいんだよ。お着替えして、もう寝ようか」
 蘭は茉世の部屋に向かっていた。襖を開けると暗闇のなかを練り歩いている生き物がいた。胡乱な二つの円形が泳いでいる。
 明かりを点ける。
「んなぁーお。んなぁおぉ」
 黒い猫だ。一際高い声で鳴き喚き、捨てられ、独りにされ、隔離されてしまった哀れな生き物ぶっている。着替える茉世を妨害し、蘭の手によって部屋の外へ摘み出される。
「はしたないところを、お見せしました……」  
 蘭は茉世の言葉を遮り、一度閉めた部屋を開けた。黒い猫が戻ってくる。飛び付かんばかりであった。茉世はこの毛尨けむくの要求に従う。抱き上げると、彼女の鼻先に濡れた鼻を当てた。
「なぁん。なぁーん。んなぁん」
「黒ちゃん、ごめんね。寂しかった?」
「黒ちゃんも一緒に寝ようよ。るんちゃんもきっと大丈夫だから」
 物音によって起こされたらしく、不機嫌であった蘭の調子も、茉世の見慣れたものに戻っていた。
 黒い猫を抱え、蘭の部屋に敷いた布団へと戻る。苦しんでいた義弟は掛布団を蹴り、パジャマを乱していた。蘭はこちらに背を向け、布団に入ろうとしている。
「んなん」
 猫に擦り寄られながら、彼女は義弟の布団を直した。義弟が怖い。その顔半分に、今にもまた尼寺橋渡にじのはしわたりてんの顔が浮かび上がるのか、警戒せずにいられなかった。
「んなーん」
 尨毛むくげの塊にぶつかられ、我に返る。義弟は寝息を立てている。蘭やばんには似ていない。似ているとすれば蓮のほうか。黒々とした睫毛が長く反り返り、少女のようだった。
「電気、消すよ。茉世ちゃん。おやすみなさい。蓮くんも…………あ」
「んなアアア」
 猫が唸った。
「蓮さん?」
 明かりが消されるのも忘れ、茉世は辺りを見回した。しかし直後、軽快な音とともに視界が利かなくなる。
「蓮さん、帰ってきているんですか?」
「あ、ううん。違う、違う。癖だよ、癖。昔、こうしてみんなで川の字に寝てたから、その時の……」
 蘭は笑っていた。照れたのだろう。茉世は彼等の幼少期を想像した。そして引き裂かれた兄弟仲について考えた。家が家でなければ、彼等は上手くやっていけたのではあるまいか。絆とじんの姿もあったはずだ。母もまた健やかにいたかもしれない。
「おやすみなさい、蘭さん」
 目を瞑ると大家族が雑魚寝する光景が脳裏に広がった。まだ幼い兄弟たちのなかに茉世も混ざっていた。しかしそうなることはもうないのだろう。
 この家は邪悪だ。




 目覚まし時計が鳴る直前に目が覚めた。そのために甲高い無機質な悲鳴を防ぐことができた。兄弟はまだ寝ている。隣の布団にいる義弟は寝相があまりよくないようだ。掛布団を丸め、裾が捲れて腹を出し、襟が乱れている。
 茉世は手を伸ばした。一瞬、目が眩む。嫌な印象が入り込んできたのだった。義弟の顔を見るのが怖い。悪夢をみた。あれは悪夢だ。悪夢だったのだ。
 皺くちゃにされた襟を直し、裾を伸ばした。白い肌に痣らしき青い滲みが――
「何してんの?」
 茉世の心臓が跳ねる。視界がぐらついた。呼吸を忘れた。
「見境なく手、出してんだ? ヘンタイ……!」
 禅は布団を蹴って立ち上がった。小柄な躯体を自身で抱き、義姉を見下ろしている。
「ご………ごめんなさい………」
 弁解すればよかったのだ。言い訳と捉えられようが、理由はある。しかし彼女は肯定よろしく謝ってしまった。それが癖であり、習慣であり、反射であった。何よりも、禅は嫌がっている。
男体オトコなら何でもいいワケ? 蘭兄ちゃんのすぐ横で、恥ずかしくないの?」
 蘭が身動みじろいだ。茉世は禅から目を逸らし、その姿を捉えた。
「昨日、月ともなんかあったんでしょ。蘭兄ちゃん傷付けるのやめろよ!」
「……ごめんなさい」
「謝って、反省してるフリすれば赦されると思ってるの?」
「んなぁお………んなぁぉ………」
 茉世の枕を占領して丸くなっていた黒い猫も起きていたようだ。睡眠の邪魔だとばかりに唸っている。
