18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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雨と無知と蜜と罰と 弟双子/気紛れ弟/クール弟

雨と無知と蜜と罰と 36

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 舞夏まなつの目を恐れた。後退る。彼に報復をされるとは思っていない。この男の優しさを知っている。だが同時に彼の優しさを凌駕するほどのことをしてしまったことも分かっている。ここで譴責けんせきがあっても反論はできない。
加霞かすみサン……」
 舞夏の声は宥め諭すような色を持っていた。
「加霞サンが頭おかしくなってたのはオレも分かってる。仕方ないことだと思ってる。オレは加霞サンが好きだからショックはあるけどさ……もう長いこと惚れてるんだ。別に傷付いてはないし、怒ってもない。一言謝ってくれたら綺麗さっぱり洗い流すつもりで、加霞サンは実際謝ってくれた。やっと落ち着いたのかと思ったけど…………全然、加霞サンはまだ立ち直っちゃいない」
 恐る恐る伸びたきた手にもう一度腕を掴まれる。火傷するのかと思うほど熱い。加霞は目を見開いた。焼いた鉄板でも巻き付けたのかと思った。
「あの高校教師は?どういう関係なんだよ?」
生天目なばため先生は、わたしの傍に居てくださって……」
「加霞サン。加霞サンは、今、冷静フツーな状態じゃない。あの人は、嵐恋くんの高校の教師だろ?」
 彼女は怯えきって震えた。首を横に振ったのは果たして舞夏に通じたのだろうか。
「わたしは生天目先生と……、」
 爛れてしまう。炭化しそうなほど舞夏の掌が熱い。人の体温だろうか。生天目の手は冷たく肌に馴染んだ。
「加霞サン!」
 はっきりしろと責付せつかれているようだ。しかし適した関係が出てこない。口に出来ない。考えるのも怖かった。
「は……なして、放して………舞夏まなちゃん………」
 腕を払えば払うだけ握力が強まっていく。包み焼きにされてしまう。舞夏が知らない人になったみたいだった。
「どんな優しいこと言ってもらえたんだよ?加霞サン……騙されてる。弱みにつけ込まれんなよ。あんたは今弱ってるんだ」
「騙されてるって、何……?」
「2人揃って買い出しは教師と保護者の域を越えてるんじゃないか?」
 リップカラーの落ちかけた唇は半開きになったまま固まる。
「この変な手紙のことも話したのか?」
「い、いでしょ………舞夏ちゃんには、関係―」
「ある」
 確かに舞夏には関係があると加霞も分かっている。
「オレは加霞サンにプロポーズした。場に流されたんじゃない。本気だからな。何日も考えて考えて……迎えに来た。放っておけない。オレと結婚を前提に付き合って欲しい………っていうか、付き合う」
「なんで……?生天目先生のこと悪くいうくせに……、!」
「あの人は嵐恋くんの教師なんだろ?分かってるのかよ?嵐恋くんが亡くなって、急に加霞サンに擦り寄るなんておかしいだろ!」
 大火傷しそうなほど熱い手から腕を取り戻そうとする。しかし今度はただ放されないばかりか、引き寄せられる。
「舞夏ちゃん……」
 最初は踏みとどまった。しかしこの男にした己の仕打ちを顧みたとき、相手も驚くほど従順になる。彼の人形になってしまった。
「加霞サン……?」
「舞夏ちゃんの言うこと利きます。お世話になってたのに裏切って、酷いことしたの、本当に悪いと思ってるから……反省する。でも、生天目先生のことは悪く言わないで………生天目先生は素敵な人だから」
 サウナ室に放り込まれたみたいに男の体温に蒸された。
「オレはそんなの望んでない。だってもう許してる。そう言っただろ」
「じゃあどうして生天目先生のこと悪く言うの……」
「オレだって悪意があって言ってるんじゃない。おかしいだろ。教え子が亡くなってるんだぞ。それで落ち込んでる人に優しいことを言って、あの時の……今もか、加霞サンがまともな判断なんかできるはずない」
