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【小説家になろう企画】仮面・魔女 ハロウィン2021/未完2種/最終話プロット公開
仮面と舞踏会 1【打ち切り】
しおりを挟む家の扉が叩かれる。時間的に訪問者は分かっている。アルナシェラは本を読むために上げていた半仮面を下ろした。顔の右半分を覆う大きな傷がそれで隠れた。
ドアの小窓に掛かった蓋のような板を持ち上げると、訪問者は彼女の予想とは違っていた。
「なんだ」
努めて居丈高に対応する。相手は清楚げな純白のワンピースの上に可憐なリボンを何段も列ねたピンク色のふんわりとしたドレスを重ねていた。生まれたての猫みたいな柔らかそうな亜麻色の髪には日差しが輪を作っている。アルナシェラが待っていた少女ではない。歳も随分と低い。10代前半か半ばといった頃だ。
「ご注文の品を、あの、持って参りました……」
幼い訪問者はぴょいと木箱を渡した。
「アプリコはどうした」
アルナシェラは、この可愛らしい配達人に、にこりとも笑わない。何故いつもの配達人ではないのだと、平生よりも低い声音で問うた。
「あ、あ、アプリコは、先日付で辞めまして……ございます……」
相手が怯えきっていることにも構わず、アルナシェラは「そうか」と吐き捨てると、やたらと装飾過多な配達人を家に入れた。
半仮面の調整をするためにアルナシェラは慣れていない相手の前で傷を晒さなければならなかった。躊躇いがある。ふと幼い配達人を瞥見する。その者はきょろきょろと不躾に家の中の物を見回していた。目が合う。
「ご、ごめんなさい!」
びくりと肩を跳ねさせて哀れなほど怯えている。アルナシェラは溜息を吐いて仮面を外した。魔術によって刻まれた傷痕は完全に塞がることはなく未だに薄らと血が滲んでいる。慣れた者にしか見せたくないのは彼女の羞恥もあったけれど、相手に対する気遣いもあった。見ていて気の好くする者のほうが少ないだろう。案の定、配達人は青褪めている。
配達されたものは新しい仮面である。贔屓にしている"マスカレードレモネード"という店の、軽量化された陶器製の仮面で、魔晶石が練り込まれている。それが彼女の顔半分に走る魔傷に効いた。
「別にいい。わたしが自分でやる」
「ああ、いいえ!ボクが………ワ、タシが、やります!」
アルナシェラは眉を顰め、華美な身形の配達人をちらと見る。
「そうか。それなら頼む」
その手の道の者がいるのなら、任せたほうがよい。新しい仮面を着け、幼い配達者に調整を委ねた。しかし、フリルに埋もれた手がアルナシェラに触れた瞬間、彼女は眉根を寄せた。傷に痛みが走ったのである。
「お前、男だな」
彼女は椅子から立ち上がった。傷が開き、出血している。
「ひぇ……っ」
頬を流れ、服を汚し、床に落ちていく血を見て配達人は後退った。
「て、店長に……言われて…………アーシェラ様は男性が嫌いだからって…………だ、騙すつもりはなかったんです!」
「わたしもお前が男か女かなどとは訊かなかったものな。ただお前を男だと分かっていたら入れなかった……!」
傷の被った目は失明は免れているが、流血によって開かない。
「す、すみませんです!ごめんなさ……」
「出て行きなさい。調整は自分でするから……」
玄関扉を指す。しかし配達人はそこに留まった。
「ですが……」
「出ていきなさい。自分でできないこともない」
まだ出ていかない。代金は払ったはずである。アルナシェラはフリルに埋もれた手を取って硬貨を何枚か握らせた。触れた瞬間に、ばつ、と皮膚の裂ける感じがあった。
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