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主人公じゃなかったから 全14話/三角関係/大学生/陽気攻/意地っ張り受/イラマ/乳首責め

主人公じゃなかったから 14

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 1番に優先できないなら、きっとその程度か僕の人格キャパの問題。

 桐島は僕に達央と初めて会った時のことを話してくれた。一緒に痴漢を退治したのはほんのきっかけで、達央と桐島の出会いは大学の入学式の日。確かにあの日達央は姿を見せなかった。時間間違えたって笑っていて、珍しいからよく覚えてる。学生証を失くして、探すのを手伝ってくれたらしい。入学式の時間には間に合わず名前も知らないまま2人で1時間過ごしたらしい。僕も学生証忘れたけど入れてもらったよ。黙っとくけれど。でも入学式なら、僕が桐島を知るより前だ。雨の日のカフェスペースでぼんやり外見てる姿に見惚れちゃうのよりずっと前。
 シャワー浴びながら話してくれた。精液なか掻き出しながら。背中洗って、髪洗って、最後だからってまたチュウした。ずっと、桐島が帰る時間までずっと抱き合ってキスしてた。たまにピザ食べて、ずっと手繋いで、ずっと抱き合ってた。


「明日から他人だよ。元気でね。真樹ち。来てくれてありがと」
 玄関のところで桐島は淡々とした様子で「ああ」って言った。
「俺の言うことじゃないが、きちんと食事は摂れよ。邪魔した。ピザ美味かったよ、ごちそうさま」
 まだ手には桐島の体温が残ってた。バイバイって声にする前に玄関のドアが閉まる。桐島のいた世界が終わる。カンなんとかニュ、食べてみたかったな。カンなんとかニュが食べたいんじゃなくて、桐島が食べてたっていうよく分かんないパンを、桐島が僕のために買って来てくれて、桐島と一緒に食べて、桐島に感想言って。暫く玄関のドアぼーっと見てた。結構砂埃とかで汚れてるんだな。まだ手には桐島の体温が残ってる。指に匂いが残ってる。部屋には桐島のいた形跡があって、僕はベッドに寄り掛かってすぐには片付ける気にはならなかった。桐島は片付けるって言ったけれど、客人じゃん。天井見上げて、それから起き上がって、ゴミ片付けて、いつもと変わらない日常なのに何か冷めた感じがあった。元の生活に戻るだけじゃん。ずっと達央見てるばっかりだった桐島が達央に話し掛けてた姿見る前の日々。僕が桐島にちょっかい出す前の日々。僕はメンヘラカノジョ気質で意外と面倒見るのが好きで、意外と嫉妬深くて、意外と朝強くて、意外と日当ひなた好き。知らなかった僕と出会ったから、それは無かったことには出来ない。きりしま。好きだったよ。大好きだった。ぼけ~っとしながらスマホをいじる。達央に付き合おうってメールしないとだ。ちゃんと会って言おうか。会って言えるかな。メールにする?会って言おう。交換したばかりの桐島の連絡先を開く。桐島真樹。親指はボタンを押したがらない。また電話しそう。メールしそう。会いに行っちゃいそう。そうしたら多分桐島は僕が突き付けたことなんて忘れて変わらず接してくれるんだろうな。悲しいな、桐島。桐島のそういう律儀で優しいところがすごく悲しい。ごめんな。達央のこと奪っちゃって。ごめんな。好きになっちゃって。ごめん。親指が画面を押す。読み込んで、桐島のアドレスが消えた。呆気ない。達央が好き。達央が大好き。達央を愛してる。でもなんだか別の意味だった。これからちゃんと達央の求めてる感情が生まれればいいんじゃないの。大丈夫だよ、達央かっこいいし優しいから。



「付き合おう」
 切り出すタイミング分かんなくて顔見た瞬間に言った。もう早い時間帯に起きる必要なかったからよく寝た感じがした。達央は一瞬何の話かすぐ分からなかったみたいで固まった。数秒経って目を大きくする。
「いいのか。その……っ、いや、いいんだな?」
 達央は少し照れ臭そうだった。やっぱりエッチとかすんのかな。できるかな。勃つかな。じゃあ僕が受ける側?できるかな。どうしよ。でも達央上手そうだから。
「うん。よろしく。大事にしてね」
 達央は僕を抱き締めた。ふわっとスパイス入ってるミントみたいにスースーする感じとメロンみたいに甘い香水が薫った。
「当たり前だ。何年待ち望んだと思ってる。ずっと隣で、ずっとこうなる日を待ってた」
 周りの人たちがギョッとして僕等を見ていた。いつから僕を好きなのか分からないけれど、僕も達央のコト、そういう意味で好きにならなきゃだ。頑張ろう。でも達央のいいところ全部知ってるのにどうしてそういう意味で、達央のこと、好きになれないんだろう。
「礼斗。すごく嬉しい。どうにかなりそうだ」
 達央は人目なんか気にしなかった。嬉しい、夢みたいだって繰り返して僕に腕を絡めた。顔を真っ赤にして笑っている。僕のコト大好きじゃん。応えなきゃ。
「あ~、もう、すごい、好きだ」
 手を握って達央は顔を赤くしたまま僕から顔を背けて肘で顔の下半分隠してた。
可愛かっこいいってずっと思ってた。なんか、もう幸せで…悪い、顔見れない」
 変わっちゃうのかな、達央との関係。
「ははは、今更じゃん」
「ずっとオレの気持ち、バレてるんじゃないかと思って…」
 僕はただ笑うことしか出来なかった。どんなカオすればいいのか分からない。
「全然だよ。全然…気付かなかった」
「なら、良かった。好き過ぎて、女の子褒めたり付き合うたびに、妬いてたんだ。桐島のことも…」
 ドキッとした。心臓に電流通ったかと思った。
「桐島のことなら安心してよ。本当にカラダだけだったんだし、達央と付き合うならもうしないし」
 へらへら笑っておく。ちゃんと別れは告げたし、始まってもない関係だったけれど、ああいう関係もありだった。今日までは。これで良かった。だって達央は誠実で堅実で律儀で優しい人なんだから。その人を裏切らないって誓うなら相応の態度を示さないとだろ。憧れの人と付き合うってのは、それ以外のものはちょっと遠くに置かなきゃいけないんだよな。
「そっか。あ…その、ありがとな。礼斗のコト、絶対、惚れさせてみせるから!」
「何言ってんの。もうタツヒサに首ったけだって」
「―」
 でも僕は上の空で遠く見える正門から入ってきた人に目を奪われていた。



