18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」-4

結局は俗物( ◠‿◠ )

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蜜花イけ贄(38話~) 不定期更新/和風/蛇姦/ケモ耳男/男喘ぎ/その他未定につき地雷注意

蜜花イけ贄 38

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 桔梗は嬌艶きょうえんな姿態を晒していた。胸の先から広がる快楽に声を抑えることができない。踵が畳を蹴る。頭上で拘束された腕では顔を隠せない。恐ろしい眼差しを向けられているのだった。富貴菊ふきぎくに痴態を曝し、貴人に甚振られていることは、この際どうでもよかった。だが無遠慮に、不躾に、狂気を帯びた視線を葵から向けられ続いていることが耐えられない。
「あっはっは。恥ずかしい? 君にも羞恥心というものがあるんだね! 君にも! 羞恥心というものが! 恥ずかしいと思える心が!」
 律動をつけて貴人の御手みてに力が籠る。決して快楽の細波さざなみに水を差ない加減で、むしろ甘い痺れを強めていた。
「ぁ………っ、ん」
 彼女は目を固く閉じ、唇を噛んだ。
「葵。口を開かせなさい」
 恐ろしい目を持った地蔵のようになっていた葵は、ふと生身の肉感を纏って桔梗の傍へ身を寄せる。彼女は外方を剥いた。曝された乳房、羞恥に染まる肌、汗ばんだ皮膚、首筋に浮き出た骨。彼女は自身が欲望に取り憑かれた獣からどう見えてしまうのか、理解が足らなかった。
 葵はろくに主人の命を聞いていなかったとみえる。否、口を開かせろという以外に、その手段は明示されていなかった。
 彼は桔梗の噛み締められた唇を舐め、わずかに緩んだ瞬間、舌先を捩じ込んだ。
「ふ………んん」
 そうとう美味い果汁でも啜っているらしい。複雑な花弁がおぞましく2人の間で蠢きひしめきしているようだ。
「どう、葵」
 飼主に問われては、どれだけ美味い餌からも口を放すのが流儀。
「……愛しいです」
「嫌な男だな、君は。愛しいのは、腹の子の所為だろう」
 狗は目を伏せた。
「お腹の子に挨拶させてくれよ」
 茉莉は女の脚を開いた。
「何をなされます」
 富貴菊の精悍な面構えに嫌悪の色が走った。
「挨拶をするんだよ。人狼ひとおおかみたぶらかす牝狐と、どんなこともしてくれる牡狗馬のイヌ畜生ガキには、ちゃんと最初から誰がご主人様なのか分からせておかないといけないだろ?」
「身重です………主上……………桔梗は、………我が妻は………」
「知ってるよ」
 富貴菊は眉を顰めながら葵を見遣った。そして岩石めいた拳でその横面を殴った。
「貴様の胤だぞ!」
 畳に鼻血が飛び散る。吹き飛ばされた葵は伸び、打たれた片頬を引き攣らせた。
「貴様の胤だぞ、葵殿! 何故守らぬのだ。貴様の胤だぞ! 桔梗は貴様が孕ませたご婦人なのだぞ!」
「やめてあげなよ、富貴菊 春将しゅんじょう。葵はおれをアイすべきか、桔梗を愛すべきか迷ったんだ。それでおれをアイすることにしたんだよ。仕方ない。桔梗の心はもう取り戻せないんだから。狐はイヌ。狼もイヌ。牝狐は人狼に惹かれていってしまった。哀れだな。牝の情人キツネより、牡の主君にんげんを選んだのさ」
 しかし富貴菊はやめなかった。
「貴様の胤でも貴様の子ではない。私の胤ではないが私の子だ。主上、ご慈悲を。どうか、ご慈悲をくだされ」
