18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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揺蕩う夏オトズレ 6話放置/気紛れ兄+電波ワンコ弟/いとこ双子姉弟/百合要素

揺蕩う夏、オトズレ 6 【放置】

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「おっちゃんなぁ、もうすぐ遠くに引っ越すんでさぁね。今もそこそこ離れてっから、今くれぇの時期しか来れねぇんだけど、もっと遠くに行っちまうから、当分、ここには来れねぇっつうこった。だから今年の夏はなるたけいっぱい……そうさな、おっちゃん、ガキがいてな。思い出が多くてよ、この山は」

 枡谷に導かれて山を降りる。川を探していることと知人に置いていかれたこと、若干寝不足であることを打ち明けると、彼は叱ることもなく愛想の良い顔をさらに愛嬌で埋め尽くし、霞澄かすみを労った。
「枡谷さんは、どうして?」
 頻りに汗を拭きながら、枡谷も自身の事情を語って聞かせる。霞澄は黙ってしまった。―ガキがいる。
 その息子か娘が大きくなって親元を離れたという意味なのか、すでにこの世を去っているのか。枡谷の外見から推測される年齢からいって、20代に差し掛かる子がいてもおかしくない。だが彼女の知るこの中年男は線香の匂いを漂わせ花束を抱えていたり、墓参り用の手桶を提げていた。
「なんつってな。湿っぽい話じゃねぇよ。それよかお嬢ちゃん、歩けっかい。ダメげならおっちゃんが背負おぶってやりてぇんだけどよ、お嬢ちゃんもじじいの汗臭ぇ背中じゃイヤだんべ。ちょくちょく休憩挟んで行こうや」
 彼はキャンディみたいにひとつひとつ個包装された塩分を含んだタブレットを1粒渡す。
「ありがとうございます」
 霞澄はすぐに口へ放った。ラムネのような食感だった。噛み砕くのが惜しくなった。汗で濡れたポロシャツが父親の背中を透かす。他人の親であるが、霞澄を幼児にしてしまう。この山がそうさせる。
「枡谷さんのことは会ったばっかりでよく知りませんし、わたしも夏休みが終わったらここを離れて、わたしも来年ここに来られるか分からないんですけど、なんだか、枡谷さんが遠くに引っ越されるというのはおめでたいものなのかま知れませんが、ちょっとだけ……寂しい感じです。ちょっと、無責任ですね」
「いんや。そう言ってもらうとなんだか照れるわな」
 よく日に焼けた肌に白い歯が目立つ。八重歯見えた。乱雑そうな気性に思えたが綺麗な歯並びをしている。
「オレの話はいんだよ。お嬢ちゃん、やけにお知り合いのこつ心配してたみてぇだが、もう解決したかぃ」
「気紛れな人ですから。といってもよく知ってるわけじゃないんですけど。わたしのこと後から探し回るような人じゃないし、わたしもとりあえず探すだけ探しましたから、あとは仕方ないです。これ以上探して、わたしがダウンしても仕方がないし」
 枡谷の少し汚れた靴は慰めに小石を茂みに蹴った。
「……そうけぇ。いんや、そのとおり。お嬢ちゃんが日射病になっても仕方ねぇわな」
「意外と、置いていかれたのかもしれませんし。直前に言い合いったってほどじゃないですけど、叱りつけたりしたので」
 枡谷は意味深長な、どこか硬さのある微苦笑で霞澄を振り向いた。
「この時期は川に近付くな~り迷信があって……ま、信じちゃいなかったけどよ、オレのガキも川にぽっちゃんしてなぁ。こう、晴れた日じゃなかったのに釣りに行くなんてあいつぁバカだよ。でもな、こりはそういう事情のあるジジイのお節介だが、川には近付いて欲しくねぇんだわ。こういうこつ言うと、お知り合いさんが心配になるかも知らんけど、こういうんは自分の身を大切にしないと、誰かのこつも巻き込むからなぁ。家族然り、探し回る仕事の人然り」
 彼は引き攣った笑みを保っていた。
「なんて、歳食うと説教臭くなっていかんわな。お為倒ためごかし言うつもりはねぇけど、こうやって顔突き合わして言葉交わした仲だんべ。お嬢ちゃんが健康でいて欲しいって思っちまうのは、まぁ、オレのエゴだけんども」