 加霞は首を振った。サウナ室みたいな腕から出ようと質量のある身体を撥ねようとした。
「生天目先生はそんなつもりじゃない。わたしが一緒にいて欲しいって言った。わたしが……」
「それが、まともな判断できてないって言ってんだよ。加霞サンは悪くない。大切な人を喪ったんだ。でもあの教師は?加霞サンを慮って、冷静に対処してやるべきだろ」
「舞夏ちゃんて…………イヤな人。生天目先生が舞夏ちゃんに何かした…………?」
 舞夏は唇を歪ませている。表情がなくなると猫目と相俟って人相が悪い。睨んでいるように見える。
「加霞サンを騙した」
「騙されてない。舞夏ちゃん、わたしが意思も考えも人格もない人間だと思ってる?それなら大間違いだからね。わたし、そんな純真無垢キレイじゃない。舞夏ちゃん利用しようとか、男の人とセックスしたいとか、あーくん死んじゃって間もないけど幸せになりたいなとか、理性的フツーに考えてるよ」
「それトータルすると、オレじゃダメなの?オレは加霞サンのタイプじゃない?」
 距離を作った加霞に彼は手を伸ばしかけた。それを躱す。
「加霞サンのことずっと好きだった。幸せにする。そういうことも、加霞サン好みに尽くすし……利用すればいいだろ。いや、利用だなんて考えなくていい」
 彼女はぶるぶると震えた。真摯な眼差しに撃ち抜かれたみたいだった。風穴から冷えていく感じだ。
「あ………あっ、」
「加霞サン……?」
 肘を張って舞夏を拒む。
「ま、なちゃんは……わたしじゃなくても、だいじょぶ………」
「何言ってんの……?どういう意味だよ」
「舞夏ちゃん、は……モテるし、優しいから……すぐいい人、見つかるって………」
 目瞬きも忘れて彼女は目を見開き、少し砂埃の残っているエントランスの床を凝らしていた。
「それが事実だったとしてさ……オレが長年好きだったのは加霞サンなんだよな。10年。中学生の頃か。フるならちゃんと、フれよ」
「生天目先生が……仕合わせだって言ってくれたから。あの人と幸せにならないと……」
「幸せにならないと、って変だ。教え子亡くした教師が、その子亡くした加霞サンに仕合わせだとか言うの、もっと……変だ」
 舞夏の声が冷たい。正論に聞こえてしまう。そこに流されるつもりはなくとも、濁りが混じる感じがある。否、濁りが可視化されたような。
「舞夏ちゃんは、眩しすぎて……ついていけない。わたしには」
「こんな未練がましいヤキモチ焼きの男のどこが。……でも、今言ったのはやっかみじゃない」
 それは疑っていない。本音だと分かってしまったからこそ、奥まで響いてきている。ねたみだそねみだ負け惜しみだ、と跳ね除けることもできず黐粘ちでんの如く纏わりついている。
「加霞サンがオレのこと好きじゃない、タイプじゃないって言うなら、分かった。引き下がる。でも、あの高校教師のほうがいいって理由なら納得できない。この状況で……仕合わせってなんだよ。優しくしてくれるのは当然だろ、加霞サン、弱ってんだもん。頭おかしくなるほど、追い詰められてんだもん。そういう相手に……弱みに付け込んでない?本気で思ってるのか」
「あーくん死んで間もないから?あーくんのことちゃんと悼まないで、わたしが幸せになるのが許せない?遺族は幸せになれないの……?」
 弟の遺骸が突然脳裏を過ぎった。死体確認の白布を捲られた瞬間、蝋人形みたいなくせ肉感のある唇に末期の水を戦慄く指で塗ったとき、オレンジのガーベラを別れ花に埋まる寝顔を撫でたとき、副葬品を納めたとき、その場にいたように綺麗に残った遺骨を見たとき、箸で摘んだ骨の感触に発狂したとき。目はあらゆるものを淡々と捉えていた。そして小出しにして肉体の持主を苦しめる。記憶に密告している。吐きそうになった。
「生天目先生がいい……舞夏ちゃんと会うのは苦しい…………苦しいです。生天目先生との幸せは、あーくんが死んだことの上にあるから、だから認めてくれないの………?」