 富貴菊は頭を下げた。藺草の網目を刻みつけるほど、額を擦り寄せた。
「富貴菊。君は男の矜持を失っちゃいないよ。男の矜持を失ったっていうのは、こういう男のことを云うんだ。珍矛が勃つことがどれほど偉いというんだ。生えているもの勝負で、一体何が偉いというの。研げるわけもない。大きければ邪智、小さければ抜作。けれど所詮は生まれついたもの。帝の大きさに依るものだ。帝が小さければ巨根は邪知というわけだよ。生まれが! 生まれが一体何だというんだ。君は男だよ、富貴菊。緋熊が君の矜持を奪えるはずはない。こんな男に娶られ、子を成した妻も、生まれた子も幸せだったろうね」
 そして貴人は冷ややかに桔梗を見下ろした。
「けれど女の浅ましいことだよ。まだ人狼がいいというのさ。実際に手に入ったら、百姓生活にくものさ。女は手に入らなかった理想を追い求める。現実を見ない。汚いものは目に入らないようにできているんだから。見えてはいるのさ。焦点を合わさない。あの土百姓と並んで鋤鍬を握れるの? 粟や稗を食っていくの? 野良着に身を包んで? 君の生白い手で鋤鍬は握れないよ。肉刺まめができて、しもやけとあかぎれに泣くのさ。あの村社会で、小綺麗さだけが取り柄の女に一体何の価値がある? 夫の顔に泥を塗りたくるだけさ。わざわざ身を堕としてやることがそれなのかい。好きな男と笑って暮らすのが女の幸せだなんてバカな書物は燃やすべきだ。身分がある! 猫とは猫と、イヌはイヌ、鳥は鳥と番うように、人も同種と番うべきなのだ。あの土百姓じゃなく、ね。でももう遅いんだ。そんな遅いところに降って湧いてきた富貴菊を、君は追い返そうとしている!」
 貴人を見上げている桔梗に、這うように迫るのは葵だった。そして蛞蝓なめくじが乗るように、彼女の背中をのっそりのっそりと抱き竦めていく。己の羽織を巻きつけ、さながらおくるみである。
「違うな。活屍人がいるんだ。君には活屍人が、苦獄の底から蘇ってきているんだね」
 鼻血を垂らしながら、狂人はにたりと笑う。
「そうだった。君もいぬだった」
 茉莉も下品に嗤う。その目には、牡狗が牝人狼を抱き竦め、他の牡から独り占めしている様が映し出されていた。
「嫁試験が済むまでは、富貴菊、君が預かりなさい」
 その場はそうして納まりがついたが、この残忍な貴人がそれで満足するのでありうか。茉莉という御人は飽き性であらせられる。見境なく何人もの男に弄ばれ、その末に孕んだ襤褸雑巾のような女にそう執着せずとも、他に選択は大いにおありだ。それも見事な美姫を攫ってきては収集していらせられる。禽獣のごとき卑しい女に、何故その御心を割くというのだろう。



 富貴菊が出掛けていたときのことだった。桔梗は良人の衣服のほつれを縫っていた。障子の奥から口笛が聞こえ、彼女は顔を上げた。
 いい部屋だった。東向きの最果ての部屋で、貴人の御許とは思われない、実生活向きの間取りで、障子を開けば石庭が広がっていた。空も拓けている。
 また、トンビの鳴き声に似た口笛が聞こえた。障子の裏に四つ這いの影が映っている。
 開いた。隙間風よろしく、吹き込んでくるものがある。桔梗の身体は押し戻された。そして畳に転がる。彼女は何者かに組み敷かれていた。見上げる。恐ろしい顔がそこにあった。醜怪な面構えが残虐な喜びに満ち溢れた顔であろうか? 否、麗らかな玉質の芳顔が、残虐な喜びに満ち溢れているところは変わらずにそこにあった。醜悪であるべきそのつらは、世の表象を嘲笑うほど鮮麗である。