 霞澄は暑気中しょきあたりと勘違いしてしまうほど顔を赤くした。大人の若者に対する気遣いであり、親密でなくともこうして同じ空間に居合わせた者への情である。そこに艶めきはない。しかし照れた。枡谷は苦笑をやめ、からからと軽快に笑っている。
「夏は活きのいいやつから……秋が来ちまうのさ。セミとかな、蚊とかおカブちゃんとか」
 そうして彼はまた前を向いた。照れ臭そうになった顔がちらと見切れていく。情緒のあるようで不穏な比喩だった。川に"ぽっちゃん"した子供の話が急に色濃い影を落とす。おそらくそれはただ子供が川に落ちたというだけの話ではない。永いこと尾を引く終わり方をしたに違いない。
「それなら、」
 焦った。まずは呼び止めなければならない気がした。鈴城兄弟みたいに目を離したらすぐに消えそうだった。置いていかれることを恐れたのではない。降り方は知っている。この中年男の身そのものを霞澄は案じた。彼がまた立ち止まって肩越しに振り向く。
「枡谷さんも、気を付けてください」
「お嬢ちゃんは、オレが活きがよく見えたかぃや」
 彼は豪雄な顔に人懐こく磊落不羈らいらくふきな哄笑を添えている。
「……はい。ごめんなさい、失礼でしたか?」
「いんや。若く見えるっつうこったな。ははは、そりともガキ臭ぇんかな」
「そういうつもりじゃなかったんですけれど」
「いや、いいよ。嬉しいわ、そらな。オレもこの山来て若返っちまったかな。まだオレが、お父ちゃんになって戸惑うこと多い頃によく来たんだわ。山のパワーかい、こりが」
 枡谷は顔を見せなくなった。霞澄はその後姿を追った。
 墓地で彼は止まった。鈴城すずきとの待ち合わせにされた木々に覆われたあの墓地だ。枡谷に揺れる陰が掛かる。木漏れ日は斑模様で気紛れに汗に濡れたポロシャツを透かす。
「あんま湿っぽい話じゃねぇんだ。ただお嬢ちゃんとはそこの道でよく会うし、なんとなく話したくなった。教えてやるって御大層なものじゃなくてよ。ここにオレんちのガキの墓があるんだわな。脅すつもりじゃねぇけんど、気を付けろぃや。オレみてぇな夏嫌いを増やしちゃいけねぇわ。最近の夏はクソ暑ぃけど、いい季節さ。これぞ日本って風情ものが多いのによ………まぁた説教臭くなっちまった。説教臭い、汗臭い、おっさん臭い、イヤになっちまうね」
 枡谷はけらけら八重歯を見せて肩を竦めた。
「はい。大切なお話、ありがとうございます」
「おお、言うね」
 悪戯っぽく片眉を上げられる。気分を害した様子はないが、霞澄の返答を嫌味か何かと解釈した。彼女はそれを察して唇だけ回るが適切な弁明が出てこない。
「ははは、悪ぃんね。話してオレだけ気持ち良くなっちまった。んま、クマちゃんはいねぇし、イノシシは怪しいけんども、なかなか楽しい山だわな。怖がらせるようなこと言っちまって悪かったんな。お嬢ちゃん、お化けさんとか信じちまうタイプ?」
「いいえ……」
 霞澄は小さく首を傾げた。
「ほいなら良かったわ。んでも、オレのガキどもは別に化けて出てくるほど捻くれた奴等じゃねぇから」
 枡谷の子供が幽霊として現れるか否か、そこよりも引っ掛かることを彼は口にした。
「さ、帰るべ」
 子供を喪っているという先入観が枡谷の背中を孤独に見せた。霞澄はその姿を焼き付けてしまう。笠子かさご家と駐車場に分かれる岐路が見えてきた。トンボが宙を横切る。
「また節介焼くが、ちゃんと休むこったな。ありきたりなことしか言ってねぇけんども、ありきたりなもんが結局一番効くんだわな。あ?一番効くからありきたりになんのか」
 そういう会話をして枡谷は駐車場へ、霞澄は笠子家のある道へ入っていった。

 ただいまと声をかけ玄関を開けると真青まおうずくまっていた。
「霞澄ちゃん」
「ま、おくん」
 異性といとこを捉え、霞澄は硬直した。彼がいたことは想定外だった。
「こ、ここにいて暑くないの……?」
 絞り出した声はぎこちない。2階が騒がしくなる。古い家の階段を容赦なく長い脚が踏みつけ、深青みおが降りてきた。
「霞澄!おかえり。お袋は買い出しだからいないよ」
 深青は玄関にやって来て霞澄の腕を引っ張った。車が無かったため、伯母の不在は察していた。