「みゃみゃみゃみゃみゃ!」
 そして禅に噛みつこうとした途端、蘭の布団から跳んできた白い物体に弾き飛ばされる。黒い毛尨と白い毛尨が二つ巴を描く。
「あっ!」
 これではどちらかが、或いは両者共々怪我をしてしまう。茉世は2匹を引き離す。鋭利な爪が手の甲に引っ掛かった。3本の筋が彼女の肌に刻まれる。
「痛っ……」
 薄皮が剥け、徐々に赤みを持って、やがて血が滲む。
「だめ、黒ちゃん!」
 茉世は傷を一瞥して、黒い猫を抱き上げた。飼猫るんに怪我があっては、すぐさま家を放り出されてしまうかもしれない。
「んなぁん………なぉん………」
 賢い個体である。何をしてしまったかのか理解しているようだ。耳を下げ、甘い声で力無く鳴いている。
「黒ちゃんはいい子だもんね」
「んにゃん」
 柔らかな毛並みを撫でながら自室に連れていく。わずかに明るくなった朝の廊下の光を拾い、黒い毛に白い虹がかかる。
「おはようございます」
 布団の匂いが移った猫を嗅いでいると、廊下の曲がり角で声がかかった。顔を上げる。永世だ。艷やかな柔毛に指を食い込ませる。
「ぅーんなぁん」
「あ、お、………おはよう、ございます……あの、………具合はいかがですか」
 茉世は顔を真っ赤に染め、どもり、息を乱した。昨日姿をみた時よりも、さらに胸が熱くなる。瞳孔がみしりと開き、その風采はぼやけ、光って見えた。
「茉世さんの看病のおかげで、快方に向かっています。茉世さんはどうですか。ぼくの風邪、うつっていませんか」
 茉世は激しく首肯した。まるで会話を鬱陶しがって早送りにしているようだった。
「手、どうされたんですか。るんさんですか?」
 茉世はろくに話も聞かず、朝の静けさに染み入っていく声に聴き入っていた。
「茉世さん……?」
 ぼやけた視界のなかで、魅惑的な影が首を傾げる。それは夢想ではなかった。実体がある。
「あっ………いえ、その…………」
「猫の爪は汚いですから、すぐに手当てをしないと痕になってしまいます。消毒しますから、来てください」
 すると、足音もなく人の気配が茉世の背後から迫った。月だ。まだ朝早いというのに、髪には櫛が通り、スーツを着ている。
「病人は寝てはれ。茉世奥様、私が消毒しましょう。久遠くんは寝ていてください。朝食は部屋に運びます。そのタオルは? 洗濯機に持っていくのなら私が持っていきましょう」
「はあ………ありがとうございます」
 月は淡いブルーのタオルを受け取ると、目元を細め、口角を吊り上げた。
「それでは茉世奥様。消毒いたします」
 白い手袋は黒猫を奪い取り、永世へと突き出した。
「なぁん」
 黒艶毛玉は抗議の声を上げたが、所詮は小動物。抱き上げられてしまえば、あとは為されるがまま。月は茉世の傷のある掴んだ。
 毛羽が触れ、痒みが走る。徐々に力が込められ、骨が歪む。痒みが痛みへ変わる。
 月に引かれ、救急箱のある茶の間に向かうはずであった。ところが月は茶の間へ至る前の廊下で曲がった。行方不明の次男の部屋がある。茉世はその部屋の近くの壁に突き飛ばされた。白い手袋が画鋲よろしく胸を留める。
「鏡花辺津さん………?」
 月は心臓の鼓動を探っているようだった。胸の膨らみに触れているが、性的な関心は感じられなかった。それとはまた異質な不気味さがある。
「なんですか……」
 朗らかに細まっている目元の奥を凝らす。
「元気やなぁ?」
 茉世は釘のように打ち付けられた腕を外させようともがく。
「ちゃんとイかせてやらな思いましてん」
 夢ではなかった。夢ということにはしてもらえない。茉世は狼狽えた。
「嗅ぎや」
 淡いブルーのタオルが迫る。鼻を覆った。肌触りのよい繊維に洗剤の香りが纏わりついている。
「ふ………ぁっ」
 しかし犯罪ドラマ内で薬品を嗅がせるかのような力加減であった。
「茉世奥様……麗しくていらっしゃる……」
 女の鼻と口を塞ぎながら、月はうっとりと瞳を溶かす。
「か………ふ、………」