 この男の認可はこれといって必要がない。だが加霞の後ろめたさを的確に把握している。目の前に罪悪感をまざまざと晒し出す。正論だ。正義だ。核心だ。真髄である。図星を突くどころか貫き、えぐり抜き、その周辺すらも粉砕する。その前にすべては弁疏と化す。正当化に必死になる。弟の墓石を蹴り倒し痰でも吐き捨てる行為に等しい。二度と弟を可愛いなどとは思えなくなる。哀れな弟は死んでもストンピングされるのだ。それは加霞にとって宗教的な強迫観念とはまた異質の恐怖と不安と忌避感を煽る。
「それ以上、言わないで……わたしが生天目先生に迫っただけだから………生天目先生もわたしも、もう25で………いい大人だし、舞夏ちゃんほど、小慣れてないけど………わたしたちなりに、前に進んでるんだから……」
 明らかに舞夏は不快感を示した。
「加霞サンに言っても仕方がなかった。生天目センセと話す」
「やめて!」
 ひょいと踵を返した舞夏の腕にしがみついた。
「別れろって言うの以外なら、言うこと全部利くから…………わたしのこと好きならオモチャになるから…………生天目先生に迷惑かけないで!」
 エントランスに悲鳴がこだまする。その時になって降りてきた住民が気拙げに脇を通り抜けていった。パフォーマンス染みたヒステリックなカップルの痴話喧嘩に見えたことだろう。
「加霞サン、あんたはまだ病んでる。生天目センセが本当にしっかりした人ならあんたをたぶらかしたりしないで、ちゃんとした距離感を持つべきだった」
「ふざけるな!」
 彼女は風船が破裂したが如く叫んだ。舞夏は露骨に不信感を露わにしている。
「でももっと"ふざけんな"なのは、あの時いそいそと帰ったオレだよ。間違いない」
 引き留めていた加霞を自ら傍に寄せる。
「好きな女だから幸せにしたい。嫌われても憎まれても恨まれても」
「帰ってよ!もう放っておいて!舞夏ちゃんなんか嫌い、もうわたしには必要ない!帰って!」
 抱き締めたまま放さない舞夏を叩く。離れたいのは本気のくせ、手加減してしまう。
「10年間。10年間も加霞サンのこと好きだったオレのこと、裏切れないんだ」
「…………舞夏ちゃん」
 彼女は急に静かになった。職場に着て行っているジャケットのボタンを外した。舞夏が顔を覗き込む。胸を押し当てる。
「したいなら、しよう」
 猫目はその色がよく見えた。情欲の一翳いちえいを彼女も認める。
「加霞サン……」
 抱擁が解かれる。両肩を掴まれ、離された。
「す、るよ。自信ないけど、オモチャにしたらいいじゃん……」
 乾いた音がした。片頬が熱くなる。
「自分が何言ってるのか考えて反省してくれ。オレの10年間を否定すんな。それはさすがに……オレが傷付く」
 彼女はふいと顔を逸らした。背を向ける。
「殴って悪かった」
「生天目先生が来るから邪魔しないで。舞夏ちゃんがしてくれないなら生天目先生とする。帰ってよ。警察呼ぶから。殴られましたって」
「オレも頭冷やす。生天目センセにヨロシクな」
 舞夏はあっさりと去っていった。加霞も彼を気にするでもなく自宅へと帰る。振り返る姿に気付くこともなく。


 生天目が帰ってくる。すでに夕飯は出来ていた。あとは既製品の漬物を切るだけだ。手を止めて玄関に駆ける。
「ただいま、久城さん」
「おかえりなさい。もうごはんできています。お風呂にも入れますよ」
 生天目は照れたように微笑んだ。
「どうしました」
「なんだか、夢のシチュエーションみたいで……よくあるでしょう?ごはんにする?お風呂にする?ってやつ」
「あ……えっと、わたしもあるんですけど、まだお風呂、入ってないから……」
 彼は乏しい表情のまま眉を上げた。
「尚のこといいですね。久城さんがいいです。いいですか」
 加霞が頷くと、壁にやんわりと押し付けられる。
「キスします」
 彼女がまた頷く。顎を掬い上げられ、唇は塞がれる。心地良い角度と強さをすでに把握されている。触れて合わさる口付けだけで加霞の目はとろんとした。舞夏が言うことの意味が分からない。生天目を詐欺師かプレイボーイのように言っていた。もしそうだとして、ひとつ足音の消えた家に帰ってくるものがあるのならそれでひとつ埋まる。ある日突如として真っ暗になった洞穴が、何かしらの期待によって埋まる。
「久城さん。少しぎこちないです。考え事ですか。それとも、何か悩みが?」