「桔梗。昼這いに来ちゃった」
 容赦はなかった。躊躇もなく着物を引き破る。
「この光景を見たら、富貴菊はどっちの味方をしてくれるだろう? 君の味方をしてくれるかな」
 露わになった乳房を掴み、しかしそれは手慰みに過ぎないようだった。女に飢えて渇ききってここに来たのではない。辱めに来たのだ。この貴人には食欲と性欲と並んで侮辱欲があるのだ。陵辱せずにいられないのだろう。
「なんでこんなことを訊いたか分かる? 葵なら成り立たない質問だよ」
 柔らかな脂肪を揉みしだき、それに飽きると先端を摘んだ。
「あっ……」
「ガキ畜生がここからおまんまを吸うわけだからね。念入りに按摩しておかないと」
 貴人の滑らかな指の狭間で、それは凝り固まっていく。
「おれが初乳を吸ってあげるよ。ガキ畜生がおれより先におれのものに手を出すなんて許せないからね」
 ふたつの小さな隆起を作ると貴人は薄桃色の唇を寄せた。
「ん、」
 桔梗の突っ撥ねる手は無力化されていた。一見するとたおやかな女子に見紛うが、その体格からは想像できない膂力りょりょくは男子に違いなかった。
「お母さんになるんだよ、桔梗。ほら、ちゃんとお腹の子を守らなきゃ。何、おれに好き放題されてるの? 富貴菊の先妻なんて、緋熊から子供を守って、全身襤褸布みたいになってたんだからね! 最初、紅斑模様の切り裂かれた反物たんものかと思ったんだから! 腹の子も守ってね! 髪なんか頭皮ごと持っていかれてさ。あれじゃあ誰でも、"男の矜持"を喪うさ。どんな色白の美人も、緋熊を前にしちゃっちゃあ、醜女しゅうじょより見ていられなくなっちゃうんだからねぇ。それでもその生き様は美しいとは思わないかい? ガキ畜生に自我なんてないんだから、放り捨てて逃げてきちゃえばよかったのにねぇ。親が生き延びれば、また交尾して作ればイイんだから。交尾してね! 交尾だよ! 肉塊になった子供の前で、また交尾すればいい。まだ若かったんだから。同胞きょうだいにも差があるからね。同じものが生まれるとは限らないけれども、ガキ畜生自体は種と畑があれば作れる。惜しむことはない。ガキならね。換えがあるってのは安心だね。死んじゃっても、また作ればいいし、ほんの数年の出会いなんだから、また数年前の生活に戻るだけだよ。そう思わない? 富貴菊の先妻はかだったんだと思うな。でも桔梗はもっと愚かだね。富貴菊は女の挽肉あんなのを見て、もう交尾つるむ気は起きないみたいだから、おれが代わりに交尾んであげよう。無理もないよ。おれたち男は、饅腔に挽肉が詰め込まれていると思っているんだからね。きっと富貴菊も、挽肉になった先妻を見て、饅腔に似ていると思ったに違いないよ。血生臭かっただろうしね。獣臭さも相俟って……恐ろしいよ、緋熊って! この世から根絶やしにするべきだ」
 きゅむ、きゅむ、と語調に合わせて指に力が込められる。
「あ……ぁんん」
「人間は不合理だな。富貴菊の先妻も、ガキ畜生を放って自分ひとり助かれば、富貴菊の矜持は守れなくとも、"男の矜持"は守れたかもしれないのに。おれたちは種を仕込んですぱすぱきみらのために死んでいく捨て駒が、本来の務めだからさ、珍鉾ちんぼこが大事なんだよ。肉体が死んでも種は生かさないといけないからさ。その珍宝ちんぽうが使えないなんて! 珍鋼ちんこうが! 珍隠ちんちんが使えなければ、すなわち肉体は死に、種も死ぬんだよ。おれたちの思想ほんたい卑茄子ぴぃなすにあるんだから。可哀想だろう?」