「ま、待って、霞澄ちゃん。話があって……」
 真青もまた霞澄の腕を掴んだ。だが静電気にでも遭ったように咄嗟に放す。深青の目が吊り上がる。双子に挟まれ霞澄はどちらを見ていいか迷ってしまった。
「霞澄を自分の部屋に引っ張り込むつもりじゃないでしょうね?」
 真青の嫋やかな顔面に亀裂の走る感じあった。
「ち、違う……」
 彼は激しく狼狽えた。深青の語気は強く表情もきつい。これでは真青が哀れだった。
「み、深青ちゃん。大丈夫だから。リビングでいいかな?真青くん」
 彼は頷いた。深青は眉間に皺を刻む。
「まさか2人きり?」
「何もしないから。昨日の夜みたいなコト、しないから……!」
 霞澄と深青は思わず顔を見合わせてしまった。彼からその話題を出すとは思わなかった。
「謝りたくて。ここでもいいから。ただ謝りたくて。霞澄ちゃんに……」
 霞澄は深青の顔が見られなかった。真青は俯いている。
「何のこと?」
 双子でよく似ているくせ雰囲気の大きく違う目が霞澄をおそるおそる見上げた。
「え……?」
「真青くんに謝られることなんて、何もないよ」
 背筋が冷えていく。自身に対して軽蔑した。真摯に謝ろうとしているこのいとこを侮辱している気がした。彼がそうしたように霞澄も深青をおそるおそる瞥見する。
「………そっか」
 異性のいとこは抜け殻のようになった。そして階段を上がっていく。
「オス猫だよ、あいつは」
「深青ちゃん……」
「被害者になるあんたに気を付けろって言ってもしょーがないケド、気を付けなさいよ」
 いとこの不仲は今に始まったことではないけれど、霞澄は自分がそれをさらに分断しているような気がして重苦しくなる。
 伯父が帰ってくると伯母の作る美味い飯を食い、その後リビングで笠子家の団欒に混じった。その時の真青に変わったところはなかった。やがて散り散りになる。
 霞澄は風呂上がりで、今風呂に入っている深青の部屋で涼んでいた。設定温度は高めだが扇風機を使えば随分と涼しい。部屋のドアをノックされる
「はい。深青ちゃんはお風呂で……」
 ドアを開けると真青だ。
「来て、霞澄ちゃん」
 しかつめらしいいとこの貌に霞澄は呆気にとられた。
「真青くん……」
「来て」
 クーラーの点いた部屋のドアは閉めきれなかった。引っ張り出され、隣室に連れ込まれる。霞澄は突き飛ばされたかのように部屋に踏み込み、真青は後ろ手にドアを閉める。
「真青くん?」
「僕とも遊んで、霞澄ちゃん」
「う、うん……」
 凍てついたいとこの顔に霞澄は慄然とした。穏やかな面影はもうない。
「霞澄ちゃん」
 2人でどこかに飛び降りる勢いで彼は霞澄の両腕を左右から押さえると、自身の体重と共にベッドに倒れる。小さな頃からあった古いスプリングがぎしりと喚いた。重みは感じなかった。ただ視界が陰る。
「真青くん………、何?」
 鼻先がぶつかるほどの至近距離に深青と見紛うほぼ同じ顔がある。そのために霞澄の危機意識は働かなかった。
「霞澄ちゃん……どうして昨日の夜のこと、知らないフリするの?」
「な、にが……」
 質問の意味はおそらく彼女の頭の中に入っていなかった。
「霞澄ちゃん、僕のこと避けてた。昔から……僕が男の子だから?凛青りお兄さんには懐いてたクセに?」
 冷房や扇風機では掻き回せない荒い吐息にやっと霞澄は彼の思惑をそれとなく推し測れた。
「あのさ………変なこと訊くんだけど………」
 思春期の彼の青く苦い光景が脳裏を掠める。
「真青くんて、わたしのこと、いとこじゃなくて……っ」
 焦点を合わせられなくなるほど真青の顔が近付いた。口元に乾いた柔らかい質感が当たりすぐに離れていった。自信の無い真青の表情にフォーカスされる。この唇と唇の接触は、霞澄の途切れた言葉によってその意味を分かつはずだった。
「女の子として見てる……」
 霞澄は目を逸らした。頭の横にあった手が動き、胸を触られている。
「真青くん……」
「気付いてたから、避けてた?」
 小さく頷いた。もう隠しておけない。
「霞澄ちゃん……」
「でももう随分と前のことでしょう?若い頃だし、そういうこともあるよね。親戚でも普段離れて暮らしてたんだし。その……ありがとう。女の子として見てくれて?深青ちゃんそろそろ戻ってくるし……」