 しゅんとした教師の顔は雨に濡れた子犬のような哀れっぽさがある。加霞から彼に接吻し直す。
「久城さん……?」
 教師のあらゆる場所に唇を押し当てながら、相変わらず野暮ったさのあるニットベストの裾に手を潜らせ、胸や脇腹を撫で摩った。薄い繊維とインナーを隔て硬い肉感を確かめる。捲り上げて肌にも口付ける。辿りながらゆっくりと屈んだ。
「舐めたいです」
「いいんですか」
「はい。口の中、好きにしてください」
 場所を入れ替わるとベルトのバックルを外し、スラックスのホックを解いてファスナーを開けた。すでに緩やかな盛り上がりを作っている。見上げる。
「久城さん……」
「感じてくれていたなら嬉しいです」
「感じます……貴方にこんなことをされたら…………」
 彼は目元に腕を当てていた。それでいて加霞がその腿に手を添えた瞬間から手を繋ごうとする。眼前にある布のさなぎが身動いだ。
「顔、見たいです」
「恥ずかしいです……」
 指を絡め合う。片手で下着をずらす。根本から先端までを甘く食んで育て、まずは浅く咥えた。
「……っくじょうさ、………んっ」
 頭上から聞こえる艶めいた声に気を良くして喉奥まで迎えた。口腔で扱く。生天目の味が鼻に滲んでいく。頭を前後に動かすたび徐々に濃くなっていった。
「く、じょうさ………もう、出ますから………放して、くださ………っぁ、」
 挑発するように舌を動かした。口淫に随分と慣れてきた。
「く、じょうさん………くじょ、うさ………挿れたいです。貴方とひとつになりたい………のに、……っ、!」
 虚ろな溜息が漏れる。同時に加霞の口内は爆ぜた。動きを遅くする。残滓まで吸い取り、舐めていく。噴出口を舌先で焦らすと「あっ、あっ……」と可愛らしい喘ぎ声が嗜虐心をくすぐる。
「んっ……」
 粘こい液体を嚥下する。喉で張り付く。軽く咳払いをした。
「くじょうさん……」
「ごちそうさまでした」
「おれがまだ、いただきますできてません……」
 壁に背を預けながらずり落ち、膝を開いてスラックスも下着も膝下に留めておく生天目の姿は間抜けな感じがあった。愛想を振り撒くのが下手で、清楚な教師のだらしなく淫らな一面に加霞はむしろ感動した。
「いただきます、したいですか」
「したいです」
 彼は壁から背中を剥がし、ふたたび加霞と場所を替わる。壁を向くと背後から抱き着かれ、頸を嗅がれた。
「出しっぱなし恥ずかしいので、しまいます」
「どうぞ」
 ごそごそと音がする。他のことでは要領が良いが、いざ色事となるとぎこちないのが堪らない。可愛らしいと思った瞬間からぐずぐずに溶けて瀞んでしまった。
「久城さん……」
「すぐに挿れて、大丈夫です……」
「だめです」
「カラダ、生天目先生の形になってるから、平気です……」
 口にすると、彼のものであるという実感に身体が火照った。
「煽ったらいけません。これからごはん食べて、お風呂入るんですから……」
 薄い両手が肩から腕を撫でていく。それから強く抱き竦めた。
「胸を揉みます」
「胸を揉みます、って、なんだか変態さんみたい」
「………」
「冗談です。言い過ぎました。揉んでください。たまには先生の好きなように、されてみたかった」
 真後ろから荒い息吹が聞こえ、耳を掠めた。服の上からブラジャーごと胸を揉まれる。確かな感覚ではないが、漠然とした、安堵感も綯い交ぜになった性感とはまた違った心地良さが全身に広がっていく。
「痛いですか?ワイヤー入ってるんですもんね」
「大丈夫ですよ。生天目先生におっぱい揉まれると、安心します。マッサージ師みたい」
「……っ、久城さん……」
 彼は弱った声を出して彼女の肩に顎を預ける。
「なんですか」
「マッサージものも好きです。おれ……オイルマッサージの……」
「オイルマッサージ?オイルマッサージで、何するんですか?」
「全裸の女性のカラダにオイルを塗りながら、少しずつ、色んなところを触っていくんです」
 胸を揉みしだいていた手が片方だけ脇腹を辿って落ちていった。
「媚薬入りで、女性は胸や腹なんかをオイルで光らせながら、少しずつ感じてくるんです。マッサージ師がわざとそういう部分を責めているんですが、それに気付いているとかいないのか、女性はもどかしい感覚に、カラダをくねらせるんです」