 小さなしこりを摘むのも飽きると、貴人はとうとう家臣の新妻を犯した。あえかな容貌とは共存し得ないおぞましい棍棒を突き入れ、家臣たちが大いに歓を極め、欲液を注ぎ入れていった狭孔を苛んだ。
「葵のガキ畜生に、挨拶しなきゃねぇ桔梗……ちゃんと産まれる前から教育しておかないと。葵の子畜生よ、おれに尽くせ。母親が売女ばいただからって挫けちゃぁいけない。君の父親は家臣一忠烈な狗なんだからね。産まれてきたら君が母親譲りの卑しい人狼でも、父親譲りの忠犬でも、可愛がってあげるよ」
 がつ、ばつ、と貴人は腰を打ち付けた。無理矢理に捩じ込まれた恐ろしい狂器に内臓が押し潰される。
「う、うぅ」
「こんにちは、葵と桔梗のクソガキさん。お父さんとお母さんの飼い主だよ。君の飼い主でも! あるんだからね!」
 残忍な光をその目に灯し、貴人の御手は桔梗の首に回る。彼女はやんごとなき素肌を引っ掻いた。
「はい、不敬~。無礼討ちで斬ってあげようか」
 しかし斬る前に扼殺されるであろう。
「ぐ、ぅ」
「隠密衆が足らないんだよなぁ。片輪にして、おれの捨て駒にしてあげるのはどう?」
 茉莉は本当に殺すつもりなのかもしれない。容赦のない力加減だった。窒息するか、骨が折れるかだ。意識が遠退く。
「あぁ、締まるよ、桔梗。よく締まる。葵もこのお女孔めこに病みつきになって狂ったんだね。可愛い家臣たちが悦んで出入りしたガキ孔、気持ち良いよ……ここから葵のクソガキもひり出す気なんでしょ」
 首を絞めていた手が桔梗の頭の両脇についた。細身ながらもよく引き締まって硬い男体がさらに低姿勢をとって、腰を振った。粘膜は肉器物を受け入れるのに十分ではなかった。多少、乳頭の刺激によって湿ってはいたが、間を空けた交合を前にはほぼ乾いているも同然であった。
「家臣たちの垢が染み込んでるかと思うと、喜びも一入ひとしおだな。あっはっは。おれが衆道みたいだな。でも男なんて実はみんな衆道だよ。女の中に超えられない男を見てるのさ、男の世は競争だからね! 桔梗、君の饅腔の締め付けに、いくら可愛い家臣といっても結局は同じ男。身分も生まれも容貌もかなぐり捨てて、生まれたままの姿で誰が一番優れているか、どちらがより優れているか、気になるのが牡の業なんだよ。君の乙女貝の良さを純粋に楽しめないのさ。男ってのは孤独だね。でも桔梗、きみだって、男の珍甲ちんこうを比べているはずだ。どう? おれの珍魂ちんこんは。可愛い家臣たちなら、おれの肉体の一部とでも思って溜飲を下げるよ。おれが選んでいるんだからね、可愛いがるべき家臣たちは。まさか、珍矛ちんぼこでは選んでないよ、家臣は張り型じゃないし、それこそおれは衆道じゃあないからね。でも家臣は可愛いよ。おれのためになら魁偉な珍牡ちんぼを捨ててくれさえもするんだからね。でも桔梗……おれの家臣じゃないなら赦せないな。本当に人狼くんとは何もなかったの? 粗忽者そこつものっぽいって話だったけど。山茶さんざは、そいつのことを、小さそうだって言ってたけど、そら山茶よりは小さいでしょうよ。葵は分からない、そういうことの目利きには疎いって言って教えてくれなかったんだ。石蕗つわぶきくんなんて照れてしまってね。おれはもっと可愛い家臣たちと、色事について論じたいのにねぇ。桔梗、どうだった? 人狼くんのお珍宝おちんぽうは? 人狼くんのお珍穂砲ちんぽぽうは? 桔梗、君はそれを咥え込んで、気をやれそうだったかい? 桔梗、おれは妬いてるんだよ。可愛い家臣たちなら、可愛い家臣たちが気持ち良くなってくれて嬉しい。なのに野良男はな。おれに利がないよ。交尾つるまなくても、君の裸体を想像して、千摺りしたのだろうよ。君の匂い、肌理細かさ、声を夢想して、珍慕ちんぼを好き放題に扱いたんだと思うな。亀の喉元を、猫をあやすように撫で摩ってね。大根の汚れを落とすように……赦せないよ!」