 寝間着の上から、すっと胸をなぞられる。ブラジャーはなく厚手のタンクトップを着ていても先端部に甘い痺れが起こった。腰がくっと動く。
「霞澄ちゃん」
「戻るね……?」
 いとこは覆い被さったまま退こうとはしなかった。
「真青くん……」
 寝間着とタンクトップを隔て、彼の指はまた霞澄の膨らみをくすぐった。
「ん……っや、」
 下半身の奥まで脅かす粟立ち。涼風で乾きつつあった眼が濡れる。 
「胸、感じるんだ」
 寝間着の裾を捲り上げられる。小さな頃は全裸も厭わなかったけれど、今はそうではない。
「だめ……っ!」
 胸が晒され、真青の据わった目が爛々とした。あまり日焼けしていない肌に淡い色付き。視線に嬲られ、霞澄のそこは硬くなる。深青と同じ黒い髪がそこに乗る。指で弾かれるのと同時に生温く吸われるのは同時だった。
「ぁっ……っんぁ、」
 真青を突き離そうにも力が入らなかった。舌先が彼女の凝り固まった部分を転がす。身体を包む空気は冷えているがじんわりと火照っていく。
「真青く……っ!」
 下着の中へ手が入っていく。抵抗を示すと疼く胸の実に歯が立った。
「だめ……っ、真青く、ん!わたしたち、いとこで……」
 彼は膨らみから顔を上げた。つんと聳えた粒をついでとばかりに舐めずる。
「ぁっん」
「いとこだよ。でもいとこだから、何?いとこで結婚、できるんだし……」
 下半身の粘膜を指が撫でた。電撃が腹の中を通っていく。
「真青くん……っ」
 直接的な刺激に霞澄は首を左右に振った。汗が照る。真上から固唾を飲む声が聞こえた。やがて、潤みを帯びた奥に入ってくる。指とはいえ、親戚の身体の一部が侵入している。拒めば拒むだけ、いとこを実感する。
「霞澄ちゃん」
 中で蠢いている。抗う手は口元に運ばれた。腹の燻ったところを的確に穿たれ、背筋が悦びにノックされている。夏の暑さと異質の燈りが陽炎かげろうている。
「んっ、あっ、ぁ!」
「下に聞こえちゃうね。僕たちのこと、認めてくれたらいいのに」
「だ………っめ、ッ」
 寝間着と下着の内部で水を掻き回す音がした。拒否の言葉は彼の口に呑まれた。点火されそうな身体が、隣の部屋の音で急激に冷めた。唇が開放され、そして腹から体温が抜けていく。濡れて照る長く細い指を目の当たりにしてしまう。
「イけなかったね」
 彼女は弾かれたように深青の部屋に戻った。風呂上がりのいとこは髪を雑に拭いている。
「何、霞澄。トイレ?」
「うん」
 幸いにも、深青と真青の部屋の間、斜向かいにトイレがある。上手いこと誤魔化せたらしかった。
「霞澄、寒い?」
 深青はクーラーのリモコンを覗き込む。
「ううん、平気」
「あ、そ。おっぱい透けてるもんだから」
 霞澄は自身の胸を見てしまった。真青に刺激された部分が、つんと布を押し上げている。彼の指、舌、表情を思い出して腹の奥の冷めきらぬほとぼりを認める。
「下行く時は気を付けなさいよ」
「うん。ありがとう」
 いとこのきつい目が背けられた。その目元は真青と同じ形をしているくせに違って見えるのは霞澄の持つ彼女等に対する印象のためだろう。体格差が顕れ、髪を伸ばしたり服に違いが出る前の小さな頃は深青が男の子のほうで、真青が女の子のほうであるという勘違いはよく起こっていた。
「明日、あーし、家いないから。同窓会みたいなのあって。―お袋はいるから安心して」
 深青は顎で真青のいる隣室を差す。
「うん」
「どうせ山登り行くんでしょうケド。物好きに」
 返事はできなかった。気紛れかつ衝動的な鈴城の行動には付き合いきれそうにない。だが枡谷とはもう会えないかも知れない寂しさが多少なりともあった。明日のコンディションによるのだろう。
「さ、髪乾かしたげる。エアコン消すよ」
 扇風機のほうに寄ってドライヤーがこの部屋に轟いた。同じ匂いを寝具に擦り付けて眠る。


『怒ってる?ごめんちゃい、霞澄さん。兄ちゃん、謝ってた』
 爽夏さやかの麦藁帽子と背中が見えた。こちらに向くことはないが、きゃらきゃらとした質感の声はよく小さくこだまする。
『兄ちゃん、霞澄さんのこつ好きなのにな』