 腿を摩られる。悪寒に似た興奮がそこから股のほうに走り抜ける。
「それから、確かなところを刺激されて……マッサージ師のカラダを、求めるんです」
 想像してしまった。この教師がマッサージ師になり、彼女は自身が全裸でマッサージを受けるところを。オイルを塗られている最中、胸を尖らせてしまうに違いない。疼きながらも胸の膨らみの全体ばかりを触られ、凝り固まった小さなところは最後まで放置され、焦らされるのだろう。そして彼の指が、軽くそこを抓むだけで、頭の中を真っ白くさせてしまうのだ。
「色々……あるんですね………」
 頸に鼻先が当てられ、くすぐったさに背をしならせた。ブラジャーの下で淫靡な妄想にけしかけられた箇所がつんと勃ってしまった。
「なんだか、肉感があって……女性の快感がすごく伝わるんです」
 腿にあった手が部屋着にしていたロングスカートのゴムを潜りショーツの中に入っていく。
「濡れていますね」
 これから生天目を受け入れる蜜孔に指が入った。濡肉は大事そうに彼の中指を締め付ける。節くれだっていて長く細い。
「せんせ………っ」
「もう少し慣らします」
 非常に大切にされている感じがあった。あまりにも大切にされているという自覚が、肉体を炙り加霞はすでに膝が震えている。それでいて寒さに耐えるような息遣いになる。指と精神的な満足感じだけで達してしまいそうだ。
 がさごそと物音がする。彼は避妊具を付けていた。生天目の子を産みたい。この腹で彼の子を育てたい。しかしそれが弟の生まれ変わりではないことは分かっている。弟の生まれ変わりはどこにいるのだろう。もう生まれ変わってしまったのか。弟は生まれ変わらない。昼飯を食わせて見送った弟が生きた最期の姿だった。土産を楽しみにしているよう言っていた。
「挿れます」
「向かい合って、いいですか」
「どうぞ」
 決して逞しさはない腕に片脚を抱えられながら繋がった。背中が目の粗い壁紙に掏られる。生天目は短いストロークで迫り中を抉る。
「あっあっんっ、!」
「久城さん……」
 彼の背に腕を回すと頸までしか届かなかった。キスを求める。口腔でも深く繋がる。
「んっ、……んっ、ふ、ンっ」
 口の中をひっくり返されるような舌遣いに陶酔する。キスもセックスも至るまでがぎこちなく不手際が目立つが、一線を跨げば彼は器用だ。加霞が感じやすかったのかも知れない。
 舌が抜かれる。加霞は惜しむような目を向けた。掌で口元を塞がれ、快感を脳天まで突き上げていた律動がぴたりと止まる。
 玄関の外を談笑が通り過ぎていく。
「玄関でしたね、ここ」
 朗らかに彼は笑った。一旦休みを挟んだ媚壺はその先を促す。加霞は玄関ホールに生天目を押し倒した。
「久城さん……?」
「なばためせんせ………キモチヨクなって………」
 彼の両手に両手を結び、彼女は腰を振って跳ねた。ロングスカートが教師の腹の上で揺蕩っている。
「せんせ、きもち、いいですか………?」
「いいですが、久城さんが、ヨくないと」
 加霞の抽送を遮るように彼が突き上げた。リズムを奪われる。
「あっ、!あぁ!あんっ、!」
「イけそうですか?」
 突き上げるスピードが速くなってくる。
「だめ、です……っ、イく……っ、イきそうだから……!」
「お先に、どうぞ、久城さん。おれは、さっき一度、イきました、から……」
 背骨に甘い電流が伝う。視界が明滅する。絶頂が近い。
「なばためせんせっ、!ああああっ!あんッ」
 がくがくと腰を浮かせて彼女は痙攣した。淫肉が男根を搾りに入る。
「久城さん……っ、」
 ゴム越しに牡の活力を感じた。収斂は長く続く。オーガズムの疲労で彼女は互いに息を整えてから男の唇に唇を合わせ、そこで脱力した。背中には固い腕が回る。
「ごちそうさまです。とても気持ち良かったです」
「生天目先生……」
 無邪気に笑う教師の頭を抱く。
「ごはんにしましょう」
 彼はまた「仕合わせです」と言った。それが幸せで痛い。
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