 眼前の恍惚とした顔に怯える暇もない。
「ああ……茉世奥様……………」
 壁に押し付けられ、首を振り、落ちていく女を眺め、月は熱い息を吐く。彼は手袋を噛み、素肌を晒した。
「昨晩はオーガズムに達させることができず申し訳ございません。茉世奥様……すべては私の不徳の致すところでございます……ああ………茉世奥様………」
 月は自身の指を舐め回すと、茉世の下着に手を入れた。
「ゃ、め……」
 下腹部を掠り、黒絹屑を撫で回す。
「茉世奥様……大旦那様が先に出入りする膣に、私の粗末な指が出入りすることをお赦しくださいませ」
 茉世は目を見開いた。敏感な肉粒に、硬い皮膚が当たっている。それは指であるはずだが、大きく、頑丈なものに思えた。
「ふぅっ……!」
 無視していることのできない強い刺激に身が竦む。
「昨晩は生殺しで、おつらかったでしょう?」
 粘膜を揉まれ、肉体は防御反応を示し、奥を探る指を濡らす。 
「鏡花辺津さん……!」
 柔らかなタオルが声を殺す。洗剤の良い匂いがする。そこに人の匂いはない。
「茉世奥様。怖がることはありません。私は奥様を凌辱しようというのではないのですから。ただオーガズムに達していただきたい。それだけなのでございます。すべては大旦那様と茉世奥様のセックスのために」
 月の親指が陰芽を擂り、中指が濡襞を割り開いていく。しかし十分な潤いのない粘膜は悲鳴を上げた。捻り切られるような痛みと圧迫感。
 力が抜けた。背中が壁を伝って下へ滑り落ちる。上等な布地に包まれた膝が座面と化して、彼女を逃がさない。
「う、ぅ……」
「私の前ではそれで構いませんが、大旦那様が膣に指をお挿れになった際は、もう少し色気のあるお声を聞かせてくださいませ。昨晩、乳頭を嬲り尽くされてオーガズムに達していたときのように」
 茉世は後頭部を壁に擦り、やがて首を仰け反らせた。鼻先に当てられたタオルから柔軟剤の香りがした。使用した形跡もないほど柔らかい。
 清楚で淑やかな男が、陰でもてあそばれている。汗を拭いたか、身体を敷いたかしたタオルを特殊な玩具のように扱われ、嘲笑の的にされている。
 茉世は眉を下げた。一体誰の所為であろう。一体誰の落度、詰めの甘さ、立ち回りのまずさでこうなったのか。
「茉世奥様は名器でございますね。蚯蚓みみず千本、数の子天井とはこのことでございましょう。巾着膣のようでもありますね……ああ、指南役をした辜礫築の倅が羨ましい」
 細く見えていた指は、執拗に内壁をなぞった。襞のひとつひとつを確かめている。しかし茉世が反省に追い遣られると、秘珠を捏ねた。
「あ、っん」
「締まりました、茉世奥様」 
 月はタオルを押さえていた手も素肌を晒した。淡いブルーの布は床に落ちる。死骸のようだった。持主は、これが洗濯機に放り込まれるものと信じて渡したのだ。
「放してくださ……」
「オーガズムに達していただけるまで放せません」
 月は陰尖を摘んだ。硬い指の腹の弾力で潰す。痛みはない。女悦を与えるためだけの力加減であった。
「あん……」
 肉突起は月の弱い力に抵抗した。感情も思考も飛んでしまう。
「少し芯を持ってきましたね。こんな一瞬で勃起できるなんて素敵な奥様です……ああ………美味しそう。茉世奥様
……」
 月は淫芽を揉みしだく。内壁を探る指は粘液を纏い、音にも表れていた。ただ触られているだけのはずであった。ところが月の指は、茉世の腹奥に築かれた玉門を見つけてしまった。その扉を抉じ開けんと小突かれる。その衝撃が脳髄を震わせ、悦楽を生む。
「あ、あ、あ、あ……、っ!」
 月は爛々とした目を茉世に近付けた。眼球に蛞蝓なめくじが這ったかのような、てらついた光を携えている。鼻先が触れそうなほど近寄り、額をぶつける。
「茉世奥様……オーガズムに達するときは、おっしゃってくださいね」
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