 その抽送は殴打に等しかった。この行為が暴行ならば、力加減もまた暴行。果たして茉莉にも利があるのか分からない。否、あるのだろう。この残忍な貴人は即物的な肉欲を高め、発散しようというのではない。女を甚振る底無しの征服欲に溺れているのだ。
「青褪めてるよ、桔梗。気持ち良くない? いつの日か聞かせてくれたあの甘~い声は? 葵から精を搾り取ろうとしてたね。観客のおれたちまで誘って。女が鳴くのはたくさんの男と交尾むためだから、別に今は要らないか。でもほら、おれのことたぶらかして、精を搾り取らないと。おれの正室にはなれないから拗ねてるの? あっはっは、可愛いな。いいよ、じゃあ、正室みたいに抱いてあげる。なんだか葵にも富貴菊にも悪いな」
 この貴人は正室の顎も鷲掴みのだろうか。桔梗の小さなかんばせを捉え、茉莉はそこへ唇を当てた。口水を流し込む。
「う……ぇ、ぅ」
「上でも下でも、おれのきったない臭い体液、飲むんだよ?」
 狼狽えている唇を、茉莉は漁った。そして蜜を吸うのと同じように赤い果肉を吸う。
「ふ、う……うぅ」
 このやんごとなき肉食獣に食われるのだ。それは逃れられない定めなのだ。実際、その女体は真夏の滝壺遊びの最中みたいに揺れた。躯体と張りを取り戻しつつある胸が別々に差異を残しながら揺れた。軌道も違った。だが、情人に接するような所作、加減になったのも本当だった。暴力、暴行、暴虐であったはずだ。しかし茉莉は女のほうの快楽に執着しはじめた。嘲笑と悪罵の長広舌は鳴りを潜め、あえかな美貌は女を見下ろした。冷淡な面構えで、その双眸もまた冷ややか。喋れば気楽で軟派、飄々としているが沈黙を貫けば途端に冷徹に見えた。
 白い御手が、畳の上を揺蕩う女の肉体を抱え起こし、姿勢を変えた。横臥させ、脂汗で粘こいしなやかな脚の狭間に居座った。花孔へ肉茎を突き入れる。
「あ……ッ!」
 茉莉はこちらも豊かさを取り戻しつつある彼女の片脚を担いだ。細いが引き締まった御腰が荒れ狂う。
「あ、あ、あ、あっ!」
 桔梗は羽化するらしかった。背筋を仰け反らせる。最奥の淫瘤に肉矛が衝突する。留めようとするのか、将又はたまたその活塞を止めようとするのか、淫筒は激しく収縮した。
「あ、あ……、はァんっ」
「少し乱暴なのが好きなの、君は?」
 茉莉は彼女の背中側へ横たわる。首筋に吐息が掠める。一方的に支配し、征服した気になっている暴君も、女肉のうごめきの前ではかよわい声を漏らす。一心不乱に腰を振り、襞鑢で扱く様は、とても簒奪者のようには思えない。遊郭に溺れ、娼妓の手腕に呑まれた哀れな若者そのものであった。
「出すよ、桔梗……今からおれの子にならないかな」
 いっそう激しく尻を浮沈させ、急に止まった。止まったかと思うと、緩やかにまた動く。
 腹の中で貴人が脈打つ。そのたびに蜜肉も呼応した。やがて自ら好いところを擦り付けてしまう。
「いいよ。気を、やりなよ。おれの珍鉾が萎びる前に……」
「あ……ん、んんっ! ああ……」
 緩やかな絶頂があった。