 雨の日のカフェスペースは少し混む。いつもはがらんがらんなのに。食堂が改装されてガラス張りに温かい感じのする木目の出た床と無機物な白塗りのコンクリート壁でちょっと色のある布製の椅子でアクセント付けてる今風な大きなカフェみたいなのが出来て、それからは食事とはまた別にある程度の人が休憩してたり話し合ったりしてた。雨の日は外で食べたり話してたりしてた人たちが学生会館を使うでもなく講義室を使うでもなくこのカフェスペースにやってくる。僕もその1人だった。人はいっぱい居た。コスプレみたいな服装のやつ、V系バンドみたいな髪型のやつ、大声で喋るやつ。だからコンクリートの柱のすぐ傍のガラス窓を向くお一人様用のカウンターテーブルみたいなところに座って本を開いてるその人に気付いたのは偶然だったのかも知れないし、僕が騒がしさにちょっとうんざりしてたのかも知れない。雨の日は好きだった。昔いじめてた奴等も大人しくなるから。外に連れ出されなくて済むし。休み時間に抜け出して体育館に繋がる外通路で雨の音聞いてるのとか好きで、その時間は1人になれていじめられなかった。あの人もそんなクチかな、なんて思った。綺麗に梳かした髪を後ろに整えてて少し落ちてる前髪がなんだか可愛かった。綺麗な横顔は開きっぱなしの本なんか見ないでガラス張りのずっと遠く見ていて、何見てるんだろ?って気になった。雨がザーザー降っててそこには僕の親友が自慢のカノジョと一緒に軒下にいた。エリナちゃんはとにかく美人で入学当初から話題になっていた。地味な見た目の割にああいう派手な女の子が好みなのかな、なんて思いながら。遊んでそうに見えてしっかりしてるし優しい姉御肌って感じの人だった。達央は本当は他に好きな人がいるんじゃないかって僕に相談してくることもあったけれど。結局その少し後にエリナちゃんは海外留学するからって2人は別れた。向こうで自由に恋愛してみたいとかなんとかって。遠距離恋愛とか実在するのかどうか知らないけれど、僕には無理だね。達央は出来そうだっけれど。エリナちゃんが無理なら仕方ない。
 2人は話を終わらせたらきっと僕のところに来るんだろうなって思って。あれは多分海外留学の話だったんだと思う。時期からしても。でもそんなこと知るよしもなかった。僕はぼーっと、頬杖付いてアンニュイなカオで美男美女カップルを見つめてるその人のことを見てた。横から来たポニーテールの女の子が反対から来てるやつとぶつかってそいつが持ってたコーヒーをかぶった。あの人もコーヒーかぶってたけど真っ先に丸かぶりしてた女の子にハンカチを貸していた。地味めな色のリボンはコーヒーで染まって、控えめな化粧の顔にもコーヒー垂れてた。顔立ちは可愛いけれど雰囲気は地味な女の子だった。化粧とか装飾品とか服装はよく見ちゃうよ。変わったらいちはやく気付いて褒めてあげなきゃいけないんだから。
 あの人はコーヒーかけちゃったやつよりもコーヒーかけたやつみたいになってた。火傷してないかとか、そんなことを聞いてた。雰囲気がよく似てる。エリナちゃんよりその子のほうがお似合いだよって教えてやりたくなるくらい。でも兄妹にも見えちゃうかもね。
 女の子はコーヒーで汚れたその人のハンカチを引っ張って、首を振った。ハンカチ持ってかれそうになって困惑してた。惚気たカップルみたいで面白くなかった。暫く僕もフリーで、こんな女の子と健全でも少女漫画みたいな恋したい、させたいなんて思ってわけで。
「いいじゃん、洗ってもらったらさ。借りっぱなしって気持ち悪いし」
 僕は口を出していた。女の子は恥ずかしそうに周りを見渡してから僕と目が合った。口紅が赤とかピンクじゃないところもその人の健康的な色気と重なった。エリナちゃん堕とすのは難しいって。エリナちゃんは自分よりしっかりした男がタイプって豪語してたんだから。
 あの人はハンカチを諦めて、女の子はまた頭を下げて恥ずかしそうに行ってしまった。いいじゃん、あの子。可愛いじゃん。きっとあんたのことを遠目から見つめる生活になるんじゃない?

…なんて。
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