 釣り糸が上がる。魚が食い付いていた。小さな魚を彼は吟味することもなく針から外して川に戻す。ぽちゃりと魚が水を叩く音がした途端、彼の広い背中が歪んだ。昔の映像機器を復元した時の乱れに似ている。兄よりも体格のよい後姿が一瞬、縮んで見えた。それは小学校の低学年か、3年、4年といった頃合いと踏めた。麦藁帽子ではなくキャップを被り、足場の悪そうな岩のごつごつした川縁かわべりから膝を下ろしている。だがそれはほんの短な間のことだった。
『霞澄さん。今日は雨降るから、オレは良しとく。ざ~ざ~って。ママンも雨の日は川行くの、ダメだって。おこぷんのかんか~ん!なの』
 母親からすれば少しずれたところのある息子は可愛かろうが不安の種でもあるだろう。それが外で遊ぶのが好きというのだから尚のことだろう。兄が保護者にされ忙しく立ち回るのも分かる。
『兄ちゃんは、霞澄さんに会いに行くよ。だからオレ、霞澄さんに約束しなきゃなんないの。だから約束しようねぇ。指切り拳万げんまんなの。針は100本くらいでゆ~るすッ!霞澄さん、1万回も殴ったら死んじゃうよね。代わりにチュウでもいいよ。へへ、なんだか照れちゃうね』
 兄は弟の用事なしに会う理由はないということらしい。それは知れていた。深い仲ではなく、仲が良いといえるまででなくとも、ついでの、穴埋めの関係であると示唆されると複雑な心地になる。
『でもオレ、雨の日は川行っちゃいけないから、どうしよう?』
 麦藁帽子が振り向く。留紐が揺れた見えた顎に日焼けした肉感はなく、たとえそれがテレビで見たことのあるアルビニズムの色の白さであっても説明のつかない、異質の異質の、どこか黄ばんだ白をしていた。


 圧迫されるような胸の苦しみで目が覚める。クーラーの涼しさに覆われた布団の温もりは快適だったが、背中だけ蒸れて暑い。掛布団を捲り、湿気を逃す。常夜灯が点いた。
「水飲むならあーしも行くよ」
「大丈夫。ごめんね、毎日……」
 深青は霞澄の傍に寄ってきた。
「枕慣れない?あーしのベッドで寝る?あーしが布団で寝るから」
「ううん。こっちに来て色々楽しいから。夢に出てきちゃって。子供みたい、だね」
 楽しいのは本当だ。ただ深青に対しては、真青とのことで板挟みにある状態しか見せていないような気がする。朝に遠くから聞こえるラジオ体操の音も、よく照っている緑も、山から帰ると伯母が作って待つおやつも、夕方に縁側で鳴る風鈴を聞きながらテレビを観ることも、家族団欒で摂る食事も、そのあとの落ち着いた時間も、すべて楽しい。しかしそれは深青にとっての日常で、彼女に伝わるかは分からない。ここで伝えても方便になってしまいそうである。
「欲求不満とか?」
「え?」
 視界が反転した。深青に押し倒されている。彼女は近くにあった肌触りの良いタオルを畳み、霞澄の目元に置いた。
「好きな男のコト想像してて」
 胸に手が伸びる。左右ずつ一点を触られている。己の膨らみに沈む肉粒の感触に、そこが凝っていることに気付く。
「深青ちゃ……っ!」
「どんなのがタイプ?イケメン?イケオジ?美少年?まさかB専?がっちり?細マッチョ?ムチムチ?とんでもデブ?」
 寝間着の上から彼女の親指が霞澄の両胸の上で妖しい円を描く。
「な……っんで、っ」
「霞澄の好きなタイプ、そういえば知らなかったなって」
「ち、が……っぁんぅ!」
 忙しない動きで柔らかな脂肪の中に埋め込まれた珠を掻かれる。ぞくぞくとした悪寒に似た快感に霞澄は四肢を強張らせる。
「うん?何?霞澄」
 深青であるはずだ。真青と入れ替わってはいないか。だが深青だ。匂いも肌感も直感でさえ、胸の先端を遊ぶいとこが深青であることを告げている。
「こんなこと……っあっ!」
 指の押さえをなくすと突起する小実を摘まれる。布越しに擂り潰され、下腹部が痺れる。
「さっきのあんた、すごく物欲しそうだったから」
 痛みとは言い切れない強い愛撫と、それを帳消しにせんとする慰撫が不規則にやってくる。
「ぁっ、あ……!」
 深青の指技で胸は淫らな腫れを起こし、霞澄の腹は焔を上げ、鎮まるまで胸の先端部は繰られ続けた。
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