「気持ち良いよ……桔梗のなかは、温かいな。よく締まる」
 茉莉は女から離れようとしなかった。彼女の体内にまだ居座る気らしい。他の男の種を宿し、また別の男に娶られた女の花壺を御座所にするつもりらしい。放出したというのに、まだむことなく、剛直を保っている。
 一度の射精では済まなかった。神秘の河川でたった一度放精したのでは、外貌に反し強壮で精力的な肉体には物足りないどころか貪欲になる刺激となってしまった。
 蹴鞠のように貴人の小さく白い尻が弾んだ。そのたびに桔梗は奥深く、そして高速の槍捌きを味わわなければならなかった。絶頂自体は緩やかだったが、まだその余韻が引かないうちのことだった。彼女は畳に爪を立て、這って逃げようとした。
「御慈悲、を……」
 しかし淫欲の虜囚、牡淫獣、淫蕩の権化、剛肉棒の代理人に聞く耳はない。それができることといえば、女花を突き挿してにじり、蜜肉のかんなを肉根にかけ、牝牡の透明な粘液を混ぜ合わせることばかりである。





 貴人が歓を尽くし、部屋を出ていくのと入れ違いに、葵が入ってきた。富貴菊との夫婦で借りた部屋であるはずだが、堂々と、萎縮もせず踏み込んだ。そして白濁色の小さな池を作る裸女に近付いていった。
 この男の用など高が知れている。
「もう……できません。赦して……」
 粘液が痙攣したままで、注がれた貴種汁を溢す。小さな池が面積を増やす。
 狂人は裸女の話を聞いていなかった。無遠慮に触る。抱き起こし、自らが背凭れとなって膝を開かせると、種壺に指を突き入れた。汚液を掻き出しはじめる。
「もうできませんから……」
 裸女はこの狂人が陵辱の限りを尽くすものだと信じて疑わなかった。疲れ果てた身体で暴れた。しかし死にかけの節足動物同然であった。狂人のたがの外れた膂力に敵うはずもない。
 狂人は拒まれるのをものともせず、尊い男根が出入りした紅孔を漁った。孕ませた責任でも果たしているというのか。
 足音が近付いてくる。障子が開け放たれた。
「桔梗殿。ただいま帰った」
 富貴菊だった。土産物と思われる大きな魚をぶら下げていた。しかし新妻の姿を見た途端、それは床に叩きつけられ、生きていた頃のように大きく跳ねた。
「貴様!」
 この武人は気の狂った相手にも容赦はなかった。畳を踏み破るような足取りで狂人へ近付いた。新妻を引き剥がす力にも興奮が込められていた。
「貴様は桔梗殿の腹の子の父親というだけだ! 桔梗殿は私の妻! 貴様! 私の妻に何かあったらどうする! 身重なのだぞ!」
 一撃、一撃、振りかぶった拳は丁寧であった。咆哮しても狙いを外さない。
 狂人は襟首を掴まれ、黙って殴られていた。鼻血を垂れ流し、唇を切って、片目を引き攣らせる。
「死んでしまいます……、死んでしまいます、……!」
 桔梗は武人の衣服を摘んだ。茉莉のことは言わなかった。口にすることを憚られた。主人であれば許すというのか。主人ではないから怒り狂っているのか。そしてこの狂人の企図に気付いてしまったのだった。気違いにも信じ、愛し、畏れる神がいるのだ。
「死んだほうがいい! 死んだほうがいいのだ、この気違い! 何故自分より弱い者にそのような乱暴ができる? 貴様の清い志はどこへ行ったのだ。所詮、田舎生まれの肥やし臭い農工商にまつりごとなど分からなんだ」
 武人は狂人の襟首を掴んだまま外へ引き摺っていった。
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